1-4【シリバ村のぬくもり 5:~準備~】
「すまねえな嬢ちゃん、俺も付いて行ってやりたいんだが・・・・」
申し訳なさそうにリコが謝る。
「いいよ、それがレンジャーの使命なんでしょ?」
「そう言ってもらえると助かる、俺が嬢ちゃんの身を案じるのは分不相応かもしれねえが、道中には気をつけろよ」
リコはこれからすぐに俺たちと出会った森の中へと戻っていく。
それが彼の持ち場であり、この付近の村々のレンジャーの仕事なのだ。
彼等の仕事は森や山脈に生息する多くの肉食獣の動向を探ること、そして危険をいち早く周囲に伝えることだ。
したがって持ち場の長期離脱は許されない。
既に支度を終えているリコは俺達よりも先にこの村を立つことになった。
「それじゃ、またいつか何処かで会おうなモニカ」
「うん、またね、リコ」
そうして俺達は初めての”他人”の旅立ちを見送った。
次は俺達の番だ。
「最後にもう一度聞くが、本当にこの村にいる気はないか?」
村長が名残惜しそうに聞いてきた。
「わたしの旅の目的は一つ」
「そう言われれば仕方がないか、子供一人守れないなんてなんとも情けない話だが、もしこの先で辛くなったらここに来なさい、私たちはいつでも歓迎する」
「ありがとう、でもなんでそこまでしてくれるの?」
これは昨日俺がモニカに聞くように頼んで結局聞けなかった質問だ。
「村の大きな悩みを解決してくれた恩に報いるため、というのは間違いなく本音だし、その分に関してこれでも全く報いたうちに入らないのも事実だが、それだけじゃない事も認めなければならないな」
「それだけじゃない?」
「モニカ嬢ちゃんはそれだけの魔力があれば将来間違いなくその名が轟く、その時、何処か別の場所のモニカよりは、シリバ村のモニカと轟いた方が嬉しいだろ?」
なるほどモニカの将来性を見込んでのことか、それならわかりやすい。
だが残念ながらそれだと投資額が足りないようだ。
『モニカ、村長に盛大に感謝してやれ』
「なんで?」
『面白いから』
「村長さん、本当にありがとうございました。」
そこでペコリと頭を下げるモニカ。
それを見て苦笑いする村長。
モニカの選択肢を増やすために、この借りはそう簡単に減らさせてたまるか。
「まあ、それじゃ事務的なことから行くぞ、まずこれだ」
村長から処理を引き継いだテオが声を上げた。
そして何やら木製の丸いケースのようなものを渡される。
中には数枚の丸めた紙が入っていた。
「中に入っているのはピスキアまでと街の中の地図と、アルヴィン商会と冒険者協会への紹介状、それにグルドの討伐依頼書と討伐完了証明書、それとピスキア市内のブラックリストだ」
「ブラックリスト?」
「ピスキアはでかい街だからな、嬢ちゃんみたいなのがフラフラ出歩いてると危ない場所も多い」
だが、俺達が危険を感じるようなところなのか?
