18 始まるパーティー
遅くなりました
「皆、準備は良いようだな。では行くぞ」
ゲタックジョーの掛け声に三人が頷く。草木の茂った山を進む彼等はゲタックジョーとロメオの人族二人を先頭に、どこか御洒落なスカウトの格好をしたエルフのセナケイ、防備で固めたドワーフのエデビスと続いていく。
目指すは恵まれ山の頂上にあるナンゾ村。遠征目的はその行程でロメオの実力確認と連携を図る事だ。
このプチ遠征の主役と言ってもいいロメオにとっては初のパーティー行動である。
その主役は恵まれ山に入る前から落ち着きのない様子で、ぎこちない笑顔を周囲へ振り撒きつつ、背中の剣の柄を常に弄り遊んでいる。
傍から見たら緊張した新人の冒険者、もしくは獲物を探す危ない人物。
仲間のセナケイもエデビスもロメオの不審者具合に距離を取っている。
(まぁ大丈夫だろうな。戦闘では油断するような奴じゃ無いだろうし)
現に山に入ってからはロメオの表情は冒険者そのモノに変わった。
キョロキョロ回していた首は無駄に回さず警戒の為だけに働き、接触する草木や地面に対しては、出来るだけ音を立てないようにしながら森の中を進んでいく。
そんな様変わりしたロメオの様子を見て、ゲタックジョーは安堵するが仲間の二人はそうではない。
リーダーが一人勝手に連れて来た若い新人に対してその実力に懐疑的なセナケイと、気が強く、暴力現場しか見せてなかった姉に対して堂々と啖呵を切った人物が、今朝にはいつもの自分と同じ位オドオドしている様子を見て不安になったエデビス。
二人の眼は先を歩くロメオの挙動を逃さぬ様に、射ぬく様に向けられていた。
◇
二日前のパーティー結成の際に一度顔合わせを行った後に、お互いに名乗り特技や武器については話したが、ドワーフ姉弟とドワーフモドキのヒューマンがドンチャン騒ぎを初めてしまったので多くは話せなかった。
一応、ゲタックジョーとカーリンには酒の席でロメオを見極めようと意図した処もあったのだが、酒が入る前からパーティに加入させる気だった男と騒ぐ前に反対派から賛成派に鞍替えした女だ。騒ぎの中では終始ロメオに好意的で、本人達の気質からただ酒を楽しんでいただけだった。
その新人が加入する流れとなりその彼が宿に帰った後に、ベロンベロンに酔ったリーダーが床に転がりながら彼の魔法について説明してくれたが、話を聞いた二人の感想は間逆の物だった。
セナケイは訝しむ。
魔法に一家言あるエルフ種の自分も聞いた事のないその魔法に、仲間の人族はあの新人にそれらしい魔法を見せられて騙されているのではないか、もしくは珍しい事にリーダーが御得意の口八丁に負けて逆に連れて来させられたか。
真っ先に浮かんだのがそれだった。
思い出してみたら新人は冒険者にしては行儀が良く、話の節に知性が見られた。体も鍛えられている様で、今もガブガブ酒を飲んでいる、腕が立つ処を見せたカーリンに対しても真っ向から口を出した。
ここまで見たら一人前の男だったが、その後はカーリンや若いウェイトレスに対しては顔を赤くしながら緊張気味に対応していたことで、歪な、怪しい男に見えてしまう。
冒険者に夢を持つエデビスは姉に述べた口上を聞いて尊敬の念を抱き、幼い頃から鍛えた事で万遍無く武器を扱えると聞いて鍛冶屋の息子としてさらに気を良くした。自分と3つと変わらない年下の青年が大きく見える...こういう人が英雄と呼ばれる者になるのだろうと。
尤も二日後の朝に不審者ぶりから自身が抱いた情景に疑念を持つ事になったが。
『リーダーが変な(いい)奴を連れて来た』
だからこそ二人は自分達で見極めると決めたのだった。パーティーにとって害なのか益をなのか
寝転がる酔っぱらいの不敵の笑に気付かずに....
◇◇◇
グリンジョンの三大迷宮の一つである恵まれ山。
都市内部に存在する山の迷宮だが、山の起伏は乏しく、食に困らないので表層に生きる魔物も性質は穏やかであると評される。
冒険者達の登下山により山頂までの道は整備されており、その安全尽しの山は正規ルートを辿って登山のルールを守れば、力を持たない人々でも登りきることができる程だ。
無論いくら初心者向けと呼ばれていても迷宮と呼ばれる場所だ。
正規の登山ルートを外れれば容易に登れるモノではなく、遭遇した魔物を退ける能力を備えてなければならない。
そう言った点では、先頭を歩き続けているにも関わらず、疲労した姿を見せないロメオにも十分能力があると言えるだろう。
そんな新人の様子を見てからはある程度安心した二人だったが、それでも拭えない不安があるようだった。
そこで、こういう溝を予測していたゲタックジョーは冒険者らしい解決方法....遠征でロメオの実力を示す事にしたのである。
後方の二人に、彼の剣の腕前を見せる為に自分と同じ前衛に配置、弓士のセナケイを中衛、パーティの背後の守りとして重戦士のエデビスを後衛に置いた。
パーティには出発前に今回の意図する事を事前に伝えてあり、そのことについてもロメオからも了承を得ている。
(セナケイはともかく、エデビスはコイツの剣の腕を見たら安心するだろう。そんなことより...)
