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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第四章 クロイキリの行方
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第117話 桐花杯特訓合宿Ⅰ

 内務省と繋がりがあって、それでいて信頼の置ける魔法士。好雄の口からこのフレーズが出てきた時、悠貴は直ぐに魔法士の新人研修で同じグループだった山縣俊輔のことを思い浮かべた。



(そう……、確か俊輔の親父さんは内務省の官僚だったはず……)



 シャワーを浴び終わった悠貴はベッドに寝転がってスマホを手に取る。



(ホントは研修施設のなかでID交換できてたら良かったんだけど、施設の中ではスマホ使えなかったからな……)


 代わりに研修の帰り際、俊輔から通信アプリのTESAのIDを聞いて研修資料にメモをとっていた。



(宗玄さんやゆかりさん、聖奈とも連絡とれれば良いんだけど、都市圏(エリア)間では……)


 始まりの山の出現と強制移住の後、各地方に造り上げられた都市圏(エリア)。他の都市圏との行き来をすることは(まれ)な上、わざわざ役所から許可を受けなければならなかった。


 住む都市圏の違う人間同士の連絡も厳しく制限されていた。既に社会の混乱は落ち着いたようにも思えるが、当時の厳しい情報統制、移動制限はまだ解除されていない。



(俊輔とは同じ南関東州だったのは運が良かったな……)


 アプリを立ち上げる悠貴。何件か通知が来ていたが今は俊輔への連絡が先だと悠貴はID検索をする。


「えぇと……、これで合ってるよな、たぶん……」



 まずはフレンド登録をしようか、と悠貴が指をさ迷わせていた時、ピロン、とスマホが鳴った。見ると俊輔のIDからフレンド登録を求める通知が来ていた。



「えっ……」



 少し驚いた悠貴だったが咄嗟(とっさ)にフレンド登録の承認をする。直ぐに映像通話がかかってきた。



 画面に映し出される俊輔の顔。



『おー、悠貴、久しぶりだなっ。つっても研修終わってからまだ2週間しか経ってねぇけどよ』



 言って笑った俊輔の顔。俊輔の言った通り、まだ研修から日は経ってない。しかし、研修中の3ヶ月毎日合わせていた顔だ。懐かしい気持ちになる悠貴。


 研修の終わりの方には黒髪も目立ってきていた俊輔の髪は今は綺麗に金髪に染め上げられていた。



「全くだな……。元気してたか?」


『おうっ。相変わらず学校行ってバイトしてって毎日だけどよ、地元で魔法士の知り合いが何人か出来て対戦してるぜ。じゃねえと腕が(なま)っちまうからな』


 俊輔の言葉に悠貴は考える。確かにそうだ。研修では毎日のように使っていた魔法だったが、今はそうではない。明らかに感覚は(にぶ)っていた。



「まあな。それでさ、ちょうどこっちから連絡しようと思ってたとこだったんだけど……、俊輔、お前さ、桐花杯って知ってるか?」


『マジか……! お前の口から先に桐花杯の名前が出るとは思わなかったぜ。実はよ、俺も桐花杯のことで連絡したんだよ。……出るか?』


「ああ、そのつもりだ。……ってことは俊輔もか?」


『当たり前だろ。こんなチャンス中々ねぇぞ。全国から腕自慢の連中が集まってくるんだ。まあ登録から5年以内の新人連中ばかりで、手塚参謀やなつみてぇなレベルの連中は出れねぇけど、それでも出る価値は十分ってもんだぜ』



 目を輝かせながら語る俊輔。好雄もだったが、特高のことを毛嫌いしていてもやはり桐花杯は魅力的らしい。


『でよ、悠貴も参加するなら特高か内務省の奴の推薦が必要だろ? 前も言ったように親父は内務省の役人だ。あいつに頼みごとして借りを作るのは気が引けるけどよ、良かったらお前の分の推薦状も用意してやろうか?』


「いや、それは大丈夫だ。実はさ、俺の大学の友達なんだけど、そいつも魔法士なんだ。で、そいつが手塚教官と知り合いでさ。だから俺は手塚教官に頼むよ」


『へぇ、そんな奴がいるのか。あの手塚参謀と繋がれてるってのはラッキーだったな。あの人の推薦状なら間違いねぇ。そうか……、てことは、そいつら経由で悠貴も桐花杯のこと聞いたんだな……。相変わらずキナ臭さ満載だけどお互い頑張ろうぜ!』


「キナ臭い……。やっぱ特高や内務省が関わってるからロクなもんじゃないこともあるとは思ってたけど、やっぱりそうなのか?」


『ああ、勿論(もちろん)だ。桐花杯自体は知る人ぞ知るって大会なんだけどよ、国の偉い連中の賭け事の対象になってるんだ、勝者当て(ベット)ってな……』



 俊輔の話によると内務省や法務省の高官を中心に桐花杯の観覧に来た連中がどの魔法士が優勝するかを賭け合うらしい。


『小遣い稼ぎにしてはデカい額が動く……。それはそれで色んな奴らが暗躍したりして国の裏を見れたりするんだけど。ただな、桐花杯に関して言うと目の色を変えてるのはそいつらじゃなくて、どっちかってぇと参加する魔法士の方だ。何でか分かるか?』


