1-6【北の大都会 1:~巨大な・・・~】
「はい、お餅3つね」
俺達の目の前に差し出された皿の上に乗る、大きな餅3つ。
「おおきいね・・・・」
思っていたよりも3倍くらい大きな餅だった。
これなら1つで十分だったかな。
この地域の特産である麦を使った餅だそうで、それじゃあどんなものかと注文してみたのだ。
「ふぎゅっ」
そして、とりあえず食べてみようとばかりに食らいつくモニカ。
だがこの巨大な柔軟性の塊は結構な難敵のようで、モニカが珍しく食べ物相手に苦戦している。
『よく噛めよ、喉に詰まったら大変だ』
「ふん・・ぎゃ・・んぎゃ・・・」
だが噛み切ろうにもなかなかうまくいかない。
ちなみに味の方は餅自体に少し塩味が効いていて、上から甘いタレのような物がかかっていて、それなりにいける。
モニカの方も”味はなかなかだが食べづらい”といった感じの評価に落ち着きそうだ。
さて現況を説明すると、ミリエスを出た俺達は、ピスキアまでの道のりを3日ほど進んで来ていた。
もう今日にもピスキアの行政区とやらに入るらしい。
ミリエス村の面々によると、その時に大いに驚くことになるらしいので、今から少しワクワクしていたりする。
これまでに旅の間に俺達は、ラウラから貰った魔法の教科書を俺が読んだり、新たに獲得したスキルについて俺が検証したりしていた。
ただ、移動に専念していたモニカとそれほど協力して確認ができなかったので、まだ確かめる項目は多いのだが。
「はっむ・・・、ねえ、なんでここには結界がないの?」
モニカが店の店員に疑問に思ったことを聞く。
そういえばこの村にはないな。
ここまでの道すがら幾つかの村を通ってきたが、そのどれもが要塞化しているか、ミリエスのように村に結界が張られていた。
だがここにはそのようなものは感じられないし、壁のようなものもない。
意識していれば結界の感覚はわかるので、ここに結界がないことは間違いない。
「ああ、あんた北の方から来たのかい? 安心しなよ、この辺は討伐が行き届いているから、結界がなくても大丈夫なのさ」
「そうなの?」
「ああ、よくピスキアから来た兵隊さん方がここを通るんだよ」
そう言って目の前の道を指差す。
その道はまさに俺たちがたった今通ってきたピスキアへと続く道だ。
正確にはまだピスキアまでは距離があるが、どうやらこの村はもう街を守るための防衛線の内側にあるようだ。
その時、晴れているにも関わらずゴロゴロと雷のような音が響いた。
モニカが餅を咀嚼しながら怪訝な顔になる。
「おや、噂をすれば、始まったね」
「・・・・?」
いったい何のことかといったニュアンスの声を出してはいるが、モニカ自身は実は口の中の餅のことで頭が一杯なので、気にしていない。
だが俺は、この空気を振動させるほどの轟音の正体には興味がある。
「ほれ、あれ見てみな」
そう言って店員が店の中を指差した。
いったい何のことかと振り向いてみれば、そこには一枚の張り紙。
内容は”北部連合警備隊による魔獣討伐のお知らせ”と書かれている。
「・んっ・・ごっくん・・・魔獣が出たの?」
ようやく噛んでいた餅を飲み込み、自由になった口で質問する。
「向こうの山を2つほど越えたところに出たんだとさ」
店員が指差した方向にはそれなりに大きな山脈がある。
結構前から見えていたが、ここまではずっと平原が続いていたので突然現れた山に興味が引かれていた。
「そうなの・・はむっ・・・」
だがモニカは興味がなさそうに、新たな餅へ手を伸ばす。
どうやらこの餅が気に入ったらしい。
その時、山の縁が確かに光った。
これにはモニカも流石に手を止めて、山の様子を窺う。
しばらくして、ドン!という音が大音響で辺りに響き渡る。
「おうおう、景気のいいことで」
山向こうとあってか店員も何処か他人事だ。
まあ、俺達もまるで花火見物のような気分でその光景を眺めているのだが。
それにしても凄まじい火力だな。
山の縁が冗談ではなく、花火のように様々な色に光り、ドンドンと次々に音が飛んでくる。
