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1-7【調律師を訪ねて 2:~天然温泉~】



「ふわぁぁ・・・・」


 お湯に浸かった途端、全身を言い知れぬ快感が満たしモニカの口から気の抜けた声が出る。


 ここはピスキアの街から東に少し行った所にある、地面から湧き出た天然の温泉の一つだ。

 ここは、これから向かう予定のカラ地区との間にあるので立ち寄ったのだが、予想通りいい感じに誰もいない。

 周囲は木々に覆われ、天然の岩が湯船になっていて、まさに秘湯といった風情があった。


 本来なら山2つ北側のルートが本筋なのだが、野生動物対策ができて山道を苦にしないならこちらのルートの方が温泉に入れる分だけお得だ。


 さて、なんでわざわざこんな所の温泉に来ているのかというと、モニカが市内の温泉に入るのを激しく嫌がったからだ。

 

 最初俺たちは中央局に書類を提出したあと、旅の区切りにということでピスキア名物の温泉に入ろうと思ったのだが、さすがに名物だけあって浴場も巨大で人が多く、そのあまりの人の量に圧倒されたモニカが脱衣所で立ち尽くしてしまったのだ。


 なんでもよくわからない人が大勢いる場所で無防備な格好になるのが恐いらしい。


 と、まあ、いけしゃあしゃあとこんなことを言っているが、俺も女湯に突撃する覚悟がなかったのでちょうどいいと感じたのはここだけの話だ。

 モニカの体は自分の体の意識が強すぎるのでなんとも思わないが、他人の裸は流石にそういうわけにはいかない。

 せめてモニカの体がもう少し大人になって、女体に耐性がついてからじゃないとキツイ。

 それにこちらの感情も少しだがモニカに漏れているので、モニカが俺の思考に釣られて変なものに目覚める恐れもあるのだ。


 仕方ないので、ピスキア周辺の穴場的な温泉を宿に置いてあった地図で探し、この”狼の頭”山の中腹に幾つか自然に湧き出した温泉があることを突き止め、疲れに効くということと、目的地の方角だということで喜び勇んでやってきたのだ。


「きゅるぅ・・・」

 

 横ではモニカと同じように温泉に浸かりながら目を細めるロメオの姿が。

 動物の癖に温泉に入るとは。

 まあ、こいつもこんな所でもない限り温泉になど入る事は出来ないからな。


 ただ入る前に俺の指示でしっかりと洗ったものの、動物と一緒に入る風呂というものに慣れないでいた。

 もっとも、それは俺だけの話でモニカは裸のままロメオに抱きついて、その毛のふわふわな感触を全身で楽しんでいたのだが。


 ちなみ先程までロメオにぶら下がっていた狼の尻尾は近くの木に干されていて、まだポタポタと血が滴り落ちている。

 この血が余計な動物を引き寄せたりしないか少し心配になったが、今の所こちらに向かう大型の獣の気配はない。


 ついでに先ほど偶然に助けることになった剣士と愉快な仲間たちの気配もない。

 覗くなと念を押したのに、覗きに来ないとは軟弱者共め、こっちはスキルの練習ついでに脅かしてやろうかと思っていたのに。

 まあ流石にこんな幼い少女は彼等も守備範囲外なのだろうということにしておこう。


「ところで、最後のあれって何したの?」

 

 不意にモニカがそんなことを聞いてきた。


『最後っていうと、あれか? 槍を降らせるやつ』

「あれも槍なの?」

『ああ、転送スキルで送れるギリギリの大きさで作った槍だ、それを地中で大量に作って獲物の真上に転送しただけのお手軽攻撃さ』

「じゃあ、落としただけなの?」


『そう! 落としただけで加速させたりはしていない、だから必要な魔力も転送分だけで済むんだ』

「すごーい!」


 俺の説明にモニカが喜びの声を上げて、腕を大きく動かしてお湯をバシャバシャと飛ばす。

 どうやら気に入ってくれたらしい。

 だが、俺は同時に管理者として悲しいお知らせも伝えなければならなかった。


『ただ、残念なことに欠点が2つ有る』

「え?」


『まずは、落としただけなので威力がどうしても不足する、あの大きさの狼だから通用したがもっと皮の厚い動物や魔獣には効果がないだろう』

「ってことは、主に雑魚専用の技ってこと?」

『ところが加速に魔力は使わないがそれより燃費の悪い”転送”を使うので、必要な魔力は砲撃よりも多い、しかも高等スキルだから連発できないと来た』


「だめじゃん!?」


 モニカの顔が一旦驚愕に染まったあと呆れたようなものに変わる。 


『まあ、その辺はおいおい改良していくとして、で、”そっち”の具合はどんな感じだ?』

「あ、うーん、でもまだ、一日じゃね・・・・」


 実は今日の移動は今までと違ってモニカは殆ど歩いていない。

 自分の足を地面につけて移動したのは狼との戦闘時に走った時くらいで、それ以外はずっとロメオの背中に座っていたのだ。

 

