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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第四章 クロイキリの行方
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第123話 桐花杯特訓合宿Ⅶ

「いやぁ、それにしても最初はどうなることかと思ったけど、案外どうにかなるもんだなっ。悠貴、眞衣……、どっちもちゃんと武器を使いこなしてるじゃないか!」


 横に立つ優依にそう言って同意を求めながら好雄は悠貴と眞衣の戦闘訓練を眺める。


「ちょうどここに来てた好雄君の知り合いの魔法士の人に刀の使い方を習ってから悠貴君ホントどんどん上達してるよね……」


 言った優依も好雄の視線の先を見る。


「それな……。俺たちもうかうかしてると抜かされるぞ。俊輔ー、お前も寝転がってる場合じゃないぞ!」


 好雄は振り向かずに背後で倒れている俊輔にそう呼び掛けた。


「よ、よっしぃさん……」


 起き上がろうとする俊輔だったが身体に力が入らず、やはりそのまま倒れる。


「し、俊輔君……、大丈夫……? ごめんね、ちょっとやり過ぎちゃったかな……?」


 優依が倒れる俊輔の側にしゃがみ声を掛ける。


「う、うるせぇ……。情けのつもりなら、そんなんいらねぇぞ……」


「そ、そんなつもりじゃないけど……。それにね、俊輔君も悪いんだからね!」


 特訓合宿の最終日。

 今日まで優依相手に一度も勝てなかった俊輔。近接、近距離戦闘が得意な俊輔に対して距離をとって戦う優依。経験の差は大きく、何度挑んでも俊輔は優依の夢属性の幻惑系魔法に掛かって倒されていた。



「なんだよ……、そんなに俺が『このまま悠貴がレベル上げていったら優依なんて見向きもされなくなるな』って言ったのにカチンときたのかよ? お前ホント大人しくてオドオドしてんのに悠貴のことになると熱くなるよな…… 」


「は、はぁー!? ち、違う違う! 違うから! もう黙って! 俊輔君、元気そうだからもう休憩お仕舞い! ほら、立って!!」


 優依は起き上がれない俊輔に鉄球の鎖を器用に操って無理矢理立ち上がらせる。


「ち、ちょっと待て! 俺まだ足元がおぼつ……」



 (わめ)く俊輔を連れていく優依。2人のやりとりにため息をついた好雄が悠貴と眞衣の対戦に目を戻す。


(悠貴……。お前、すげえよ、ホント……。強くなる……)





 悠貴の(シールド)が甲高い音を立てて弾丸を弾く。


 狙撃が止んだところで距離をつめようとした悠貴だったが、そこを眞衣の風魔法の衝撃波が襲う。


「おわッ!」


 それを咄嗟(とっさ)に避ける悠貴。むしろ急に距離をつめてきた眞衣に防戦一方になる。


「ほらほらぁ、悠貴さんっ、どうしたんですかぁ? 守ってばっかりじゃ勝てませんよ! 優依さん直伝の魔法と武器の波状攻撃……。ああ、ついに今日こそ私、悠貴さんに……! 」



 悦に入る眞衣。しかし攻撃の手は緩めない。一度距離をとった悠貴に再び狙撃と魔法攻撃を連続で仕掛けていく。



(クソッ。眞衣のやつ、ホント正確に攻撃してくるな……。でも……)


 一撃一撃の重さは大したことない。魔装していればかわせない速度でもなかった。それは眞衣も自分でも分かっているようで、両手を(かざ)して魔力を貯め、その特大魔法で決めにかかる。



「これで終わりです!」



 言って放った眞衣の魔法を敢えて直前でかわす悠貴。かわせるタイミングじゃない、決まった。そう思っていた眞衣は動揺する。


 悠貴はその眞衣の動揺を見逃さなかった。魔装に一気に魔力を込めて速度を上げて眞衣に迫り、至近距離で風魔法を放つ。



 吹き飛ばされる眞衣。電磁バリアに勢い良くぶつかり、ドサッと地面に落ちた。



「いっったぁーい!!」


 悲鳴を上げる眞衣。俊輔を鎖ごと放り投げて駆け寄った優依が直ぐに治癒魔法をかける。



「ま、眞衣ちゃん……、大丈夫……?」


「うぅ、優依さん……、ありがとうございます。悠貴さん、酷いです……」


 身体を(さす)りながら涙目で恨めしそうに悠貴を見上げる眞衣。



「一応手加減したし、お前だって魔装してたんだからあれぐらいなら大丈夫だろ。それにな……、お前が『本気でやりましょう! 勝ったら私の言うこと何でも聞いてくださいね!?』とか言っていきなり仕掛けてきたんだろう!?」