まだ馬車が我が物顔で走り回っている世界だが、火力だけなら俺の知る地球に匹敵するかもしれないな。
「ねえ、魔獣って一匹なの?」
その、あまりにもの大量の爆撃音に不審に思ったモニカが店員に質問する。
「さあな、どんな魔獣かは聞いてないからな、でもいつもあんなもんだよ」
「ふーん、あんなもんか・・・・」
餅を食べながら値踏みするような目で、その光景をみる。
どうやら、あの爆発音から火力を推定して、自分と比べているようだ。
ちなみの俺の目にはあの爆発音一つの火力は、フロウによる全力砲撃と互角という推定結果が出ていた。
判定としては俺達の最大火力である、”ロケットキャノン”には及ばない。
ただあれほど広範囲に連続してばら撒くとなると、あれが最大火力ではないのかもしれない。
その時、俺の予想を裏付けるように、突然山の向こうに、その山に匹敵するような巨大な火柱が現れた。
『うお!?』
「・・・・!?」
これには流石のモニカも目を見開いて驚愕する。
「おい店長! 手を止めな、すんげえ音がなるぞ!」
店員が店の奥で餅をこねていると思われる店長に向かって、大声で注意喚起する。
その直後、ブン!と表現するしかない鋭い衝撃波が一帯を駆け抜け、そのあまりの音量に全身が芯から揺さぶられた。
「うおおおおお!?」
「くぅああ!!耳がいてえぇ」
店の中から驚いたような男性の声が聞こえてきて、店員があまりの音量に耳を押さえる。
そしてモニカは目の前の世紀末的な光景に釘付けになっていた。
「あれは誰がやったの!?」
徐々に光を失い巨大なキノコ雲へと姿を変える巨大な火柱を指差しながら、モニカが興奮したような声をあげた。
「ああん? ありゃ北部連合軍の戦略魔法とかだろう、20人くらいで一つの魔法を制御するんだそうだ」
なるほどあの火力の秘密はそういうことか、流石にあれ程となると持ち合わせがない。
そしてあの火柱以降、光や衝撃音のようなものは無いので、おそらくは仕留めたのだろう。
あの魔法を食らったのがどんな魔獣だったかは興味があるが、たぶん原型を留めてはいないだろうな。
『それにしても今日は巨大なものに縁があるな』
「?」
『その餅と今の火柱、どっちも思っていたより想像より3倍はでかい』
※※※※※※
昼に休憩した村を出て、俺達はピスキアまでの道へ歩みを戻していた。
地図によると今日泊まる予定の村はピスキア行政区の内側にあるらしく、正確には村ではなくパルム地区という”地区”になるそうだ。
つまりは今日中にピスキアの行政区に入ることになる。
まだ街は遠いが、それでも目的地の一端に足を踏み入れる事には少なからぬ感動があった。
ただ、シリバ村でテオから貰った地図にはちゃんと”地区”と記載されているが、俺のログの地図の方は”村”表記なので、ひょっとすると最近変わったのかもしれない。
そんな事を考えていると、モニカが”転送”の注文をしてくる。
『はいはい水筒ね』
俺はそう言ってロメオの背中からモニカの手の中に向かって、水筒を”転送”する。
最初は戸惑ったものだが、コツを掴めばなんてことはない。
ただ何度やっても、空間を移動する瞬間が良くわからないのだ。
転送使いのスキルを”再現”した時はハッキリと理解できたように思っていたが、どうやらそれは解析スキルが見せた幻想のようだ。
今では”理解する必要ないでしょ?”とばかりにインスタントな結果だけ送ってくるようになった。
まったく自分の管理下のはずなのに、ままならないスキル共め。
ちなみにこの【転送Lv3】についてだが、どうやら完璧に再現できたわけではないようだ。
試しに槍を転送しようとしてみたのだが、何度やっても”大きすぎる”という理由で失敗する。
少なくともあの転送使いはこの槍を自由に転送していたはずなのでこれはおかしい。
そこで注目すべきはLv3というスキルのレベルだ。
おそらく転送使いのスキルは本来ならもっと高レベルなのではないか?
