第51話 魔法士対抗戦Ⅰ【学園祭編7】
なつみが去った後、悠貴は直ぐに好雄に声を掛ける。好雄は忙しく屋台の店先で動き回っていた。
「好雄! じゃあ俺、行ってくるな!」
「おうっ。てか、悠貴、お前まだいたのか! 時間ギリギリだぞ!」
「分かってる! あと頼むなっ」
好雄が片手を挙げて応えるのを見留めて悠貴は駆け出す。大学のメインストリートは人が多い。合間を縫って進んでいく。
「ハァハァ……。すげぇ人だな……。学園祭に来てくれてんのは嬉しいけど……」
駅へ向かって走る悠貴の足が止まる。明らかに自分に向かってくる人流が増えていた。キャンパスから最寄りの駅までは本来であれば走れば10分かそこら。
しかし、駅から学園祭へ来る人の流れと悠貴は逆走する形になる。このままでは確実に魔法士対抗戦の開始に間に合わない。
一度裏門の方へ回り込む悠貴。裏門の外には大学の中央図書館くらいしかない。予想は当たり裏門の外の通りは普段と様子が変わらなかった。
(ただでさえギリギリだってのに……!)
駆けながら悠貴は電車の時間を調べる。最寄りの地下鉄駅に着き、階段を下りながら息を整えようとするが、ちょうど電車がホームへ入ってくるのが見えた。あれに乗らないと本当に間に合わない。
悠貴が飛び乗った直後にドアが閉まり電車は動き出す。
悠貴は首に巻いていたタオルで汗を拭う。遠回りしてきた道程を一気に駆けてきた。汗が止まらない。
息を整えたい悠貴だったが直ぐに次の駅に着いた。ここで地上の路線に乗り換えなければならない。電車から降りた悠貴は階段を駆け上がっていった。
そうして乗り換えた先の電車で椅子に座った悠貴。
(着いてからまた走らなきゃだけど……、駅に着くまでは……休めるな……)
対抗戦が行われるキャンパスの最寄り駅までは30分近くかかる。ハアハアと息をきらしながら悠貴は何ともなしに窓の外を眺める。快速急行の電車はひたすら郊外を目指す。
外の光景に緑の景色が混ざってきて、ふと悠貴は都市圏のことが過った。
(他の州だったら……、こんな風に簡単には郊外に出れたりはしないのかもな……)
南関東は他州程には以前と変わりがない。
他州のように都市圏内に南関東の全人口を収容することは不可能で、結果として始まりの山が出現する以前の形を維持している。
対して他州の都市圏はそうではない。
都市圏は層に分かれている。元となった都市が第一層。隔壁に囲まれた層に人口が収まらなくなるとそこから第二層、第三層と開発されていった。そうやって人口の増加に合わせて層が増やされ都市圏は拡張されていった。上から見ると円周状になっていて、その形からそれらの隔壁は波紋と呼ばれることもあった。
最後の波紋、巨大な隔壁の外は文字通りの人外の地。
都市圏間はリニア新幹線と高速道路が並走する大幹線で結ばれているが、それ以外に道はない。海路と空路もあるが民間には開放されていなかった。
そんな教科書や授業で見聞きした知識を思い浮かべる悠貴。その悠貴が目に留めた車内のディスプレイに悠貴たちの大学の学園祭の広告が流れる。ちょうど今、自分が向かっている魔法士対抗戦の宣伝がされていた。
その宣伝の最後の辺りに出てきた『内務省、法務省、特務高等警察協賛』の文字。
悠貴はディスプレイから目線を車窓の外の田園風景へ移す。大きな川を越える所だった。
表示された対抗戦の宣伝に国の匂いを感じ取ったせいか、好雄や優依の言葉が過る悠貴。
(好雄とか優依……、せっかく同じ大学の魔法士が出るってのに、何であんな言い方してたんだろうな……)
確かに特務高等警察が関わってくる辺り、穏当とは言えないかもしれない。そもそも魔法士同士が魔法を使って戦うのだから物騒と言えば物騒なのは当然だ。
(でも……、あの2人の言い方はそういうことを言いたいんじゃなくて……)
好雄と優依の2人が正確に何を心配しているのかは良く分からなかったが、自身もまた魔法士となる可能性がある身だけに、今の時点では楽しみだという純粋な感情が勝っている。
(実際見てみれば分かるか……)
目的地の駅にもうすぐ着くというアナウンスが聞こえ、悠貴は立ち上がる。ドアが開いたら直ぐに走り出さないといけない。
駅のホームへ降り立った悠貴が駆け出す。
改札の外へ出て、
「対抗戦の会場は……」
と、口にした悠貴の目に『魔法士対抗戦会場はこちら』と、大きく書かれた看板を持った学生の姿が入ってきた。
しかし、その横にいる数名の学生たちは既に撤収の準備に取りかかっている。
「すみません! 魔法士対抗戦の会場ってこの通りを真っ直ぐいけば良いんですが!?」