「うっ……。そ、それはぁ……」


 悠貴に指摘されて人差し指同士をツンツンと合わせる眞衣。最終日の対戦形式訓練の組み合わせを決めるときに半ば強引に悠貴に挑戦を受けさせた眞衣だったが戦闘開始序盤の勢いは続かなかった。



 パチパチと手を叩きながら好雄が二人に近付いてくる。


「悠貴、眞衣お疲れ! 二人ともすげぇな。眞衣。お前ホント銃の扱い上手くなったなっ。あの特高のおっさんに感謝しないとな」


「よっしーさん。感謝するなら優依さんに、です。優依さんが魔法で銃の扱い詳しそうな特高のおじさんを操ってくれたお陰なんですから」



 言った眞衣が優依にペコリと頭を下げる。

 あいにく好雄も優依も銃の扱いには慣れていなかった。多少のリスクはあったが優依の魔法で特務高等警察の隊員の一人を魔法で籠絡(ろうらく)してその男から眞衣はレクチャーを受けた。



「とにかくだ、眞衣は銃と魔法を使った中距離、遠距離の戦闘ならかなりいい線をいってる。戦ってみたお前だってそう思うだろ? 悠貴」


「ああ。タイミングといい場所といい……、凄く嫌なところ狙って打ってくるんだよな……。タイプとしては優依と似てるけど、眞衣の方が狙撃が正確な分やっかいだな」


 そう誉めてきた二人に、へへっ、と気分を良くする眞衣。


「ま、まあ私もともと両目とも2.0で視力は良い方なんでっ……」


「こりゃ鍛えて長距離からの射撃の腕も上げれば凄腕のスナイパーにもなれるかもしれないな。重宝されるぞぉ。特高からの厚待遇でのスカウトも間違いなし!」


 好雄の言葉に「はは……、それはちょっと……」と乾いた笑いで返す眞衣。その横に立った俊輔が、それにしても、と口を開く。


「それぞれ戦い方ってか、タイプが固まってきたな。眞衣は小銃と魔法で相手を牽制しつつ戦うタイプ。俺はどっちかっていうと魔装を強化して近距離でドンパチやる近接戦闘タイプ」


 対戦形式の訓練を繰り返すうちに少しずつそれぞれの特性が浮かび上がってきた。好雄や俊輔からのアドバイスも取り入れ、眞衣や俊輔は自分のスタイルを打ち立てていった。



 うーん、と唸った悠貴に優依が尋ねる。


「どうしたの? 悠貴君」


「いや……。確かに俊輔と眞衣は戦い方が固まってきたし、好雄や優依だってそれぞれ自分なりのスタイルがあって……。そこいくと俺ってどんなタイプなんだろうなって……」


 言って、はは、と笑った悠貴に周囲は大きく溜め息をつく。



「お前さ……。それ、すごーく嫌味なこと言ってるって自覚あるか?」


 言って肩をガシッと掴んできた好雄に目を向ける悠貴。


「どういう意味だよ?」


 そう返してきた悠貴に改めて大きく溜め息をついて天を見上げる好雄。



「ゆ、悠貴さんはズルいんですよ! 何でそんなに強いんですか!? これじゃあ私が悠貴さんに勝って言うこと聞いて貰えるのはいつのこと……って感じですよ!」


 地団駄を踏む眞衣。


「強い? 俺が? 何言ってるんだよ……」


 悠貴は眞衣が何を言っているのか分からなかったから。確かにさっきの訓練では眞衣には勝ったし、昨日は好雄、一昨日には俊輔と優依にも勝って……。


「あ、あれ……」


 今になって気づいた悠貴。合宿当初こそ武器の扱い、魔法とのコンビネーションに慣れずに苦戦していたが、好雄の知り合いの魔法士に日本刀を併用しての戦闘の指南を受けてからは誰にも負けていなかった。



「新人研修でのことを聞いてはいたから、お前の風の魔力……相当なもんだとは思ってたけどさ、まさかここまでとはな……」


 感心する好雄に優依が続く。


「私とか眞衣ちゃんみたいな武器とか魔法で威嚇しながら距離をあけて戦うタイプ、俊輔君みたいな至近距離で戦うタイプ、好雄君みたいな状況に応じて戦術を変えるタイプ……、どんなタイプともオールマイティーに戦えちゃうんだもん。凄いよ、悠貴君……」


「いや、そんなことないよ、ホント……。それに……」


 悠貴は新人研修でのことを思い出す。確かに少しずつ戦うことに慣れてはきている。それでも手塚教官や新島なつみは遥か彼方の存在だった。




「いやぁ、優依さん、ホント私助かりましたっ。お陰でコレの使い方も少しは分かってきましたし!」


 ガチャッと手にしていた小銃を持ち直す眞衣。


「眞衣ちゃん、そんな……」


「あのおじさん、懇切丁寧にド素人の私に教えてくれたんですけど魔法にかかるまではホント嫌な感じでしたよね。それがあれだけ激しくキャラ変……。ええと、全然想像つかないんですけど、夢属性の魔法で人を操るってどんな感じなんですか?」


