表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

失くし物から壊れ物

 火澄を見て陽子は笑い──


「こらまた、随分と分かりやすい余所者やねぇ。こじらせてると言った方が正しいかもしれへんけども、まぁ可愛くてよろしいとしておきましょうか」


 陽子の態度に関しては今更どうこう言うつもりもなかったが、些か不審に思うことがある火澄は小声で侠一郎に尋ねる。


「ねぇ、この人何処の生まれ?」


 胡散臭い関西弁が鼻について仕方ないと言いたかったが、そこは堪える火澄。

 だが、そういう反応は慣れた物なので陽子は火澄の侠一郎への質問を予想し、先に答える。


「言葉遣いに関しては気にせんでくれへん? 頭の中をぐちゃぐちゃにされたせいで生まれの国の言葉が良くわからへんのよ」


 言いながら陽子は侠一郎に意味ありげな視線を向ける。

 その視線の意味を察した侠一郎はバツが悪いような表情で頭を掻きながら、陽子の言葉を補足する。


「俺の御先祖様が、まぁ色々とやってな。そのせいで七尾さんは色々と大変なんだよ──と言っても、うちの先祖に非があることではないだけど」


「御先祖様って、見た目は――」


 言いかけて、火澄は見た目と年齢が一致しない人間など自分も何人も見てきたことを思い出し、言葉を途中で止める。


「長生きってよりは、生まれ変わりだけどな。何回くらい殺られてるんだっけか?」


「20回くらいやないかなぁ? 記憶がハッキリ取り戻せなくなるまで徹底的にやられたのは、黒木君のお父さんの時やったかなぁ。まぁ、はっきりとは思い出せへんけど」


「20回って……」


 信じられない物を見るような眼で火澄は陽子を見る。

 20回も殺されるような理由というのを火澄は思い浮かばないし、それ以上にそれだけの回数、殺されるまで性根が変わらないということが信じられなかった。

 なんとなくではあるが、目の前にいる七尾陽子という少女に非が無いということはなく全面的に陽子が悪かったのではないかという直感が働いており、火澄は陽子が殺されることは別に不思議に思っていなかった。


「まぁ、ウチのことはええやないの。それよりも、なんの御用でいらっしゃったん?」


 このままではいつまでも本題に入れなさそうなことを察した陽子は話を変える。別に忙しいわけではないが、一応は店番なので無駄話をしているわけにもいかないからだ。


「刀を探してるんだよ。昨日の深夜に俺が持ってきたナマク――いや、由緒正しそうな刀」


 途中で火澄の視線を感じた侠一郎は言い直す。

 別に気を遣う必要もないが、気を遣わない理由が自分の気分的な物でしかない以上は気を遣わないことに関して合理的な理由も無いため、火澄の機嫌を損ねないような物言いを選ぶのだった。


「ああ、あのクソ貧相なナマクラ刀。包丁の代わりにもならなそうな、観光地に売ってる木刀の方がまだ武器になりそうな鉄の棒っきれのことでええんやろうか?」


 陽子は火澄の方をあからさまに見ていた。

 自分の大切な物を馬鹿にされ、怒りを覚えるが火澄はグッと奥歯を噛みしめ怒りを堪える。

 その様子を視界には入れないながらも気配から察している侠一郎は、クールな見た目に反してカッカしやすいなぁと思いつつ、女同士の争いなのでなるべく関わり合いになりたくなく、黙っていることにした。


