第26話 その看護師。応援につき
「はくしょん!」
「エムくん? 風邪?」
キラーン☆
初日の眩しいシホヒメが俺を心配してくる。
「いや大丈夫だ。ちょっと身震いしただけだよ。もしかして俺の噂をしているやつがいるのかもな」
「ふふっ。たくさんいると思うよ?」
「はあ……そりゃ配信停止喰らった配信者だからな…………」
じーっとシホヒメを睨みつける。
「ご、ごめんなさい……か、体で払うから」
「おう。今日もせっせと魔石を集めて来い」
「は~い!」
「今はもういい! 夜だし、明日にしよう」
「は~い!」
シホヒメは魔石を拾ってくるのを、体で払うと話したりする。
意外にも堅物で言うことを聞かないシホヒメなので、もうツッコむのすら疲れるのでやめた。
「そういえば、エムくん?」
「ん? どうしたんだ? 改まって」
座り直したシホヒメがジト目で俺を見つめる。
「綾瀬さんとはどんな関係なの?」
「ぷふーっ!? あ、綾瀬さん? べ、別にどんな関係でもないが?」
まさかの人の名前がでて驚いてしまった。
うちの妹を看病してくれる綾瀬さんの存在は大きいが、だからといって特別関りがあるわけではない。
「う~ん。でもエムくんを男を見る目で見ていたから」
「は!? そんなはずないだろ! あの人は妹の看護師さんだぞ? そもそも俺との接点なんて何一つないぞ?」
「女の私が言うんだから間違いないよ?」
「…………」
初日のシホヒメから言われると、何故か納得しちゃうんだよな。残念美女だと分かっているのにな。
「仮にそうだとして、シホヒメには関係ないだろ?」
「!?」
シホヒメの表情が一気に曇っていく。
「エムくん!? 私という女がいながら、他の女に手を出すつもり!?」
「紛らわしい言い方をするな! お前は俺のガチャだけが狙いだろうが!」
「えっ!? ち――――――――ち、違うよ!」
何だ今の間は!
「そんなことはどうでもいいから、今度綾瀬さんに会ったらちゃんと謝っとけよ? 今度またああなったら枕出てもやらんぞ?」
「ひい!?」
「枕の効果テキメン過ぎるだろう……」
「エムくん! それだけはどうか! お願い!」
「お、おう。まあ変なことさえしなければ、枕はシホヒメにあげるけどよ」
「えへへ~これからもちゃんと体で払うからね!」
「はいはい。とりあえず、今日の分のガチャを回すぞ~」
「は~い~!」
ガチャと言えば、やはりテンションが上がるな。
今日は極小魔石ではなく小魔石をたくさん手に入れたので、増える魔石ポイントが一ではなくて、十ずつ増えていく。
魔石ポイントが二千を越えたので、二十連を回す。
一回目の十連で、黒が十個落ちて、最後に白が落ちる。
「枕~! 枕~!」
中から現れたのは――――高級卵一パック(八つ入り)だった。
「ま、まだ二回目があるから~!」
お、おう……。
シホヒメの勢いに乗り、景気よく二回目の十連ガチャを回す。
黒、黒、黒、白、黒、黒、黒、黒、黒、黒、白が落ちて来た。
「枕~! 二つ~!」
一個目の白から現れたのは――――高級テキーラだ。
これに高級ワインを入れてお酒は二本目だ。
……まだ十九だからお酒が飲めないんだよな。
「お願いいいいい!」
いくら輝いている初日でも枕を使えない日を経験するとやっぱりこうなるな。
そして、二つ目のガチャカプセルが開いた。
そこから現れたのは、帰還の羽根だった。
シホヒメがその場で崩れたのは言うまでもない。
◆とある部屋◆
「どうして……私の方が先に応援していたのに、なんであんな女に振り回されているの!」
女は悔しそうにテーブルにうずくまった。
点灯しているパソコン用モニターには、『【悲報】配信者エム氏が風営法違反により配信停止』とでかでかと書かれている。
そのスレには面白半分であらぬ疑いをコメントする者から、普段からエムの配信を見て擁護する者、全く関係のないことをコメントする者が現れた。
そんな中、『この配信者って例のブラックスライムを従魔にした配信者だよな?』というコメントには『リン様☆彡』や『リンちゃんまじかわいい』などのコメントやいいねが数字を伸ばしていた。
「私だって応援してきたのに……どうしてあの女とスライムばかり…………」
彼女は灰色になって押せないボタンを何度もクリックする。
「ふ、ふふっ……エムくん……エムくんは私がいないとダメだからね? たくさん応援してあげるからね? うふふふっ」
目の光が消えた彼女はただただ数分間、押せないボタンを何度もクリックする。
数分後。
正気に戻った彼女は満足したように笑みを浮かべて立ち上がる。
「えへへ……これで今日もエムくんは元気になれたよね? 私の応援のおかげだよね? 毎日私がたくさん応援してあげているからね?」
彼女はふらふらと歩いてソファーに座り込んで、満足したように天井を見上げた。
「えへへ……エムくんは私がいないと本当にダメだね…………私が妹ちゃんを守ってあげないとね……」
彼女――――綾瀬里香は大好きなエムのことを想像しながら満足そうに眠りについた。




