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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第四章 クロイキリの行方
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第120話 桐花杯特訓合宿Ⅳ

「……で、こうやって、これを押すと……」


 俊輔が手にしていた小さな端末のボタンを押すとさっきまで演習場を包んでいた半透明の球体が姿を現した。



「特殊電磁障壁。ま、俺たちにとっちゃ擬似(シールド)ってとこだな。魔法士が使う(シールド)を電磁波で再現したやつだ。魔法で作った(シールド)程じゃないけど、そこそこの魔法だったら防ぐことができる。俺たちが参加する桐花杯でも客席との間にはコイツが何重にも張り巡らされているってことだぜ」


 言った俊輔が魔法の火球を障壁に向けて放つ。火球は障壁にぶつかると音を立てて霧散した。



「……と、まあ、ここでならある程度はって前提はつくけど、本気で戦えるってことだ。楽しみだな、悠貴」


 目を輝かせる俊輔。

 頷く悠貴。考えてみれば俊輔もそうだし、好雄や優依とも魔法を使って本気で戦ってみたことがない。せっかくの桐花杯対策の特訓だ、久しぶりに魔法も使えるわけだし腕がなる。



 ふと俊輔が悠貴の後ろに目を移した。


「それにしてもさ、新人研修でもそうだったけど悠貴ってホント年下……、しかも女とすぐ仲良くなれるんだなぁ。(うらや)ましいぜ。俺なんてこんななりしてるから怖がられちまってよ。大学の友達が来るって聞いてたけど俺の聞き間違いだったみてぇだな!」


 悠貴の後ろに隠れていた優依に近づく俊輔。


「宜しくなっ。うーん、聖奈よりは年上に見えるし小学生って訳じゃねぇよな……。眞衣と同じ……ぐらい、中学生ってとこか。俺は高校生だけど俊輔先輩だなんて気を使わなくて良いから気軽に俊輔って呼んでくれな!」


 優依の頭を撫でる俊輔。



 頭に置かれた手をはね除けることすらせず、震えながら(うつむ)く優依を見て悠貴が慌てて訂正しにかかる。


「しゅ、俊輔……! その……、優依は中学生じゃなくて……」


「え、なんだじゃあ高校生か! それならそうと早く言ってくれよなー。じゃあ尚更(なおさら)遠慮しないで仲良くしてくれよな! 俺、魔法士で高校生の友達って少ないから嬉しいぜ!」


 嬉しそうにする俊輔に莉々と好雄が声を押し殺して笑う。それを見た優依の震えが更に大きくなる。


「ゆ、優依……! 違うんだ! 俊輔もその……悪気があるわけじゃ……」


 フォローに入った悠貴に辛うじて作った笑顔を向ける優依。ゆっくりと俊輔の方を向く。


「は、初めまして、俊輔君! わ、私……、こ、この通り……、れ、れっきとした大学生で、俊輔君よりも年上なんだから、優依先輩って呼んでくれても良いんだよ……!?」


 取り(つくろ)った笑顔でそう言った優依に、『は……?』と俊輔が固まる。



「えっ……、だってよ……。いや、マジか……」


 優依の上から下までまじまじと(なが)める俊輔。優依が赤くなって息を弾ませながら俊輔を(にら)み付ける。



 その優依に笑い出す俊輔。


「いや、そうかそうか! ホント悠貴の同期だったんだな! おうおう、悪かったぜ。宜しくなっ、優依!」


 と、俊輔は優依の頭をポンポンと叩いて、笑いが止まらない様子の莉々や好雄に声を掛けた。



「な、なぁ、優依……」


「何……? 悠貴君……。私ちょっと今……」


 肩を落とす優依の横で悠貴は何も言えずにただ空を見上げた。


 俊輔が声を上げる。


「取り敢えず昼飯食おうぜ! 桐花杯のことも話してぇし、特訓も腹ごしらえしてからだ!」





 演習場の脇にある休憩場所で悠貴たちは円になって昼食をとる。


「悠貴から聞いてるかもしれねぇけど、俺の親父が内務省の官僚なんだ。下げたくもねぇ頭を下げて得てきた貴重な情報だぞ? (かしこ)まって聞いてくれ。予選を勝ち抜くこと自体は難しいことじゃねぇみてぇだ。40人総当たりでの勝ち残りで……」