自分はどうしてもロメオを引きいれたい。あの魔法は有益過ぎる。何やら事情がありそうだが、そんなモノはどうでもいい。
(ハッキリ言おう!コイツは金になる。今日は有用性を示すだけだが次は可能性をワシに見せてくれ!ぐふふふ。金金金金金金っ!アタリを引いたぞ!金の卵!ぐふふふふ!)
「ぐふふふ」
「ジョーさん、漏れてますよ。それよりもアソコに」
セナケイは仲間の人族の欲深い笑みに冷静な突っ込みを入れながら、獲物を発見した場所を指差しで示す。
弓士の突っ込みに意識を取り戻したゲタックジョーはハッと我に帰り冒険者の顔を出す。
◇◇◇
「アレにするかの」
セナケイの指を刺した先に視線を移動させたゲタックジョーが言う。
そこには二足歩行の厳つい顔の豚が五匹。オーク。
奴等は俺達に気付いた訳でもなく、気ままに己等の糧を探しているのか、警戒心を持ち合わせずに木々を見渡しているようだ。
オークは種族の個体差が大きい魔物で成熟した個体の体長が小さい物で1メートル、大きい物で4メートルを超えるなど体格にバラつきがあり、また、道具の概念を持つ程の知識も持ち合わせている。現に遭遇した集団の中で1番大きな、3メートルに届きそうな個体は腰布に素剣を差していた。
厄介なのは脂肪にまみれた骨格筋から生まれる腕力だ。
星持ちでもその体格から繰り出される攻撃によっては大ダメージを負うその威力、また体格相応のタフネスも持ち合わせている。
面倒だから避けるべき...そう思っていたのだが。
「どうやってやりましょうか?」
セナケイの言葉で三人が顔を合わせて相談する。
てっきり戦闘を避けると思っていたが、三人はやる気だった。
オークの価値は一匹で大量の食用部位を得る事にあるが、普段の移動が二足歩行である事と、薄目したり遠目からの見方によっては人に見えるその醜悪顔から、食すのを忌諱する者もいる。
俺もどちらかと言えばそのタイプだ。
ましてココは飽食都市でもあるグリンジョン。オークよりも旨い食材も山ほどある。オーク自体そこそこに強く、倒しても買い叩かれ、一匹当たりの金銭からすると無駄な戦闘・荷物になるんじゃないか?
それを分からないゲタックジョー(金の亡者)ではないハズだ。
となれば...
「そうだな。お前さんの腕前を改めて見たいからなぁ。...アレを一人でやることは出来んか?」
行軍中に突き刺さる視線もあって、新たな仲間の実力を疑問視されていると理解している。ゲタックジョーの意味有り気な視線で言わんとする事が理解出来た。
「...まぁ出来なくはないけど時間は掛かるし、最悪は魔力と気力をかなり消耗すると思う」
「フーム、ならワシ等で三匹減らすから一人で二匹やってくれるかな?」
顎を撫でながら思案顔で言うゲタックジョー。
彼が言ってるのは一人一殺ではなく三人で三殺。つまりはパーティーでやるようだ。
「それならイケると思う。余った奴をやるから先に行ってくれないか?」
「よし、いいだろう。エデビスはワシに続け、セナケイはいつも通りに頼む....では、行くぞっ!!がぁあああァ!」
ゲタックジョーはリーダーとして皆の顔を見て了承を得たと確信し、咆哮を上げながら、自身の体と同等の大きさを持つ斧を構えてオークの集団へと駆け出していった。
「オオぉ!」
エデビスは自身の槌を抱えてゲタックジョーに続き、セナケイは二人が駆け出した時には矢を発射し、直ぐに次矢を番えている。見れば既に矢を受けて苦しんでいるオークがいる。
ゲタックジョーはセナケイの援護を受けながら猛進する。
「ふんっ!」
初めに狙うはセナケイの矢を首に受けて苦しんでいる個体..
