表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

14 旅で得たもの

感想や評価を貰えると嬉しいです。

また、一話のプロローグに加筆しました



「ふぅ...よし!」


と溜め息をつきながらも、その直後に気合いを入れたロメオは恵まれ山に向かう。


周りの冒険者から、朝から元気な若者への生温かい視線を受けるが、今のロメオにそれに対する気恥ずかしさは持ち合わせていない。


意気込みは十分、隠す気も無かった。




◇◇◇


アンナマリー・ゴールド。通称、黄金の魔女。


黄金(ひかりの)暴力とも呼ばれる程に力を思うままに奮っていたが、実力だけで塔の魔女の後継者となった猛者。


彼女の逸話はかつて眩石(げんせき)達が犠牲を払いながらも討伐したと言われる魔王と何ら変わらない。


敵対者は皆殺しは当たり前、気紛れで災害を起こす、迷宮の魔物を敵対国家へ解き放つ等の、その行いは魔王と遜色無い程だが彼女が(まが)(なり)にも世界で唯一無二の都市であるグリンジョンの守護者であった為、魔王の名を継ぐ事無く、討伐されることも無かった。



そんな彼女はウン十年前に、当時部下だったアテナ・セインジィとの一騎討ちに敗北し、表舞台から消えた。その後のアテナが直ぐ様三代目ギルド長に就任して都市の実権を握り、都市運営を軌道に乗せたのでグリンジョンの混乱は少なかったとされている。




彼女が生きていた事実に驚いたが、問題はそこじゃ無い。


暴力の化身、二代目ギルド長が敵に回るかもしれないと聞いてギルド自体も敵になるのではないかと焦り、疑心したが、職員は現ギルド長から「先代の組織とはいえ、片棒を担ぐことをせず無関心に」という訓辞を受けている。

なのでギルドは関わりを持たないが、モザ薔薇と敵対も協力する事もないマールは言っていた。



その際にしばらくはエルガン・ロンタルについて誰にも話さない方がいいと言われ、それにはロメオも了承した。

が、後になって話す相手が居ない事に気付き、その事に泣きそうになりながらも今後について考えを巡らせる。







マールが言うにはモザ薔薇の女の出す書籍には2段階から成ると言っていた。




初めは己等の妄想で書きあげた『純本』と呼ばれる小説や漫画が複数出版される。

登場人物の特徴は全員ボカしてはいるが知り合いが見れば思い当たるレベルでモデルの人物だけ名前や外見はそのまま。内容は恋愛物がメインだが登場人物は軒並み男同士らしく...


ただ、モザ薔薇に所属する作者各人の妄想で書かれているだけあって、登場人物の設定や顔の造形が本によってバラバラらしい。



人伝に集められた情報を妄想で補完しているからそうなったとか。

そのためモデルによっては美化されることが多く「人によっては格好良く書かれるかもね。ある意味良かったかも」なんて呑気な事をマールは言っていたが、ロメオからすれば書かれた時点でアウトだと思っている。