「でもなぁ、その刀、ポッキリ折れとるんやけど?」


 侠一郎はそういやそうだったなぁと思い出しつつ頭を掻く。

 これって損害賠償案件なんだろうかなどと考えつつ火澄の方に目を向けると、火澄が凄い表情で侠一郎を睨みつけながら、陽子に言う。


「折れてても良いから出して」


 陽子は首を傾げながら侠一郎の顔を見る。

 陽子からすれば、火澄などは初対面の癖に態度のデカい女の一人であるので、言うことを聞いてやる筋合いはない。

 それに言うことを聞いてやった結果、知り合いである侠一郎に不利益が生じる可能性があるなら、なおさら頼みを聞いてやろうという気にはならなかった。

 もっとも侠一郎が了承するならば話は別だ。侠一郎が納得しているというのなら陽子がとやかく言うべきではない。

 そういうわけもあって、陽子は侠一郎を見ている。


「いいよ、持ってきてやれ」


 視線の意味を察し、侠一郎が言うと、陽子は仕方ないという様子で立ち上がり店の奥に向かう。


「なんだか嫌な感じ」


 お前もだいぶ嫌な感じだけどな。と、侠一郎は火澄の呟きに反応したかったが、言ったら言ったで、面倒くさいことになることは目に見えていたので、肩を竦めるに留める。


「なんだか、魔の……人間じゃない気配が凄いけど、あの人は大丈夫?」


 何度も生まれ変わっているらしい時点でマトモではないことは分かっていたが、それにしたって気配が尋常ではないと火澄は感じていた。


「別に悪い奴じゃないから大丈夫だと思うけどな。良い奴でもないけどさ」


 まぁ、付き合い方を間違えなければ普通の人だよ。と、侠一郎は陽子をそんな風に評する。

 付き合い方を間違えれば普通ではない人になるようだが、その点は陽子も心得ているので人付き合いに関しては気を遣っているし、余計なことはしないようにしているので何も問題はなかった。


「なに、なんぞウチのことでも噂してたん?」


 話している内に陽子が戻ってきた。陽子は腕に包みを抱えており、それを近くの机の上に下ろす。


「七尾さんはとても悪い奴なんで近づかない方が良いよって教えてたところ」


「それは有り難いことやねぇ。ウチも面倒くさい子には関わりたくないさかい」


 話しつつ、陽子は包みを広げる。

 すると、その中には半ばから真っ二つに折れた刀があった。

 それを見るなり、火澄は声も上げよりも早く近寄り、刀を手に取りジッと見つめる。


「そないに大事な物なん?」


「両親の形見らしいぜ」


 侠一郎と陽子は火澄から距離を取り、様子を眺めていた。

 二人が思うのは面倒くさいことにならなければ良いなというくらいのものであった。だが――


「う、うぅぅ……」


 二人が見ている先で火澄が泣き出してしまっては、話は別だった。

 ここにきて、ようやく二人はまずい状況だということに気付く。

 ろくでもない性根の持ち主たちではあるが、人でなしではない以上、泣き出した女の子を無視するということはできない。


「えーと、あれだゴメンな。うん、俺が悪かった」


 近寄って謝る侠一郎だったが、火澄は折れた刀を大事に抱え、涙を流しており、侠一郎の言葉は耳に入っていない様子だった。


「弁償するよ、弁償」


 言ってみたものの、どうやって弁償するかは見当がつかないし、それ以前にかなり無神経な言葉であった。

 火澄が侠一郎をキッと睨みつける。その目には涙が浮かんでおり、侠一郎はその涙の前に戸惑う。

 殴り合いではそうそう負ける気はしないが、女の涙に対しての勝ち方は心得ていなかった。


「……絶対に許さない」


 いや、それは言い過ぎだろうと返ってきた火澄の言葉に対して侠一郎は思う。

 もとはと言えば火澄の方が襲い掛かってきたせいだろうと言いたかったが、ここでそれを言うと自分が悪者になりそうだと、隣に立つ陽子の視線で察した侠一郎は口をつぐむほかなかった。


