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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第四章 クロイキリの行方
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第121話 桐花杯特訓合宿Ⅴ

「うぉっ!!」



 悠貴は今さっきまで自分が立っていた場所を(えぐ)った鉄球を見て声を上げる。


 放った鉄球を一度引き寄せて、距離をとろうとする悠貴を追う優依。


「ゆ、悠貴君……、逃げてばかりだとダメだよ……。反撃の糸口を見つけないと……だよ?」



 言われなくても分かってる。思った悠貴だったが優依の攻撃を避けるだけで精一杯だった。


 優依が投げてくる鉄球は正確に自分を捉えてくる。鉄球は(シールド)で弾けるし、魔装だってしているのだから当たってもそれほど痛くはない。それでもやはり自分目掛けて(いか)つい鉄球が飛んでくれば反射的に避けたくなるし、それに……。



(鉄球を防ごうとに(シールド)に魔力を回すと魔装が薄くなってと優依の夢の魔法をモロに喰らう……。避けるしかないだろうが!)



 優依は悠貴を鉄球で狙いながら、鉄球を避けた悠貴が移動する先を予測して、そこに夢の属性の魔法を射掛ける。


 辛うじてそれも魔装で防ぐ悠貴だったが何回か魔法にかかりかけた。


 去年の学年合宿。森の中でかけられたのと同じように現実と夢の境目が分からなくなる。意識が飛んで別の世界に行きそうになる自分を必死に現実世界に繋ぎ止める。



 悠貴は笑った。



「……ったくよ、普段はアワアワしかしていないうきゅんがこんなに手強いなんてな……。見直したぞ!」


 それまでどこか優依に攻撃することを躊躇(ちゅうちょ)していた悠貴だったがその余裕がなくなった。


 威嚇の意味も込めて優依に向けて風の魔法を放つ。悠貴の言葉に少しムッとした優依が(シールド)でそれを防いだ。


「そ、それ、どういう意味!? 私だって魔法士としては悠貴君よりも、れ、れっきとした先輩なんだからね!」



 魔装する優依の顔付きが変わる。

 魔力で強化された優依の身体。器用に鎖を操って鉄球を悠貴目掛けて投げつけた。


 同じく魔装する悠貴がその鉄球を(シールド)で弾き返す。


「優依! すげぇ攻撃だけど単調す……」


 鉄球を弾かれた優依だったが、悠貴が鉄球を弾いている間に距離を詰めていた。弾かれた鉄球の軌道を鎖をしならせて立て直し、同時に魔法攻撃を仕掛ける。



 優依の鉄球が正面から、そして魔法が四方から悠貴を襲う。ヤバい、と思った悠貴。背中を嫌な汗が伝っていった。







「だー! 疲れた!!」



 風呂から上がってきた俊輔がベッドに倒れ込む。昼過ぎからずっと戦う相手を組み替えながら暗くなるまで一対一の対戦を続けた悠貴たち。身体も魔力も限界だった。



「イテテ……」


 俊輔と同じようにベッドに倒れた悠貴が(うめ)く。


「何だよ、傷治して貰わなかったのかよ?」


 俊輔の言葉に悠貴は顔を上げず枕に突っ伏す。


 正直優依には楽勝で勝てると思っていた。実際攻撃力だけ考えれば自分が勝っていると今でも思う。


 しかし、経験の差が埋まらない。鉄球と夢属性の魔法の波状攻撃をかわすばかりのジリ貧の戦いだった。ついに夢属性の魔法にかかり、無意識に操られて魔装を解かされた。

 なんとか自身の魔力で優依の魔法を中和して幻惑から解放されたところまでは良かったが、意識が戻った直後、鉄球を喰らった。



 (うずくま)る悠貴に『だ、大丈夫……? 今、治癒魔法を……』と言ってきた優依。


 悠貴はプライドがそれを許さず断った。とは言えダメージをそのままにもしておけなかったので眞衣に治癒魔法をかけて貰ったが、眞衣も眞衣で訓練で魔力を消耗していたので十分には傷は治らなかった。



