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1-6【北の大都会 4:~ピスキアの門~】

 


 列を並ぶというのは、ただ待っているよりも疲れる。


 休もうにも、列が動くので気が抜けないし、動いても少しなのであまり進展もない。

 しかもなかなか進まないので妙に焦るし、ほんの少ししか動かないので今回はこの程度かと落胆することになる。

 そして残りの列の長さをいちいち確認して絶望感を感じるので、どんどん精神的疲労が蓄積していくのだ。


 だがそれも最初の1時間くらいの話だ。


 それ以降はある一定のストレスをキープしてそれほど変わらない。

 なにか面白い暇つぶしがあれば全然問題なく過ごせる範囲に収まる。


 んで、俺たちの暇つぶしはラウラの教科書を読むこと。


 今まで俺は読んでいたのだが、移動に集中していたモニカはほとんど読めていなかったのでちょうどいい。

 だが、そうなると逆に地球時間で2時間半というこの列の待ち時間は少々短いのだが。


「・・・つまり、魔力の波長には3方向あるの・・・?」

『そういうことになるな』


 教科書をペラペラとめくりながら、モニカが現在の項目について質問してくる。


「たて、よこ・・・たかさ?」

『教科書によると”カスター軸”、”エリダ軸”、”ホルベルト軸”の3つだ、だがそれはもっと後なんで今は気にするな』


「え? 縦と横と高さじゃないの??」

『それは俺たちのいる空間の方向であって、魔力が持っている方向じゃないんだ』


 俺も、これが未だに理解できない。


「え? じゃ魔力ってどこにあるの・・・」

『だから魔力がある場所じゃなくて、魔力の中の状態が重要で・・・・』


「魔力の中の方向ってことは、魔力の外の方向と違うの!? なんで!?」

『正直に言おう、その答えはこの教科書のどこにも書いてない』


「ええ・・・?」

『たぶん、こんな薄っぺらい本じゃ説明できないくらい難しい話な予感がするぞ、だから今はそういうもんだと思っておくしかできないよ』


「方向が3つ・・・方向が3つ・・・」


『要はその3つの方向の波長を適切に変えるのが、魔力変質だ』

「うーん・・・方向もわからないのに、どうやって変えるの・・・・」


『教科書にも書いてあるだろ、”慣れ”だって、結局は感覚の問題なんだよ』


 そしてそれから俺たちは、しばらく教科書の内容について、ああでもない、こうでもないとうんうん唸り、

 そのうち、このどっかに内容についてちゃんと答えてくれる先生はいないものかと思い始めたころにようやく、


「はい、次の人」


 俺たちの番が来た。

 

 意外と早かったな。

 列というものは、終わってみればそれ程でもなかったような気にもなるから不思議だ。


 あ、いや、記録ログの時間を表示しなくてもいいんだって・・・・


 指示してもいないのに俺の感じた違和感に対して、頑張って資料を用意してくれるスキル達。

 そのうち給料を求めてストでも起こしそうだ。


 

 案内役の兵士に促されて、検問スペースへと入る。

 石造りの門の手前に設けられた小屋のような場所の前が、そのスペースのようだ。

 ご丁寧なことに小屋には大きな窓があり、中に難しい顔をした人間が座ってこちらを睨んでいる。

 

 そして周囲を数人の兵士が固めている、まさにステレオタイプな国境審査所といった雰囲気だ。


 そして審査官と思われる人間は・・・まさかの女性なのだが、他の兵士とは異なり鎧などの兵装はしておらず、すこし厳つめのデザインの紳士服のようなものを着ていた。

 

 審査官は所属が違うのだろうか?

 そして奇妙なことに、窓の前にモニカが立っても、何もしゃべろうとはしない。


 ただ、面倒くさげな表情で、俺達を上から下までしげしげと眺めているだけだ。


「あの・・・」


 その沈黙に耐えかねたのか、モニカが気まずそうに声を発する。


「こちらが質問するまで、言葉は発しないで・・・」


 そしてそれを遮るかのように、審査官がモニカを注意する。

 いったいどうしろというのか・・・


 すると、近くにいた兵士がやってきてロメオの荷物を調べ始めた。

 どうやら、こっちがメインのようだ。


 だが思ってたのと違って、”これは何だ!?” 的な質問が飛んでこない。

 ただ淡々と荷物の内容を確認しているようだった。


 その中で少し不思議そうに練習用の棒をいじったりしている。


 念のためにフロウを2つとも服に化かして着込んでいて正解だったかもしれないな。

 棒状のフロウの質感は、なかなかに興味をそそられる。


 そして兵士がロメオの背中の毛皮の枚数を数えたあとで、モニカが身につけているカバンを開けるようにジェスチャーで指示してきた。

 

 それに対して、俺の指示でモニカができるだけゆっくりとカバンの中身を見せる。

 あまり早く動くと兵士を刺激するのではないかと思ったからだ。


 カバンの中は食料が少しと、ナイフや、フォークやスプーンの代わりに使っている小さなフロウの欠片などの簡単なものしかないが・・・

 

 あれ? ナイフって大丈夫なのか?


