1-3【最初の1人 8:~震え~】
「本当に大丈夫か?」
リコが心配そうに声をかけてきた。
だがそれに答える余裕はない。
ただガタガタと震えていた。
とても寒い。
するとリコが布団の上から軽く抱きしめてくれる。
最初はちょっと驚いたが、今はその力強い暖かさがなんとも頼もしい。
モニカもその熱を求めるようにリコに縋り付く。
「おい、嬢ちゃん、・・・ちょっときつい」
どうやら力いっぱい抱きしめたようで、抱きつかれたリコが悲鳴を上げている。
「おい嬢ちゃん?黙ってないで・・・ぐっ・・」
ゴメンなリコ。
俺も余裕がなくて、からかえそうにない。
俺もモニカに詳しく聞きたい事がある。
だが、この状況でそうするだけの勇気はなかった。
いやそれでいい、それは間違いなく蛮勇だろう。
それだけの予感がある。
一つだけ確かなのは、今モニカが苦しんでいる記憶を”俺も見ていた”ということだ。
だが今俺に残っているのはモニカの記憶だけ。
これはあくまでのなんとなくだがモニカが覚えているのは”俺”の記憶だけという確信があった。
そして抜けてもなおこれほどの恐怖に支配される記憶とは一体?
そこで俺がモニカに聞く勇気がない理由がモニカをいたわってのものではなく、自分が知ることを恐れてのことだと気がついた。
そう思うと吐き気がする。
俺は視界の外側に並んだスキル群の管理パネルにある【思考同調】に大量のカバーをかけていじれないようにする。
あくまでもイメージ的なものだが、そうでもしないとやっていられない。
そもそもなんでこのスキルが発動したんだ?
発動するには俺とモニカの発動の意志が必要なはずだ。
重点的に記憶を探る。
残念ながらなのか、幸いなことになのかは不明だが、アレを除いてモニカの記憶は見られない。
では俺が無意識に条件を満たしていないかチェックする。
目についたのは昨夜モニカが眠っている時に行なったスキル整理の途中で、俺が”もっとモニカについて知りたい”と思ったくらいか?
昨日の反省としてモニカが何が出来るのかをもっと知りたいと思った程度なのだが、まさかその程度で発動条件を満たしてしまうのか?
だとすれば厳しい発動条件なんてとんでもない。
ものすごくゆるい条件と言わざるをえない。
それに発動中のあの感覚・・・・
俺はあの感覚を思い出そうとしても思い出せないでいた。
ただ終わってみればその存在だけが悪夢のように心に残っている。
それにあの時、起き上がってモニカの胸を揉んだのは一体どっちだ?
いや、そもそもあいつは誰だ!?
あの時モニカを動かしていた意志は一体何なのだ?
そして、俺は今、本当に俺か?
考えれば考えるほど自分に言い知れない違和感がある。
ただ必死に記憶を思い返していた。
間違いない”持っているモニカの記憶”はあれだけだ・・・・
あれは恐らく・・・モニカの父の死に目だ。
そしてほぼ間違いなく彼女の最も辛い記憶。
では、モニカが持っているのは・・・・
ものすごい速度で思考が堂々巡りしていた。
震えるモニカをいたわる余裕すらない。
いやそもそも・・・今の彼女は・・・・・
本当にモニカなのか。
「まったく、本当に泣き虫な嬢ちゃんだ」
モニカを抱きしめながらリコがそう呟いた。
その野太い声で少し体が暖かくなった気がする。
そういえば父さんと声が似ているような・・・・
は!?
いかんいかん俺は俺だ、モニカの中でスキルやってるロンていう男だ。
それによくよく思い返してみると全然似ていないではないか、なにが父さんの声に似ているだ。
しっかりしろ俺!
多分、これは俺の感情じゃなくモニカの思念が入り込んでいるだけだ。
ということはモニカはこの声が父親に似ていると感じているのか?
この野太い声が?
「よく今まで生きてられたな?本当に親父はいねえのか?」
あれ?親父という言葉に反応しないぞ?