そのオークは苦しみのあまり膝を着いている処を、重量のある樽の様な見た目からは想像できない身軽さを持って跳躍し、ゲタックジョーの空中回転切りによって首を跳ねられた。
「もう一丁!」
二匹目は着地した勢いによる斧の斬撃を、その膨れた腹に受けて悲鳴を上げる。
突然の奇襲に対応出来ずに、沈んだ仲間を見て狼狽える三匹目は対峙したエデビスを警戒するが、立ち止まっている処を、セナケイの矢の餌食になっていく。
(早いな!もう三匹倒すなんて)
ゲタックジョーが飛び出した際に、迂回してオーク集団の背後に距離を取って潜んでいた処だったのだが...加速する戦場に舌を巻く。
セナケイの矢捌きにも驚いたが、眼を張るのは三人のコンビネーション。
戦闘が始まってから各々の役割を正確にこなしていく。敵の注意を惹きつける仕事、ヘイト管理をエデビスが、魔物を攻撃するアタッカーをセナケイが。
そのどれもが上手に合わさって素早く魔物を駆逐する。
そしてリーダーのゲタックジョーといえば...どちらの仕事も行っていた。高い攻撃力をもってオークを二匹倒したと思えば、今もエデビスと共に目線や叫び声で攻撃する意志を見せつけて残りの二匹の足を止めている。
見た目と違って存外器用な人だ。
こうも早く自分の番が来るとは思っていなかったものの、知り合ったばかりの仲間が想定以上の力量を持つ事に自然と笑みが零れていた。心が勝手に高揚としてしまう。
旅の途中で会った冒険者の集団が言っていたが、頼もしい仲間がいると燃えるっていうのは、どうやら本当の事らしい。信頼は兎も角、実力は本物だ。ならば俺も!
そう思い強く剣を握り締め、ロメオは飛び出した!
◇◇
圧力によって拳を構えたまま動けない残った二匹は、その圧を掛けてくる前方のエデビスとゲタックジョーを警戒しながらも少しずつ後方に下がっていく。
相手との距離が遠退くにつれ、野生の感覚だろうか、オーク二匹は相対する相手に攻撃の意志がないと感じ始めていた。
仲間を瞬時に屠った強敵がナゼか攻撃してこない。理由はわからない。だがチャンスだ。
徐々に逃げ切れるのではないかと思い始めた所に、背後から強襲を受ける。
オークの体へ、背下から胸へ上に剣を突き刺す。
そして
「はぁっ!」
掛け声と共に刺した剣を真横に引き、オークは倒れる。
残る五匹目は悪足掻きか、あるいは最後の一匹となり覚悟を決めたのか、腰布から鞘無しの裸剣を引き抜き、たった今仲間の命を奪ったロメオを見据える。
打ち合わせ通りにゲタックジョー達は動かない。その状況は奇しくも正面からの一対一で、実力を見る、見せるには誂え向きだ。
(丁度いい。この状況なら本気を出すか。期待されてるなら応えてやるさ!)
見せる本人も意気込みは十分。
"グウふぅぅうぅ"
唸り声と共に口から涎を垂らしながら、破れかぶれにロメオに大股で近づく。対するロメオは腰を落として地に足を根付かせるように、剣を下段に構える。落ち着いた様子で、彼の眼はしっかりオークを見据えていた。
接近するオークの方が体格も良く、リーチも長い。その為ロメオより早く剣をを振るう事が出来ただろう。
だがお互いの剣が届かない距離で先に動き出したのはロメオだ!
低い体勢のまま気力を供給させた足で急激な加速を行い、交差しながらオークの左足に斬撃を与える。
その一撃は切ると言うより、腕に纏った気力による力任せに叩き切った形ではあったが、体と足を分離させた。
”グヲォォォオ!”
痛みにオークが叫ぶ間も与えず、加速した勢いを利用してそのまま背後に回り、気力を込めた一撃を放つ。これも叩き切る様な切り方であったが、肉厚のオークを腹部から肩に掛けて二つに分けるには過剰な威力だった。
最後の一匹が小さな呻き声を発しながら倒れる。その音を最後に静かになった戦場。
ロメオは手足への気力供給の反動により呼吸が早い。手も少しばかり震えるせいか納刀した際に思った以上に音が大きくなったが気にしない。
(敵はもういないしこの程度なら大丈夫。直ぐに治まる。それよりも)
額に汗をかきながらも無理に笑みを浮かべて異種族三人組に向け尋ねる。
「一匹目はアンタ達に注意が向いているのを利用したけどさ、コレでいいかな?」
「ええだろ。というか充分だ。最後の加速したアレなんてワシも対応するのは無理かもしれん」
「そうですね。即席でしたが思った以上に闘えるようで良かったです」
「そうだべ、ロメオ君。あんに動けるのは凄いって。俺は居るだけだったしよぉ」
概ね好意的な答えの、ドワーフ訛りが混じったエデビスの気弱な発言によって3人は総評を締める。
ともあれ、多少無理した甲斐あってエルフとドワーフも認めてくれたらしい。オーク相手には過大な労力ではあったものの評価は悪く無いようで、心無しか刺さるような視線も柔らかくなった気がする。
(一人の時は窮地か勝ちが見える時以外では使わなかった戦法だったからなぁ。仲間の有難味が染みわたるよ...)
