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※ この世界のトイレ事情・・・の裏側で その2

◇ハロルド・ラ・ラドランシュ


「こら、ニクソン。もう少し頭を使えよ。ヴェインの提示したものは画期的なものだ。それにあの場では追及しなかったけど、あの言葉は何を意味するのかを、本当にわかっていないのかい?」


セドリックはニクソンのことを睨みつけた。ニクソンもセドリックのことを睨み返した。


「どの言葉だ。俺には理解できない話がほとんどだったんだぞ。ヴェインもすぐには実現不可能だと思っているから、簡単なものから試していきたいと言ったじゃないか」


ニクソンの返事に、セドリックは満足をしたような笑みを浮かべた。それから視線を私のほうに向けてきた。


「ハロルド、確認だ。ヴェインとミランジェには、貴族の子息令嬢としての教育しかしていないんだな」

「もちろんだとも。前王陛下にも言われていたからな。この世界の技術、特に魔道具の製造方法は教えないようにと。それが『大いなる恩恵』への鍵となるともな」


私は頷きながら答えた。前王陛下にヴェインとミランジェの養育を我が家ですることを言われた時に、何度も念を押されたのだ。それだけでなく陛下が亡くなるまでに、二人の成長を報告した時にも、毎回同じことを言われた。


それを聞いたセドリックはふうっと息を吐き出した。そして珍しく頭をぐしゃぐしゃと掻いた。


「今回は報告された経路の都合上仕方がなかったが、次からは父親に一番に相談させるようにしないとならないな」


セドリックは射貫くような目で私のことを見つめた。


「それからニクソン、ラドランシュ公爵家の警備を強化させろ。お前んとこの使える奴をこちらに回せ。私のところからも数名寄越す。あと、暗部のほうも警備体制のあらを補うように、増強させるように言っておく」


セドリックの言葉にニクソンが目を剥いた。


「おいおい、急にそんなことをしたら、注目をあびんだろ」

「馬鹿か、お前は。ことは急を要するんだぞ。他国に攫われでもしたらどうするんだ」


セドリックがニクソンを怒鳴りつけた。このやり取りを目を丸くしながら黙って聞いていたシェイラが、眉を寄せて口を開いた。


「それはどういうことですの。私の可愛い子供たちが、危険に晒されるということですの」


そのシェイラにもセドリックは剣呑な視線を向けた。


「ラドランシュ公爵夫人、私もお聞きしたいことがあるのですがいいですか。聡明なお方であるあなたが、なぜ二人をあのような体型に育てたんですか。いざという時、連れて逃げるのにも一苦労でしょう」


シェイラはしばらくじっとセドリックのことを見つめた。視線を外すと共にフッと息を吐き出していた。


「男の方にはわかりませんわ。あの子たちは、小さい頃はしょっちゅう熱を出しておりましたのよ。小さな体で、真っ赤な顔をして、呼吸も荒く……。それでも目を開けて私のことを見て、嬉しそうに笑ってくれたの。安心したようにまた眠りについて……。体調がいい時も、あまり食事が進まなくて、そのために料理長がいろいろ工夫をしてくれましたの。それを笑顔で美味しいと食べてくれるのよ」


まるで目の前に二人がいるように慈しむ眼差しで話すシェイラ。


「私が育った国は北のほうで、冬は貯蔵が効くものを食していたの。甘味なんてとても貴重だったわ。それでも、熱を出した時は、甘いものを良く食べさせてもらったの。あの子たちも高熱が出ても、砂糖湯なら口にできたわ。それなら体が良くなったご褒美に甘いお菓子を用意してあげたいじゃない。確かに美味しいと食べるのを止めなかったのは悪かったと思うわ。でも年頃になれば……いいえ、社交をするようになり他の家のご子息やご令嬢と交流するようになれば、二人は変わると思ったのよ。それを責められるのは心外だわ」


シェイラの言葉にセドリックは、何かを言いかけて口を噤み、首を振ってから口を開いた。


「いいえ、責めるような言い方をしてしまい、申し訳ございませんでした。まずは二人がちゃんと成人できる体を作るのが先でした。ここまでお育て頂き、ありがとうございます」


頭を下げたセドリックにシェイラはおかしそうに笑った。


「あら、お礼を言われるようなことは何もございませんわ。私は我が子を慈しんでいるだけですもの」


シェイラの言葉にセドリックは笑みを浮かべて頷いただけだった。


「おい、セドリック。一人だけ納得してんじゃねえよ。俺はお前みたいに頭が回る方じゃあねえんだ。もう少し説明してくれたっていいだろう」


ニクソンがいい雰囲気を邪魔するように言った。まあこれには私も賛成だ。セドリックは頭が良すぎて、たまに説明を省くことがあるんだ。もう少し凡人に配慮して欲しいものだな。あと、ニクソンも私とセドリックの前だからと気を抜かないでほしい。ここにはシェイラもいるのだからな。


フウ~と仕方なさそうにセドリックは息を吐き出した。


「お前も第一師団長をしているのだから、もう少し察せるようになれよ。あと、ハロルド。お前も仕事にばかりかまけてないで、もう少し息子と親交を深めて置くように。この間のバカ兄貴の申し出、絶対ミランジェを王家に取り込むことをあきらめてないぞ。今回は内々で収めたからまだいいが、公にされてみろ。ミランジェにまで、注目が集まるようになったら、目も当てられないからな」


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