「優依に治して貰えばよかったじゃないか? 今からでも遅くないぞ?」


 からかってきた俊輔に、うるさい、とだけ悠貴が返す。笑った俊輔が続けた。


「そう言えば、よっしーさんは?」


「何か買い物に行ってくるって言ってたな……。飯を楽しみにしてたから直ぐに戻ってくんだろ……」



 悠貴は寝返りを打って仰向けになる。眞衣の治癒魔法のお陰で傷は(ふさ)がったが鈍い痛みがなかなか引かない。



「いやぁ、それにしてもよっしーさんも優依も強ぇ強ぇ。正直、研修ではなつ以外に負けたことはなかったし、ちーっとばかし自信持ってたんだけどな……」



 俊輔も悠貴と同じで、好雄にも優依にも歯が立たなかった。優依にはやはり意識を操られて地面に押し倒された。


「よっしーさんの属性は『木』だからな、俺の『火』は有利かと決めつけてたんだけどな……」


 手数が好雄の方が上だった。俊輔の火が好雄が呼び出した木のつるやナイフを焼き落としていったが数が多かった。次第に防戦一方になり、気付いたら身体をつるに絡めとられていた。



「それに……、俺たちは研修で魔装とか(シールド)の使い方は教わったけど武器を片手にした戦い方なんて習わなかったもんな。でもよ、俺はこっちのスタイルの方が好きだぜ。なんか、こう……戦ってるって感じがしてよ」


 武器を構えるような仕草をする俊輔。


「桐花杯に出る前にこういう機会作れて良かったな。本番でいきなり対戦相手が魔法と武器を織り混ぜて攻撃してきたら対応出来たかどうか……。とにかくだ、武器を使いながらの戦い方にまずは慣れていこう。明日は好雄にも優依にもやりかえしてやるぞ、俊輔」


 言った悠貴が掌に力を込める。確かに今日のところは惨敗だったがやられっぱなしではいられない。



「もちろんだぜ! おっ……、帰ってきたんじゃないか」



 聞こえてきた話し声に俊輔がドアの方に目を向ける。声は段々と大きくなり、バンッとドアが開いた。



「さあっ! (うたげ)の時間だぞー!!」


 両手に酒を抱えた好雄が揚々と部屋に入ってきた。袋には缶が詰まっていて、他に一升瓶を両手の間に挟んでいる。



 ドサドサとそれをベッドに下ろす好雄。



「お、おい好雄! 何だよこれ!?」


「何って……、悠貴……、酒だろ?」


「んなことは見れば分かる! 何で酒なんて買ってきたんだよ!?」


「何でって……、悠貴……、飲む為だろ?」


 飄々(ひょうひょう)とする好雄に悠貴は頭を抱える。



「いやぁ、よっしーさん悪いっすね! こんなに買ってきて貰っちゃって……」


 俊輔が缶を一つ手に取る。プシュと音を響かせる。ゴクゴクと喉を鳴らす俊輔。



「まあまあそこは一応魔法士の先輩だからな、遠慮しないでやってくれ。それにしても、俊輔……。魔法士になって成年擬制効かせたばっかなのにその飲みっぷり……。だいぶ慣れてやがるな……、いやぁ、悪い奴だなお前!」


