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1-6【北の大都会 12:~診察~】


 扉を開けると、そこはごく普通の木製の内装の部屋が広がっていた。

 ただし、これまでと違って薬品などの臭いは薄くベッドなども置いてない。


 その代わりに、大量の本や魔道具と思われる謎の機材などが所狭しと置いてあり、その中心部にあるデスクの前に白衣を着た線の細いメガネをかけた男が座っている。


 彼がスキル調律師ということなのだろうか?


「おや? おはよう、僕に何か用かい?」

「あのぉ・・・スキルの調整に・・・」


「ああ、なんだそっち(・・・・)か、ごめんね、君くらいの歳の子が一人で来るなんてことなかったから」


 白衣の男が頭を掻きながらそう言った。


「そんな珍しい?」

「そうだね、君くらいの子はだいたい誰かに担がれてるし、歩ける子はみんな魔法士学校に行ってこの街にはいない、となると君は、田舎の方の出身で調整のために街に出てきた感じかな?」


「まあそんなところ」


 モニカが頷く。

 白衣の男の予想は大筋では当たっていた。

 ただし住んでいたのは、田舎どころではないが。

 

「ところで紙に名前を書くように下で言われてない?」


 白衣の男の問にモニカが手に持っていた紙を差し出した。


「ありがとう、・・モニカ・・ちゃんだね? 歳は?」

「じゅうい・・・10歳です」


 またモニカが11歳と答えようとしたので俺が軽くフロウを締め付けて牽制した。


「10歳ね、利き手はどっち?」


 それから少しの間白衣の男がモニカに質問をし、受け取った紙に早速その答えか何かを書き込んでいくやり取りが続いた。

 時々チラチラとこちらを見てくることから、見た目でわかる特徴なども書き込んでいるのだろう。


「そうだ、自己紹介がまだだったね、今回君のスキル状態を検診するスキル調律師のティモだ、よろしくね」


 そう言って左手で握手を求め、モニカが応じると軽く握るだけで、再び紙に何かを書く作業に戻る。


「君はいい時期に来たね・・いつもなら・・もっと人が多い・・・っと」


 ティモがモニカの目についてのことと思われるものを書きながら、そんなことを話す。


「今日は人が少ないの? なんで?」

「ああ、数日前から北部連合の大規模な討伐遠征が始まってね、ここに来るようなスキル持ちがみんなそっち行っちゃって、まあ普段も2、3人並んでるくらいだけど」


『数日前っていうと、俺達が見た巨大な火柱がそうかもな』

「ピスキアの北で山くらい大きな火柱を見たけど、それがそう?」


「ピスキアの北っていうと、たぶんそうだろうね、2週間位かけて街の周りをぐるっと巡っていくんだよ」


 なるほどそうやって周期的に街の周りを一掃することで安全を守っているのか。

 となると今は冒険者やそれに類する人間の数は少ないのかもしれないな。

 

『その討伐隊は軍隊なのか?』

「それって軍隊の人がやってるの?」


「本隊は北部連合の警備隊だね、ただし、今回の様な大きな遠征には冒険者枠で自由参加する一般の人も多いよ、それこそ魔法士学校の学生さんとか」

「昨日、隣の宿屋で、わたしより少し年上のすごく強そうな人を見かけたけど、参加しない人も多いの?」


「それは自由参加だからね、別に参加しなくても変ではないけど・・・もしかしてその人って髪が青かったりする?」

「うん」


 モニカが力強く頷いた。


「あの子は北部全体を飛び回って調査してるらしくてね、ここにはたまに寄るだけらしいんだ、っていっても又聞きだけどね」

 

