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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百十八話 美少女は空から落ちてこない

 とにもかくにも、幼女二人と一緒に寝ていても姉さんに怒られなかったので良かった。姉さんの様子がおかしかったのは、ひめが可愛すぎるせいだったらしい。


「は? なんで私が怒るわけ? 子供と一緒に寝るくらい普通でしょ」


 正直にそのことを伝えると、姉さんは呆れた様子で肩をすくめていた。

 怒るつもりなんて毛頭なかったようである。


「まぁ、あんた以外の男だったら確かに少し警戒するか……でもよーくんが変なことするわけないし?」


 なんだかんだ、弟の俺のことを信頼してくれているみたいだ。

 それなら良かった。俺が考えすぎていただけだったらしい。


「よーくんは昔から心配性なんだから……ねー、ひめもそう思うでしょ?」


 ベッドの縁に腰かけて静かに俺たちのやり取りを聞いていたひめは、話を振られても慌てることなく落ち着いていた。


「用心深いところも陽平くんのいいところです」


「たしかに! ひめの言う通り、よーくんのいいところだ」


「姉さん……」


 ひめにデレデレすぎる。手のひらが一瞬でクルリと回転するところを見て思わず呆れてしまった。


 ヤンキーはかわいいものに弱いなぁ。猫のキャラクターのサンダルとか未だに好きらしく、よくはいている。もちろん、悪いことではないのだが。


「わたしたちのことを大切に思ってくれている証拠です。でも安心してください、陽平くんのことは信頼していますし……嫌だなんて、思いませんよ?」


 そしてひめからの好感度が高すぎる。

 相変わらず過大評価というか、信頼度も高い。その期待に応えられる人間になるにはもう少し時間がかかりそうだが、努力しよう。


「んにゃぁ……もうたべられないよぉ」


 大きい寝言だ。心陽ちゃんが俺のふとももにほっぺたをこすりつけながら、幸せそうにうへうへと笑っている。美味しいものを食べる夢でも見ているのかもしれない。


「心陽もあんたのこと好きだね、本当に」


 姉さんは愛娘の寝顔を見て笑っていた。娘に向けるまなざしは母親特有の優しさが秘められている。


「ひめは何歳だっけ?」


「八歳です」


「ふーん、八歳ね……てか、ひめとよーくんはどういう関係? ひめが空から落ちてきたとか?」


 ちょっと前のラノベじゃないんだから。

 まぁ、それくらい不思議な美少女ではあるけれども。


「ひめはクラスメイトなんだよ。実は飛び級してて――」


 と、簡単にひめについて姉さんに説明しておいた。

 なんとなく、姉さんもひめの只者じゃない雰囲気は感じ取っていたのかもしれない。俺の説明を聞いても、さほど驚いたりはしなかった。


「なるほどね、飛び級か……ふーん。とりあえず、うちの弟と友達になってくれてありがとう、ひめ」


「そんな……むしろわたしの方が感謝しているくらいです。陽平くんと友達になれたおかげで、心陽さんとも仲良くなれましたし」


「お、心陽ともうまくいったの? そっか、うんうん……うちの娘とも仲良くしてくれて、ありがとうね」


 姉さん、嬉しそうだ。

 この感謝が『ひめみたいにすごい人が友達になってくれてありがとう』という、媚びを売っている発言ではないことを、俺もひめもちゃんと気付いている。


 姉さんは単純に、弟と愛娘に素敵な友人ができたことを純粋に喜んでくれているのだ。その優しい愛情を曲解するほど、ひめの性格はねじ曲がっていない。


 だから、感謝の気持ちを彼女は素直に受け取ってくれていた。


「……こちらこそ、ありがとうございます。陽平くんと心陽さんのおかげで、今日はすごく楽しい一日を過ごせました」


 ひめの言葉もまた、本心からの思いである。

 純粋で透明な言葉である。それを聞いて、俺もつられて笑った。


 俺の方こそ、ありがとう。

 ひめのおかげで、すごく今日という一日が楽しかったのだから――。



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