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登校時の良くある風景

ここでエタった

 

 普段の通学路を外れ、路地裏に入り込んだ侠一郎と勇人の二人。

 ビルに挟まれ、昼間であるのにも関わらず日の光が充分に差し込まない路地を二人は行く。

 表の通りから少し奥へ入っただけなのに空気は淀み、怪しい気配が満ちているその場所を何食わぬ顔で二人は通り抜け、奥へ奥へと進んでいき、そして二人は路地の更に奥の路地裏に辿り着く。


 ここまで来ると先程まで歩いていた表の通りからは何があっても、この場所の様子は容易には分からず、人が殺されても気づくのに時間がかかるだろう。

 そういう場所であるから、真っ当でないことが行われていても気づかれることは無い。

 例えば、高校生くらいの少年を複数の男が取り囲んでいたとしても、誰にも知られることは無い。

 もっとも、それはその場に高校生二人がやってくるというようなことが無ければだが――


「おいおい、なんだか楽しそうなことをやっているな」


 ――今回に限っては、やってくる二人がいた。

 侠一郎と勇人は路地裏をほっつき歩いている中で自分たちと同じくらいの年頃の少年をガラの悪い男たちが取り囲んでいる場面に出くわしたわけだが、それを見かけた侠一郎は目を輝かせて声をかけたのだった。


「楽しいことなら俺も混ぜてくれよ」


 そうは言うがこの場で一番楽しそうなのは侠一郎であり、その次は勇人。

 声をかけられた男たちは苛立ちを込めた視線を侠一郎たちに向けている。


「失せろ、ガキども」


 歓迎ムードではない様子に侠一郎は肩を竦めつつ、隣の勇人に小声で話しかける。


「相手は五人だけど、配分は?」


「流れで良いんじゃないか?」


 侠一郎が勇人の答えに頷くと、立ち去ろうとしない侠一郎たちに向けてガラの悪い男のうちの一人が声を荒げる。


「失せろって言ってんだ、ガキぃ! 見世物じゃねぇぞ」


「見世物じゃなくて恐喝だろ? どう考えても通報案件なんだけど」


 一人の少年をガラの悪い男たちが囲んでいたら、恐喝でもしてると考えるのが普通で、そう考えたら警察を呼ぶのが当然だ。

 勇人が臆さずに言うと男たちが殺気立つ。そして、その様子に不敵に笑うのは侠一郎。


「安心しろよ、警察には通報しねぇから。まぁ、代わりに消防には通報してやるけどな――馬鹿が五人ほど死にかけてるんで救急車お願いしますってさ」


 何を――と男たちが思った瞬間、侠一郎が一瞬でその内の一人の懐へと飛び込み、顔面に拳を叩き込む。その一発で男は膝から崩れ落ちる。


「テメェ!」


 仲間がやられたことに怒り、一人が侠一郎に向かって突進する。

 だが、その突進は容易く阻まれることになる。


「おっと危ない」


 そう言いながら勇人は軽く右手を振る。

 すると勇人の手に淡い光が集い、その直後に勇人の右手に青白い刀身を有する片手剣が現れる。

 街中の喧嘩には場違いな片手剣を手に持った勇人は、侠一郎に向かって突進する男の頭を横合いから剣の腹で殴りつけて倒す。


「それ意味ねぇから」


 なるべく殺傷しないように気を使っているのかもしれないが、刃を使わずとも金属の棒で意識を失うくらいの力で殴りつけているのだから、死んだっておかしくはないと思い、侠一郎は言う。