それともあまりにも動転していて言葉の内容を把握してない感じか。
ただその声に釣られるようにすがりついている。
どうやらリコの声に父親の声を重ねて安心感を得ようとしているようだ。
「はあ、まさかこんなところで子供をあやすことになるとは・・・」
内容についてはもう少し労ってくれとも思うが、今はこの声にすがるしか無い。
今はまだ俺にモニカを労る余裕がないのだ。
ただ漠然と発動しただけでこの有様だ。
なんという恐ろしいスキルなのか・・・
※※※※※※※※
結局モニカが落ち着くまで丸々一晩かかった。
ずっと抱きつかれていたリコには申し訳ないことをしたと思う。
ただおかげで朝日が昇る頃には震えは収まっていた。
本当に感謝してもしきれない。
ただ心の中に癒えない傷のようなものを感じる。
これはモニカがずっと抱えてきた傷だ。
そして恐らくモニカは今、俺が忘れ去った傷を抱えている筈だ。
それが一体何なのかはわからない。
ただモニカに今まで抱えてきた傷の上に、さらに新たな傷を負わせてしまったのかと考えると自責の念に駆られた。
「ありがとう・・・」
モニカがようやく絞り出した言葉は、一晩支えてくれたリコに対する感謝だった。
「・・・・気にするな、もうしばらくこうしていればいい」
「・・うん」
モニカが朝日を眺めながら再びリコにもたれかかる。
太陽というのは偉大だな。
本当は何も解決していないのに、こうして眺めているだけで心が癒やされるような気になる。
モニカの方も徐々に冷静さを取り戻してきたのか、リコに対する違和感を覚えてきた。
やっぱり父親とは明確に違うらしい。
ほら言わんこっちゃない。
おや?・・・どうやら俺も太陽に感謝しないといけないようだ。
思考に軽口が戻ってきた気がする。
※※※※※※※※※※※
無言で装備を整えるモニカ。
まるでそうすることで自身の平静を取り戻そうとしているかのように真剣だった。
だが俺はここに至るまで未だモニカに声をかけることが出来ていない。
なかなかどうして、どう接していいのかわからないのだ。
声をかけようにも何から話していいものかわからない。
しかしこうしてただモニカと同じものを見て、同じものを聞いて、同じ匂いをかいでいるだけと、まるで俺がモニカに声を掛けられるようになる前のように感じる。
するとモニカがソリのロープの結びを”明らかにわざと”ゆるい状態で放置した。
なるほど・・・そういうことか。
なんと俺はバカだったのだろう。
『モニカ、今の結び目もう一度確認してみろ』
するとそれを聞いたモニカがわざとらしく驚いたように、結び目を凝視する。
「ありがとうロン、ちょっと緩んでたみたい」
それだけならいつもやっているやり取りだが、たったそれだけのことでモニカが今までで最大の安心感が広がったことを俺は見逃さなかった。
ただ話しかければよかったらしい。
「ロン・・・」
『どうした、なんでも聞いてくれ?』
「夜のことだけどさ・・・」
おっとこれは予想外にいきなり豪速球が飛んできたぞ。
ただ同時にこのモニカは本物だと確信できた。
なるほど確かに問題を放置するのは彼女らしくない。
「父さんはどうだった?」
『・・・・かっこよかったよ』
俺は少し悩んで結局、思った通りのことを語った。
モニカの記憶の感情にかなり引っ張られているはいるが、それでも彼の姿はかっこよかったように感じる。
「かっこよかったのか・・・・」
『どうしたんだ?』
「いや、なんでもない」
モニカが少し離れたところで準備をしているリコの姿を見る。
そして非常に失礼なことに”やっぱり違うな”という感想を持ったようである。
リコ・・・・
「それとさ・・・」
突然空気が変わる、いよいよ本題ということか。
俺も気合を入れ直す。
『ああ・・・』
「わたしが見たものなんだけど・・・・・・」
『・・・ああ・・・』
ゴクリ、
こういう時のために用意した仮想ノドで仮想ツバを飲む。
「で、、、、」
『・ああ・・・・・・』
「・・・・わからない」
『え?』
「よくわからないの」
『なんで?』
「・・・・・」
『モニカ?』
「はい!これでおしまい!」
そういってモニカがロープを引っ張り出した。
そこには明確にこの話はもうしないという意思が感じられる。
恐らくモニカがわからなかったというのは嘘だ。
だが、
『まあ、それでいいか・・・・』
モニカが話したくなれば話せばいいし、話したくないままなのなら別に話さなくてもいい。
正直話されてもいい気分にはならないだろうしな。
ただし、
『一人で抱えるのが厳しいなら、俺も喜んで抱えてやるぞ』
それだけは偽らざる俺の気持ちだ。
「ロンが抱えれる体を持ったらね」
『おや、こりゃ一本取られたな』
そう言い合って二人でカラカラと笑う。
二人の間にあった微妙な空気はもう消えていた。
ところでこれ、リコから見たら相当に情緒不安定に見えるだろうな。
現在、全話一斉総チェックを実施しているので今日はこの一話だけです。
というか、初期の頃の誤字脱字の量が凄まじい・・・・
もはや誤行脱行の領域に達しているものすらある始末で・・・
こんなものを読ませていたのかと恥ずかしくて死にそう。
ちなみにこの話からロンとモニカの距離感と関係性が砂糖一杯分くらい微妙に変わるので、それを意識するのが結構しんどいです。