救いなのは純本が出されても噂の範疇を抜け出さないことだろうか。

内容が作者によってバラつきがあるので信憑性が低いこともあり、男色の真偽を問われても違うと言い張る事が出来る。

実際に違うので胸を張って言える。耐え難いことには変わりないが、大抵は「似た奴のせいで困っている」等と言い、押し通す事が出来るだろう。





そしてギア上げたのが『裏本』。

表本によって名誉を傷つけられたと怒り、抗議して、消えていった者達をモデルにした作品だ。



この本は純本と比べて、モデルの造形や設定が格段に細かくなった事と、そのモデルの生々しい裸の描写が増える事が特徴だ。

ゾッとしたのは、その裸には本人やその人の裸体を見た者にしか分からない痣や黒子ほくろ、さらにはマークも事細かく描かれていると聞いた時。



話を聞く限り健全じゃない本なのは確かだろう。内容も製作過程も。

裏本が世に出回る時期は決まっている。抗議者が出て、その声が聞こえなくなった時だという。


裏本が出されたらその人は生命も、社会的にも終わりだろう。けれどもそんな最低な本に抗議する者もいない。


墓にいる者は世間に訴えることが出来ないからだ。



モザ薔薇の女について事情を知る者やギルド職員は、裏本のモデルとなった人が消息を絶った後に出回る事から裏本をある意味、死亡報告書とも捉えているらしい。





「はぁ~。道理で超越者が消えても大きく話題にならない訳だ」


と、一通り情報を纏めると共に、こんな集団は駆逐して欲しいと切に願った。手に追えない慮外者の事を考えると思わず溜息が出てしまう。


ギルドも起きてしまった事件に遺憾を覚えつつも、治安の為に裏から手を回しているらしい。

前のギルド長だからか、強く言えないギルドを横目に黄金暴力はやりたい放題。


「もう魔王を名乗っても誰も文句は言わないよな..」



ロメオが狙われたかどうかは分からないが、マールは同僚のエルフから動きがあったら教えてくれると約束してくれた。






(モザ薔薇に目を付けられないためにはエルガンさんと会わない・話さない、か。正直あの人の話を聞きたかったがこれは仕方がない)


エルガンさんの本は意外な事に、まだ出版された事が無いらしい。

品性、顔、性格の良さが揃った彼のイメージを壊す事をギルドがどうにかして辞めさせたのか、それとも冒険者としての最強の一角である彼と敵対することを避けたのか。



仮に彼がモザ薔薇に挑んで負けでもしたら、彼を狙う情熱的な女性達が何をするか分からない。

それだけはイケないと、グリンジョンの治安の観点から三代目ギルド長が二代目から彼だけは薔薇の対象から外す事を承諾させたらしい。


(二代目と三代目の関係はマールも知らないって言ってたけど...わからないな。連絡は取れる状況なのか?クーデターで争った同士だけど、何だかんだ仲は良好なのか?)




分からない事は多いが、駆け出しの冒険者である自分が知るべきことではないのだ。ともかく、エルガンに関しては本は出されないらしい。

だがロメオは違う。一介の冒険者に過ぎない。



エルガンの本が出されないなら自分も大丈夫なのでは?

と少し希望を持ってマールに確認してみるが


「恋する若者のハーレムを目指す物語。主役が男でハーレムメンバーも男。そんな作品を現在鋭意製作中らしくてさ。主役はエルガンじゃないらしいんだけど、ハーレムメンバーのモデルを探してるみたい。そこにキラキラした目でエル「わかったわかった。気を付けるから!」



このやり取りで、モザ薔薇の女は素材(ネタ)があれば何でも使うと知った。






そんなロメオが一番恐れているのはモザ薔薇ではなく実家だ。


(絶対に来るだろうなぁ)


テュカスが残した力をラズラリー家に、延いては帝国だけに置こうとする勢力も家中に存在する。その勢力が「ラズラリー家の汚点を払う」といった名目で刺客や討伐隊を送って来るかもしれない。

実際にそんな事をしそうな者に何人か覚えがある。実の父もそうだろう。


家を出る時に新当主になったティガマンからは、ラズラリーを名乗らない事を条件に旅の許可を貰えたが当主預かり知らぬ処で事が進むかもしれない。というより起こるだろう。


帝国も国の力になるなら協力するだろう。

武門に優れるラズラリー家にはロメオ以上の強者がゴロゴロいるので刺客にも困らない。

家中の中でロメオの想いを汲んで旅を後押しする者もいたが、そんな中にも名誉の為ならばと自分を討ちに来る者もいるはずだ。






(こんな馬鹿なことがあるか!ここに来てまだ一月も経ってないんだぞ!あんな馬鹿みたいな連中に俺の旅を、子供の頃から夢を奪われてたまるかっ!何より応援してくれた皆に悪い!ふざけるな!強くなる事に正確な予定表なんてないんだぞ!くそ!)



起こりえる未来を思うと、只只(ただただ)、怒りの感情が込み上げて来た。



辛い事を跳ね返し、自由に生きる為に冒険者になったのだ。それを通すための力を欲した。その為にグリンジョンに来たのだが、まさかこうも早く力が必要になるとは思いもせず、心の中で悪態をついてしまう。



