第143話 クロイキリの行方・後編(桐花杯決勝トーナメント編XIII)
(あれ、俺……)
悠貴は混濁する意識の中、辺りを見回した。
(そうだ……、俺は四回戦で試合を……)
意識がはっきりとしてくる。
三條陽菜乃に突き刺され、斬られ、それでも何とか立ち上がって……。
そこから先の記憶がない。
そして、悠貴は目にした。自分が手にしている光輝く刀を。
(こ、これは……。三條陽菜乃と同じ……)
陽菜乃が自在に操っていた武器への魔装。何故か自分も出来ていた。
(俺……、一体何が……)
何故かは分からない。
それでも、もう自分には出来るのだということだけは分かった。呼吸をするように、まばたきをするように魔装する刀を操ることが、出来る。
悠貴は魔法に覚醒した時と似た感覚に包まれていた。
新しい力に目覚めた……というのとは少し違う。誰かから新しい力を与えられた。そして、戦え、と言われた。そんな気がした。
悠貴は刀を握る手に力を込める。
「これで、戦える……!!」
言って構えた悠貴に陽菜乃は怒りに身を震わせる。
「はッ……。冗談じゃないわ!! そんな、にわか仕込みの魔装の武器なんか……。そ、それにその満身創痍な身体で何が出来るって言うの!?」
低く構えた陽菜乃が地を蹴る。
「ハアァーーーーッ!!」
魔装の剣で斬りかかる陽菜乃。
「そのなまくら刀ごと叩き切ってあげるわ!!」
陽菜乃が剣を振り下ろす。
ガキンッ。
鋼鉄をも切る魔装剣。悠貴の魔装した刀がそれを受け止める。
「なッ……」
陽菜乃が短く鳴いた。
悠貴は陽菜乃を押し返す。
「ウオーーーーッ!!」
体勢を崩した陽菜乃に今度は悠貴が斬りかかる。
「こ、このッ!!」
と、悠貴の反撃に虚を衝かれ、慌てて盾を張る陽菜乃。
その盾を悠貴の刀が砕く。
刀はそのまま陽菜乃に届く。陽菜乃が咄嗟に魔装を防御に特化する。
魔装のお陰で斬られはしなかった。しかし悠貴の刀が陽菜乃が身体に深くめり込む。
「ぐッ、ガっ……はッ……」
陽菜乃が吹き飛ばされる。着地して何とか踏みとどまる。
「な、なんで……。この威力……」
青ざめる陽菜乃。
正真正銘の魔装剣。剣を直接交えたからこそ分かる。魔力の出力は自分よりも明らかに上だ。
(負ける……。私が、こんな奴に……)
ここで負ければ自分は終わりだ。有紗は容赦なく自分を捨てて、この男と組もうとするだろう。
もしそうなれば、自分の願いも、計画も……、その全てが終わってしまう。
立ち上がる陽菜乃。
「そんなこと……、認められない!!」
魔装剣を構えて突進する陽菜乃。陽菜乃の剣を受け止めた悠貴は魔装を速度に特化し、陽菜乃の背後に回り込む。
「えッ……」
陽菜乃はそのスピードについていけない。悠貴を見失う。
無防備な陽菜乃の背に悠貴は刀の峰を振り下ろす。
「くらえぇーーッ!!!」
悠貴の一撃が陽菜乃に炸裂した。
その衝撃に陽菜乃は声のない悲鳴を上げ、剣を落とす。
倒れて呻く陽菜乃。
悠貴を睨み、剣を支えに立ち上がる。
「ま、負けない……、私は、負けられない……。ア、アァァァァァッ!!」
叫んで再び悠貴に斬りかかる陽菜乃。
魔装剣を振り回し攻撃の手を緩めない。ひたすら悠貴に斬りかかる。
しかし、悠貴から受けたダメージは大きく、陽菜乃から攻撃をしかけたものの、次第に悠貴が有利な展開になっていく。
悠貴は刀を握り直す。
陽菜乃の動きは鈍ってきている。今なら致命傷は与えずに動きを止めることが出来ると確信した。
陽菜乃の右に隙を見つける。
悠貴の刀が陽菜乃の右腕を斬る。
「グ、ァッ……!」
落としかけた剣を両手で辛うじて握り直す陽菜乃。
悠貴はたたみかける。
「これで……、終わりだッ!!」
陽菜乃の剣をなぎはらい、無防備になった陽菜乃に悠貴の刀が迫る。かわせるタイミングは過ぎていた。
勝利を確信する悠貴。
しかし。
「くッ……。あ……」
突然悠貴の視界が揺れて、霞む。
手と足に力が入らなくなる。
(し、しまった! 血を……、流し過ぎ……た、か……)
気付けば魔力も尽きかけている。
それでも、倒れそうになる自分を必死に踏みとどまらせ、悠貴は力を振り絞る。
この切先が届けば勝負は決まる。
(届けぇッーー!!)
