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2. 王宮の森には魔女がいるらしいって、それって不審者じゃないのか?

ヒーロー視点です。

『王宮の森には魔女が住んでいるらしい』

社交界の中で最近まことしやかに囁かれる噂の1つだ。


 魔女に頼めば肌を美しくする薬や恋の媚薬までなんでも手に入れることが出来るらしい。

 だが、非常に気まぐれな為、なかなか見つけることができないそうだ。


「いかにも、婦女子が好きそうな話題だな」

 マリオンは楽しそうに語る友人に呆れた表情を隠そうともせずに肩をすくめて見せた。


 ひとつ年上の幼馴染は、相変わらずふらふらと少女たちの間を漂っているらしい。


 日課の素振りを終え、心地よい疲労感とともに朝の空気を楽しんでいるところに現れてなにを話すかと思えば今、女性の間で流行っている噂話とは。


「珍しく早起きしたと思えば、暇な奴だな」

「残念、早起きじゃなくて今から眠るんだよ」

 呆れ顔のマリオンは、返ってきた言葉に更にゲンナリした気分を味わう羽目になった。


 なんで、朝の爽やかな空気の中、友人の爛れた生活の一端を垣間見なくてはならないのか。


「………もう、良いから家帰れよ、お前。………じゃ、ない!ここにいて朝帰りって、侍女に手を出したのか?しかも、泊まりができるってことは部屋持ちの?!」


 ココは王宮の一端にある鍛錬場だ。

 新人隊士として勤めているマリオンが鍛錬の為にここを使うのは毎朝の事で、同じく隊士として名を連ねている幼馴染でもある友人のフィリアスがココにいるのも、立場的には不自然なことではない。


 が、「今から寝る」=「朝帰り」。

 つまり、この男は王宮内のどこかで夜を明かしてホニャララな事を致してきたと言っているのだ。


 ちなみに夜勤では無かったのは明白だ。

 なぜならその役割は昨夜、マリオンも担っていたのだから。


 王宮内に個室を持っている侍女となるとそれなりの爵位持ちの娘が行儀見習いも兼ねての王族付き、となる。

 つまり、未婚の貴族の娘で、ソレと火遊びは流石にばれた時ヤバすぎる。

 昔程、厳密ではないとはいえ、やはり未婚の娘は貞淑を求められるのが世の常だ。


 今までも数多の浮名を流してきたフィリアスだが、流石に今回は相手によってはまずいことになるんではないかとマリオンは青くなった。


 浮名を流すたびにうるさく小言を言いはしてもそれは心配しているからであって、1度懐に入れた相手には驚くほど寛容なのがマリオンである。


 まぁ、フィリアスにしてみれば真面目すぎるのが玉に瑕なのだが、良い奴なのは間違いないし、自分と正反対の相手というのは、話していて色んな刺激を受けてとても楽しい。


 そんな情に厚い友人の姿にフィリアスは深く言及することはなく、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるにとどめた。


 実情を語れば、相手は確かに部屋持ちの高位侍女ではあるが、早くに夫を亡くした寡婦であり、結構年上のお姉様である。

 お互い割り切った暇つぶしの遊びであり、ばれた所でさしたる問題もない。


(流石に高位貴族の未婚の若いのに手を出さないって)

 内心舌を出しながらも話さないのは、マリオンの反応が面白いからだけに他ならない。


(まぁ、実情話したら話したで、爛れてるだの何だの騒ぎそうだけどな)

 心の声が聞こえたならば、説教3時間コースになりそうな事を考えながらも、「危ない橋を渡るな」と見当違いの説教をはじめたマリオンに神妙な顔で頷いておく。


「で、魔女なんだけどさぁ」

 説教もひと段落。

 腹も減ったしと騎士団の食堂で朝食を食べているとフィリアスが話を蒸し返してきた。

 ちなみにこれを食べ終わったら、2人とも帰って今日は休日の予定だ。


「まだその話に戻るのか?そもそも、後宮なんて王以外は入れないんだから会えるわけないだろ?何かのガセネタなんじゃないのか?」


 夜勤明けとは思えない食欲を見せながらも、マリオンは面倒臭そうな顔を隠そうともせず、それでも律儀に言葉を返した。


「いゃぁ〜、それがさ、境の森に現れるらしいんだよね。勿論、大っぴらに入っちゃいけないけどギリギリグレイゾーンじゃん?」

 境の森とは王宮内にあるこじんまりとした森の事で、後宮と王宮の北側の境目となっている。


 場所的にも手付かずな為、酔狂なカップルが人目を避けて逢い引きの場に使うくらいで基本人気がない。森がそのまま険しい山の崖下へと繋がっている為、警戒の目も薄いのだ。


「出現時間もまちまちでローブを深く被っているから容姿もはっきりしない。けど、魔女に譲られた薬や化粧品はとても質が良くて効果が高いんだって」

「………不審人物が王宮内の森に現れてるって事じゃないか」


 ニコニコと受けた報告はとても笑って流せるものではなかった。

 顔を見せない誰ともわからない相手の渡した薬を警戒もせず使える神経も理解できず、マリオンは表情を険しくした。


 ある意味予想通りの反応を返した友人に、フィリアスは我が意を得たり、とばかりに頷いてみせる。

「そうなんだよ。だけど、上官に報告するにしても未確認情報すぎて心許ない。と、いうわけで本日暇なマリオン君。一緒に現場検証と行かないか?」


 ニンマリと笑うフィリアスにマリオンは深々とため息をついた。

 どうにもおかしいと思ったら、どうやら興味を惹かれる噂をゲットしたからとマリオンを巻き込みに来ただけだったらしい。


「お気楽なお前と違って俺は昨夜は一睡もせずに働いていたんだか?」

 思わず愚痴をこぼしたが真面目なマリオンが不審人物情報を聞いて放っておけるはずもなかった。

 ココで無理に帰ったとしても、どうせ気になって悶々となり、眠気など湧いてこないのは分かりきっていた。


 答えなど聞かなくても、結果は明白。

「まぁまぁ。寝る前に森林浴したらきっと癒されて良い眠りも取れるって」

 ニコニコと促すフィリアスの頭を衝動的に殴ったマリオンは、たぶん、悪くないだろう。






 そうして、マリオンは運命に出会ってしまうのだ。




読んでくださり、ありがとうございます。


今回は、ナンバーだけでなく小題も頑張ってみよう企画です。

そして、子供書くのが大好きな夜凪にしては珍しく、一話から突然時間軸が飛んでおります。

しかも2話目なのに主人公が出てこないという暴挙です。

すみません。

校正が間に合えば、夜にももう一話投稿したいと思います。


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