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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百九十二話 ムチムチも悪くないよね

 姉妹がストレッチをしている。

 そんな微笑ましい光景を眺めていたら、隣からツンツンとつつかれた。


 そちらに目を向けると、メイド服の小柄な女性が俺を見ていた。

 伊藤芽衣さん。星宮家の使用人さんで、星宮姉妹の保護者に近い立ち位置の人でもある。


 今日も芽衣さんの運転でこの総合運動公園まで連れてきてもらっていた。

 その他、ピクニック用のシートや飲み物もすべて彼女が用意してくれている。おかげで色々と準備は滞りなかった。


 痒い所に手が届く、優秀なメイドさんである。

 ただ一点だけ、真夏日にもかかわらず暑そうな格好であることは気がかりなのだが……いや、似合ってはいる。もちろん素敵だと思っている。俺もメイド服は好きだが、やっぱり気温がなぁ。


「陽平様、二人のことは任せていい? ちょっと買い出しに行きたいのだけれど」


「分かりました。何かあったら連絡しますね」


「お願いね」


「……あの、暑くないんですか?」


 さすがに我慢できなくなって、聞いてみた。

 俺と聖さんは半袖にハーフパンツ。ひめは日焼けが苦手らしいので上下の露出が少ないジャージを着ているが、通気性が良い素材なので心配はない。


 しかし、メイド服は厚手の生地が使われている上に、しかもスカートの裾も長い。

 かわいいが、この時期は健康的な意味で心配だった。


「暑いに決まっているでしょ?」


「じゃあ、脱いだ方が……」


「メイドだもの。大丈夫よ」


 そう言って、芽衣さんはスタスタと歩き出した。

 たしかに、この気温にも汗一つかいてない。一流のメイドは、メイド服を着ていたら無敵になれるのだろうか……なんて、バカなことを考えながら、芽衣さんを見送った。


「ぐぎゃー!」


 ひと際凄まじい断末魔が聞こえた後。


「大げさですよ。ただストレッチしているだけですから」


「だって、痛いもんっ。ひめちゃんのおに!」


「鬼で結構です。とりあえず、ストレッチのメニューはこれくらいで大丈夫なので……少し休憩にしましょうか」


 ようやく、ストレッチがひと段落ついたようだ。

 ちょうど良いタイミングだと思ったので、クーラーボックスからペットボトルのスポーツ飲料水を二つ取り出して二人に持って行ってあげることに。


「わーい。よーへー、気が利くね~」


「ありがとうございます。お姉ちゃん、小まめに水分補給しましょうね」


「……お菓子はないの? 糖分も補給したいんだけどなぁ」


「ダイエットが目的なので、糖分はダメですよ」


「くっ。ダメかぁ」


 減量と間食は相性が悪い。

 聖さんは残念そうな顔で、飲み物をちびちびと飲んでいた。スポーツ飲料水の甘みを噛みしめているかのように黄昏ていた。


「お姉ちゃん、最近は家でもお菓子を禁じられているんですよ」


「そうなの? なるほど……」


 だからあんなに背中に哀愁が漂っているのか。

 甘いものが大好きなのに、我慢させられているようだ。


「ただ、本人も納得はしているみたいです。何せ、体重が一ヵ月前と比べてなんと四キ――」


「あー! 数字はダメっ。ひめちゃん、それはよーへーには内緒にしておいて!」


 こちらの会話も聞こえていたようだ。

 ひめが具体的な数字を言い切る前に、聖さんが大きな声で遮ってくる。


 うーん。ちょっと遅かったような気がするなぁ。四という数字が聞こえた気がしないでもないのだが、まぁ聞こえなかったことにしておこう。


 たしかに、短期間でそれくらい増えたら焦りを覚えるのは分かるかもしれない。


「一ヵ月で元に戻すのは厳しいというか、体に負担もかかると思うので、とりあえず二キロほど減量できれば嬉しいですね。もともと、体重も標準の範囲内なので、それくらいで健康的だと思います」


 一ヵ月で二キロも、結構大変だと思うのだが。

 でも、聖さんはお菓子の食べ過ぎでこうなってしまっているのだ。間食を控えて、運動をしていれば、年齢的に考えても自然とそれくらいは痩せられるかもしれない。


 まぁ……俺は別に、今の体形も全然気にならないのだが。

 少しくらい、ムチッとしていた方が好きである。でもそれを言うのは恥ずかしいので、何も言わないでおいた――。

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