「俊輔君! そ、それくらいなら私たちでも知ってるよ! ちゃんと私から悠貴君にも伝えてるし……、そうだよね!?」


 俊輔の説明を(さえぎ)って声を上げた優依。目を向けられた悠貴は笑った。まださっき年下扱いされたことを根に持っているようだ。



「何だ、そうだったのか。じゃあ、こいつはどうだ? 今回の桐花杯に参加する人数だ。ざっと1000人」


 1000人、と悠貴は俊輔の言葉を繰り返す。それがどれくらいの規模なのか、いまいち悠貴には分からなかった。俊輔は説明を続ける。



「その(およ)そ1000人が基本40人ずつのグループに分けられる。それが予選だ。そこから勝ち上がるのが大体100人程度、と大会の運営側は見てるようだぜ」


 俊輔の言葉に眞衣が、うーん、と声を漏らす。


「予選から勝ち上がる人数、少し少なくないですか? 確か予選って各グループから5人が勝ち上がるんですよね? 1000人が40人ずつ分けられたら25グループ。それぞれのグループから5人が勝ち上がるんなら、単純に計算したら125人になりませんか?」


「おー、何だ、眞衣。お前ちゃんと計算とか出来るんだなっ?」


 笑って頭を撫でようとしてきた俊輔の手を払い除ける眞衣。


「止めてください、セクハラですよ? あ、悠貴さん! ほら、私、ちゃんと考えられてるんですよー? 誉めてくれても良いんですよっ? 」


「あ、ああ……、流石だな、眞衣」


 悠貴の言葉に満足そうにする眞衣に俊輔は溜め息をついて続ける。


「眞衣の言う通りだ。単純計算したら125。だがな、どこのグループからも5人が勝ち上がるって訳じゃねぇってことだ。何て言ったって総当たりの潰し合いだ。最後まで5人が両足で立っていられるとは限らねぇ……」


 俊輔の横で聞き入っていた好雄が口を開く。


「なるほどな。どうりで大会の参加のための同意事項が多いはずだ。死んでも怪我しても自己責任。途中棄権は認められない。俊輔の説明と合わせても、要は相当に物騒な大会ってことだな」


「そ、そんな! ねぇ、よっしー、今からでも参加って取り止め……」


「それは無理だ、莉々。エントリーした時点でもう棄権は出来ない。俺たちはもう勝ち上がるか、怪我して、場合によっては死んで敗退するしか道はない……」


 莉々は立ち上がってどうにかならないかと好雄に詰め寄る。



 昼飯を食い終わった俊輔が立ち上がる。


「まあまあ、莉々さんよ、落ち着けって。ただ勝ち上がれば良いんだからよー、楽勝だって」


「そ、そんな簡単に言わないでよ!」


 莉々が今度は俊輔に食って掛かる。




 その様子を尻目に悠貴は少し考えてみた。

 40人ということは新人研修と同じ数。つまりイメージとしては新人研修に参加したあの研修生たちの中でトップ5人に入れれば良いということになる。


 (うな)った悠貴が口を開く。


「俊輔さ、そうは言うけどやっぱり結構大変なんじゃないか?」


 この間の研修のことを考えてみても実力者は多かった。悠貴が直ぐに思い浮かべられるだけでも5人の枠は直ぐに埋まった。目の前の俊輔とは真剣勝負はしたことはないが楽に勝てる相手ではないことは確かだった。天声の姫と言われた天才少女の聖奈。宗玄も戦えば明らかに苦戦する相手だ。協力しあった真美だって対戦相手となれば勝ち負けは五分五分だと思う。それに……。


(あんまり思い出したくはないけど……、G(グループ)4の廣田さんとか、あと陽菜乃さんに至ってはなつと互角に戦ってた……。あの人何者なんだろう……)


 実際にどんな40人が集まるかは分からないが、自分達よりも先に登録している魔法士も加わる。新人研修よりもレベルの高い40人が集まる可能性は十分にある……。考え込む悠貴。