しかし、悠貴の動きに起こった変化を陽菜乃は見逃さなかった。
陽菜乃が手を翳す。
「幻惑の魔手!!」
突然、悠貴が動きを止める。
守りを捨てて刀に全力で魔力を供給していた。
陽菜乃の魔法を阻むものはなく、悠貴はその餌食になる。
油断もあった。陽菜乃自身が幻惑魔法は使わないと宣言していたし、実際そのあとの戦いも刀と剣を交えてのものだった。
魔法による攻撃のことを忘れてしまっていた。
「ぐッ……、う、動けない……」
動こう、駆けよう、攻撃しよう……、思った先からそれらの意識が吸いとられていくようだった。
幻惑魔法にかかり動けなくなった悠貴。
陽菜乃はヨロヨロと立ち上がる。
「ア、ハハ……。ハハハァハッ……」
幻惑の魔手に捕まった羽田悠貴はこれで完全に動けない。
陽菜乃は笑った。
「ごめんなさいね、悠貴君……。最後の最後で約束を破ってしまって。でも……、私はこんな所で終わるわけにはいかないの……。そういう運命なの」
立ち上がり、服に付いた砂埃を払う陽菜乃。
動かなくなった右腕に代わって、 左で剣を持ち上げる。
「よくも……、よくもやってくれたわね……。お前ごときが……、この私に何をしたッ!!?」
陽菜乃が悠貴に向かって剣を振り回す。
力任せに悠貴を斬る。
「ガっ、ぐ……、あ゛あ゛ーーッ!!」
悠貴が上げた悲鳴に陽菜乃は狂喜する。
「どう!? 痛い!? 怖い!? 悲しい!? 悔しい!? 憎い!? 許せない!? ねえ、どう!? どうなの!?」
陽菜乃が言葉を発する度に悠貴の身体に傷が増えていく。
大きく剣を振りかぶった陽菜乃が冷たく、ポツリと言った。
「貴方の、負けよ」
無防備な悠貴の身体に一太刀、振り下ろされる。
悠貴を捕らえていた幻惑の魔手がスッと消え、悠貴は崩れ落ちる。
「ク……、くそぉ……ッ」
倒れる悠貴。
意識が失われる直前。
アリーナのスクリーンに写し出される桐花杯のトロフィーが目に入る。
トロフィーの中央には黒い桐が描かれていた。
ドサッ。
今後こそ動かなくなった悠貴を虚ろな瞳で見つめる陽菜乃。
無闇に剣を振り回していた陽菜乃の息は荒い。汗がこぼれ落ちる。
「ハアハア……」
危なかった。
こうやって勝てたのは覚醒する前にダメージを与えていたおかげだ。
どう考えても互角の戦いをされた。いや、魔装剣の威力の差を考えれば、あのまま戦っていたら負けていたかもしれない。
しかし問題はそこではない。
この男は精霊に愛されている。選ばれた者の中の選ばれた者である可能性だってある。
それこそが陽菜乃を戦慄させる。
唇を噛む陽菜乃。
「まさか、有紗は知って……」
事実かどうかは分からない。
(下手に話せば墓穴を掘りかねない……。それに羽田悠貴の力が本物なら……。まして有紗に力を貸すことになったら……)
陽菜乃の背中を冷たい汗が伝う。
自分は不要になる。
それだけは、どうしても避けなければ……。
(この男の存在は、危険過ぎる……)
陽菜乃が冷たく悠貴を見る。
「私は、終われない……。目的を果たすまでは、絶対に、そう、絶対に終われない」
俯いて呟く陽菜乃。
バッと顔を上げる。
「有紗には……、悪いけど……」
陽菜乃は剣を握り、悠貴に一歩、また一歩と近づいていく。
(やはりコイツは生かしておけない……、ここで確実に消しておかなければ……!!)
