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劇場型転生:元ヤン男性、ホラー映画のヒロインになる  作者: 依馬 亜連
第1章

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25/100

25:因縁パーティー開催のご案内

 本来であれば、あれやこれやの怪奇現象でヘザーが疲弊・孤立し始めた頃に、彼女のお披露目パーティーが開かれる。

「内輪の人間に君を紹介する、食事会のようなものだ。そう気負わずに出席してくれたまえ」

という養父の言葉を真に受けた(もしくはストレス過多の頭では、まともに思考できなかった)ヘザーはのこのこと、食事会という名の舞踏会に出て行き、赤っ恥をかく羽目になるのだ。


 ダンスも出来ずに参加者から軽んじられた彼女は、泣きそうな表情を浮かべて壁の花になり。

 そこに五体ほどの黒い影が現れ、傷心中のヘザーを無情にも追い回すのだ。この時のヘザーは半泣きどころか、大号泣である。


 しかも逃げた先の回廊で、酔っぱらった男性客二人組に出くわした挙句、無人の休憩室へと連れ込まれた。

 二人がかりで押さえつけられ、ドレスを破られ、あわや凌辱されかけるのだ。これは男である高田も、非常に落ち込む展開であった。


 ヘザーの貞操は寸前のところで、彼女を探しに来たシェリーによって守られたものの。

 残念ながらヘザーの精神状態は、ここで一気に悪化していく。

 現実の風景に時折悪霊が紛れ込んで来ていた世界に、更に幻覚・幻聴も混ぜられるのだ。もはや何が本当なのか、彼女には分からなくなっていく。


 ちなみにそんなヘザーを省みず、終始ぞんざいに扱う義兄の態度に、クライヴが不信感を覚えるきっかけとなる出来事でもある。


 そして現実でも。

「ヘザー。君もそろそろ、この家にも慣れて来たであろう? なので来週、君のお披露目パーティーを行おうと思ってね。なに、内輪の人間に君を紹介する、食事会のようなものだ。そう気負わずに参加してくれたまえ」

 とある晩餐の席で、ダニエルがそう提案した。


 ヘザーがアーメンビームを何故かぶっ放せた日から、実に十日後のことである。その間ダニエルは体調が(かんば)しくなかったらしく、ずっと自室で食事を摂っていた。


 久々に顔を見せやがったと思ったら、この爆弾投下だ。

(けっ、やっぱり来やがったか)

 ヘザーは舌打ちを寸前で我慢しつつも、半ば諦めの境地ではあった。


 この十日間、伯爵令嬢として施された教育は、非常にゆるーい内容のものが毎日二時間程度だけだった。これこそがゆとり教育であろう、と勉強嫌いのヘザーですら思ったほどに。


 よって彼女は有り余る自由時間を、有意義に活用していた。

 クライヴと薪割りをしたり、ティナと屋敷を探検したり、シェリーに使用人を紹介してもらったり、彼らの仕事を手伝ったり、クライヴやロイドとカードやボードゲームで遊んだりと、かなり悠々自適に過ごしていた。


 正直、めちゃくちゃ楽しかった。

 楽しかったのだが、所詮は『アビス』という檻の中である。鬱イベントもあるに決まってるよねクソッタレ、という心境による諦念(ていねん)である。


 ヘザーの中身が高田になったところで、ダンスが踊れないことに変わりはない。

 一応ブレイクダンスならそれなりに出来るが、ドレス姿でブレイキングしようものなら、周囲の空気もブレイクしちゃうという道理ぐらいは理解している。

 ガワはヘザーなので、それなりに羞恥心もあるし。


 なので今度は、正々堂々と雄々しく壁の花になり、近付く黒い影は片っ端からニーブラしてやろうと意思を固め――

「兄上。でしたらヘザー嬢のダンスの練習も行いましょう」

 ついさっきまで、あまりにもポーカーフェイスが下手過ぎて、トランプでヘザーとロイドのカモになっていたクライヴから、まさかの提案があった。


 これにはヘザーと、ついでにダニエルも目をむく。

 両者「なんで?」という疑問が丸見えだ。


「え、なんで練習すんの?」

 実際、ヘザーは口に出して訊いた。

 彼女の斜め前に座るクライヴは、白身魚に刺しかけていたナイフを皿の縁に載せ、彼女を見る。


「近しい関係者へのお披露目とはいえ、貴族が外部の者を招いて行うパーティーである以上、ダンスは不可欠だ。そして君はその主役なのだから、当然踊る義務がある。しかし兄上はこの体だ、君と踊ることは難しい。ならば兄上の名代(みょうだい)として俺が君を鍛え上げ、フリーリング家の名誉を軽んじられぬよう配慮することは当然じゃないか」