「そんな辛気臭い顔すんなって、悠貴! それによっ、何も40人全員を相手にする必要はねえぞ。試合開始の時に自分の周りにいる連中を片付ければいい。実際に相手にすんのは10人もいねぇだろうよ。それにな、運良く知り合いの魔法士が同じグループにいれば格段に楽になる。そいつと協力して戦えば良いんだからな」


「そ、そんなラッキー、そうそう無いと思うけどな!」 


「まあまあ優依……、あー、優依先輩……」


「はぁ……、もう優依で良いよ……」


「じゃあ優依でっ。そんなラッキーがもしかしたら悠貴にはあるかもしれねぇんだよ」


 俊輔の言葉で悠貴に注目が集まる。


「えっ、俺……?」


 戸惑う悠貴。好雄が、なるほどな、と口にした。


「ど、どういうこと? 好雄君」


「思い出してみろ、優依。悠貴の噂のことだよ……」


「噂? あっ……」


 何かを思い出した優依が悠貴を見る。


「噂って……、悠貴が魔法士の新人研修で……ってやつ?」


 莉々に尋ねられた優依がこくりと頷いた。



「何だよー、悠貴の大学でもそんな話になってんのかよ。改めて俺が聞いた話をするとな、大体こんな感じだ。冬の新人研修で、あの天下の特務高等警察に喧嘩を売った研修生たちがいる……。その研修生たちは特高が組んだあまりにも理不尽な研修にキレて反旗を(ひるがえ)して、鎮圧にきた部隊を死者こそいなかったが壊滅状態で返り討ちにした。で、その首謀者が羽田悠貴っていう大学生の風使い。そういうことに業界内ではなってるんだぜぃ」


 冗談っぽく言った俊輔。

 青ざめる悠貴。確かにその通りと言えばその通りかもしれないが……。


「し、首謀者ってなぁ! 俊輔! お前だって一緒に戦っただろう! 事情は知ってるよな!?」


「落ち着けって、俺が言ってる訳じゃなくてそういう話になってるってだけだって」


 マジかよ……、と肩を落とす悠貴。



「だ、大丈夫だよ、悠貴君! 手塚教官が動いてくれて、悠貴君たちは悪くないってことになってるからっ!」


 優依の言葉に多少は救われた悠貴だったが内心は複雑だった。研修で悪目立ちしたと言う自覚は少なからずあったので、これからは大人しくしていようと思っていた矢先だった。



「えと、それが何で悠貴がラッキーかも……って話になるのよ?」


 莉々が(いら)ついた声でそう言った。


「考えてもみろ、莉々。特高に喧嘩を売るようなヤベェ奴だぞ? そんなことやらかす奴だ、相当な魔法の使い手に違いない……、って話にならないか?」


「よっしー……。それは、まあ……」


「だろ? もし同じグループに悠貴の顔と名前を知ってる魔法士がいたら、あえてそんなヤベェ奴とやり合おう何て思わないだろ? 逆に協力して予選勝ち上がろう、とか申し出てくるかもしれない……。ってことだろ、俊輔?」


「ってことっすね、よっしーさん」


 羨ましいな、と声を合わせる好雄と俊輔を悠貴は(にら)む。


「お前らなぁ、気軽に言ってくれるよな……。魔法士もそうかもだけど、特高の奴らからも目をつけられてるってことだろ……、勘弁してくれよ……」


 大きく溜め息をついた悠貴の肩を俊輔が叩く。


「無名より悪名だぜ、悠貴。俺たちには魔法があるんだ。あんな奴らにびびる必要はねぇ。俺たちは俺たちがやりてぇようにやりゃいいんだよ! さ、話はこれくらいにして早速、特訓始めようぜ!」

今話もお読み頂きありがとうございます!


次回の更新は8月30日(月)の夜を予定しています。



宜しくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 後半のこの部分 「何だよー、悠貴の大学でもそんな話になってんのかよ。改めて俺が聞いた話をするとな、大体こんな感じだ。冬の新人研修で、あの天下の特務高等警察に喧嘩を売った研修生たちがいる………
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