 うーん、と考え込む優依。


「そうだなぁ……、たぶん幻とか他の幻惑系の属性の魔法も同じだと思うんだけど……、魔法をかける相手をね、包んでいくの」


『包む?』


 優依以外の五人の声が重なる。

 頷いた優依が続ける。


「何だか分かりにくいよね……。でも、そう……、包むって言い方がしっくりくるかなぁ。夢か幻かの違いはあっても、要は相手の心、精神を魔法で取り囲んでいくの。それで出来上がったものを本当に自分が考えていることって思い込ませるの」


「聞いてるだけでゾッとします……。う、打ち破る手段は無いんですか?」


 聞いてきた眞衣に、そうだなぁ、と優依は考え込む。


「本心を取り囲んでいるのはあくまで魔法で作った偽物だから……、本人に本心を気づかせる、取り戻させる……、って感じかなぁ」


 悠貴は優依の言いたいことが何となく分かったような気がした。眞衣に銃の使い方を教えてくれた特高の隊員は幻覚に囚われて朦朧(もうろう)としているという感じではなかった。言動ははっきりしていたし、普段から懇意にしている仲間のように眞衣に接していた。




「何か、どっちかって言うと催眠状態みたいな感じだったな……」


「それはそうかも……。まあ私は魔法をかけている側だから、皆とは見え方が違うかもだけど……」


「そうなのか?」


「うん。幻覚系の魔法をかけると、その夢とか幻を術者も共有するの。だから私から見えていた光景は凄く自然な感じだったよ。あの特高の人がああやって眞衣ちゃんに接するのも特に違和感はなかっなぁ」





 休憩がてら魔法の話に花を咲かせていた悠貴たち。あとは午後も短いとはいえ対戦形式の訓練をして合宿中に会得したことの確認をする予定だ。


「よしっ、そろそろ練習はじめっか!」


 と、好雄が立ち上がった時だった。





「羽田悠貴!」


 名前を呼ばれた悠貴を含めた六人が声がした方を向く。黒い制服に包まれた女が近づいてくる。



 近付くにつれて見えてくる顔に見覚えはある悠貴だったが正確には思い出せない。


(あの人確か……、研修中に……)



 そこまで悠貴が思ったところで横の好雄が「げっ……」と声を漏らした。


「た、武井補佐官……。手塚教官の副官……。何でこんな所に……。俺、あの人苦手なんだよ……。あ、ゆ、優依! もしかして、優依があのおっさんに魔法かけて操ってたのがバレて……」


「そ、それはないよ、好雄君……。幻惑系の魔法は証拠が残らないからってのもあってむしろ特高の人たちから重宝されてるんだから……。でもだとしたらホント何でこんな所に……」


 言った優依が後ずさって悠貴の後ろに隠れる。


「お、おい……」


「あはは……。好雄君じゃないけど、わ、私もちょっとあの人苦手で……」


「ええー、綺麗そうな人じゃん! 何か大人の女って感じの人で……」


「バカ莉々! お前知らないからそんなこと言えるんだよ! 血も涙も無いような女で……。俺、今まで何度アイツに……」



 好雄の口から武井という名前を聞いて悠貴は思い出した。研修中、殆どずっと手塚の側にいた。


 部下を1人伴ってツカツカと進みやってくる武井。気付けば悠貴の目の前まで来ていた。


「あの……」


 遠慮がちに口を開いた悠貴に武井の射抜くような冷たい視線が刺さる。何も話さない武井。


 逃げ出したくなる悠貴。



(た、確かにこうやって近くで見ると莉々が言ってた通り綺麗な……って何考えてるんだ俺! そうだ……、好雄と優依なら前からの知り合いみたいだし……)


 助け船を求めて見回すと好雄も優依もだいぶ後ろまで下がっていた。訳も分からないといった様子の俊輔、眞衣、莉々だけが取り残されていた。



 武井はその場を離れて我関せずとしている好雄や優依を一瞥(いちべつ)して改めて悠貴を見た。


「新人研修以来だな。個人練習とは結構なことだ……。お前たち、ここでの予定は今日で最後だな?」


「え……、あ、はい」


 頷く悠貴を見た武井が後ろに控えていた部下の方を振り向く。男は敬礼をして走り去っていった。



 悠貴に向き直った武井が口を開く。


「さて、羽田悠貴、他四名。悪いが少し付き合って貰うぞ。拒否権はない。手塚参謀からのご命令だ」

私用で二週間空いてしまいましたが今話もお読み頂きましてありがとうございます!


次回の更新は9月27日(月)の夜を予定しています。



宜しくお願い致します!

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