そしてそのレベルでのスキル使用に必要な”条件”を満たせていないので、今できる範囲で簡易的なスキルとしてだけ使えるということかもしれない。
これを裏付けるように、俺達は小さな物の転送であれば問題なく行える。
大体、一辺が50cmの立方体の中に収まるものなら転送できるだろうか。
例えばフロウは棒の状態では転送できないが、折り曲げてやれば余裕で転送できてしまうのだ。
まあ俺達が持っていないとすぐに棒に戻るので、それほど使い道はないが。
非常時にフロウをお取り寄せというのは、まだまだ無理らしい。
そしてもう一つ、メカニズムが分かっているはずなのに再現できないスキルの存在について頭を悩ませていた。
現在、俺達はリベリオの熱を発生させるスキルについて、何度も目の前で見ているのにもかかわらず未だ再現ができていない。
もちろん必要な条件を満たしていないだけの可能性もあるが、俺はそれよりも別のことが要因になっていると感じている。
それはリベリオのスキルが槍使いや転送使いと違って、制御されたものではないということだ。
ただ”力”を押さえるだけなので、使いものにならないということだ。
となると、やはりこの”再現”はスキル自体を新たに得ているのではなく、今使える”力”を使って管理スキルが模倣しているだけにすぎないのだろう。
それも恐らく似た”力”を当てはめて、制御の仕方を真似ているだけだ。
まあどちらにしろ、俺達はスキル保有者がスキルを使う所を見れば見るほど、出来ることが増えていくことに変わりはない。
どこかにいないかなぁ・・すっごい便利なスキル持ってる人。
おっと。
『はいはい、返却、返却』
俺はそう言って事務的に水筒を元の位置に戻す。
これ、あれだ。
すっごいスキルを使った、ただのマジックハンドだ。
なんとかもう少しまともな使い方を考えなければ・・・・
そんなことをやっていると、不意に視線が上を向く。
どうやら何かを感じたモニカがその方向を見たようだ。
そしてそれは気のせいではなく・・・・
「・・・・・」
本日、二度目の絶句。
無理もない、俺も一瞬思考が止まってしまった。
見たものを簡潔に説明すると、羽が生え、全身に青白い宝石のような鱗を身にまとった、細長い生き物・・・・それもやたら格好いいの・・・
明らかに”ドラゴン”が空を飛んでいた。
「・・・・・・」
まるで釘付けにされたようにその勇姿を眺めるモニカ・・・プラス俺。
魔法とかスキルとか魔獣とか居るし本でもチラチラ見かけていたので、そろそろ来るかなぁ、とは思っていたが。
遂にこうして実際に本物のドラゴンの姿を見てみると、なんというか意外にも最初は『クマとそんなに変わんないんじゃ・・・・』なんて感想が出てくるから不思議だ。
そしてよくよく観察して初めて、何とも言えない感慨のようなものが湧いてくる。
ドラゴンの顔には東洋の龍のような髭のようなものはなく、かなりイケメンの犬といった印象だ。
ただし頭からは太くて鋭角な角が左右対称に一対あり、恐らくそれが発達して角になったのであろう巨大な鱗がまるで兜のように、頭を取り囲んでいた。
その鱗はまるで宝石のように輝いていて、かなり長い尻尾の先まで覆っている。
そしてその巨体を支える大きな翼は根元の部分がかなり重武装といった見た目だが、全体としては細長く、翼長は全長よりも長い。
そしてその全長だが、これが俺達が今まで見たどの生き物と比較しても圧倒的に大きい。
おそらく70mはあるのではないか?
完全に出る作品を間違えている。
あれなら、ゴ◯ラの対戦相手にいても全然問題ないだろう。
背中に乗っている人がまるでその辺で付けた米粒のようだ。
そう、あの竜・・・驚いたことに人に飼われているのだ。
無駄に巨大なベルトで背中に鞍が固定されている。
乗っている人間は、ここからでははっきりとは見えないが、それでも俺の記録能力とスキル補正を使えばそれなりの風貌はわかった。
そしてこれが一番驚いたことなのだが、なんと乗っていたのは青い髪の少女だった。
モニカより何歳か上、ラウラと同じか少し上といったところか?