そういう意図を込めてモニカがフロウを担ぎ直す。
「チッチ、駄目だよ気をつけなきゃ、都会は怖いところだ、嬢ちゃんがどれだけ強くても社会的弱者である意識は忘れちゃいけない、じゃないとあっという間に足元をすくわれる」
「わかった」
「よしいい返事だ、まずは冒険者協会の分の紹介状と討伐完了証明書を出してみろ」
モニカがケースを開け中から書類を取り出す。
「これ?」
そう言ってモニカが2枚の書類を取り出した。
「そうだ、というか嬢ちゃんて文字が読めるんだな、どうやって教えようか悩んでいたのが無駄になったぜ」
テオのその言葉に、モニカが得意げな顔を見せる。
「まずは冒険者協会に行ってその2つを渡せ、だが注意しろ、渡すのは討伐完了証明書であって討伐依頼書じゃない、討伐依頼書は求められてもその段階では絶対渡すな」
「なんで?」
「窓口で報酬をちょろまかすやつがたまにいるんだ、その時のために報酬額が記載された書類が必要になる、いいか?、報酬が書いてあるのと同じなのを確認して初めて依頼書の方を渡すんだ」
「うーん、わかった」
「本当にわかったのか?数の数え方は知っているか?ちょっと依頼書に書いてある額を読んでみろ」
モニカがケースの中からもう一枚の紙を取り出して読む。
そこにはDランク魔獣”アルバの森の死神”と記載されていた。
結構な異名を持ってたんだなあいつ。
「グルドじゃないの?」
「それは仲間内でそう呼んでるだけだ、だがもしこいつがCランクに上がった場合は、たぶん”なんとかのグルド”ってなってただろうな、バルジがそうだった」
「バルジはなんて書かれてたの?」
「極北のバルジだ」
「格好いい、いつか戦ってみたい」
「それは無理だろうな、バルジは基本的に山からほとんど降りてこないし、山は嬢ちゃんが向かう方向とは逆だ」
「それは残念」
「だったら成長したら討伐に来ればいいさ」
「うん、そうする」
「その時を楽しみにしてるぜ、さてグルドに話を戻して、そいつの報酬はいくらって書いてある?」
「ええっと、いち、じゅう、ひゃく、7200セリス!」
「よし正解だ、それがピスキア都市から支払われる総額だ、いいかちゃんと数えろよ」
「わかった」
「さてその金と依頼書を引き換えたら、その場で銀行に預けたいと言え」
「銀行?」
「冒険者協会がやってる事業で協会証を利用してお金を協会に出し入れできるようにしてるんだ」
「なんの意味があるの?」
「単純に現金を持ち歩かなくていい、他にも色々あるがそれだけ覚えてりゃ問題はないだろう、手元に残しときたい額以外は預けちまったほうが楽だ」
「いくら残せばいいの?」
俺もそれが知りたい。
「だいたい100セリスもあれば1週間は宿に泊まれる、それを目安にすればいい」
なるほどこれは貴重な情報だ。
これで大まかな物価がわかった。
テオに俺からも感謝したい。
「ありがとう」
俺の意を酌んだモニカがテオに礼を言う。
「感謝するのはこのやり取りが終わったあとにしてくれ、次にアルヴィン商会への紹介状だが、これは商会の窓口で渡してくれ、たぶんそれで行けるはずだ」
「窓口で渡す・・・・わかった」
「本当にわかったか?、じゃあ窓口ってなんだ?」
「・・・・なに?」
モニカが俺に助けを求める。
『ああ・・・大きな建物の中で、俺達の話を聞いて手続きをしてくれる人・・・・だ』
「今のテオみたいな人がいる所」
俺の説明を噛み砕いてモニカが理解した内容をテオに伝える。
それを聞いてテオが軽く苦笑いした。
「まあ、間違っちゃいねえか・・・・あと毛皮を売ったらお金とは別に何か封筒をくれる筈だから、それを受け取ったら今度は街の中央局へ行ってくれ、そこでそれを渡してくれればいい」
「その封筒は何?」
「ちゃんとお嬢ちゃんから適正な値段で買い取ったよっていう証明書さ、中央局から村長に送ってきてもらって村長がそこにサインして、そこで初めて取引終了になる」
「へぇぇ」
なんともまた面倒な話だな。
「それくらい重い紹介状ってことだ、威力は期待してくれていいぜ」
どうやら思ったより村長は全力で借りを返しに来ているらしい。
「ありがとう」
今度の感謝に対しては村長は笑みが浮かんでいる。
そうとうに自信があるのだろうな。
「さて、ここまででピスキアに行ってやることは説明したが、ちゃんと覚えたか?」
「うん」
「嘘つけ、一回で覚えられる量じゃない、何をするか言ってみろ」
「まずは・・・」
その後、モニカはテオから示された手順を完璧に暗唱してみせ、テオと村長を大いに驚かせることになる。
そしてそれで納得行かないテオは結局3回もモニカに内容を話させた。
だが何度やっても結果は同じだ。
なにせモニカには”俺”が付いているのだ、そしてその俺には”完全記憶”がある。
前の話とこの話とこの後の話は、実は最初全部まとめて一話だったのですが結局分裂してしまいました。




