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1-5【辺境のお祭り 6:~魔の灯火~】



「えー、みなさま、本日はお疲れ様でした!!!」

「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」


「祭りもあと三日間、頑張っていきましょう!!!!」

「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」


 村長の挨拶に、数人いるまだ元気のある若者が掛け声で応える。


 今日の予定が一通り終了し実行本部となっている村の役場で夕食兼祝勝会的な宴会が開かれていた。

 ただ、まだ祭りは数日続き、別に今日が初日というわけでもなく、さらに出店の管理などの祭りの諸業務などは未だ継続中とあってか、全体的に参加者のノリは悪い。

 

 村長の挨拶も少々適当だし、応えてくれる人数もそんなにいない。


 俺達が参加した聖王一行の行進の関係者も、明日に備えてそれほど積極的ではない。

 お婆さんがやっている赤の従者役などは端の方でまるで死体のように転がっている始末だ。

 本当に死んでないよなあれ?


 結局俺達はあれから、また別の広場で2回ほど行進を行った。

 なんでも、1日計5回ほど行進があるらしい。

 全て違う広場で行われる上に、その度にそれなりの準備が必要なので想像以上にハードだ。

 おかげで出演者はみんなどこか魂が抜けたような顔をしていた。

 


「ねえ」


 モニカがその中の一人、緑の従者役の女の子に声をかけた。


「ん? おや、黒の従者様じゃない、どうしたの?」

「モニカ」

「え?」

「名前、わたしはモニカ」

「ああそういうこと、ラウラだよ」


 少女がラウラと名乗りニコリと笑う。

 名前を聞かれたことを喜んでいるようだった。


「ラウラはルミオラに通ってるの?」

「うん、中等部だけどね、今は休暇でこの村に一時帰宅中、でもこのお祭りで予定潰れたけどね」

「どんなところ?」


「どんなところ・・・・・といってもねえ」


 ラウラがそう言って少し考え込む。


「ルミオラは一応街だからね」

「街なの?」

「正確にはルミオラって街の中にいくつか学校があるの、それをみんなまとめて”ルミオラ”って呼んでるだけ、その辺はアクリラとかと一緒」


『あれ? でもルミオラって国立なんだろ? 一つじゃないのか?』

「ルミオラって一つじゃないの?」


「うーん、そのへん私もよくわかんないんだよね、いろんな学校があるともいえるし、みんな一緒だとも思うし・・・」

「どっちなの?」

「私の感覚としては一つの学校かな、校長先生も一人だし、でも行事は結構バラバラにやるんだよね」


 どうやらその実態は通っている人間にも掴みづらいものらしい。


「それで、そこでどんなことを学べるの?」

「それは完全に人によりけりかな、私なんかは緑が強いから、状態変化系に進もうかと考えているけど」

「わたしだったら、どんなことができる?」


 そう聞いたモニカの唇は微かに震えていた。

 だがその目は真剣だ。


「モニカちゃんねぇ・・・黒でしょ?」

「やっぱり黒なのかな・・・」

「魔法陣もすっごく黒だし、それだけ目が黒いなら、やっぱり黒傾向が得意だと思うよ、というか黒しか使えないかもしれない」

「黒しか使えない・・・」


 その言葉にモニカが露骨に落ち込む。 


「でもその代わり、黒傾向なら他の人よりも遥かに強いと思うよ、それに白と黒は応用性もバリエーションも高いし、あたしみたいな中途半端な緑からしてみれば羨ましいくらいだよ」


 そういって白い髪を弄りながら、少し憂いを含んだ眼差しでその髪を見つめる。

 よく見ればその瞳も緑色に光ってはいるが、緑一色というわけではない。


「・・・・ゴーレム魔法は使える?」


 モニカがなけなしの勇気を以ってそう尋ねる。


「ゴーレムは一応黒系統だよね、興味あるの? でもあれほとんどゴーレムスキルがないと何もできないって聞くよ」

「そうなの・・・」


 モニカがその答えを聞いて黙り込む。

 そして、それを見たラウラが若干慌てだした。

 どうやら急に俯いたモニカが落ち込んだと勘違いしたようだ。


 だが実際は今モニカはあまりの歓喜と安心に言葉がなくなっていたのだ。

 