「気持ちの問題だよ、気持ちの問題」


「気持ちじゃなくて態度で示してやれよ」


 言いながら、侠一郎は反撃に出ようと突っ込んできたもう一人の頭にハイキックを叩き込む。

 これで残りはボスらしき大柄な男と取り巻きが一人だ。


「舐めやがって!」


 取り巻きの男がナイフを懐から抜き放つが、それを見ても侠一郎と勇人は呆れたように肩を竦めるだけだった。

 なにせ、刃物ならば勇人の方が立派な物を出しているわけで今更そんなものを見せられても虚仮おどしにもならない。


「危ないから、そういうのを出すなよ」


 自分のことを棚に上げたセリフを吐いた勇人が即座に距離を詰めて、片手剣でナイフを叩き落とす。

 そして返す刀で男の膝を叩き割り、膝をつかせると侠一郎が横合いから、その男の顔を殴りつけ意識を刈り取る。


「テメェら……!」


 ボスらしき男が凄んでみせるが、それも今更である。


「残るはアンタだけ」


「大物ぶって最後に出ていこうとしたのかもしれぇねけど、後が無いな」


 侠一郎と勇人はボスらしき男に何の恐れも抱いていない。

 一対一でも負ける気はしないのに二対一という状況だ、ボスらしいと言っても所詮はチンピラの集団のボスなのだから、たいしたことは無い。

 そんな相手に必要以上に警戒する必要も無いと侠一郎と勇人は仕留めに動く。


「そんじゃ、お先に」


 そういって勇人が先に仕掛ける。低い姿勢で踏み込んできた勇人に対し男は拳を振り下ろすが、それよりも早く勇人の剣が男の腹部を強かに打つ。


「このっ――」


 自身に攻撃を加えた勇人に対し怒りを燃やす男は勇人の動きを追うが、そこに侠一郎のハイキックが顔面へと叩き込まれる。


「どこ見てんだ?」


 衝撃に顔を押さえてよろめく男に侠一郎が声をかける。

 男は声のした方に闇雲に腕を振るが手ごたえは無い。


「俺を見てるんじゃないかな?」


 相手の姿が見えないのでは、どうしようもない。

 男は痛みをこらえて周囲を確認しようと目を開くが、開いた先には勇人が立っていた。


「お前から目が離せないみたいだな」


「マジかぁ、男にはモテたくないんだけどな」


 男の正面に立つ勇人、背後に立つ侠一郎。

 二人は軽口を叩き合い、直後に正面から勇人が剣で正面から膝を叩き割り、侠一郎が背後から膝を踏み砕いた。

 両膝を粉砕された男は当然立っていることなど出来ずに、その場に跪くほかない。ここまでやられれば戦闘意欲なども萎えきり、顔には怯えが浮かんでいた。


「待っ――」


 降参を伝えようとするが、それも間に合わない。男の声が届くよりも先に二人の攻撃が放たれた。

 侠一郎の蹴りが後頭部に、勇人の剣が顔の正面に頭を挟み込むように二人の攻撃が放たれ、叩き込まれた衝撃が男の意識を奪い、昏倒させる。


「「楽勝!」」


 倒れ伏す男には目もくれず、侠一郎と勇人はハイタッチを交わす。

 余裕綽々、この程度の輩は二人の相手にはならない。そんなことは戦う前から分かっていた。


「あ、あの……」


 絡まれていたと思しき少年が二人に怯えた様子で話しかける。

 自分を助けてくれたのだろうが、それでも平然と暴力を振るって殴り倒すような者たちに対して怯えずに接するのはマトモな神経の者には難しい。少年の態度も当然と言えた。


「何?」


 侠一郎が少年に振り向く。

 体を動かして気分スッキリといった様子の侠一郎の機嫌はすこぶる良いので表情は穏やかだった。


「いえ、その、お礼を……」


「別に良いって。だって後輩だろ、キミ?」


 侠一郎は予想を口にする。

 少年の外見から不良という感じは見受けられず、高校に通っていないということもなさそうだった。

 それに加えて自分たちと同じか、年下のようだが、それなら今日は学校が無い生徒となる。

 黒桜市内の高校は今日が始業式の所が多いので、自分たちと同じ学年の可能性は少ないそうすると年下と考えるのが妥当。そして年下なら――


「通う学校の下見にでも来たって感じかな?」


 勇人が自分の代わりに答えを言ったが、自分のセリフを取られたような気がして少しイラっと来る侠一郎。


「えっと……多分そうです」

「そうか、新入生かぁ。下見に来るなんて感心、感心」


 勇人は剣を持っていた手を軽く振る。すると剣が光と共に消える。


「しかし、ついてないね。こんなチンピラ連中に囲まれるなんてさ」


「入学前にケチがついた感じだよな」


 侠一郎たちの通う高校は上級生の新学期が始まってから入学式が始まるので、少年は入学式前に高校の様子を見に来たと言った所だろう。


 侠一郎と勇人、そして少年が周囲に倒れているガラの悪い男たちに目を向ける。