悠貴に尋ねられた学生の腕には『魔法士対抗戦実行委員』と印字された腕章がつけられていた。
「あ、はい。そうです。じゃあ……」
学生が言い終わる前に悠貴は会場に向かって駆け出す。
通りの先に競技場らしき建物が見えた。走りながら時計を見る悠貴。予定よりは早く着きそうだがギリギリはギリギリだ。周囲を見てもあまり人はいない。対抗戦の見物客たちはもう競技場の中へ入ってしまっているのかもしれない。
駆ける悠貴の目に建物の入場口が入ってきた。ほっとした悠貴が近づくと入場整理の係だろうか、数人の姿が見えてきた。
学生風ではあるが中には魔法士のローブを羽織っている者もある。更に近付くとその中の一人が前夜祭で自身に声を掛けてきた少女であることに悠貴は気付いた。
「千沙!」
悠貴に呼ばれた千沙は、駆けてくる悠貴の姿を見留め驚いた表情で、
「え、あれ、悠貴君!? どうしたの?」
と、声を上げた。
「ど、どうしたって……、こんなとこまで来たら、魔法士の……対抗戦の……見物に決まってんだろ……」
悠貴が千沙の前で息を切らしながら下を向いてそう答える。
「いや、そうじゃなくて! 来てくれたのは嬉しいんだけど……」
だけど何なのか、と顔を上げて見回した悠貴の目に『魔法士対抗戦関係者入口』の文字が入る。
まだ息が荒い悠貴の目が点になる。
「駅で配ってた案内に関係者用の入り口と一般用の入口は別だって書いてあったよね……」
ため息をつきながら千沙は下を向く。
「マジかよ……」
案内の学生の話を最後まで聞かずに来てしまった。息を整える悠貴。
「一般用の入り口ってのはどこだ? 走ればまだ間に合うよな?」
辺りを見回し、進みだそうとする悠貴の腕を千沙が掴む。
「一般用の入口はここの反対側、もう時間になっちゃうし時間が来たら入口は閉められちゃうの! 間に合わないわよ!」
千沙の言葉に悠貴は固まる。
(せっかくここまで来て……、好雄にもシフト代わってもらったのに……)
そう思って、首に巻いたタオルで汗を拭ってから天を仰ぐ悠貴。それを見た千沙は大きく息を吐く。
「悠貴君……、ちょっとこっちに……」
悠貴の腕を掴む手に力を込めた千沙が悠貴を物陰に連れていく。
「どうしたんだ千沙? 対抗戦見れないんだったら俺、サークルに……」
肩掛け鞄の中をまさぐり何かを取り出して千沙は悠貴に手渡す。
「えっ、千沙……?」
手渡されたのは腕章。その腕章に印字された魔法士対抗戦実行委員の文字。
「これがあれば、そこの関係者用の入り口から入れる……。対抗戦が終わったら同じようにここに来て私に返して。いい? 知ってると思うけど魔法士の対抗戦って特務高等警察の人たちも絡んでるから結構警備には神経質になってるの。バレたらマズいんだからね……」
小声でそう言った千沙は悠貴から一歩離れた。
「千沙……。良いのか? そんな危ないことしちゃって……」
「対抗戦……、見たいんでしょ?」
悠貴が戸惑いながらも頷くのを見た千沙が悠貴から離れていく。
「さあ、皆! もう対抗戦も始まるし休憩に入れる人は休憩に入って! ここに残るのは……」
同じ腕章を着ける学生たちを集める千沙。
千沙の意図に気付いた悠貴は直ぐに腕章を着けて入り口を通り抜ける。何人かの学生が気が付いて近づいてきたが悠貴が腕章を示すと足を止めた。
(すまん、千沙……、恩に着る!)
2階、3階……と駆け上がる悠貴。
所々で腕章を着けた学生たちが悠貴に目をやったが、悠貴の腕章が目に入るとそれぞれの作業に戻った。
階段を駆け上がる悠貴。耳に入ってくる喧騒が次第に大きくなっていく。呼応して駆け上がる悠貴の脚にも力が入る。
駆け上がった先。正面からグラウンドへ抜ける通路があった。一度足を止めた悠貴。ゆっくりと通路を進む。一般人に混じって魔法士のローブを纏った者の姿も目につく。通路の先に見える小さく切り取られた空に悠貴は誘われるように足を進める。
通路を抜ける。
外へ出た悠貴の視界に抜けるような青空が入ってきた。目を空から下へ移す。眼下にはグラウンドが広がっていた。ふと悠貴は腕時計を見る。対抗戦開始の直前だった。
グラウンドでは魔法士が5人ずつ、向かい合って並んでいる。
グラウンドを包む歓声は次第に大きくなっていくが悠貴の耳には届かない。血が沸き立つ。自然と息が荒くなっていく。鼓動の音がやたらと大きい。悠貴は服の上から胸を掴んだ。
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