 そうか、ゴーレムは黒系統なのか・・・・

 ならば俺達との親和性は高いだろう。

 それにスキルがないと何もできないという情報も大きな障害にはならない、俺達はただ起動しないだけでゴーレムスキルも持ってはいるのだ。




「そうだ、簡単な魔法でもお姉さんが教えてあげようか?」


 モニカが落ち込んだと勘違いしたラウラがなんとか元気づけようと、そんな提案をしてきた。


「いいの!?」


 それを聞いたモニカの表情がパアッ!と明るくなる。

 そして、それを見たラウラも安心したのか表情が明るくなった。


「モニカちゃんは学校行ってないんだよね? じゃあ魔力変質は殆ど知らないよね?」

「うーん、どうだろう?」


 俺はモニカの使える魔法のラインナップを思い出す。


『”家”魔法でちょっと使ってるくらいで、あとはさっぱりだぞ』

「わかんないみたい」


「わかんないみたいって・・・まあ、変質は本とかでも制限されているからね・・・でも魔法陣の扱いからして操作は完璧だから・・・・じゃあ、これ!」


 ラウラがそう言って指を一本持ち上げる。


「?」


 モニカがその指先を見つめ、俺もそこに意識を集中する。

 

 するとわずかに指が緑色に光ったかと思うと、突然小さな魔法陣が現れ、その上に小指ほどの大きさの小さな緑色の炎が灯った。


「ほへー・・・・」


 モニカがその光景に驚嘆の声を出す。

 かくいう俺もその妙に”魔法っぽい”光景に感動していた。

 これまで俺達が使ってきた魔法は、魔力の塊をそのままぶつけたり、その魔力を噴射したり、フロウを魔力で変形させたりと、とにかく魔力の操作と量でゴリ押しする”原始的”なものばかりだった。


