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逆襲態勢

 

 男が立ち去り、少しの時間が過ぎた。

 その間、侠一郎の家は誰かが訪れるということもなく、静けさを保っていた。

 そんな静かな場所に僅かな異変が生じたのは、夕焼けの空に日が沈んだ直後のことであった。

 夜の闇に覆われた、その場所にあるのは首を落とされた死体だけ。

 そんな場所で起きる異変。


 その異変とは死体が動き出すというものだった。

 首を切り落とされて死んだはずの侠一郎の体がゆっくりとだが、しっかりとした動きで起き上がる。

 その動きは首がないということを除けば、普段と変わりないものだった。


 死体は固まっていた体をほぐすようにストレッチをする。

 首の切断面から血が流れ、シャツを汚すが、首から上が無いので分からない。


 死体は服を血で汚しながらのストレッチを終えると、近くに転がっていた自分の右腕を拾い上げ、その切断面を自分の腕の切断面にくっつける。すると、切り離された左腕がつながり、元の状態に戻る。


 そうして治った右腕の動作確認をしつつ、首なし死体はおもむろにポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。

 頭が無いので目で見て確認することはできないが、操作は体が覚えているので問題はなく、死体は慣れた操作でカメラアプリを起動する。

 カメラを使うのだから、当然撮影をするわけで、そうなると被写体が必要なわけだが、その被写体とは他ならぬ自分であった。


 死体は切断された自分の頭部の位置を勘で探し当て、拾い上げて、首なし死体とその頭部を自撮りする。

 そして自撮りしたら、その出来を確認する必要があるので、首なし死体は切り落とされた頭部の切断面と自分の首の切断面を合わせてくっつける。


 すると、次の瞬間には首がくっついて黒木侠一郎は復活を遂げたのだった。


「首を切り落とされてみた――と」


 思いのほか良く取れた写真にタイトルをつけて侠一郎はSNSにアップロードする。

 その写真は首のない死体が自分の頭を手に持っているというものだが、結構ウケがいいのではないかと侠一郎は思いアップしたのだが、その結果は思った通りだった。

 知り合いから『いいね』が大量に来つつ『ざまぁwww』や『大丈夫?』『手伝うか?』といった友人からの様々な反応が返ってくる。

『ざまぁwww』と送ってきた奴は後で殺すことに決めて、侠一郎は心配してくれた友人たちに返信する。


『メシ食ってなかったから負けた。メシ食って、これからリベンジ』


 侠一郎は軽く首を回して状態を再確認する。

 空腹であること以外は特に問題はない。

 生命活動も完全に回復しており、先ほどまでは間違いなく死んでいたのだが、今は間違いなく生きていた。


 どのような仕掛けをもって侠一郎は生き返ったのか。

 別に特殊な仕掛けがあるわけではない。単に死んでも復活できるすべを血統と体質的に持っているというだけだ。

 とはいえ、何の代償も無く復活できるわけではない。生き返るたびに侠一郎は――


「疲れた……」


 ――それなりに体力やら気力やらを消耗する。

 逆に言えば、代償として払うのは体力や気力だけで良いので復活の代償としては破格であると言える。

 侠一郎は疲労などによって、よろめく体に鞭を打って庭から自分の家の中に上がろうとする。

 その間、繋げたはずの右腕がズルリと音を立てて千切れて地面に落ちる。


「はぁ……」


 侠一郎はため息をつきながら地面に落ちた右腕を拾い上げると、目の前に見える自宅の玄関に投げ入れる。

 くっつきが悪いのは仕方がないので腕を治すのは後回しにする。


 侠一郎は玄関の中に転がっている自分の腕を無視して、靴を脱いで家に上がる。

 腕の傷口から血が流れ落ちているがそれも無視することにして、侠一郎が自宅に入るなり向かったのは台所、正確には台所にある冷蔵庫で、侠一郎の目的はその中にあるものだった。


「一本くらいあると思ったんだけどなぁっと……」


 侠一郎は右腕で冷蔵庫の扉を開けて、その中にある目当ての物を探し始める。

 冷蔵庫の中は整理していないため、ほとんど魔境の域にあったが、ほどなくして、侠一郎は目当ての物が見つかったのか口元に笑みを浮かべ、探していたものを手に取った。


 それは中に黒い液体が入った瓶。

 侠一郎は瓶の王冠を指だけで弾いて開けると、その中身を口に含んだ。甘みと薬臭いとも言われる独特の風味に炭酸の刺激が口内に広がり、侠一郎は清涼感と爽快感を味わう。


「やっぱし、コーラ最高」


 瓶の中に入った黒い液体の正体はコーラであった。

 侠一郎にとって疲労と気力の消耗の回復にはコーラが一番の薬である。

 侠一郎の好みとしては赤い缶のコーラで有名な大手飲料メーカーのゼロカロリーコーラだが、今飲んでいるのは普通の物であった。もっとも、成分的には合成甘味料よりも糖類の方が侠一郎の体には効くので、今の状況には最適だった。