魔力は底を尽きかけている。それでも陽菜乃は残り僅かな魔力を振り絞って剣に魔装を施す。
「死ねぇーーーーッ!!」
剣を上段に構えて悠貴を目掛けて剣を振り下ろそうとする。
その瞬間。
辺りを黒い霧が包む。
突然の出来事にアリーナからどよめきが伝わってきたが、すぐに闇が周囲を覆い無音の世界になった。
「なッ……」
陽菜乃は愕然とする。
それでも、黒い霧の正体も誰がこの霧を呼び寄せたかもすぐに分かった。
(間に合って……!!)
闇の中で横たわる悠貴に必死に剣を振り下ろす陽菜乃。
陽菜乃の剣が音もなく動きを止める。
悠貴を両断するはずだった魔装剣。
黒い輝きを仄かに発する鉄扇が陽菜乃の剣を受け止めていた。
剣と同様に動きを止めた陽菜乃が、静かに口を開く。
「どうして……、止めるの?」
片手で持つ鉄扇で陽菜乃の剣を事も無げに止めた嵯峨有紗は無表情だった。
「私は桐花杯の監督官。私は自身の判断で試合を止める権利を有している」
淡々と答える有紗。
「そういうことじゃない。そんな形式的な理由を聞きたいんじゃない……」
陽菜乃の言葉に有紗は小さく息をつく。
「そういう約束よ? 貴女はやり過ぎた。そこまでにしてもらうわ」
有紗の言葉に陽菜乃は震える。
「何故……、有紗はそこまで彼の、羽田悠貴の肩を持つの?」
「前にも言ったでしょ? 私の計画には彼が必要なの。正確には彼の力が、だけど」
鉄扇で陽菜乃の剣を静かに退ける有紗。
陽菜乃が声を上げる。
「どうして!? 私がいれば、私のこの力があれば十分じゃない!! 現に私はこうして羽田悠貴に勝った! 私の方が強いのよ!! 貴女の計画には私がいればそれで良いじゃない!?」
息を荒くして陽菜乃は有紗に迫る。その視線を有紗は冷たく受け止めたが何も言わなかった。
陽菜乃が有紗の前に立つ。
「どいて……有紗」
「無理な相談ね……。下がりなさい、陽菜乃」
ふたりは視線をぶつからせる。
陽菜乃は一歩退いて剣を構え、ねぇ、と言って続ける。
「あなたが唱えた闇の魔法のお陰でアリーナはご覧の有り様。観客は誰ひとり何も見ることが出来ない、何も知ることが出来ない……」
言って辺りを見回した陽菜乃。
「私たち、本気で戦ったことってそう言えば無かったわよね? 良い機会よ。桐花杯のデモンストレーションなんてどう? 羽田悠貴の命を賭けて……」
言って陽菜乃は闇の中で横たわる悠貴を一瞥して有紗を見る。
その視線に答える有紗。
「それはいいわね……。凄く魅力的な提案だと思うわ。でも……」
そこまで言って有紗は剣を構える陽菜乃に口角を僅かに上げて見せた。
「悪いのだけど、この勝負……、始まる前から終わってるわよ?」
「え……」
陽菜乃は上げ始めた叫び声だけ残し、突如足下に現れた闇に落ちていった。
陽菜乃を飲み込んだ闇の穴が閉じる。
「そこで少し大人しくしていて。頭を冷やす時間が陽菜乃には必要だろうから」
言って有紗は幕を開けるように両手をスッと広げる。その動作に合わせるように周囲を包んでいた黒い霧は四方に散っていく。
薄くなった霧が漂う中、少しずつ周囲にどよめきが戻ってきた。
有紗はそれを気にすることなく横たわる悠貴に近づき、そして治癒魔法をかける。
陽菜乃につけられた傷が癒えていく。
「貴方は……、未だ死ねない。私のために……、まだ死ねない」
しゃがんで悠貴の耳元でそう囁いた有紗が立ち上がる。
審判員が駆け寄ってくる。状況を把握できない審判員の魔法士は上ずった声を出した。
「あの、これは一体……」
「この試合は没収試合とします」
「しかし……」
「私の判断に、何か?」
「い、いえ……」
審判はそれ以上何も言わなかった。
有紗は歩き出す。
振り向いた有紗は、
「じゃあまたね、悠貴君」
とだけ言ってアリーナを後にする。
有紗の姿がアリーナから見えなくなった時には、漂っていた黒い霧も消え、ただどよめきだけが残っていた。
