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※ この世界のトイレ事情・・・の裏側で その3

◇ハロルド・ラ・ラドランシュ


またニクソンの問いに答える前に、余計なことを言ってくるセドリックのことを睨みつけたが、奴はどこ吹く風だ。涼しい顔をして、お茶請けに出されたクッキーを食べだした。すごい勢いで並べられた菓子に次々と手を伸ばしていく。どうやら、頭の中はフル回転で別のことを考えているようだ。


「マホガイア公爵様、どちらにしろミランジェは注目を浴びるようになりますわ」

「ん、そうなのか」


ゆったりとシェイラがセドリックに話しかけた。


「ええ。私だけでなく、ミランジェにも新しいドレスを着せますもの。どうしたって噂の的になりますわ」

「ああ~、そうだった。それじゃあ、ミランジェを隠しておくわけにはいかないか」

「もちろんです。それにもう一つ。ミランジェと私の髪色はこちらの国では珍しいでしょう。それだけでも隠すことなどは出来ないことでしょう」


にっこりと笑顔で言ったシェイラの顔を、セドリックはまじまじと見つめた。それからゆっくりと口角があがって笑みの形に口元を作っていった。


「ふう~ん、そういうことか。なかなか面白いことを考えましたね、ラドランシュ公爵夫人」

「あら、何のことかしら」


笑顔を返すシェイラだけど、二人の間に火花が散ってないか?


「そうだな、隠せないのなら隠さなければいい。それも逆に人目につくようにして人々に印象を残す。これなら余所の国の者も手をだせまい」


何故か納得したように頷きだしたセドリック。そこになんでもない事のようにシェイラは告げてきた。


「ああ、そうでしたわ。ヴェインとミランジェは怖い夢を実現させないために、痩せることにしたそうですわ。そのために運動を始めたのですけど、出来れば護身術を教えて欲しいとも言っておりますの。女性用の護身術は私でも教えられますけど、男の子のヴェインには無理ですわ。どなたかいい先生になる方はおりませんかしら」


小首を傾げていうシェイラに、セドリックは楽しそうに声をあげて笑った。


「それはいい。私のところの推薦者数名とニクソンのところの推薦者数名は、近いうちにこちらを訊ねさせよう。なーに、ヴェインの先生になれなくてもしばらくは、こちらの騎士たちを鍛える先生くらいはできるだろう」


そう言うとセドリックはしばらく笑い転げていた。笑いが収まると、立ち上がった。


「では、そういうことでよろしく頼む」

「あっ、おい!」


それだけ言うと執務室をでて行ってしまった。ニクソンが声を掛けたけど、それも無視していってしまった。ニクソンは視線を私に向けてきた。説明しろということだろう。


私は学生の頃を思い出させるような状況に軽いめまいを覚えた。いつもこんな感じだった。同い年の私達はセドリックの突拍子もない行動に振り回されまくっていた。そのセドリックを上手く導いていたのはフィリップだった。我が従兄弟ながらセドリックに負けないくらいできる奴だった。


だけど、フィリップはここにはいない。もう、いないのだ。私にだってセドリックが考えたことが全てわかるわけではない。だけど、困惑しているニクソンよりは解っていることはあった。


「ニクソン、私もセドリックが考えたことが全て分かっているわけではないぞ」

「それはもちろん分かっているさ。だけど、俺よりはましだろ。少しでいいから、俺が何をすればいいのかのヒントをくれ」


ニクソンは素直にそう言ってきた。三十歳になっても素直さを失わないこいつが、時々羨ましくなる。


「ああ、それじゃあ、セドリックの様子から追っていくとするか。まず、あいつは楽しそうにしていたよな」

「そうだな。どうやら新技術に興奮していたようだ」

「だけど、そのことが我々だけでなく、商会や王宮にバレたことが気に食わないようだった」

「それはわかる気がする。この間お前から聞いた、現王からミランジェを王太子妃にという話。この事が知られたら、本気でさせようとするだろうな」

「この発案がヴェインだとしてもか」

「それはそうだろう。ミランジェを押さえれば、ラドランシュ公爵家が発案した物は、王家にも還元されるんだ。さっき財務次官が喜んでいたのは、他国に売り出すときの関税などが関係しているからだろう。盗賊の掃討にかかる費用より大きいものがあるはずだ。……って、これか。セドリックが俺に気がついて欲しかったものは」

「それもそうだろうが、やはり他国の間諜の問題だろうな。ヴェインが発案者なのは、すぐにもバレるだろう。警護に暗部を動かすんだ。絶対に二人を奪われるわけにはいかないんだぞ」


ニクソンは顎に手を当てると、しばし考えこんだ。


「いや、それだけではないな。お前や夫人、幼い弟妹にも警護を厚くしなければなるまい」

「私達もか」

「ああ。人質に取られて、ヴェインが言いなりになるしかない事態は避けたいからな」


このあと、二人でああでもないこうでもないと、警護に関する案を話し合っていたら、不意にコロコロとシェイラの笑い声が聞こえてきた。


「まあまあ、大仰なことですこと」


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