 そんな俺の疑問をよそに、兵士が問題ないと判断したような表情になって、脇に抱えていた謎の黄色い物体を取り出し、そこに手を当てる。

 

 するとその手を中心に親指ほどのサイズの小さな魔法陣が、黄色い物体の上にいくつも出現して、すぐに消えていった。

 いったいあれは何なのだろうか?


 こんな場所でなければ、モニカだったら興味を持っただろうに。


「あ・・・・、え・・・・、はい・・・・・・」


 すると、今度は審査官が今にも消え入りそうな声で何かを呟き出した。


 よく見れば手元の何かを見ているようだ。

 だが審査官の手元には特に書類のようなものはない。


 そのかわり一体どこから出現しているのか、黒い小さな魔法陣がいくつも出現して光っていた。


 どうもこの世界は魔法陣天国らしい。


 審査官の手元だけでなく、小屋の内部のあちこちに同じような魔法陣がいくつも出現して、それをコントロールしていると思われる兵士がそこかしこにいた。

 彼等も、”魔法学校”で教育を受けた人間なのだろうか?


 となると、少なくともここではそれほど珍しい存在ではないのかもしれない。


「はあ・・・・・、はあ・・・・・、ふん・・・・・」


 そして審査官の謎の一人つぶやきはまだ続いている。

 正直そろそろ、何か話しかけてもらわないと緊張でやばいことになりそうだ。


 主にモニカが。


「ふん・・・・・、ふん・・・・、ふーん・・・・」

「・・・・・・」


 いつまで続くのだろうか。

 緊張のせいかモニカの足が小さく震え始め、俺がそっとフロウを制御してその動きを抑える。


「・・・モニカさん?」

「・・・ひゃい!?」


 突然、名前を呼ばれビックリしてモニカが変な声を出す。

 それにしてもここまで一度も名乗っていないのに、なんで名前がわかったのだろうか?


「行政区の方に入区の記録がありますが、”モニカ”さんでよろしいですか?」

「は、はい・・・」


 なるほど、どうやらこの前の円盤のデータがここにも共有されているようだ。

 となると、姿形も登録されていると見て間違いなさそうだな。


「”モニカ・アリド”でも、”モニカ・マルス”でもなく、ただの”モニカ”ですね?」

「は、はい・・・」


 ただのモニカって・・・・

 そういえばモニカの下の名前ってあるのかな?

 こっちでもファミリーネーム的なものなのだろうか?


「出身は?」


 いきなり答えにくいのキター。 


「ええっと・・・北の方から」


 そして思わず馬鹿正直に答えてしまうモニカ。

 北じゃ何かわからんでしょう・・・・


「北部ですね」


 そして予想外にそれで問題なかった。


 あれ? もしかしてここも意外とザル?


 

「入区の目的は、”観光”と”行商”ということになっていますが、市内での目的にも変更はありませんか?」

「は、はい・・・・」


「”行商”で扱う商品は、そのパンテシアの背中の毛皮以外にはありますか?」

「えぇ・・・っと、・・・・ないです」


「武器になるものは、小さなナイフが4本と・・・あと魔法も使えますね?」


 審査官がモニカの目を一瞬だけ見て、魔法に関する質問を付け加えた。


「はい・・・少々・・・」


 魔獣を粉々にする程度の魔法を少々嗜んでおります。


「それと、何か”スキル”かそれに類するものは? あ、ここでいう”スキル”とは固有の”能力”を”何らかの形”で制御したもので、ただ抑制されているだけのものなら申告の必要はありません」


 抑制されているだけなら申告不要ということは、どうやらここではリベリオみたいな”兵位スキル”は申告しなくていいらしい。

 ただ、俺達はそういうわけにもいかないだろう。


 問題は何て言うかだが・・・

 正直に”王位スキル”と申告するべきか、それとも簡単な内容だけ伝えるか。


 モニカから”何て言おうか?”的な思念が飛んできた。


『とりあえず、魔力制御のスキルを持っているとだけ言っておけ、ランクはわからないということで』


「魔力制御スキルを持っています・・・・」


 さてここでランクを聞かれても、分からないで通るのか・・・

 