 嬉しそうに俊輔の肩をバシバシと叩く好雄。俊輔と肩を並べて腰に手を当ててゴクゴクと酒を流し込む。


「あぁ……、生き返る……。ん、悠貴、お前飲まないのか? 無くなっちまうぞ?」


 言った好雄が悠貴にひと缶投げてよこす。


「お前たちなぁ……」



 呆れ果てる悠貴。

 そこに莉々たちも風呂から戻ってきた。



「あー! もう始めてる! 私たちが戻ってくるまで待っててって言ったでしょ!?」


 莉々が部屋に入ってくるなり声を上げる。


「な、お前まで飲むつもりだったのかよ!?」


「えぇー、悠貴、逆にまさか飲まないつもりだったの? せっかくの合宿なんだよ?」


「ダァー! サークルの合宿とは違うんだぞ!」


「合宿は合宿、同じよっ! はぁー、喉渇いたっ!」


 莉々が近くにあった缶を持ち上げ、プシュッと開けてゴクゴクと流し込む。



「ああ、もう……。大体お前……、さっきまで『やっぱり桐花杯なんて危ない大会なんだし今からでも辞退しよう!』とか言ってご立腹だったじゃないか。何でそんな急に明るくなってるんだよ?」


 更に一口飲み込んだ莉々が悠貴をビシッと指差す。


「終わった話を蒸し返さない! だって、私が何言ってもどうせ悠貴たち桐花杯には出るんでしょ? だったら私だって私に出来ることして全力で応援するしかないじゃないっ」


 言って缶の残りを飲み干す莉々。


「いやぁ、莉々さん! 良い飲みっぷりっす!」


「何よー、俊輔君……、分かってるじゃない……。さぁ、ほら、俊輔君もググッと……」



 盛り上がる一方な目の前の光景に目を(おお)う悠貴。


「ったくよぉ……。まあ俊輔は仕方がないとして……、眞衣、お前は止め……って、おい!」


 振り向いた悠貴の目に映る眞衣の顔はすでに真っ赤だった。横の好雄が「あれ、ダメだったか?」と言わんばかりの顔をしている。


「いや、ほら、同じ魔法士同士なんだから親睦を深めないとな……。それに魔法士ならもう成人扱いなんだし……」


「好雄、そういう問題じゃなくて……。飲みなれてない奴がいきなり酒なんて飲んだらっ……て。眞衣、大丈夫か?」


 心配そうに近寄ってきた悠貴に眞衣は、えへへ、と笑う。


「ら、らいじょうぶですよぉ。わたしぃ、まほぉしになったからぁ、もぉ、おとななんです!」


 ビシッと敬礼する眞衣。その眞衣に拍手喝采する好雄と俊輔。



「はぁ……。何か研修の時のデジャブが……」


 大きく溜め息をつく悠貴に眞衣が不満そうな顔をする。


「そんな顔しないでくださいよぉー。研修……、色々あったけど良い思い出だって沢山あるじゃないですかぁ! ええとぉー、例えばぁー、山小屋(コテージ)のぉ……、夕日が沈む窓際でぇ……、私のことぉ、抱き締めてくれたじゃないですかぁ!」


 言ってギュッと悠貴に抱きつく眞衣。


「ちょっ……、なに言ってるんだよ! 眞衣! いや、間違ってはないけどその言い方だとまた勘違いされるだろ!? あの時は窓の外から魔獣が……」



 悠貴の肩をつんつんと突っつく優依。


「あ、あの悠貴君……、その……、ち、中学生相手に……、へ、変なことしたりとかしてないよね? 大丈夫だよね……?」


 優依は顔は笑っていたがいつもより声は低く、そして、震えていた。



「あー、もう、優依! お前まで変なこと言うなよ! 全然ないから! 普通にないから!」


 悠貴の言葉に「はぁ!?」と叫んだ眞衣が悠貴を押し倒して馬乗りになる。


「全然ってどういうことですかぁ!? 私……、そんな魅力ないですかぁ!?」


「そ、そういう問題じゃない! 良いから降りろ!」



 そのやりとりを腹を抱えて眺めていた好雄と俊輔が酒を片手に(あお)る。


「いいぞー! もっとやれー!」


 (はや)し立てる好雄に眞衣はVサインを返して手にしていた缶を空にした。



「か、勘弁してくれよ……」



 悠貴の声はかきけされた。

今話もお読み頂きましてありがとうございます!


次回の更新は9月6日(月)の夜を予定しています。



宜しくお願い致します!

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