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悠貴と陽菜乃が桐花杯の四回戦を戦った、その数時間後。
陽が落ちた湾岸エリアだったが周囲は夜一辺倒というわけでもなかった。
湾岸エリアに林立する高層ビル群が発する明かりが夜を削っている。
そんな高層ビル群のひとつのビルの屋上に人影が現れた。小さな人影がタタタッと目を輝かせながら屋上を駆ける。
「すごぉーい! こんなきれいなの見たことない!!」
声の主は少女だった。
少女は自分の身長と同じくらいの手摺まで進んで目に入ってくる夜景にきゃっきゃと跳ねる。
その後ろからかかる声があった。
「あ、危ないですよ、フユミちゃん!」
「大丈夫だよっ、アキナお姉ちゃん! もし落ちてもナツハお姉ちゃんが魔法で拾い上げてくれるもんっ」
少女はそう言って手摺から離れようとしなかった。
「ほら、手摺から離れてください!!」
「やだ! ふぅちゃんここ住みたい! もうあんな暗い山ばっかの所なんて戻りたくない!」
「な、なんて罰当たりな……。そんなこと言うものじゃないですよ! ババ様に叱られますよ!」
「うッ……。ア、アキナお姉ちゃんズルい! いっつもそうやってババ様が、ババ様が……って!!」
駄々をこねて手摺に掴まり続ける少女。
その彼女を後ろから引き剥がそうとする少女のセミロングの髪が風に靡く。
ふたりの後ろから更にかかる声があった。暗がりから現れた少女の髪は短い。
「お前たちさぁ、自分たちが侵入者だってこと忘れてるんじゃないのか? そんな騒いでたら直ぐに敵に見つかっちゃうって」
その言葉にふたりは動きを止める。セミロングの髪の方の少女がしゅんとする。
「わ、分かってますよ……、ナツハ。私はただ……」
「ただ『早く見つかって敵と戦いたいだけなんですぅ』ってか! いやぁ、その気持ち分かるよー、うん! アタシだってさ、ハル姉がいなかったら勿論そうしてるんだけどさ!」
「ち、違います違います! それに戦闘になったら私が足手まといに……。うぅ、だから私は別ルートで忍び込むって言ったのに……」
「そんな今更だろ、ここまで来ておいて……。なぁ、ハル姉?」
巨大なビルの屋上。
誰もいないはずの暗がりの先に向かってショートヘアの少女は続ける。
「ひとりで先行して、かくれんぼしてるつもりかもだけどさぁ、無駄だって……。風に乗って漂ってくる血の匂いは誤魔化せないよ?」
ショートヘアの少女の言葉に「そう?」と言いながらもうひとり、少女が両手でそれぞれ何かを引き摺りながら現れた。
屋上に揃った四人の少女の中では一番大人びている。長い髪が風に靡いて鬱陶しそうに頭を振った。
「上手く隠れられていたと思ったんだけどね。昔から本当にナツハにはかくれんぼでは勝てないわね」
懐かしそうに笑った少女。
その少女が左手で何かを放り投げた。
パリンいう音の次にグシャと音がした。
「ひッ……」
セミロングの少女がそれを見て短く悲鳴を上げる。人の死体だった。氷の刺が無数に刺さっている。
手摺に掴まっていた少女が抗議の声を上げる。見た目と声が四人の中でダントツに幼かった。
「あ、ズルいー! ハルカお姉ちゃん! また抜け駆け!! みいちゃんだってぶっ殺したかったのにぃ……」
「ごめんなさい、フユミ。でもね、私からは何もしてないのよ? ただこの人たちが攻撃をしてきただけで……」
言った少女の視線の先。数人の死体が転がっていた。焼け焦げたものもあれば、ずぶ濡れのものもあった。
それを見たショートヘアの少女は苦笑いする。
「相変わらずハル姉の反射はえげつないなぁ……。ホント反則だよ。魔法の攻撃をそのまんま跳ね返すだなんてさ」
「そう? それを言ったらナツハの方が戦闘では……。まあいいわ。あ、そうそう。はい、これ」
少女はそう言ってもう片方の手で掴んでいたものを残る三人に放り投げた。
ドサッと音がした。