「魔力制御スキル・・・ですね、ミリエスからの感謝状の申請にもありますね」


 あぶね・・・


 どうやら、ミリエスからもある程度俺達の情報が行っているらしい。

 そういえば巨大円盤が感謝状がどうとか言っていたな・・・・


「ええ・・この度は北部の治安維持に貢献いただき誠に・・・・・」


 審査官の感謝の言葉は機械の円盤以上に機械的で、最後の部分に関しては遂に聞き取ることすらできないほど適当なものだった。


「ええ・・・なお、感謝状は市内の北部連合本部の一階で発行できます・・・と」


 それもまるで事務連絡のようにそう告げる。


「それでは、通行手続き料金として32セリスになります」


 え? お金取るの?

 まあ、ある程度は想定していたけどさ、むしろこの程度で済んだと思うしかないだろう。

 

 モニカが懐から、銀貨を数えて取り出し審査官に差し出す。

 すると審査官は直接は受け取らず、ここに入れろと目の前にある皿のようなものを指差した。

 どうやら、審査される側との接触は避けたいらしい、なかなかの警戒っぷりだな。


 少しの間、モニカがお皿の上にお金を落とすチャリンと言う音が連続して鳴り響いた。


 そしてきっちり32セリス置いたことを確認すると、審査官がお皿を回収し、いつの間にか横にいた兵士に渡した。

 お皿ごとお金を受け取った兵士は一旦部屋の奥に引っ込むと、その部屋の奥から謎の機械音が聞こえ始める。


 暫くの間、審査官とモニカの間には無言の空間が生まれ、ただその機械音だけがやたら大きく聞こえる。


 ゴクリ・・・

 

 ようやく聞こえた機械音以外の音は、緊張したモニカが生唾を飲み込む音だった。


 それからすぐに機械音は止まる。

 

 そして、審査官の後ろから兵士が現れ、謎の紙切れを審査官に渡した。

 それはよく見れば、それは俺達の事が書かれた身分証のような見た目のものだった。


「”モニカ”・・”北部出身”・・目的・・”観光”及び”行商”・・魔力使用可能、スキル有り・・魔力傾向は”黒”・・・・間違いないですか?」


 審査官がその紙に書かれた内容を読み上げていく。


「は、はい・・・・」


 審査官がモニカの返事を聞くと、机の下から大きな四角い物体を取り出し、その紙の上に乗せる。

 するとその四角い物体が一瞬まばゆくひかり、またすぐに消えた。


 そして物体を紙の上から退けると、その紙に大きな判子のような模様が追加されていた。

 

 審査官は少しの間その紙を眺めたあと、おもむろにその紙をこちらに差し出す。


「これが、この街にいる間のあなたの”身分証”になります、もし身分証の提示を求められればこれを提示してください、また3ヶ月の間はこの検問所の”通行証”の代わりにもなりますので、失くさないように」

「は、はい・・・」


 モニカが恐る恐る、自分の身分証を受け取る。


 触ってみるとその紙は意外と頑丈で、簡単に折れ曲ったりはしなさそうだ。

 そして、まだできたてホヤホヤなのだろう、ほんのりと熱を帯びている。


「それではピスキア市にようこそ」


 審査官がそう言って、手で門の方へと促す。


 それに促されるように、モニカが恐る恐る門の方へと歩き出した。

 まだ大丈夫か理解できていないようで、ロメオの手綱を握る手が真っ白になるほど握りしめていた。


 だが、門の前にいた兵士がさっと脇に避け、門を通過しても大丈夫であることがわかると一気に安堵の感情が全身に流れる。

 

 なんとか審査は全て終了したようだ。

 検問ということだったが、どう考えてもこっちのほうがよっぽど”入国審査”っぽい。


 まあ、これで晴れてピスキアの市内に入ることができるのだ。

 それに次回からはこの身分証を見せればもう少し早くなるだろう。

 次があればだが・・・・


 横を見れば”通行証持ち”の列は軽い荷物検査くらいで済んでいた。

 特にお金を取られている様子はないので、さっきのあのお金は単純に今回の手続きの費用ということなのだろう。


 

 モニカが検問スペースをあとにし、ピスキア市の門をくぐると目の前にたくさんの建物が見えてきた。

 どうやらここから先が街の内部ということだろう。


 そして門から市内へ第一歩を踏み出すと、モニカからどっと力が抜ける。


「はあぁぁ・・・・・緊張したぁ・・・・・」


 俺達は緊張をほぐすために、少しの間、門の前で中腰になって休んでいた。

 


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