第百十五話 起きたら幼女が布団に忍び込んでいた
『むにっ』
ん? なんだこの感触は?
手の甲に何かが当たっている。温かくて柔らかい……この感触を俺は知らない。
ただ、触り心地が良いことは確かである。むにむにしていてすごく気持ち良い。寝ぼけ眼でしばらくむにむにしていると。
「んっ」
声が聞こえた。
発した、というよりは漏れ出たと表現した方が適切だろう。その音を耳にした瞬間、俺はハッと目を開けた。
(い、今の感触ってもしかして――!?)
ついに一線を超えてしまったか。
いや、さすがに一桁の年齢の子にそんなこと有り得ない。というかどっちだ。ひめか心陽ちゃんのどっちだ!?
心陽ちゃんならまだ身内なのでセーフ……という言い訳が通用するかは分からない。しかし仮にひめを触っていたとするなら、それはもう俺には背負えない大問題になり得るわけで。
(本当にロリコンになってしまう……!)
確認するのが怖い。
しかし逃げたところで意味なんてない。とりあえず触った相手を確認して、ちゃんと謝って、それから可能である限りに罪を償おう――と、混乱する頭でよく分からないことを考えながら、手元を見てみた。
『むにっ』
再びの感触。相変わらず柔らかくて心地良い。
そして泣きそうになった。ごめんね、俺なんかが触ってしまって……と、うなだれながら顔を上げる。
俺の手は、ガッツリ触っていた。
――ひめのほっぺたを。
(これは…………セーフ?)
寝起きで頭が回らない。
ただ、とりあえず俺が想定していた箇所に触れていないことに気付いて、ほっと胸をなでおろした。
むにむにしていたのはひめのほっぺただったんだ。
危ない危ない。危うくR指定の領域に踏み入れてしまったのかと……って、なんでそんなことを考えているのか。
(ひめ……なんで俺の布団で寝てるんだ?)
俺の右手にひめが抱き着いている。手をギュッと抱きしめて、甲の部分にほっぺたをすりつけるようにしていて寝ている。なんだこの子はかわいすぎる。天使の寝顔に気が緩んだ。
(あと、心陽ちゃんもいるのか)
俺の足元には心陽ちゃんがいた。こっちは寝相が悪いのか、ふとともを枕にしてうつ伏せ出ている。よだれも垂れているのでズボンが濡れていた。おてんば娘も寝顔は大人しくてかわいらしい。
(……俺、そういえば寝ちゃったのか)
徐々に意識も覚醒してきた。
寝起き直後はぼーっとしていてよく分からないことを考えていたのだが、ようやく冷静に状況を整理できるようになったのである。
(とりあえず、意識がない時に変なことをしてなくて良かった……!)
お菓子を食べすぎて満腹になり、眠気に襲われた。
睡魔に負けて眠ったら、いつの間にかひめと心陽ちゃんが布団に潜り込んで、一緒にお昼寝していたというわけだ。
なんというか……二人とも子猫みたいだなぁ。
ついつい母性本能をくすぐられる。高校生男子なのに不思議な感覚だ。この子たちのためなら、なんだってしあげたいと思わされる。
もともと子供は好きだ。心陽ちゃんの面倒をよく見ているのも、子供好きというのが大きな理由の一つである。おかげで女性慣れしてはいないが子供慣れしているので、ひめとも仲良くなれたのだと思う。
なので、二人を起こそうと言う選択肢が俺にはない。起きるまで待っていようかな……いや、でも時間が遅かったら流石に起こさないとダメか。
そう考えて、時間を確認しようとする。
そんな時だった。
『ガチャッ』
急に部屋の扉が開いた。
そして姿を現したのは――姉さんだった。
こ、これはまずいことになるかもしれない……!