自由な冒険者や曾祖父の様な英雄になりたい。


一攫千金に笑いあえる戦友、誰も見たことのない遺跡...そしてハーレム。


理不尽な現実から逃避したかったのもあるが、大好きだった曾祖父が語った彼自身の物語にずっと焦がれていた。



だから旅に出たのだ。


旅の当初、どうせなら話に聞く各名所を見たいと思っていた。

別に名所が好きだった訳ではない。


グリンジョンへ向かい、まだ決めていないが自身の欲しい物とそれを守る強さを手に入れる。

その道中を遠回りし、その道のりを自身で選択するのも悪くないと思えたからだ。


選択する自由。

それが自由の象徴、冒険者の一歩と思ったから。





未だ見ぬ土地に想いを馳せて歩き続けた日々。

土垢にまみれ、衣服に穴が空き、体が異臭を放っても歩き続けた。

魔物や野盗を警戒しながら進む森の中。旅人に厳しい閉鎖的な村。素知らぬ顔で吹っ掛ける街の商人。親しい態度で近付き命と金を狙う自称冒険者。

特に自然溢れる場所に見られる虫には辟易させられた。都会育ちのロメオにとって朝から晩まで虫と戯れるのは発狂物だった。

帰れる場所もなく、頼れる人もいない。少年の一人旅に弱っていたロメオを見て、たまたま同行していた冒険者からも追い打ちを掛けるように「アマちゃん」と馬鹿にされる事もあった。




それでも心が折れなかったのは自身の原点―人生で嬉しかった事を常に意識していたから。


幼い頃、泣いている時や褒められた時に曾祖父テュカスは笑顔で頭を撫でてくれた。


彼の大きな体と比例した大きな影が幼い自身をを包んでくれた。


剣ダコによりゴツゴツした手の温もりが、大英雄テュカスが傍にいると分かる大きな影がどんな時でも元気をくれた。



温もりと影を思い出すと、改めて自分に言い聞かせた。

自分はテュカスの血を受け継いでいると。そして彼の様な冒険者に、英雄に成りたいと。




不可能じゃないはずだ。

変な教えも受けたが、剣や槍を始めとする武器の使い方から魔法まで教わった。

冒険の楽しさも教えてくれて、何より夢も貰った。

影は自分の傍にも存在する。そして自分は影を操れる。



そう考えると真っ直ぐ前を向けた。足にも再び力が入った。




明日に想いを馳せながら、辿り着いた時に味わった感動。それもいつしか思い出になり、自分の過去になる。



旅の当初は自由の証の為と言いつつも、いつの間にか目的地を定めて向かうのが楽しくなっていた。

歴史に興味を持ったのも、ただの旅の名目として回った古城や遺跡の名所を見ている最中だった。




実戦での武器や魔法の扱いに慣れて旅の中で余裕が出来たからだろうか?

魔物はともかく襲いかかる野盗を切り殺した経験からだろうか?

いつかは分からないが、ロメオは体に(マーク)が付き、名人になっていた。



旅を進める内に、命に対して自身の明確な考えを持つ様になって、いつからか人との接し方も改善されていった。


決して仲良くなる訳ではない。

見知らぬ商人とは言い値ではなく値下げの交渉を挑み、初めて会った旅人とは自身の巡った名所を交えて情報を交換し、命の遣り取りの場面では闇雲に力を振るうことなく、意志疎通が可能な相手には駆け引きを行えるようになった。

村や街で出会った人にも生き様がある事を知り、彼等の人生から学び自身の糧にしていった。



ただ、女性とのやり取りは相も変わらず成長しなかったが。





旅をした事は間違えじゃない。全てひっくるめて楽しかった。


辛い事に挫けず、強くなるという目標があったから生き残れた。

子供の頃から見た夢も、嫌な思い出も、素晴らしい物見た時の感動も、旅の途中に変わった心境も全て自分の物だ!


手に入れた強さも俺の物だ!!




そこに旅の目的地であったグリンジョンで強者が立ち塞ろうとしている。

そのせいで、逃げるように出た生家から刺客が来るのかもしれない。



這いずり回ってでも生き残ることを信条()()()()()にしているいつものロメオなら、こんな事態になったら直ぐ様撤退すること選ぶだろう。


だが今はそれを良しとせず、怒りに燃えている。



(これを耐え忍べるほど俺は大人じゃない!魂が、反響(エコー)がどうのこうのってハナシでもない!俺の夢を邪魔するというのなら!もし俺を狙うというのなら!俺は自分を押し通す!)



相手が魔王に近い存在であっても、父であってもだ!



グリンジョンから逃げずに、モザ薔薇だろうが、ラズラリー家だろうが向かって来るなら闘うと決めた。


幸いにもここは魂と器を成長させるには最適な場所。多種多様な魔物が際限無く襲いかかり、それらを倒す為に豊富な武具もある。


魔物と闘う事と並行して、自身の格を上げる試練もその分だけあるのだろう。



この決意した時から連日、ロメオは恵まれ山に本格的に挑み始めたのである。



裏本は薄い本のPK版


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