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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百四十話 ドッグトレーニング

 この前、教室で久守さんも一緒にペット扱いして戯れた。

 久守さんが柴犬で、ひめが子猫だった。ただとにかくひめがかわいかったなぁ、という記憶しか残っていない幸せな時間だったわけだが。


 まさか、あそこも伏線だったとは思わなかった。


「お姉ちゃんはしつけの悪いワンちゃんです。ごはんを前にすると『待て』はできませんし、散歩中に寝ちゃうし、お手だってやりたがりません」


 も、もちろん『たとえ話』である。

 聖さんがワンちゃんであれば、たしかにそういった感じになるだろう。だらしなく寝そべっている姿が容易に想像できた。


「ワンちゃんは叱ったらダメです……だからこそ、褒めて伸ばします。待てができたら褒めておやつをあげる。散歩で元気に歩いたら褒めておやつをあげる。お手ができたら褒めておやつをあげる……そうやっていくうちに『この行動をすれば褒めてくれるし、おやつをもらえる』と学習してやるようになります。それがドッグトレーニングです」


 分かっている。ペットを飼ったことはないのだが、ワンちゃんとはそうやってコミュニケーションをとるらしい。ペットと飼い主が良好な関係を築くためにも必要な行動だ。


 でも……聖さんは一応、人間なんだけどなぁ。

 しかもひめにとっては姉である。さらに言うと年齢は九歳も離れている。さ、さすがにワンちゃんとして扱うのはどうだろう?


 久守さんはプライドがない上に底抜けに明るい性格だったので、犬扱いされても喜んでいた。しかし聖さんは……意外と姉らしく振舞いたがるというか、ひめの前ではしっかりしようと心がけているタイプなので、ペット扱いは怒るかもしれないなぁ。


 少し心配ではある。

 しかし、現状……聖さんのサボり癖を改善しない限り、テストでは間違いなく赤点を取ってしまうだろう。他に策があるわけではないので、ここは試してみるのもいいと思った。


「わたしは間違っていたのです。厳しく言い聞かせてもお姉ちゃんが聞くわけありませんでした……ちゃんと褒めて、ご褒美をあげないとダメだったのですね。なるほど」


 ひめはすっかりやる気満々である。

 拳をギュッと握っている。健気な姿がかわいかった。


「陽平くん。お菓子、使わせていただきますね」


「うん。自由に使って」


 そんなやり取りを最後に、ひめは一口サイズのチョコがたくさん入った袋を抱えて眠っている聖さんに歩みよった。その間にチョコを一つ取り出して、包装紙を剥がして……そのまま、寝ている聖さんの口元に持っていった。


「ぐごっ……ん~? あまいにおいだぁ」


 寝ていても食欲は健在。チョコの匂いを敏感に察知して、聖さんが薄目を開けた。

 その隙にひめが声をかけた。


「お姉ちゃん、起きたらチョコが食べられますよ」


「……べんきょーやだぁ」


 あ、でも目を閉じた。

 チョコの誘惑よりも、勉強の苦しみが勝ったのかもしれない。


 よっぽど嫌なんだろうなぁ。睡眠欲よりも食欲が勝っているはずなのに、それ以上に勉強が嫌いらしい。


 思ったよりも聖さんは手ごわい。

 さすが、ひめを散々困らせてきただけある。


 しかし今日のひめは一味違う。


「起きたら二つあげちゃいますよ。どうですか?」


 もう一つ、チョコを取り出したひめ。

 ご褒美の数を増やす。その策で、聖さんの目はこじ開けられた。


「……た、たべるっ」


 むくりと体を起こしてチョコを受け取る聖さん。

 そんな彼女に、ひめは優しく笑いかけて……なんと、更にもう一個チョコを追加した。


「起きられてすごく偉いです。三個食べていいですよ」


「え、いいの? やったー♪」


「はい。よしよし、いい子です」


 喜ぶ聖さんの首筋を撫でているひめ。

 完璧に犬の撫で方と一緒なのだが……まぁ、聖さんは嬉しそうだし別にいいか。


 果たして、聖さんはいつ犬扱いされることに気付くのか。

 ドッグトレーニング作戦、うまくいけばいいんだけど――。

いつもお読みくださりありがとうございます!

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