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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百七十一話 初めてのすべりだい

 ひめは日本の公園に来たことがないらしい。

 と、いうことはつまり……海外の公園には、行ったことがあるということだろうか。


「はい、その通りです。海外では何度か、家族でピクニックをしたことがあります」


 公園に入って、歩きながら少し会話を交わす。

 ひめの意識はすっかり遊具の方に向いているようだ。視線はさっきからそっちに固定されている。


「まぁ、わたしたちが行っていたのは自然公園のような場所だったので……こういう遊具は、初めてです」


 公園とは言っても、規模や場所によって特性は異なってくる。

 だからひめは興味深そうにしているのだろう。


「海外の公園にはブランコとかないの?」


「ありましたよ。ただ、幼少期は体力面に不安があって、あまり動き回ることができなかったので……遠くから眺めることしかできませんでした。同じ世代の方たちが楽しそうにすべっているのが、とても羨ましかったです」


 俺からすると、今のひめも『幼少期』に近い気もするのだが。

 しかし、ひめの言葉ぶりから考えてみると……前に比べると、彼女はかなり体が強くなったらしい。


「今はすごく元気で良かったです。すべりだいにチャレンジできます」


「……あれで満足できるかなぁ」


 たまたま見つけたこの公園は、お世辞にも規模が大きいとは言えないわけで。

 すべりだいも、せいぜい三メートルほどの長さしかなかった。しかもかなり古そうで、すべりも悪いと思う。


 クッションのつもりなのか、すべりだいの到着地には砂場がある。

 でも、この規模なら別にクッションなんていらない気もした。まぁ、安全そうだしこれでいいのか。


 昔からある公園なのだろう。寂れているせいか、あるいは時代の問題なのか、夏休みだというのに子供一人いない。そのせいで余計に、遊具も古く見えているのかもしれない。


 しかし、ひめはそんなことまったく気にしていないようだ。


「高いところはそこまで得意ではないので、あれくらいの高さがちょうどいいです」


「へー、そうなんだ。ひめって怖いものとかないイメージだったかも」


 普段から無表情というか、あまり動じないタイプなので恐怖にも強いのかと思っていたけど、そうでもないのかもしれない。


「幽霊や架空の存在はまったく怖くありません。ただ、高所と絶叫系のアトラクションは得意じゃないです。お姉ちゃんは逆ですが」


「……聖さんは好きそうだなぁ」


 ジェットコースターとか、あの人はすごく楽しんでいそうだ。笑いながら叫んでいる姿が容易に想像できた。


「ちょっと行ってきますね。陽平くん、待っててください」


「分かった」


 軽く雑談しながら歩いていたら、すぐにすべりだいに到着した。

 言われた通り、そばで待っていると……ひめがすべりだいに上ってから、ゆっくりと降りてきた。


『スー』


 ワンピースがこすれる音が聞こえる。

 そう感じた時にはもう、ひめが砂場にぺたんと尻もちをついていた。


 待望のすべりだい。感想はいかがなものかと様子をうかがってみる。


「なるほど」


 そして、ひめが発したのは……なぜか、何かに納得したような言葉だった。


「想像とまったく同じ感じでした」


「……楽しかった?」


「普通です」


 小さく頷いているだけで、表情はいつもと同じ無だった。

 すべりだいを無邪気に楽しめる年齢ではないのかもしれないのかな。


 なんて、思っていたのだが。


「もう一回すべってきます」


「え」


 まさかの二度目。終わると思っていたのだが、続行することになった。


「ふむふむ」


 二度目も似たような反応だった。楽しそうな表情をしているとは言い難い。


「もう一回滑ります」


「……う、うん」


 しかし、間髪入れずに三度目に突入していた。

 まったく楽しそうには見えないけど……ひめ、もしかして楽しんでいるのでは?


『スー』


 たった数秒。しかもすべりが悪いので速度は遅い。その間、ひざをかかえた体勢ですべるひめ。


 なんだかシュールな光景だった。


「もう一回いいですか?」


「いってらっしゃい」


 四度目になると驚きもなかった。

 間違いない。ひめ、すべりだいを気に入っている気がする。


(……なんだかんだ、子供ではあるのかな)


 さっきは、子供扱いされて拗ねていたけど。

 すべりだいを純粋に楽しんでいる姿は、まだ幼く見えた。


 そういうところも、ひめのかわいいところである。

 ついつい、見ていて笑ってしまった。微笑ましい光景だなぁ――。

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