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14. 幸せになるための計画?

 マリオンの側付きの護衛騎士として共に付いてきていたフィリアスは、慌ただしく自己紹介を済ませた後、ちゃっかりソファーに座り込み『作戦会議』を始めた。


 その際、数少ない味方なのだから意見を出してもらわないとと、渋るユリアもしっかり仲間に引き摺り込んだ。


 侍女として意識高い系ユリアとしては、主人と同じ席につくなんて……とかなり固辞されたが、レイラにお願いされ、渋々ソファーへと腰を下ろした。

 その前に、冷めてしまったからと紅茶を入れ直したのは、譲れない侍女魂だった。


「作戦としては、「もともと王の妃ではなく王子の妃として迎え入れたがまだ幼かったため、一時的処置として後宮に保護していた」って噂をそれとなく流す。次に、できればマリオンにそれっぽい功績をあげてもらって、その祝いのついでに華々しくゴールインって感じ?」


「そんなに都合よくいきますか?」

 フィリアスの言葉に、レイラは首を傾げた。


「下手に画策するよりは、分かりやすい道筋の方がこの場合は受け入れやすいはずだよ。レイラ様が表舞台にちっとも出てなかったから、貴族たちには記憶も曖昧だろうしね。後は、紙一枚の証明書だけど、王の権限でこっそり握り潰すもよし、白い結婚の証を立てるのもよし」

 ニヤリと笑うフィリアスの笑顔がなかなかに黒い。


「もともと陛下は望まない娘には手をつけられず、それなりの相手に下賜されると聞いています。政略結婚のコマとして無理に送り込まれる姫対策らしいですが」

 ユリアの言葉にレイラはパチリと目を瞬いた。


「そうなの?」

「はい。流石に国元に送り返すのは、外聞が悪いためできないそうですが」

 コクリと頷くユリアは、伊達に方々の宮に手伝いとして潜り込んでいたわけではなかったようで、それなりに情報を掴んでいた。


「レイラ様は、別にどこかの貴族に嫁ぎたいと思っていらっしゃる風でもなかったので、お伝えしませんでした」

「そうね……。誰とも知らない貴族に嫁いで窮屈な思いをするくらいなら、今の方がマシと思ってたわね」


 ユリアの言葉にレイラは頷いた。

 見知らぬ異国で生き抜いた月日は、しっかりと2人の心を繋いでいた。

 普通の貴族の娘なら、生活苦よりも嫁ぐことを選ぶはずなのだが………。


「まぁ、そんなわけで下地はあるから、より手を上げやすくするためにも、マリオンに功績をあげてほしいわけなんだよ」

 頷き合う少しズレた主従に少し呆れながらも、フィリアスはマリオンに視線を投げた。


「そこは考えてある。北の国境がきな臭いらしく今度増兵があるから、そこに王の名代として参加してこようと思っている」

「増兵………ですか?」

 マリオンの言葉に、レイラの目に不安の色がよぎる。

 それをめざとく見つけたマリオンは、安心させるように微笑んだ。


「大丈夫。隣国とは長年睨み合いが続いているが、戦いになったことは無い。ただ、「警戒しているぞ」という形を定期的に見せることが牽制になるから、そのためのものだ」


 もともと豊かな資源を持った国であったが、近隣の国がその資源を狙って戰を仕掛けてくるのを返り討ちしていくうちに領土を広げてきた歴史がある。


 現状、国は大国となり、広がった境界はその分接する国を増やした。

 結果、常にどこかしらで小規模ではあるものの諍いが起こっているのが現状だ。


 ちなみに、レイラの国は同盟国が喧嘩をふっかけたため、渋々手伝ったら見事敗戦の巻き添いを食らったパターンである。


 この国に送り込まれてから細かい経緯を知ったレイラは、思わず故郷の方角に向かって叫んだ。主に、明らかに不利な状況なのに断れなかった弱気な王様に向けて……。


「一年前後、砦に滞在する事で、それなりの格好がつくはずだ。時間はかかってしまうが、それでも現状では1番の近道だと思う」

 考えるように言葉を紡ぐマリオンに、フィリアスも頷いた。


「今のところ、一番の無難かつ安全策だろう。マリオンが王位継承権手放す前だったら、また別の手もあったんだけどね」

 肩をすくめるフィリアスにマリオンが眉を顰めた。


「マリオン…‥殿下は継承権を放棄されたのですか?」

 パチリと目を瞬いてレイラが首を傾げた。

 名前がぎこちなかったのはご愛嬌だ。

 今まで敬称をつけた事がなかったのだから。


「いつも通りで構わない。そもそも放棄している時点で《殿下》はおかしいしな」

 呼びづらそうなレイラに、すかさずマリオンがフォローを入れた。単純に他人行儀な呼び方が嫌だったというのもあるが。


「母上が亡くなった事で、私の立場もさらに弱いものになったからな。元々興味もなかった地位にしがみついて変な嫌がらせを受けるより、サッパリした方がいいと思ったんだ………」


