1-3【最初の1人 7:~反省会~】
気まずい・・・・
非常に気まずい・・・・
現在俺たちは今日の寝床を確保したところだ。
といってもアントラムと戦った場所から動いていないので、周りは巨大な獣の死体が散乱している。
リコによると今日明日くらいは、こいつらの臭いのお陰でこの辺に寄り付く獣はいないらしい。
さすがこの近辺を支配する獣なだけはある。
ただこの空気は正直きつい。
結局あのあとリコが俺たちに対して何も言うことはなかった。
ただその目がときどき恐怖でもって俺達を見ているのではと思わせる。
どうも俺たちに対して距離感を測りかねているようだ。
今は無言で今日倒したアントラムの肉を捌いて火にかけていた。
「ごめんなさい」
最初に口を開いたのはモニカだ。
「何を謝る?」
「勝手に戦った、せっかく隠れていたのに」
その言葉にリコがしばらく固まった。
「・・・・・はあ、怒鳴ったのは悪かった」
そしてまたしばらく黙り込む。
だが先程までと違い何かを考えているようだ。
「嬢ちゃん、あれを見てみな」
そう言ってリコが指差した先には、モニカが最後に倒した魔獣化したアントラムの残骸が転がっていた。
「あんな事ができるんだ、そりゃ勝てると思うさ、俺だってそう思う」
「だけどリコがいなければ負けていた」
そうだ俺達は自分たちの力も相手の力も、そして自分の状況すら見誤っていた。
これには弁解の余地はない。
その前にもっと大きな個体を倒せていたことで過信していたのだ。
「そいつな、俺達の中でグルドって呼び名が付いてたんだ」
「グルド?」
「とっても頭が良くてな、俺達の仲間が何人もやられてた」
「・・・・・」
「俺達はこのマントのおかげで隠れられると驕っていたんだ、だがグルドには通用しねえ、アイツは一度ここだと睨んだ場所は徹底的に探す。
だから俺の言うとおり隠れていたらもっと悪い条件で戦うことになっただろう」
そういうリコの表情は真剣だ。
おそらく嘘ではないだろう。
「グルドってどれくらい強かったの?」
「他の魔獣化した連中と比べてって意味なら、かなり強い方だ、それこそバルジでもなきゃ抑えられん程にな、だから倒してくれて礼を言う」
予想外の感謝を受け取ったモニカが微妙な顔をする。
やはりどうしても納得出来ないものがあるのだろう。
「リコから見て・・・・」
「なんだ?」
「リコから見てどうだった? わたしの戦い方」
「そりゃ、見たことねえくらい強い・・」
「そういう意味じゃなくて」
そこでモニカが初めてリコの目を直視した。
その迫力に当のリコは一瞬たじろいだが、すぐに顎に手を当てて考え始める。
「まあ、見た事ねえくらい強いってのは本当だ、ただ・・・」
「ただ?」
「やっぱり嬢ちゃんは魔女じゃねえ」
その瞬間モニカの中を駆け巡ったのは、軽い嫉妬、少々重めの失望、大きな羨望、そして意外なことに深い安心だった。
「魔女じゃないって?」
「うーむ、俺はなぁ・・・」
そう言って腰から何やら石のようなものを取り出し見せてきた。
するとその石が淡く光りだした。
「こう見えてもここいらじゃ魔力が多い方ってんで、ガキの頃に魔法士学校の試験を受けたことがある、持ってみな」
そう言って石を差し出してきた。
モニカが石を受け取ると、僅かに魔力が吸われる。
そしてリコの時とは比べ物にならないくらい石が激しく光りだした。
その明るさはまるで太陽のようで直視すると目が痛いほどだ。
「ハハハ、こりゃすげえ、あそこにいた連中でここまで光らせられるのが何人いるか・・・たぶん居ねえんじゃないかな」
そう言って空を見る。
「だけどちゃんとした教育を受けた魔法士ならば、今日は簡単に追い払えただろう」
そう語るリコの目は遠くを見ていた。
「嬢ちゃんの戦いを見てどう思うかだったな、俺はあれを見て嬢ちゃんは”獣”だと思った、腕力の代わりにものすごい魔力のある獣だ、すごい力だがそれを叩きつけるしか知らない。
頭は良くてもそれは叩きつける力加減がうまいだけだ、だから今日みたいに叩きつけることを封じられると何も出来なくなっちまう。
だが魔法士は違う、魔法士は確かにすげえ魔力を持っていることがほとんどだが、決して叩きつけるだけじゃない、いろんな手段に魔力を使える連中だ、それに」
そう言ってこちらを見る。
「叩きつけるにしてももっと少ない力で、もっと威力がある」
モニカがその言葉に何を思ったのか、それは正確にはわからない。
だがそれは肯定的な感情だった。
「まあ、結局魔法士学校落ちた人間の意見だ、マトモに取り合う必要はない」
そう言って笑うリコの表情はどこか寂しげだった。
「ありがとう」
「礼を言われることはしてねえ」
「リコは、わたしに目標をくれた」