 全員が最低一本は骨が折れ、昏倒しているを見ると、少年が侠一郎たちに尋ねる。


「あの……大丈夫なんですか?」


 命に別条はない――と、言い切れない様子の者も何人かいた。

 特にボスらしき男の顔は二目と見られない有様になっていた。

 しかし、侠一郎も勇人も気にする様子は無い。


「ちょっと待ってろ」


 そう言ってスマホで時間を確認しながら、倒れた男たちを見る侠一郎。

 その横に立つ勇人は少年に話しかける。


「キミって魔物とモンスターの違いが分かる?」


 唐突でしかも良く分からない質問だった。

 何を言っているのか分からない少年は沈黙するほかない。

 そんな少年の様子を予想していたのか勇人は答えられない少年を気にする様子も無く答えを言う。


「他所では知らないけど、|黒桜市(この街)では魔物は生物でモンスターは現象」


「魔物は繁殖するけど、モンスターは現れる」


 勇人の言葉に侠一郎が続ける。


「形は魔物や人間と変わらないし、殺せば死ぬ。だけど、のこらない。それがモンスターって奴さ」


 侠一郎の視線の先にある男たちの姿が光の粒子となって消えていく。その様子に少年は息を呑む。


「こうして消えればモンスターって分かる。時間にして一分か二分くらいが一般的だな」


「いや、え? でも、普通の人達みたいだったし、モンスターって――」


「ゴブリンのような姿じゃないとおかしいって?」


 侠一郎と勇人は口元に笑みを浮かべながら少年の疑問に答える。


「何度も言うけど、俺たちは他所のことは分からないよ。分かるのは黒桜市のことだけ。そんで黒桜市ではゴブリンだって平和的なコミュニケーションの取れる奴はヒトの一員として権利が保障されているし、平和的なコミュニケーションが取れないのは魔物として扱われ駆除の対象だけど、それでも生き物な訳」


「対して、モンスターってのは根本的に違う存在だ。突然現れ、突然消える現象。人の想いやら何やらが集合して形作られるような存在。さっきのチンピラ連中だって色んな人間のチンピラ像が集合して形になったものだ。それらしく会話をしていたけど、あいつらには何の背景バックボーンも無い。ただ、『チンピラならカツアゲをして暴力を振るうだろう』っていう色んな人の考えから行動パターンを形成しているだけだ。会話している様子もある程度決まったパターンの中から選出しているだけ」


 二人の説明に困惑する少年だが、二人は気にせず説明を続ける。


「仮にキミが金を払って帰ってもらっても奴らは消えたし、二度と会うことは無い。払った金はどこへ行くかは知らんけど次元の彼方とかか? まぁ、とにかくダメージを与えて消えた以上は、アイツらは人間じゃなくて、モンスターでそいつらはぶち殺しても問題ないから気にすんなって感じだ」


「そんでもって黒桜市はそういうのが生まれる特別な環境であるってことだけ分かればいいんじゃないかな。あとは知らない顔で、名前を聞いても答えない上、テンプレな会話と行動をする嫌な奴はモンスターの可能性が高いから、ぶっ殺しておいた方がいいよ」


 この人たちは何を言っているんだと少年は思う。

 自分の知らないことを一気に喋られれば困惑も当然である。

 そして、するべき説明を終えた以上、侠一郎は少年の困惑などは知ったことではないという様子で、一言告げる。


「それじゃあろうか」


 その言葉と共に放たれる侠一郎の右拳。

 突然の攻撃を普通の少年が防げる筈もない。だが――


「何をするんですか!」


 少年は正確にガードしていた。それを見て侠一郎の口元に笑みが浮かび、勇人は呆れた様子で肩を竦める。


「やりすぎんなよ」

「分かってるって」


 勇人は侠一郎と少年から距離を取り見物の姿勢を取る。

 どうせ止めたところで侠一郎が自分の言うことを聞くはずが無いと分かっているためだ。


「どういうつもりですか」

「どういうつもりもなにもねぇだろ、新入生。多少、れそうなくせに、腕を隠してる奴なら、それを暴きたくなるってもんだろ?」


 侠一郎は拳を構えて戦闘態勢を整えた。






この作品はここまでで力尽き、エタった。

理由はなんだったか忘れたけれども、単にやる気が無くなっただけだと思う。

数年振りに読み返してみたら、色々とマズイ点は多かったけれど、自分的には好きな作品だと改めて思った。

とはいえ、更新するような余裕はないので、放置することになるだろうと思う。

ここまで読んでくれた人がいたとしたら申し訳ないが、許してもらいたい。


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