「継承権放棄したところで王子は王子なんだから《殿下》呼びも間違いじゃ無いぞ?」

 コソッと茶化して睨まれたフィリアスが、両手を軽く上げて降参のポーズをしてから笑った。


「まぁ、無い物ねだりをしてもしょうがないし、地道に行こう。目指せ!幸せな結末!!」

 オー!と拳を振り上げるフィリアスに残りの面々は顔を見合わせた後、付き合い程度に小さく拳を上げた。





「ねむれない・・・」

 レイラは、寝台の上で幾度も寝返りを繰り返した後、あきらめたように一つため息をつくと体を起こした。


 時刻は深夜を回っている。

 早寝早起きを信条としているいつものレイラなら、とっくの昔に夢の中にいる時間だ。

 だけど。

 安らかな夢の世界に旅立つには、今日一日は刺激が強すぎた。


(まさかマリオン様が王子様だったなんて)

 なんとなく上品な立ち振る舞いから、高貴な血が流れているのかな・・・・と感じてはいたが、まさか現王の血筋とは思わなかった。

(だって王子様がお供の一人もつけずにふらふらしてるなんて思わないじゃない)

 そこまで考えて、レイラはクスリと笑った。


(それを言ったら、一人で森を歩き回って自給自足するお妃さまも大概ひどいわね)

 はっきり言ってあり得ない。

 だけど、そんな二人だから出会えたのだと思えば、すごく不思議な気持ちになった。


 そのまま寝台を降り、そっとバルコニーから顔をだした。

(・・・きれい)

 空には、とても大きな満月がかかっていて、レイラは誘われるように歩き出す。

 どこか目的があるわけでもないけれど、月の光に照らされシンと冷えた空気は、突然の出来事に混乱した頭を冷やしてくれそうな気がしたのだ。


 そのまま、この四年で結構な広さになってしまった家庭菜園を抜け、森の中へと入る。

 王城の敷地内にあるとはいえ、夜の森など危ないと咎められそうなものだが、レイラにとっては目を閉じても歩けそうなほど慣れた場所だ。


 月明かりに照らされた小道をそぞろ歩く。


(私はどうしたいのかしら・・・)

 瞬く間に物事の道筋が整えられていく。

 王子様との幸せな結末への。


 だけどそれは、ようやく自分の思いにきづいたばかりのレイラにとっては、とてもついていけないほどのスピードだった。

 嫌なわけではない……、と、思う。

 ただ、あまりの速さに心が付いていけないのだ。

 自分の事なのに、まるで人ごとのように感じてしまう。


 こんなあいまいな気持ちのまま、受けていい話ではないはずだ。

 だって、危険な事は無いと言っていたけれど、マリオンは、争いのある場所に行こうとしているのだ。

 牽制のためというが、裏を返せば、いつ本格的な戦へと突入してもおかしくないということではないのか・・・。


(ダメ・・・・頭の中ぐちゃぐちゃで、もう訳わかんない・・・)

 柔らかな月の光に照らされた森はとても静かで、いつもなら心安らぐ場所なのに、今日のレイラには効果がないようだった。

 ため息が出そうな心を抱え、レイラは森を歩き続ける。


 そして。


 いつの間にか、たどり着いたのは森の中を流れる細いせせらぎの側だった。

 初めて会った日から、幾度となくマリオンと二人で時を過ごした場所だ。


 ぼんやりとしているうちに、足は慣れた道をたどっていたのだろう。

 昼と夜という違いこそあれ、見慣れた場所のそこかしこに染み付いた二人の時間が、鮮やかによみがえる。


 初めての出会い。

 置いてあった薬草籠を見つけた時の驚き。

 初めて交わした言葉。

 レイラに教わりながらぎこちなく薬草を摘む姿。

 持ってきたサンドウィッチを二人で食べたこと。

 訓練で着いた傷を「放っておいてはダメ」と叱りながら治療したときの気まずそうな顔。


「街で見かけて・・・似合いそうだったから」と照れくさそうに髪飾りを渡された時は、驚いたけど嬉しかった。


 ゆっくりと重ねていった時間は、確かにそこにあって、レイラの混乱していた心を少しずつ落ち着かせてくれる。


(そうね。突然、あんなキラキラした格好で王子様なんて肩書つけて現れるから、びっくりしたけど……。

 マリオンはマリオンだわ。

 口下手であまり表情は変わらないけど、まじめで、いつでもまっすぐに私を見て、些細な話でもちゃんと聞いてくれる人。ちょっと目つきは悪いけど、たまに笑うと片方に笑窪が出来てなんだかかわいいの)


 つらつらと考えながら、水辺に座り込みせせらぎを指でかき回す。


(隣にいても、そのままの私でいられるの。どこかの貴族の娘でも、王様の何番目かの奥さんでもない、ただのレイラで・・・・。そうね・・・私、この先一緒にいるなら彼がいいわ・・・・)


「・・・・だって、私はマリオンを愛しているんだもの」

「・・・おれも、レイラ、君を愛してる」

 思わずこぼれ落ちた言葉に、返事が返ってくる。


 驚いて振り向いたその先には、いつもの姿をしたマリオンがうれしそうな笑顔で立っていた。



お読みくださり、ありがとうございました。

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