1-4【シリバ村のぬくもり 2:~テオ~】
「あら、かわいい」
「うふふ、こっちにおいでよ」
シリバの村の女性たちが俺たちを手招きしてくる。
だが、当のモニカは門のすぐ外で固まって動かない。
「大丈夫か嬢ちゃん?」
モニカの異変に気づいたリコが声をかけてきた。
だがそれも無反応だ。
『モニカ、早く入るぞ』
「う、うん・・・」
俺が声をかけると流石に動き始めたが、どうも動きがぎこちない。
まるで戦闘時のような警戒態勢で常に周囲をせわしなく観察している。
どうやら人が多くて落ち着かないらしい。
無理もない、モニカが覚えている範囲でモニカが出会った人間の数はたった二人しかいないのだ。
それもつい先日二人になったばかりで、それまでは天涯孤独の人生を歩んでいたモニカにとって見れば、二桁に達する他人というものはかつてない状況だった。
そんなわけでほとんどおぼついていない足をなんとか引っ張りながら村の中に入ることになった。
シリバの門をくぐると内部の様子がよく見えた。
モニカがキョロキョロと周りを見渡すので把握するのが容易い。
外から眺めて予想した大きさ通り、村の大きさは300m四方で中央に行くほど小高くなっている。
家も個別の小さな家も数件あるが大部分は大きな建物が占めていた。
特徴的なのは大きな壁と物見櫓で、人口に対してかなり多くの見張りが立っている。
印象としては村というよりちょっとした要塞のようだった。
「おいリコ!聞いたぞ!子連れだってな!」
「!?」
突然大きな声が掛けられモニカがビクッと体を震わせる。
おそるおそる声のした方を見てみると薄緑のローブを羽織った少々軽薄そうな男が立っていた。
「村長へ話はいったか?」
「ああ、そのことで俺が来た、少しだけ待ってほしいらしい、ところで嬢ちゃん」
「ひっ!?」
声を掛けられたモニカが緊張してリコの後ろに隠れるように移動した。
「あっはっはっは!!こりゃケッサクだ!リコ、お前いつの間にどこでこんな可愛い子こしらえたんだよ?」
そういってその男が大きな声で笑う。
客観的に見ればそれほど大きな声ではないのだが、緊張しているモニカにしてみればかなり大きく聞こえるようで、この男に対して若干恐怖感を感じているようだ。
「俺の子じゃねえよ、ただ人見知りが激しいだけだ」
「そんなでかいソリを引っ張り回すくらい強いのに中身はちゃんと子供なんだな、よう嬢ちゃん!俺はこの村で顔役みたいなことやってるテオってんだ、よろしくな」
そう言ってテオと名乗る男が右手を差し出してきた、どうやら握手したいらしい。
しかしモニカはそれに応える余裕は無いようで、リコの影から覗き込むようにテオの姿を見ながら、
「・・・・モニカ」
そう名乗るだけに留めた。
ひょっとしたら握手という文化を知らないだけかもしれないが、仮に知っていたとしても応じることはなかったかもしれない。
「モニカか、可愛い名前だな、マシャあたりの子か?あそこには可愛い子がいっぱいいるからモニカもそこから来たのかな?」
「・・・・・・・」
「あははは、嫌われちった、これでも女には結構モテるんだけどな」
「お前はこんな子供にまで好かれたいのか?」
テオの軽口にリコがツッコミを入れる。
「何言ってんだリコ!こんなかわいいんだぞ!?もう数年したら絶世の美女に決まってるじゃないか!その時になって気づいたんじゃ、それじゃまるで俺がアホみたいになるじゃないか!」
「お前はアホだろ!それより要件はそれだけか?」
「もちろん違う、嬢ちゃん、そのソリはあそこの倉庫に止めておいてくれ」
そう言ってテオが村の門のそばにある倉庫を指差した。
そしてその指示を受けモニカが不安そうな顔をするとすかさず、
「大丈夫だ、この村じゃ皆お互い顔見知りだ、人のものを取ったりいたずらしたりするやつはいない、それにあそこの連中が嬢ちゃんが戻るまでずっと見ているはずだ」
そう言って門のそばに居る男たちを指差す。
「それに俺が責任を持って鍵をかける、だから大丈夫だ」
「お前が責任を持つっていうと不安しかないな」
「おい、リコちょっと黙ってろ、、大丈夫だ嬢ちゃんこれでも信用で成り立っている人間なんだ」
テオはそう言って両手を広げておどけてみせた。
「どう思う?」
モニカが小声でつぶやいた。
『まあ、ここでソリをちょろまかす理由はないな、それにリコも口ではああ言っているが信用しているみたいだ』
結局それが決め手となったのかモニカは指示されたとおり倉庫の中までソリを引っ張っていきそこで腰のロープを外す。
テオはソリに興味津々のようで特にその材料である巨大な骨を見て驚いていた。
「それにしてもでっかい骨だな、何の骨だ?」
「・・・・サイカリウス」
モニカがぶっきらぼうにそう答える。
「サイカリウスね・・・この辺じゃ聞かないな、リコ知ってるか?」
「おめえサイカリウスも知らねえのかよ、もっと寒いところにいる無茶苦茶でけえ猛獣だ、時々山脈の深いところまで来ることがある」
「それはすげえな、こんなでけえのか?この骨見てみろよ、ほとんどアントラムと変わらないじゃないか」