「なんか食うものは……」


 独り言を口にしつつ、右手に持ったコーラに口をつけ、侠一郎は冷蔵庫の中を探す。

 その最中、侠一郎の右腕の傷口をどこから生じたのか、黒い霧が覆う。

 黒い霧は傷口から先へと伸びていき、腕の形を取ると同時に霧散し、霧が消えた後には侠一郎の右腕が完全な状態で戻っていた。

 何が起きたのか答えは単純である。好物を口にして疲労が消え、気力が戻ったので治ったというそれだけだ。それだけのことで治るのが黒木の人間なのである。


 侠一郎は元に戻った右腕で冷蔵庫の扉を閉めた。

 食べられるものは無かったようである。

 それもそのはず、昨日の夜まで侠一郎は春休みであることを良いことに、家に引きこもってゲーム三昧の毎日であり、その間に家の食料は粗方食べつくした。

 昨日の夜に出かけたのも空腹に耐えかねて、家から出てコンビニ行こうとしたからであり、その際に火澄と出会ったというわけだった。

 それからは火澄に付き合わされて、食事や食事を買う機会もなかったのだから、家の中に食料がある可能性は極めて低かった。


「無いとは思っても探せばあるもんだよな」


 とはいえ、日頃から生活をしている家なのだから、色々と買い置きしていた物もある。

 買ったまま忘れていたカップ麺くらいはあっても不思議は無く、現に侠一郎はそんなカップ麺を見つけたのだった。


 侠一郎はカップ麺に入れる湯を沸かしている間に血の付いた服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びる。これくらいの気分転換でもないと、やる気は戻らない。

 そしてシャワーを終え、汚れのないTシャツとズボンに着替えた侠一郎はカップ麺に湯を注ぎ、三分待ちながらスマホを弄る。これも気分転換である。

 三分が経ちカップ麺が出来上がると侠一郎はそれを食べる。味はまぁ普通であるが、味はとにかく腹に何かを入れないといけなかった。


 侠一郎の体はとにかく燃費が悪い。

 もっとも、それは黒桜市に住んでいる人間の大多数が抱える悩みであり、高性能な肉体のパフォーマンスを維持するには大量の燃料がいる。

 そのために侠一郎も普段から色々と気を付けていて、普通の生活をしていればそれほどエネルギーの消費は多くない。

 だが、戦闘があれば別で、どんなに相手が弱くても精神的な物によってある程度以上のエネルギーの消耗がある。


 事実、昨日の夜から空腹状態にある侠一郎のエネルギーは今日の戦闘で完全に空となっていた。

 空になったエネルギーを多少なりとも回復するためには、手っ取り早いのが食物の摂取であり、侠一郎が今日一日の中で、何度も食事がしたいと言っていたのは、空になったエネルギーの回復を図るためであった。


「ふぅ……」


 カップ麺のスープまで飲み干し、侠一郎は一息つく。

 満腹感で言えば、相当に物足りなかったが、腹に物が入ったことでエネルギーは補給された。

 その証拠に侠一郎の全身に先程までとは比べ物にならないほど力が満ちていた。


『明日の昼間どっか遊びに行かね?』


 食休みの最中に侠一郎は友人の一人にメッセージを送る。

 家に引きこもっているのも飽きてきたところなので、外に出てパーッと遊びたい気分になってきたので連絡を取ってみた。

 ほどなくして了承の返事が侠一郎に届く。

 細かい日時は明日になってから決めればいいとして、侠一郎はスマホをズボンのポケットにしまい、立ち上がる。


 どこへ行くのか?

 その行先は当然だが、決まっている。火澄のもとへ向かうのだ。

 侠一郎には火澄を助ける義理と言えるようなものは無い。

 だが、関わってしまった縁と、可哀そうな少女を助けるべきだという情がある。義理は無くとも侠一郎が動くにはそれだけで充分だった。


 侠一郎は自宅内のガレージからバイクを出し、火澄のもとへと向かうために夜の闇の中を走り出す。





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