その青い髪と竜の鱗が発するキラキラとした何か・・・なんだあれ? まあ、その”ファンタジック”な何かのせいで、本当に神話から飛び出してきたかのようだ。
「・・・・・」
ちなみにモニカは先程から一言も発していない。
ただひたすら、上空を飛ぶ彼女等の姿を食い入るように見つめている。
いったい何を考えているやら・・・
それにしてもあいつら、とんでもなく高い所を飛んでるな。
酸素や寒さと行った要素はどうしているのだろうか?
ああ、あれか、魔法か、ご丁寧に魔法陣が幾つも出ているな。
しかしあんなところにいても平気でいられるんだな魔法って。
どうせそのうち、あれに感化されたモニカが飛んでいるときに高度を上げたがる筈なので、俺達もさっさと勉強してあの高度までいけるようにならねば。
そしてその珍妙で雄大な青いコンビは、俺達と同じ方向に向かって飛んでいった。
おそらく彼等もピスキアを目指しているのだろう。
『まったく、都会ってところは恐いな・・・』
「・・・・」
『あんなのも居るんだ』
その言葉で、モニカの中の都会人のイメージが、何十mもある竜を飼って空を飛ぶような者達という感じになったのが手に取るように分かった。
きっとそのうち『ウチでドラゴン飼っていい?』なんて言い出すのだろう。
※※※※※※※※
さて、ここからが本日のメインディッシュである。
俺もモニカも、今日一日で巨大な餅に、巨大な火柱、そして巨大な竜と、一気に驚くことが起こったので、まさかこれ以上驚くことはないと高をくくっていた。
特に巨大さに関しては、もう耐性がついたものと思っていたので、まさか”それ”の巨大さにもビックリする事になるとは微塵も考えていなかったのである。
既に日が暮れ始め、周囲が薄暗くなってきた頃。
まず初めに感じたのは、ブーンという謎の振動音だ。
それも小さな音ではない。
すぐにモニカが足を止め周囲を警戒する・・・も何もなし。
奇妙なのは音に敏感な方なロメオがこの音に対して不快感を露わにするものの、暴れたり逃げ出そうとしたりしないのだ。
その様子を見て俺はこの音の正体にピンとくる。
『モニカ、どうやらお出ましのようだ』
「ラウラたちが言ってたやつだよね・・・」
ピスキアの行政区に入るときに、腰を抜かすほどビックリする・・・・
脳内マップをチェックしてみると、たしかにこの辺りが行政区の境界になっていた。
さて、そのビックリとやらはどこから来るのか・・・
無意識にモニカが腰をかがめて防御態勢を取る。
だがロメオの様子を見るに害はないのだろうが・・・・
だが、俺達の視界の先には何も現れない。
それでもノイズの様なブーンという音の量は、どんどん増してきていた。
それにしてもまるで周囲から均等に聞こえてくるようだ。
音の出処の方角がよく分からない・・・
いったいどこから聞こえてきているのか?
そのとき、ふとモニカがまたも上を見上げる。
まさか二度も上に何かが居るわけがない・・・・心の何処かでそう思っていたせいで、俺達は腰を抜かしてしまった。
俺達のすぐ頭上に、人の顔よりも大きな目玉のようなものが浮かんでいた。
そしてその謎の目玉と目が合う。
ゾワリと寒気のような物が全身に走った。
よく見ればそれは目玉だけではなく、何かの機械のようなものから生えており、さらにその機械は長いコードのようなもので上から吊り下げられている。
そしてモニカがほとんど無意識にそのコードを辿っていく・・・すると、視界一杯に広がる巨大な機械の物体が空を覆い尽くしていたのだ。
俺はその機械の表面に走る独特の模様で、この物体の正体にすぐに思い至る。
『モニカ、ゴーレムだ!』
「え!?」
『この見えているやつ全部、ゴーレムで制御された機械なんだよ!』
それを聞いたモニカの表情をなんと表現していいものか・・・
とにかく、正体を知ったモニカは何を考えたのか、必死にその目玉に向かって手を伸ばした。
だがどれほど伸ばそうにも、ギリギリ届かない位置に目玉は陣取っている。
そして・・・
「ようこそ! ピスキア行政区へ!」
鼓膜が破れるかと思うほどの音量で、目玉からそんな言葉が発せられた。
そしてその声はまるで、受付のお姉さんのように澄んだものだった。
次回:「モニカ、都会に行く」