テオが子供のようにサイカリウスの骨を見ながらはしゃいでいる。
『そうだモニカ、』
これだけ口が軽そうなんだここでついでに聞いてしまってもいいだろう。
そういってモニカに聞いてほしい内容を伝える。
「ねえ、テオこの村で毛皮を買ってくれる人って居る?」
「ん? 毛皮っていうとこのソリの乗っているやつか?」
「そう、いくらくらいで売れるのか知りたくて」
「ちょっとまってくれな・・・・」
テオが後ろのソリに積んである毛皮を軽く触る。
「こりゃ、見たことねえ毛皮だ、親父に聞いてみないとどうにも、ただすげえモコモコだな、これもそのサイカリウスから取ったのか?」
「そう」
「だったら、取り扱ったことがねえな、値段もわからねえ」
どうやらサイカリウスの毛皮はここでは珍しいらしい。
まあもっと北の方の生き物だからな。
「アントラムの毛皮は1ブル四方で50セリスくらいだろ?」
リコがそう言った。
なるほどアントラムの毛皮は50セリスくらいなのか。
いいことを聞いた。
「54セリスな、だがこんだけモコモコだと同じ値段にはならんだろう」
「わからないの?」
「ゴメンな嬢ちゃん、俺じゃ高いか安いかもわからない」
「分かる人はいる?」
「ここに来る商人が知ってるかどうか、あとは村長やってる親父なら見たことあるかもしれん」
「じゃあ聞いてみる」
モニカが一番上の毛皮を脇に抱えた。
村長にサンプルとしてこれを見せるということだろうか。
それとは別に前のソリの底から木箱を取り出して、手持ちカバンの中にしまった。
これは本当に大事なものなので手元においておきたいということか。
「よし、準備はそれでいいな、それじゃ鍵閉めるぞ、村長の方ももう用意できているだろう」
3人共外に出るとテオが倉庫の扉を閉め、ガチャリと南京錠を掛けた。
それでもモニカは不安があるようで倉庫の扉をしばらくじっと見ていた。
だがすぐに意を決したようでテオの方に向き直る。
「おっし、それじゃあいこうか」
村長の家は村の一番高い部分から少し下ったところにあった。
そして意外なことにとても地味でこの村の中でも目立たないほうだ。
「村長!つれてきたぞ」
テオが村長の家の扉を開ける。
扉は雪国らしいとても頑丈で分厚く、さらに中にももう一つ扉があり外の空気がもれないようになっている。
そしてその扉を開けるとそこはちょっとした広間のようになっていた。
ただ広間と言ってもまるで公民館のような地味さで、天井の方にある明かり窓だけでは足らないのか若干薄暗い。
よく見れば細長い宝石のような形の光る石が照明代わりに付けられているが、ほとんど気休めに近い。
まあ、こんなのでも夜中は役に立つだろうが。
「リコ、待たせてすまなかったな、そっちが拾ってきた子供かね?」
「・・・モニカ」
「ああ、モニカというのか、さあさあ好きな所に座って」
そう言って村長が広間の中の椅子を勧めてきた。
それにしてもずいぶん物腰の低い村長だな、それともモニカが子供だからこういう対応ということなのだろうか。
一方モニカはおっかなびっくりといった調子でどうしようかと固まっている。
『どうした?』
「椅子がいっぱいある・・・どれに座ったらいいかわからない」
どうやらこれほど大量の椅子を前にしたことがないらしく、どうしていいのかわからないと小声で助けを求めてきた。
『好きな所に座ってって言われたんだから、適当に選べばいいと思うよ』
「それじゃこれで・・・」
そう言って端っこの方の椅子におそるおそる座る。
そして落ち着き無く周囲の様子をキョロキョロと伺い出した。
完全に借りてきた猫状態だ。
「ははは、怖がらなくてもいいよ、それよりもリコ、グルドが死んだって本当か?」
村長はモニカには優しい目で、リコには真剣な目で応対した。
この辺は流石村長ということだろうか。
「これが証拠です」
そういってリコが昨日”グルド”の死体から剥ぎ取った毛皮の一部を村長に見せる。
広げると50cmほどの茶色い毛皮には大きく白い丸があり、その中にバッテンの様な模様があった。
「左腕の白いマルバツ・・・・たしかにグルドのものだ、それでなんで死んだんだ?」
するとリコがこちらを見てきた。
そしてそれだけで村長は事態を察したらしい。
「ああ、なるほどモニカ嬢ちゃんは”魔女”なのか・・・・」
そういって村長がモニカの目をじっと見てきた。
その視線に思わず体が固まる。
そして村長は俺達を見ながら少し考えるように間をおくと、言葉を続けた。
「まずは、この村を代表して感謝したい」
これ投稿した時点のランキングで日刊200位でした(むっちゃ切りが良いww)ありがとうございます!
昨日見たあたりになかったので落ちたのかと思ったら、意外と上の方にあってビビりました。
全話一斉チェック期間最終日(これ投稿した後今日の分も含めて最後までチェックします)
初期と比べると変なところは減ったものの、誤字脱字は相変わらず。
というかなぜローマ字打ちで濁点をミスるのか、それと木と気が鬼門でした。