先程の気力による『纏い』も、あれ以上の行っていたら身体への負荷はもっと大きくなっていただろう。
剣も雑に扱ったし、反動で剣の握りが甘くなったのだ。
いくら人族という枠の中で丈夫な体に成長出来たとは言え、生まれつき体の頑丈な獣人や鬼人族とは違うのだ。どんなに鍛練を積んでも種族の差を超える事は出来ず、脆弱な人族の身で自身の身体能力以上の力を出すのは体への損傷が大きい。
これ以上の気力操作を行うには『格』上げに伴う肉体の昇華に期待するしかないだろう。
「エデビス、お前はいつも卑屈過ぎる。さっきの闘いもお前が敵を惹き付けてたからワシ等は闘いが楽になった。あれも良い仕事だぞ。まぁともかくだ。ロメオ、オークをな、解体を手伝うから、その、アレで片してくれんか?勿体な.....ではなくついでに二人に見せてやってほしい。なぁに、簡単じゃろ?最後の締めだ。締め!ささ、早う!」
ロメオが気力についてと仲間に関して思考を馳せている内に、エデビスを窘めながら待ってましたと言わんばかりに、されど下手な態度で急かすゲタックジョー。
その言動と顔の節々からは欲望がダダ漏れだ。どうやら金になる物はどんな物でも回収する気らしい。たとえグリンジョンで安く買い叩かれるオークでさえも。
仲間の良さを噛み締めていた処に、その提案はちょっと無いんじゃないか?
彼の言動にセナケイも、落ち込んで励まされていたエデビスも呆れ顔だ。それを感じたのか無言となった俺達を説得する為に、急遽真面目な顔をし、勢い付いてまくし立てる。
「ち、違うぞ!金の為じゃない!あれだ、お前達もロメオの魔法を見ておけばワシの話が本当だと信じさせる為にだな。それにな、仮に金の為でも問題はあるか?金の為なら何でもすると言ったのはロメオじゃないか?酒場の言葉は嘘だったのか?」
「まぁ、それはそうなのですが。ただ、彼の闘いを見て感じていた疑念は何処かに飛んで行きましたよ。無論魔法が見れるならそれに越した事は無いですけどね。ああ、それとオークを解体するなら一人でやって下さいね。私はオークに触りたくありませんから」
「俺はロメオ君の剣の実力だけでもパーティーに加入する事に十分だと思うべ」
「ええっと、俺もオークはちょっとな。というか何でもするとは言ってないからね。人の言葉を勝手に変えないでくれ」
「フン!拘りなぞ持っとると金は稼げんぞ。一攫千金も大事だが、一金も千金も等しく金だ。小銭を蔑ろにしては一攫千金の夢も蔑ろにするのと同じだぞ」
力説している内容は現実的な事を言っているんだけどなぁ。だからといってオークに....しかし仲間というのは協力し合うモノらしいし...
「うーん。まぁ、道理ではあるとは思うけど...」
オークへの嫌悪と、冒険者として金への捉え方、そして仲間という未知の存在との距離感が、それぞれが脳内で鬩ぎ合って俺を悩ませる。
「ロメオ君。丸め込まれているようだけどこの人は本当に金銭が為に動くんだ。余り本気にしない方がいい」
気持ちが揺れていた処にセナケイの呆れを含んだ声が響く。だけどその顔は、目を閉じているので表情は分からないが、幾分か怒っているような....
「おいおい!余計な事を言うんじゃない!」
「ジョーさん、若者を利用するのは頂けませんよ」
...あぁ、セナケイは俺を助けようとしているのか。さっきまで俺を認めない空気を出していたのに....エルフの高潔さが働いたのだろうか?
どちらの言に従うべきか頭では分からないが、その...ビジュアルを比べてしまい...彼言葉を信じたくなってしまう。
「えーと、じゃあまた今度という事で」
「ぐぬぬぬ!くそぉ!なら金目の物は根こそぎ回収するんだぞ!いいな?合計でこのオークの100倍収集せんと村には行かんからな!」
そう言って拗ねた子供ように怒った男が先に進んでいく。
喧嘩別れ...じゃ、ないよな。セナケイもエデビスもヤレヤレといった感じで後を追っているし。
そもそも当初の目的は俺の実力や連携を図るんじゃ......まぁいいか。実力を見せることは出来たのだから。
そう思い、やや苦笑を浮かべながら三人の後を追った。
見直すと誤字が多過ぎたのでちょくちょく修正してました。
そうしている内についでに文章も直しちゃえ!ってなって初めに投稿した文と全く違う感じになってしまいました(笑)
書くのってやっぱり難しいですね。