 以前と違って今は嵩張って重たい毛皮は積んでいないし、元々ロメオの積載量は結構余裕があったので座る分は問題なかったので、できるだけ休息を取らせる目的で少々無理を言って乗ってもらったのだ。

 モニカは自分の足で歩きたいと駄々をこねたが、”アクリラ”の編入試験を受けるための勉強としてラウラにもらった教科書を読んでもらっていた。


 これにはもう一つ重要な意味が有る。


 現在、俺達のスキル(フランチェスカ)は未だその殆どが起動していないため、ランクのわりに使い物にならない。

 もちろん【ロケットキャノン】という強力な攻撃もあるが、これは既存の小さなスキルの組み合わせを行っているだけで別にそれ自体がフランチェスカのスキルというわけではない。

 そのせいか他と比べて使い勝手はよくない。

 おそらく起動していくに連れて、使い勝手の良いスキルも目覚めていくものと思われたが、現在は他人のを見て覚えた【槍】と【転送】が相対的にかなり便利なものになってしまっている。

 俺達のスキルのランクを考えるならばこれは少々おかしい。

 もちろん魔力調整がメインのスキルとも考えられるが、それにしたってもうちょっとなにかあっても良いのではないか?

 となると、ランク相応の”派手”なスキルはまだ起動していないと見て間違いない。

 

 そんなこんなで、できるだけ起動条件を満たしておこうということだ。

 そして今出来る起動条件を満たすための行動といえば、ラウラの教科書を読み込んで魔法知識とその他、魔法関連の能力をあげるしか無いのだ。

 ただこればっかりは、モニカに頑張ってもらうしかない。


 いくら俺が魔法知識を習得したところで条件は満たせないし、その魔法を発動することも出来ない。

 せいぜいが呪文を耳打ちする程度だが、それだって、モニカが内容を理解してなければ上手くいくのは簡単なものに限られるのだ。


 ということで今日一日の成果を聞いていたのだが、この様子だと芳しくはないようだ。


『まあ、まだ初日だけだから、理解しなくても、そのうち理解できそうならそれでいいよ』

「魔法陣が、単なる魔力の塊じゃないところまではわかったんだけど・・・」


『それが残念だよな・・・』


 俺がそう言いながら空中で幾つかの魔力溜まりを作りそれを変形させて魔法陣の様な形を作る。

 するとそれを見たロメオが興味深そうに、その魔法陣に鼻先を近づけていた。


「これってもしかして・・・・」


 モニカがその魔法陣達を見て何かに気づいたようだ。

 そして多分それは当たっている。


『お察しの通り、この前食堂で見かけたあの”青い少女”が使っていた魔法陣だ・・・・といってもレプリカだがな』

「使えないの?」

『ああ、ただ単にその形に魔力を変形させているだけだからな、これで使えたらどれだけ楽だったか、今度はこっち見てみろ』


 そう言って新たに2つの魔力の塊を作り出す。

 今度はその2つは違う方法で形を変え、最終的に同じ形になった。


『”魔力の灯火”の魔法陣と、そのレプリカだ、そっくりだろ?』

「見分けがつかないね」


 実際作った時に覚えていなければ、俺ですら見分けがつかないほど両者は似ていた。


『だが、明らかに違うところが有る』


 そう言って2つの魔法陣に魔力を注ぎ込んだところ、片方は正常に火が点き、もう片方は少し大きくなった後グチャリと潰れてしまった。


「なんでこうなるんだろう・・・どっちも魔力が形を作ってるんだよね?」


 モニカが左斜め上の虚空をぼんやりと眺めながら言った。

 ロメオの上で読んだ教科書の内容を思い返しているのだろう。


『それの答えに関してはあの教科書には載っていなかったし、家にあった本にも買った本にもないからな』


 実はここに来る時に見かけた書店で2冊ほど魔法に関する本を購入していたのだが、高かった割にそれほど大した知識は得られなかった。

 どうも、一般的に出回っているのは簡単な魔力の扱いくらいで、魔法士の花形である魔力変質に関しては情報がかなり厳しく制限されているようだった。

 おかげで、未だに魔力を動かしたり直接使うしか出来ないでいる。


 まあ、仕方がないといえば仕方がないか。

 俺のスキルの補正で感覚が麻痺しているが、本来ならば魔力操作だけでは大したことは出来ない。

 ところがここに魔力変質が加わると途端に威力が増すのだ。

 それこそ俺のスキル補正による差をひっくり返してお釣りが来るほどのものだ。

 そうなると、おいそれと在野に知識をバラ撒くわけにはいかないのだろう。


 この世界にも”メンディ”とかいう過激思想グループもいるわけだし規制があって然るべきだ。

 結局これを解消するにはできるだけ早く魔法士学校に行くしかないのだろう。


 空中に浮かぶ俺の作った魔法陣のレプリカを眺めるモニカの視線から察するに、モニカも早くちゃんとした知識がほしいだろうし。

 いつまでも美味しそうなご馳走を、横から眺めながら”待て”をし続ける訳にはいかないのだ。



そろそろ、暑い季節に寒い地方の話を書くのが辛くなってきましたww


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