「目標?」
「わたし、自分の力をちゃんと使いたい、だからちゃんと学ぼうと思う」
誰かのためだけじゃなく・・・
そう俺だけには聞こえた。
「ふっ、目標か、まさかこんな俺でも魔法のアドバイスができるとは」
「リコはすごいと思う」
「よせ、結局才能のないはずの弟に魔法士学校の夢を叶えられた馬鹿な兄貴だ」
「才能無いのに試験通ったの?」
「そうだ嬢ちゃん、後学のためにいいこと教えといてやる、魔法ってのはな、全く才能が無いことも才能として認められるんだ」
モニカがキョトンとした顔をする。
俺もそうだ、難関学校の入試が零点だと逆に受かると言われているようなもんなのだ。
「才能がなくてもいいの?」
「ハハハ違う違う、才能が無くてもいいんじゃない、才能が少しでもあったらいけないんだ」
「うーん、よくわからないなぁ」
「ハハハ、まあ才能の塊みたいな嬢ちゃんには関係のない話だ、気にしないでくれ、魔法は奥が深いくらいに思っていればそれでいい」
そう言って笑うリコの笑顔は屈託のない物だった。
※※※※※※※※※※※
幸せ・・・・
「モニカ!あまり遠くへ行くんじゃないぞ!」
男が笑いながらそう言った。
その声を聞くだけで幸せになれる。
「きゃははは、こっちだよ父さん!」
何故か目線が低い。
それに気のせいか妙に声が幼い。
不意に景色が変わる。
猛吹雪の中を先程の男が歩いている。
「父さん!待ってよ」
「モニカ、いい子だから待ってなさい、クーディ!・・あとを頼む」
そう言って家を出て行く男。
また景色が変わった。
先程の男がベッドに横たわっている。
どうも顔色が悪い。
「父さん見て!一人で野菜取りに行けたよ」
「すまないねモニカ、本当は俺も、、ゴホッ、ゴッホッ、、」
「無理しないで父さん」
先程よりも幾分目線が高くなり、声も今に近くなっている。
そしてまた景色が変わる。
今度は悲しみが感じられた。
「父さん、、恐いよ、、、、一人にしないで」
「いいかい・・・モニカ・・一人じゃない・・・」
すがりつき泣きわめく俺を見つめる男の目からは生気が抜け落ちかけている。
「私が・・・・いつまでも・・・お前を見ている」
「父さん、、父さん、父さん父さん父さん!」
どうしていいかわからずただ呼び続ける私の肩を掴み、その男が最後の気力を振り絞ったかのように声を出した。
「だからモニカ・・私を見るときは笑え・・泣き顔なんか・・見せないでくれ」
「・・・うっぐ、、これでいい?」
自分ができる精一杯の笑顔を作る。
だが鼻水と涙にまみれたひどい笑顔だろう。
こんなものを見せたいわけじゃない。
それでも父は笑い返してくれた。
「ああ・・モニカ・・・我が娘よ・・やっと言えた・・・」
男の目から一筋の涙がこぼれる。
それと同時に男の目から光が消えた。
その瞬間凄まじい孤独感に襲われる。
「待って!・・何を言えたの!?」
別にそんなことが聞きたいわけじゃない、ただ会話を続けたかった。
「待って、、、一人にしないで、、、、待って」
その時俺は愚かにもなんで最後にもっといい笑顔をみせてやれなかったのか、そんなことを後悔していたのだ。
※※※※※※※※
ガバッ!!
布団代わりの毛皮を押しのけ飛び起きる。
目の前でリコが何事かと振り向いた。
あまりの気分の悪さに思わず顔を抑える。
凄まじい量の冷や汗が手を伝ってボトボトとこぼれ落ちた。
寒い。
気がつけば震えていた。
腕で肩を抱いて擦る。
顎がカタカタと鳴る中、ふと腕が胸に当たった。
それは思いのほか柔らかく、そしてあまりにも小さい。
気になって揉んでみるとやはり男とは微妙に感触が異なる。
そこで俺は気づいた。
この体を動かせていることに。
すぐに視線を視界の外へ移動させる。
あれはどこにやった?
必死で視野の外を探すとソレが見つかる。
”【思考同調スキル Lv1】”
そして
”発動中”
慌ててスキルを停止させる。
その途端言葉では言えない不快感に襲われた。
自分がまるで2つに引き裂かれるような違和感。
そしてそれが治まったとき、たしかに”何か”を失った感覚が残っていた。
モニカが倒れ込む。
まだ寒気が続いていた。
「嬢ちゃん大丈夫か!?」
リコが慌てて駆け寄ってきた。
これは・・・・恐怖?
混乱の中、俺が感じたのはモニカが感じる凄まじい恐怖だった。
それに、これは・・・・
俺は自分の中に僅かに残っている記憶に戦慄した。
これは俺の知らないモニカの記憶だ。
これはモニカの見た夢か?
ということは・・・
『モニカ!何を見た!?』
あまりにも動転していて自分でも何を言っているのかわからない。
だがモニカがそれを見たという確信がある。
俺の知らない、俺の過去を。
思考同調(パンドラの箱)