「まぁまぁ、神名ちゃんも、そんなに怒らんと、折れてしもうたんは残念やけど、それに関してはウチがなんとかしたるから、黒木君のことは許してやって」


「なんとかするって完璧に折れてるんですけど!」


 泣きべそをかきながら強い口調で言う火澄に対して陽子の方は優しい口調で言い聞かせるように伝える。


黒桜市ここには神名ちゃんみたいに武器を扱う人のために、武器の修復なんかを専門にしとる人たちもおるから、その人たちに頼めば何とかしてくれるで」


 現代日本では考えられないことだが、黒桜市では武器屋という商売が成り立つ。そして、武器屋がやっていける程度には武器を扱う人間が多いということは、武器を使う必要性がある状況が日常的にあるということで、そういう環境であるならば武器をメンテナンスする人々も必要となる。


「とりあえず、そこにウチが連絡しとくわ。もともと、折れた刀をそのまま売りに出すわけでなく、打ち直してから店に出す予定やったみたいやし、修理できるんとちゃう?」


 言いながら陽子は侠一郎を見る。その視線の意味をすぐに察した侠一郎は、陽子の求めている答えを口にする。


「修理したって買い戻さなきゃ、ずっと店のもんだろうが。俺に買い戻せって話だろ」


「話が早くて助かるわぁ。黒木君にも言い分はあるんやろうけど、他人様のものを勝手に売り払ったんだから、責任は取らなあかんよね」


「まぁ、いいよ。どうせたいした額でもねぇしな」


 侠一郎は溜息を吐きながら、財布から数枚の紙幣を取ると陽子に手渡した。

 それを懐に収めると、陽子は手を叩き、その場の二人に問題解決を告げる。


「これで神名ちゃんの刀は直り次第、神名ちゃんの物に戻ると。これで神名ちゃんも問題あらへんよね?」


 まだ泣きべそかいている状態の火澄の方を見ながら陽子は言う。

 言外に、これ以上の面倒は許さないという意思を示しながら。


「……うん、ありがとう」


「どういたしまして。やっぱり、女の子は素直な方が可愛ええなぁ」


「なんか俺だけが悪者なってるような気がすんですけど」


「実際、悪者やん? こんな可愛い女の子をぶん殴って、形見の品を奪って売り払うとか言い逃れ出来へん悪者やん」


 出来事を羅列すればそうかもしれないと否定をしようとしたものの、何か言ったところで自分の立場が悪くなるだけのような気がして侠一郎は口を挟むことは諦めるのだった。


 そうして侠一郎が悪者となったものの、火澄の刀に関しての問題は解決した。

 問題が解決したのならば長居をする理由も無い。

 客はいないものの、一応は営業中なわけで雑談をするわけにもいかないので、侠一郎たちは店を後にすることにする。


「じゃあ、色々と片付いたみたいだし、帰るわ。今度は学校が始まったらだな」


「色々と迷惑をかけたみたいでごめんなさい。私の刀が直ったころに取りに来ます」


 世話になったせいか、火澄の陽子に対しての悪感情は薄れており、態度は柔らかになっていた。

 そんな火澄の変化を陽子も柔らかい表情で見つめる。


「気にせんでええよ。ウチもちょっと無礼やったし、その辺りはおあいこってことで」


 互いに挨拶もそこそこに火澄は軽く頭を下げ、店を出る。

 続いて、侠一郎も火澄の後を追って店を出ようとするが、その背中に陽子は声をかける。


「人助けするなとは言わへんけど、たいして興味もない女の子に優しくせんほうがええよ?」


「優しくしてるつもりもないけどな。義理でつきあってるだけだ」


「まぁ、それならええんやけどね」


 陽子は含む物があるよう口調で言うと、手をひらひらと振って侠一郎を店から出るように促す。


「客に対してとんでもねぇ態度だな」


「冷やかしにきただけの輩を客とは呼ばへんよ。個人的に会いに来てくれるんなら別やけどもね」


「さようですか」


 侠一郎は肩を竦め、店を出ようとする。


「さいなら、また学校でな」


 背中に陽子の言葉を受けながら侠一郎は店を出た。

 どうせ、あと何日かしたら嫌でも顔を合わせるのだから、陽子に対して大層な挨拶などは必要なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