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武器の名は・・・三節棍! その3

◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ


俺とミランジェが襲われたのはもう、一年ほど前になる。


えーと……まあ、あれだ。トイレの改良と新しいドレス。おまけで新下着&ソックスの発案者が俺だということがバレたんだ。


……正しい言い方をすると、発案者が俺だとバレたわけではない。けど、ラドランシュ公爵家が関わっていることはもろバレした。それで、甘い汁を吸おうと子供である俺とミランジェを攫おうとしたわけだ。


この時は、うちの護衛達とすぐに駆け付けてくれた師団員たちと、多分国の暗部も陰ながら支援してくれたんだと思う。そのおかげで助かったけど、一時は本当にやばかったんだ。馬車の扉を開けられて、俺とミランジェは引きずり出されそうになった。もちろん俺はミランジェを庇うように後ろに隠していたけど、まだ十歳の子供だぜ。力の差は歴然としているだろ。


で、自衛のためにミランジェが持っていた、唐辛子粉が大活躍したんだ。本当は唐辛子じゃないのかもしれないけど、たまたま見つけた唐辛子とよく似た辛いもの。それを粉にして持ち歩くことにしたミランジェ。なんでも前世の時には、胡椒爆弾と唐辛子爆弾(と称してラップに包んだもの)を、常備していたんだって。たまにポケットに入れたまま洗濯をしてしまい、唐辛子が付着した服をみて「もう一度洗濯かー」と、叫んだらしい。


目つぶしとして最適だったけど、そのあとの二次被害が酷かった。知らずに襲撃犯に着いた唐辛子を触り、そのまま知らず目を擦ってしまった師団員の叫び声……。今でも忘れられない。


だからこのあと、関係各所から怒られたんだよ。自衛でもやりすぎだと。……ただ単に二次被害が起こったから、怒られただけだと思うんだけどな。まあ、このあと俺とミランジェは本当に限定されたところにしか出掛けなくなったから、護衛の人数が増えたり、師団の人たちの巡回路がその日だけ変えるくらいの手間でしかなかったようだけど……。


一応このあと唐辛子粉は持ち歩くのはやめた。代わりにきなこ……みたいな、黄色い木の粉を持ち歩くことにしたんだ。それなら、目に入れば目を開けていられなくなるけど、二次被害の痛みはないからさ。


おっと、思考が逸れた。


どうやらミランジェも折りたためる武器ということで三節棍に興味を示している。そんならその方向で、武器を用意しようじゃないか。



次の暗部……から来たとみられる騎士に、携帯用の武器について相談してみた。携帯用の武器ということで、やはり鞘に入った小ぶりのナイフを進められたけど、持つのはミランジェだと言い、カツタギを使って三節棍を作りたいと説明してみたんだ。


結果は……なぜかすごく食いつかれて、試行錯誤を一緒にすることになった。

……って、連れてきた人って、暗器を作る職人じゃねえの? 

えーと、その細い鎖はなんだ? 

軽いけど強度は抜群? 

ミスリルにアダマン級の硬度を持たせたものだって? 

いやいや。俺たちは子供。子供が使うの! 

そんな神話とかに出てきそうな名前の金属を使わないでくれよ。


結局大蜘蛛の糸を加工したロープを使うことになった。……って、これもファンタジーでおなじみのあれかよ。そうか、ここはファンタジー世界か。


……異世界だったな、ここは。前世の記憶からしたら。魔法だってあるんだし。


おっ! そうか。うまくいけば携帯しなくていいかもしれない。


思いついたことをミランジェに話して、二人でこっそりと練習を始めた。なかなか一朝一夕に覚えられるものじゃなかった。でも、何とか使えるようになったころ、ある侯爵家の令息の誕生日のパーティーに呼ばれることになった。


最初は……断ろうかと思っていた。けど、仲良くしているマホガイア公爵子息(王弟の息子)とクールニッシュ侯爵令嬢(王妃の姪)から、王太子とその側近候補たちは、王妃様と共に隣国にいると聞いたんだ。そろそろ自国以外での外交を学ばせることになったらしい。彼らが来ないのならと、俺たちは参加を決めた。


そこで気分が悪いものを見てしまった。このパーティーの主役である令息を狙っていると噂の令嬢たちが、令息が思いを寄せているらしい子爵家令嬢を、それとなくいびっていることに気がついた。俺はその令嬢を助けようかどうしようかと考えていると「お兄様、少し離れますけど、ご心配なさらないでくださいね」と、ミランジェが言って離れていったんだ。


ミランジェを視線だけで追いかけると、問題の集団(六人)のところに行き、一言二言話すと、子爵令嬢を連れて戻ってきた。ついでにクールニッシュ侯爵令嬢とマホガイア公爵子息も、合流してきたのだ。


他の子息令嬢に遠巻きにされながら(一応子供だけとはいえ社交の場だ。身分が下の者から上の者へ話しかけるなんて、もってのほかだからな)俺たちは話をしていた。

それでも友人なら話しかけるのはありだけど、社交自体をあまりしていない俺とミランジェには、親しいのはこの二人くらいだ。そして、俺たち四人はこの国でも高位貴族。……まあ、話しかけられないよなー。


子爵令嬢はとても恐縮していた。そのうちに本日の主役も合流した。嬉しそうに子爵令嬢に話しかける令息に、噂の通りかと思ったよ。


ただ、会話をしながらも時折ミランジェが、鋭い視線をかの集団に向けているのが気になったのだった。


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