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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百九十五話 痛みと柔らかさのサンドイッチ

『ぎゅっ。ぎゅっ。ぎゅっ』


 ひめが覆いかぶさるようにして、体重をかけてくれている。

 おかげでいい感じにストレッチができていた。少しきついのだが、ひめの感触が柔らかいせいかあまり気にならない。感覚が相殺されている気がする。


「陽平くん、自力だと柔軟性は低いように見えましたけど、押してあげると曲がりますね」


「む、無理はしてるけどね」


「がんばっていて偉いです。よしよし」


 押していると言うか、もはやひめは背中に乗っている状態だ。

 いつも撫でてあげているみたいに、今はひめが俺の頭を撫でている。いとこの心陽ちゃんもそうなのだが、幼い子って年上の真似をしたがるよなぁ……そういう一面も、すごく愛らしかった。


 俺ががんばれているのは、間違いなくひめが手伝ってくれているおかげだろう。

 現在、俺は開脚のストレッチをしている。もうすでに内またにテンションがかかっていて、痛みと気持ち良さが混在していた。ひめの体重は良い感じの加減のようだ。


「……二人で盛り上がっててなんかずるいっ」


 あれ? 先ほどまでふて寝していた聖さんが、いつの間にか近くまで来ていた。

 疲れたと愚痴をこぼしていたのに、一人にされて寂しかったらしい。運動は嫌みたいだが、それ以上に構ってほしいのかもしれない。


 開脚して、前方に体を倒している状態なので、聖さんの姿が見えているわけじゃない。しかし、声がすぐ後ろから聞こえてきたので、結構近くにいることが理解できた。


「お姉ちゃん、お休みしなくてもいいのですか?」


「……つ、疲れてはいるんだけどね~。ほら、私がいないと二人とも物足りないでしょっ? だから来てあげたんだよ~」


「そうなのですか。それなら、気を遣わなくても大丈夫ですよ。陽平くんとなら、二人だけでも楽しく過ごせますから」


「やだ! 寂しいこと言わないでっ。ひめちゃん、もっとお姉ちゃんをほしがって! 私を必要としてよ、も~っ」


「はぁ……めんどくさいお姉ちゃんですね。よしよし」


 ひめが仕方なさそうに聖さんの相手をしている。

 相変わらず、緩い会話だなぁ……と、和んでいる状態ではないわけで。


「ひ、ひめ? そろそろ――」


 もう限界だった。開脚した状態で前に上体を倒しているのだが、手のひらがぺったりと地面についている。これ以上曲げると股関節が悲鳴を上げていたので、背中に乗っているひめにそう伝えたのだが。


「――ひめちゃん、私も手伝うよ!」


 聖さんの元気な声が、俺の言葉を遮った。

 ほんわかしている割に、この人は声が大きい。そのせいで俺の声はかき消されたのか、ひめに届いていないようだ。


「手伝うって、何をするんですか?」


「私が押すよ! ほら、ひめちゃんは軽いから、よーへーも物足りなさそうだしっ」


「……たしかに、お姉ちゃんの体重ならもっと曲がりそうですね」


「た、体重の話はしてないもんっ」


「してますよ。わたしは軽くて、お姉ちゃんは重いと言いましたよね?」


「私が重いとは言ってないです~」


 ……いや、ちょっと待ってくれ。

 俺の意思はどこへ? もう十分に柔軟はしたから、そろそろ終わりにしたいのだが……。


「じゃあ、お願いしますね」


「あ、ちょっと待っ――」


「はーい。いくよ~!」


 言葉をはさむ隙間がなかった。

 ひめが背中から降りた瞬間に、体を起こして制止しようとする。

 しかし俺の話を、聖さんは聞いていなかった。背中に手をつけて、それからグッと体重をかけてくれた。


 その瞬間、体が落ちた。


「あ」


 あ、じゃなくて。

 聖さんが声を上げた時には、もう遅かった。


「――っ!?!?!?!?」


 悲鳴を上げることさえできない。

 それくらいの痛みで、視界が真っ白だった。


 現在、俺の頭が地面にぺったりとついている。

 額から落ちた。おかげで少し頭も痛い。


 しかしそれ以上に、股が痛い。裂けている気がしてならない。

 あと、背中になにか柔らかい感触があった。


 これは、たぶんあれだよな……?

 こんなに痛くても柔らかいと感じられるのはすごい。しかし痛みが今は勝るので、それどころじゃない。


 どうやら、俺の背中を押していた聖さんが足を滑らせて転んだらしい。

 そのせいで、大変なことになっていた――。

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