「じゃあ、いつもはこの街にはいないの?」

「だいたい数日だけ居てどっかに行ってるらしい、その度に馬鹿でかいドラゴンで飛んでいくからちょっとした騒ぎになるよ」


 ティモがやれやれといった風に肩をすくめる。


 そしてコホンと咳払いを一つ入れ真剣な顔でこちらに向き直った。


「じゃあ本題に入ろうか、以前ここで調整したことは?」

「ない」


「じゃあ、他で?」

「それも・・・ない」


「え? それじゃ、もしかして、今まで誰にも診てもらったことがなかったりする?」

「・・・はい」


 モニカがそう言って、なんとなく怒られそうな空気を察したのか軽く目をつむる。


「うーん、まあその歳では大きな問題は起こってないだろうけど、成長期だからできるだけ一年に一回は専門家に見てもらったほうがいいよ」

「・・・努力する」

「ただ、見た感じでは特に異常の兆候は見られないね、結構腕のいい調律師がスキルをまとめたんだろう、魔水晶を見せて」


 さあ、来た。

 願わくはランクとかがバレなければいいが、最悪バレても大事にならなければいい・・


 俺が祈るような思いでモニカが右腕を差し出すのを見守る。

 モニカもどうなるか緊張しているようで、右腕が若干が震えていた。


「ふむ、相当いい石使ってるね、ちょっと待ってね・・・」


 ティモが魔水晶の全体を軽く見回したあと、何かよくわからない機器が置かれた棚へ顔を向けて何かを探し始めた。


「ええっと、3型、3型・・・の4か5・・あった」


 そしてその棚から真鍮みたいな少しくすんだ黄金色の船の操舵輪のような形の器具を取り出した。


 そしてその器具を魔水晶にはめ込むように乗せて舵輪状のノブに当たる部分をキリキリと回すと魔水晶にしっかりとその器具が固定された。


「最近、魔水晶に衝撃を与えたことある?」


 器具の調整をしながらティモがそんなことを聞いてきた。

 同時にモニカからそんな記憶があるかを問うような思念が発せられる。


『ああ・・・ええ・・・・、あ、昨日のあれ!』


 俺は最近の記憶を振り返りながら魔力の流れの記録を眺めると、魔水晶の中の記録に過度の魔力が流れた記録を発見した。


『あの青い子に近づいた時に”バチッ”ってなっただろ? あの時に変な魔力が流れて、それが多分衝撃になっている』


 俺がそのことを説明すると、モニカから納得のサインが飛んでくる。


「昨日・・・・ちょっと」

「ふむ、昨日か・・・、固定直しておくね、外れそうになってたよ」


 ティモがまるでネジを巻くように何かを調整すると、ピントが合うというか、軽くなるというか・・・・具体的に何が変わったのかは分からないがとにかく微妙に何かが良くなったような感じがした。


「これはたぶん経年劣化も結構進んでるね、気をつけなさいよ、外れたら大変なんだから」

「は、はい・・・」


 どうやら長年の酷使で受けた影響も大きいようだな。

 やはり今回診てもらってよかった、このまま放置してうっかりポロッと外れちゃったりしたら笑えない。


「じゃあ、魔水晶の状態を見るよ」


 診察はいよいよ本題に入ったようで、魔水晶に取り付けた器具が緑色に光り始めた。

 どうやらティモの魔力傾向は”緑”のようだ。

 そういえば髪の毛が若干緑色か?


 するとそのまま器具から光が漏れ出し、そのまま魔水晶の上に不思議な形の魔法陣が浮かび上がった。

 

「おぉ・・・」


 モニカがその不思議な形に小さく驚きの声を漏らす。


 その魔法陣はまず円形ではない。

 左右に対称に大きく広がって、まるで定規のように等間隔に光の線が並んでいる。


 そしてその緑の定規に沿うように黒い光が左右に真っすぐ伸びていた。


 その黒い光の線はよく見れば波打っており、その波が魔法陣の中心から左右に向かってまるで脈動するかのように等間隔で進んでいた。


「ふむ・・・・」


 ティモが顎に手を当てて魔法陣を睨む。

 正確にはその魔法陣に移る黒い光の波を見ているようだった。


「・・・おっかしいなぁ・・・」


 ポツリと口から漏れたティモの呟きに、俺とモニカの心臓がピクリと跳ねる。

 やっぱり、俺達のスキルって変なのかな・・・・


「・・・・・」


 モニカも緊張で額にシワが寄っていた。


「ねえ、スキルの君のランクって何?」


 ティモの質問にモニカが最大限の緊張の思念を送ってきた。

 さてどう答えたものか・・・・



「えっと・・・父さんが亡くなったので分からなくて・・・・」


 結局、俺達が出した答えは、分からないで通そうというもの。

 これで通るところまで通せればいいが。


 でも、やはり見た感じ”王位スキル”の調整は普通ではなさそうだし・・・・


「これ、相当ランクの高い制御魔水晶だよ、よくこんなの買えたね」

「・・・ええっと、王位スキルとか・・・・」

「面白い冗談だね、でもランクが高すぎることには変わりないか・・・」


 途中で思い切って本当のことを言ってみる作戦が発動するも、軽くスルーされ、一気に”どうしようこれ・・・”的な感情に支配される俺達。

 いわゆる軽いパニック状態だ。


 しかし、王位スキルとは仮にそう言っても速攻で冗談扱いになるほどのものなのか・・・・

 その後も、ティモが頭をかきむしりながら魔法陣のあちこちを色々つついてみるが、俺達に分かるような変化はない。

 相変わらず緑色の定規の上を黒い線が波打っている。


「うーん、やっぱり駄目だ、私じゃ対応できそうにないね、ここで対応できるのは”隊位”以下の簡単なスキルの調整だけなんだ」


 そう言ってティモがぱっと魔法陣を消した。

 どうやら、大事にはならないで済みそうだが、ついでに診察もおあずけに終わりそうだ。


「・・・・ええっと、じゃあ何処に行けば・・・・」


「少なくとも”官位”よりは上だから・・・警備隊の方に行けば・・・でも今は討伐遠征中だからいないか・・・」

「警備隊の方ではもっと上のランクも診てくれるの?」 


「取り合ってくれるかは分からないけど、少なくとも診れる人はいるね、でもやっぱり厳しいかな」


 どうやらそっちの方も厳しいらしい。

 まあ俺としても、警備隊なんてところでスキルのランクを晒すようなリスクは犯したくないんだよね・・・

 あれ? でもむしろ警備隊みたいな所の方がバレても大事にならずに済むんじゃないか?

 別に悪い事しているわけじゃないのだ、どんと構えればいい。


 そう考えると、警備隊に行くのも悪くないかもしれない。


 きっとパッと見の名前に騙されて警戒しすぎたのかもしれない。


「ちなみに警備隊の方で王位スキルって分かったらどうなるの?」

「ハハハ、まだその冗談続いてるんだ、大丈夫、王位スキルなんてことはないよ、きっと親御さんが気を利かせて”官位”用の魔水晶を買ったんだよ、たまにそういうの有るんだ。

 だけど、もし本当に”王位”はないにしても、”軍位”とかだったら・・・・消されちゃうかもね」


「え?」

『え?』


 今なんてった?


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