「俊輔や俺みたいに……自分の力を試したい……とか……」


『ま、それもあるな……。いいか、悠貴。桐花杯に取り付かれた魔法士の連中が狙ってるのは大会を勝ち進んでベスト8に入ることだ』



「ベスト8……。ベスト8に入ることで何か良いことがあるのか?」


 画面に映る俊輔が真顔になって答える。


『無条件で特務高等警察に入れる権利が与えられる、しかも三等補から、だ。特高の奴らは大半が内務省にも籍を置いている。そもそも形式的には特高は内務省の傘下だからな。特高が肥大化して立場は逆になっちまってるけど。で、それとは別に特高の中でも階級があるんだ。上から一等正、一等補、二等正、二等補……って具合にな。大抵の場合、三等補からが高官って扱いだな。副官も付く。特高に入りたい、そこで出世したいって連中からすれば喉から手が出るほどの権利だ』


 言われて悠貴は思い出す。大学でも内務省、欲を言えばそこから特高に入りたいと猛勉強している大学の友人が何人もいた。言われてみれば彼らの口から「三等補」という言葉を聞いたことがあったような気がした。特高に全く興味がなかったので聞き逃していたがそういうことだったのか。



「あー、その俊輔さ。権利……ってことは別に入りたくなかったら入らなくても良いんだよな?」



 警戒するような顔をした悠貴に俊輔が笑う。


『ああ、もちろん! つーかよ、もし特高に入るのが義務になるんなら俺だってそんな大会には参加しねぇよ……』



 胸を撫で下ろす悠貴。



「良かった……。じゃあ俺たちは純粋に自分の強さを試せるって訳だな」


『ってことだな。ただよ、悠貴。お前、研修が終わってから魔法ってどれくらい使ってる?』


「いや、ほとんど……」


 悠貴は声を落とした。あれだけ研修中に毎日使っていた風の魔法だったが、研修が終わってからは使う機会がない。

 大学で行われている魔法演習の講義に好雄や優依に誘われて飛び入りで参加している位だった。山小屋(コテージ)の外で魔獣たちと戦った時の感覚は既に薄れつつある。



(ただの演習とか訓練じゃ……、あの「戦う」っていう感覚は取り戻せないよな……)



 目線を下に向けた悠貴に溜め息混じりの俊輔が続ける。


『だよなぁ……。俺もさ、地元の魔法士連中と対戦して訓練はしてるつもりなんだけど、こう言っちゃ何だけど、そのレベルがな……。そこでだ、悠貴。魔法士専用の演習施設で桐花杯に向けて特訓しないか!? そう言えば……、悠貴とはまだ本気でやりあったこと……無かったからな!』


 言ってニヤリとする俊輔。


「魔法士専用……ってそんな施設があるのか?」


『おいおい、見てないのかよ? 正式に魔法士に登録してから送られてきたやつの中に色々と説明書いてあっただろ?』


 言われた悠貴は部屋の片隅を見る。そこには法務省から届いた大きめの段ボールが2箱積んであった。正規の魔法士のローブ、徽章、IDカード以外はそのままにしていた。


「悪い……、全然見てなかった……」


『おいおい、それは勿体ないぞ! 魔法士にはこれでもかって位に特権が与えられてるんだ、使わなきゃ損だぞ?』



 俊輔と話ながら悠貴は改めて段ボールの中を覗く。手に取った冊子には国から魔法士に与えられた権利や義務の免除がこれでもかというほど載せられていた。



「分かってはいるつもりだったけど……、自分で言うのも何だけど魔法士になるってスゴいことなんだな……」


『ああ。形的には法務省管轄になってるが、俺たち魔法士は基本的に自由そのものだ。まあ、何にも縛られないってのは俺の性格とも合ってるし、そいつは嬉しいんだけど流石にここまでとなるとな……』


 バツが悪そうに言った俊輔に悠貴は頷く。魔法士は人を殺しても罪には問われない。完全に自由な存在。全てを自分で判断し、決めることが出来る。


 ほんの半年前まで自分はどこにでもいる普通の大学生だった。大学に通って法律の勉強をしてサークルでテニスをして友人たちと楽しく過ごし、バイトをして……。



 今も続いているはずのその生活が、どこか懐かしいもののように悠貴には思えた。



『ま、取り敢えずよ、そんな感じだから行こうぜ、桐花杯の特訓! あ、そうだ。俺たち2人だけってのもあれだしよ、悠貴の周りの魔法士でコイツは……って奴が居たら声掛けてみてくれよ! ただ、俺と互角以上に戦える奴じゃねえと承知しねえからな!』


「ああ、分かってるって……」



 せっかくの機会なんだから、と泊まりがけで特訓へ行くことになった。それからも特訓の予定や桐花杯のことについて話す悠貴と俊輔。



(桐花杯にも参加するんだし好雄と優依には声を掛けてみるか……。好雄と優依とはサークルの学年合宿……、俊輔とは魔法士の新人研修……。何かカオスな特訓合宿になりそうだな……)



 笑った悠貴に、どうした、と聞いた俊輔。

 悠貴は、何でもない、と首を振った。


今話もお読み頂きありがとうございます!


次回の更新は8月2日(月)の夜を予定しております。



宜しくお願い致します!

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