 ところがこの目の前の小さな炎のスマートなこと、こんなに小さいのに気品すら感じる。

 指先から細い緑色の光が伸び、複雑に形を変えて魔法陣を形成し、そしてそこからさらに変形して炎へ変わるその姿は精密時計のようですらある。


 その小さな炎はまるで、これが”本物の魔法だ!”と言っているようだった。


「どう? 魔力変質の基礎 ”魔の灯火” だよ」

「・・・・・」


 モニカは黙ったままだ。


「どうしたの?」

「す・・・」

「す?」


「すごーーい!!」


 モニカの声が役場の中に響き渡り、皆が何事かと一斉にこちらを向く。

 それに気付いたモニカが慌てて縮こまり、恥ずかしそうに表情を赤らめる。


「フフ、そんなに喜んでくれるとは見せた甲斐があったよ」

「でもそれ、わたしにも使えるの?」


 モニカが指摘するように、ラウラの指先に灯った炎は緑色で黒の魔力を持つ俺達では一見すると使えそうには見えない。


「大丈夫、大丈夫、”魔の灯火”はどの色の傾向も持ってない本当に基礎の魔法なの、色はただ単に私の魔力の色が出ただけ」

「本当?」

「嘘は教えないよ、それじゃやってみよう、まずは指先に魔力を少しだけ出してみて」


 モニカがいわれたとおり指を上げ、そこに魔力を流す。

 すかさず俺がその魔力をその場で固定させた。


「うーん、そんなにしっかりと魔力を固定されると、お姉さんの立場が・・・」

「早く次を教えて!」


 何やらラウラが愚痴っているが、まるで餌をねだる雛鳥のようにモニカがせっつくのであっという間にその愚痴が流されてしまった。


「わかったから、ゆっくり喋らせて、ええと次はその魔力で魔法陣を組むの ”カル” って唱えてみて」

「”カル”」


 その途端、指の上で魔力が変形を始め魔法陣の形をとり始める。

 その動きは覚束ないが、俺がラウラの魔法陣を真似るように魔力を変形させると、問題なく同じ形になった。

 ”カル”とは簡単に言えば”熱”と同じ意味の言葉だ、その言葉に釣られるように魔法陣から熱が発せられ始める。


「さすが・・・それが”熱”の魔法陣だよ、ってか一発で決まるのか・・・」

「これが・・」

『凄いなこれは・・・・』


 見ただけではここまで理解できなかったが、実際に展開してみると魔法陣の凄まじさが文字通り手に取るように分かる。 

 まだ着火はしていないが、魔法陣が発する熱の効率が段違いだ。

 ただ単に魔力を圧縮して熱を発生させていた今までと違って、非常に安定していてしかも恐ろしく低燃費だ。


 今はじめてリコの言った”獣”の意味がわかった。

 これを知ってしまえば確かに今までの戦い方はクマか何かのようにしか思えなくなってしまう。


『これを上手く使えれば、今までの魔法の威力を大幅に上げたり、燃費を劇的に改善させることだって出来るぞ』


 目の前に見える小さな黒い魔法陣。

 それはとても簡素で儚げな存在だが、今までにないほどの”可能性”を感じさせていた。


「さて、この後どうやって火をつけると思う?」

「うーん」


 モニカが魔法陣を見つめる、かくいう俺もその姿に視線を集中させていた。

 

 魔法陣はすでに多くの熱を持っているが発火する様子はない。

 この状態でも中心部に大量の魔力を注ぎ込めば火を噴くだろうが、それはこの場合、間違いなく不正解だということは分かる。

 

 ラウラが先程使った魔力は本当に少しで、現在の状態でも少し過剰気味なのだ。

 つまり少なくともこれ以上魔力の補給は必要としないはず。

 それに密度を上げて熱を増やすのも何か違う気がする。


 となると、やはり変換をメインに弄るしかないな。

 俺はじっくりと魔力変換の様子を観察してみることにした。


 どうも魔力が魔法陣の縁を通過した後、中心部の複雑な模様の中に入っていく過程で熱を持った魔力に変換されている気がする・・・・

 

 熱を持った魔力? 熱ではなくて?


 俺は本当に何気なくその魔力の正体が見たくて、魔法陣の中央からその魔力を引っ張り出してみた。



シュボッ・・


「え?」

「あ、」

『あれ?』


 目の前の魔法陣から立ち上る小さな真っ黒な炎。

 どっからどう見ても、ラウラが見本で見せた炎の色違いだ。


「でき・・・た?」


 モニカが意味もないのに、おそるおそるといった感じにラウラに問いかける。


「できてるね・・・ちゃんとできてる・・・」

「・・・ロン、どうやったの?」


 モニカが俺に尋ねてきた。

 だが俺に尋ねられても、俺自身何が起こったのかよく分かってない。


『魔法陣の中に溜まってた”熱を持った魔力”を引っ張り出しただけなんだけどな・・・』

「それだけ?」

『ああ、それだけ』


 不審に思ったモニカがもう一方の指で同じことをしてみる。

 だが、今回は俺の介入を拒否しているのでなかなか魔法陣から先に進めていないようだ。


「うーーーーん・・・・・」


 徐々に唸り始めるモニカ。

 俺の言うとおりに魔力を引っ張り出そうとしているようだが、上手くいっていない。


『違う違う、それは魔法陣の外の魔力だ、動かすのはその先』

「・・・ん・・ん・・・」

『そこじゃない、魔法陣の中心だ・・・そこはふち


 どうやら魔力の所在地が掴めていないらしい。


「・・まかせた!」


 最終的に諦めたようだ。

 その合図とともに俺が正しい操作を実行すると、またあっさりと魔法陣の中央に火が灯る。


「おやモニカちゃん、火、点けられるようになったのかい?」

「役場は燃やさないように気をつけてくれよ、一応、石造りだけど内装は木も使ってるんだ」

「うわ、黒い火ってそんなふうになるんだ!?」

「さすが黒の従者様、偽物とは大違いだ!」

「うるせえな!」


 どうやら周りにいた人たちが俺達に興味を持ったようで、口々にモニカの両手に灯る火について何か言っている。


「ラウラちゃんが教えたのかい? ちょっと見ない間にお姉ちゃんらしくなっちゃって」

「さすがこの村始まって以来の天才だ! 教えるのも優秀だ!」

「ラウラちゃん帰ってたんだ、おかえり!」


 次いで、話題が俺達に”魔の灯火”を教えたラウラへと向かう。

 だが、当のラウラはそれに返事をせず、顎に手を当てて何かを考えながらこちらを見ていた。


「ねえ、モニカちゃん?」

「ん?どうしたのラウラ?」



「モニカちゃんって・・・」


 ラウラがじっとこちらの目を見つめてきた。


「ひょっとして魔力操作系のスキル持ってる?」



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