音の主が「がはッ」と声を出す。
「あぁ! コイツまだ生きてるー!!」
駆け寄った幼い少女がそう言って突っついた男は特務高等警察の制服を着ていた。
横になって踞る男の右腕は肘から先が無かった。脂汗をかく男が苦しげな声を出す。
「ば、馬鹿な……。我々……がこんな……。対魔特殊親衛隊が一瞬で……」
言って男は片手で上半身を起こす。生き残っている仲間は……という願いは直ぐに打ち砕かれた。
同じ部隊を編成していた他の四人の魔法士はどう見てもただの骸だった。
「あ、ああ……」
目の前の光景に愕然とする男。
「ねえねえ!! ふぅちゃん、コイツ殺ってもいい!?」
幼い少女が嬉々として跳ねる。
「ダメよ、フユミ。この人からはこの都市圏のことを聞き出さないと。まだ聖主様の所在だって掴めていないのだし」
「えぇ……」
「うーん。あ、じゃあこうしましょう。必要なことを聞き出して、もうこれ以上は何も聞き出せなさそうだってなったらフユミの好きにして良いわよ」
「いいのハルカお姉ちゃん!? やたー!!」
ピョンピョンと跳び跳ねる少女。
ショートヘアの少女が、はぁ、と大きくため息をつく。
「ったくさぁ、ハル姉はフユミにいつも甘いんだから……。ん?」
突然、男が立ち上がり吼える。
「ナメるなよ! ガキども!! 俺は序列九十二位の高位魔法士だぞ! ゆ、油断さえしなければお前らなどに……」
手を翳して魔法で攻撃しようとする男にショートヘアの少女が呆れた顔をする。
「あー。悪いんだけどさ、おっさん。ここでアンタに死なれるとちぃとばかし面倒なことになるんだよ。いちからまた話聞けそうな奴探さなきゃいけなくなるんだ。だからさ、ここはおとなしく……」
「黙れ!! 切り刻んでやる! 死ねッ!!! 先鋭なる風!!」
左手を翳して魔法を唱えた男。
かわせる距離じゃない。
勝った。
そう確信した男の首が、落ちる。
ゴロリと転がる頭部。
頭部を失って血を吹き出した身体もドサリと倒れた。
ショートヘアの少女が天を仰いで目を覆った。
「あちゃー。ハル姉どうするんだよ、これ……。あーあ。またどっかで拉致らなきゃいけないじゃんかよぉ」
「あら、私はあなたたちを守ってあげただけなのに、何よ、その言い種は。それに、この制服を着ている連中のこと、どうせ生かしておくつもりなんて誰も無いんでしょう?」
目を向けられた三人の少女は屋上に転がる死体に冷たい視線を送る。それが答えだった。
大人びたロングヘアの少女が手摺まで進む。ショートヘアの少女、セミロングの少女、幼い少女が続き四人で並ぶ。
四人それぞれ順に口を開く。
「凄く綺麗で……、そして、何て罪深い景色なのかしら」
「街の連中、楽しそうだなぁ。友達とか、家族とか、恋人とか……。なんていうか、うん、微笑ましい光景って言うんだろうなぁ。……まあ、アタシはこんな連中、許す気なんてないけどな」
「ある意味ではここにいる人たちも被害者なのかもしれませんね……。何も知らずに、この街と運命を共にするんですから」
「ふぅちゃんも頑張る。ここ、きれいだけど、ここのせいで山の人たちいっぱい死んじゃうんだもん。そんなのはもう、イヤ。……だからバイバイ」
四人は口を紡ぐ。
屋上を海からの風が吹き抜けていく。
大人びた少女が髪をかきあげる。
「さあ、仮初めの平和と繁栄を享受している罪人たちに鉄槌を。私たちの……『神々の声』を聞かせてあげましょう」
第四章クロイキリの行方・完
to be continued
今話もお読み頂き、そして第四章までお付き合い頂き本当にありがとうございます!
無事、第四章まで駆け抜けることができました。
更新頻度は落としましたが何とか第四章を終わらせることができました。
本作の今後についてはTwitterや活動報告などでお知らせをしたいと思っています。
これからもどうぞ宜しくお願い致します!
改めまして、本当にありがとうございます!