「お、おお……」

 長ったらしい説明ではあるが、やはり彼の思考は理路整然としている。


 つまるところ、どうせ踊らされるのだから健康な俺と練習しようぜ、ということだった。

(ほんとコイツ、いいヤツだよなぁ。そこまでしなくていいのにさ)

 家の名誉のためと言っているが、ヘザーを見つめる深緑の瞳には気遣いもある。だからきっと、本心は彼女が軽んじられないための練習なのだろう。


 そこまで察して、不覚にもヘザーはキュンとした。頬も色づく。

 これは肉体につられての、異性に対するときめきなのだろうか。

(たしかにクライヴは根暗で嫌味だけど、優しいし顔もカッコいいし、たまに情けねぇってか抜けてるとこもすて――いやいやいやいやッ! ダメだから、それだけは絶対言っちゃダメだから! オレ何考えてんのぉッ?)

 完全に思考が乙女ロードへ舵を切ってしまったので、こっそり太ももをつねって、自制をかける。


 己の中の、二分の一の純情をふんじばりつつ、考える。

 ここで踊りを習得しておけば、ダニエルのみならず、実父のような偉ぶったお貴族サマ連中の鼻も明かせる。おまけに、黒い影や酔っ払いコンビとの遭遇という、胸糞悪い出来事も回避できるかもしれない。


 なにより高田は、運動が大好きだった。

 だから頬を手で仰ぎつつ、ぺこり、とクライヴへ頭を下げた。

「それじゃあ練習頼むよ、クライヴさん」

「ああ」

 キリリと良い顔で、クライヴもうなずく。だから、イケメンの安売りをしないでくれ。


 一方のダニエルはこっそり歯噛みしていた。

 ダンスのことには一切触れずに、当日ヘザーにドッキリをかました上で、使役霊たちに襲わせるつもりだったのだ。


 また招待客の中には、酒と女にだらしない男も複数名混ぜているし、彼女が「男性と遊ぶのが好きかもしれないよ」という推測も伝えている。

 そう、あくまでも「推測」であり、これは世間話の一環だ。

 こうして丁寧に根回しして、実際彼らにヘザーが汚されれば万々歳、と思っていたのに。思い切り出鼻をくじかれたのだ。


 だが良き伯爵として振る舞う以上、クライヴの提案に否を下すことは出来ない。

 ただでさえ、小娘は愚弟どころか屋敷中の人間と打ち解けているのだ。

 家令やシェリーらから

「ヘザー様は多少自由奔放ではありますが、お美しいうえに屈託のない、素敵なお嬢様ですね」

「それにとても気遣いの出来る方です。言葉遣いはいささか荒っぽいままですが、いつでもわたくしたちを(おもんぱか)って下さる、素晴らしい方ですね」

と褒め言葉を聞く度に、微妙な気持ちになっているのだ。


 ここでクライヴを突っぱねれば、要らぬ禍根(かこん)を残しかねない。

 下手すればヘザーと愉快な仲間たち vs 自分という、思惑と真逆の構図になりかねない。


 だから何とも力の入りまくった笑顔で、

「それはいい提案だね。クライヴ、彼女の指導を頼んだよ」

と、ざらつく声で言うのであった。


 そして幸か不幸か。

 あからさまに不承不承と言いたげな声と表情に、いつでも彼の傍らに控えるシェリーが、怪訝そうに細い眉を寄せていることに、ダニエルが気付くことはなかった。

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[良い点] いいぞぉ……乙女ロードを突き進め……
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