1-3【最初の1人 3:~第一村人~】
さて、もしも風呂上がりで上気した全裸の美少女に突然抱きつかれたら、諸君らはどのような対応を取るのだろうか?
一つだけ確かなのは、”俺ならば勘違いする”ということくらいか?
あとまずパニックに陥る。
実際、この男も突然のことでどうしていいか分からずオロオロしている。
まあ仕方ない、なにせ抱きつかれただけではなくそのまま大泣きされたのだ。
「おい!泣き止め!アントラムに聞かれたらどうするつもりだ!!」
「うわああああああ!!!あああああああああ!!!」
ごめんね、ここまでずっと我慢してきたんだ。
「ええい!!!ちくしょう!!なんで、こんなっ、、、ほらいい子だから、なかないで・・・」
お、今度はなだめ始めた。
どうにかモニカに泣き止んでほしいらしい、たしかにこの音量ならそのへんの肉食獣でも聞こえそうだ。
だがあんちゃん、下心がないのは伝わってくるが背中をさするのは止めてくれ。
こんなぺったんこな胸でも裸の乙女なのだ。
さっと周囲の気配を探ってみたが周囲に動物の気配はない、まだ臭いの効果は継続中のようだ。
こんなにいい香りなのに。
モニカの嗅覚情報にアクセスしてみる。
うむ、大泣きの影響でかなりデータがノイジーだが、獣臭かったのがお風呂に入ったことでちゃんといい匂いになっている。
これならばどこに出しても恥ずかしくないだろう。
この格好でなければ。
「うあああっぐ、ずばうああああ、、、」
あまりに泣きすぎて泣き声がおかしくなってきた。
『モニカ、気持ちはわかるがその辺にしておけ、その人困ってるだろ』
「ううっぐ、ぶんぬ、あがっだ、ひっぐ」
どうやらモニカも了承したようで、その男から離れる。
「よーしよし、いい子だ、怖かったなー、寂しかったなー」
そう言って頭をなでてきた。
どうやらこの状況からこの森に迷い込んだ子どもとでも勘違いしたのだろう。
モニカを労るような言葉をかけてくれた。
だが目はせわしなく周囲を確認している。
「ごわがったあああ、ざみじがっだああ、」
だがその言葉で一旦静まりかけていた、モニカの感情が再び臨界に近づき、それを見て男が慌てる。
「だから泣くな、、、ったく、嬢ちゃん、お父さんかお母さんは?」
恐らくそれは話の流れを変えるために本当に何気なく聞いたのだろう。
あるいは単にただ事務的な確認をしたか?
ただし、その質問は今のモニカには起爆剤・・・でしかなかった。
「あああああああ!!!!、あああああああああああああ!!!!!」
明らかにお父さん・・・・という単語で爆発しているので間違いなくそれが”キー”なのだろう。
普段俺が父親の事を聞いてもわからないと逸らかされるが、本当はその度に彼女の心にストレスが溜まっていったのではないだろうか?
それが今、感情の歯止めが利かなくなって表に出ているのか。
とにかくモニカにとって初めての人間というのは俺の想像以上に激物だったようだ。
結局モニカが泣き止むまで小一時間かかった。
その間全裸だったモニカがこの極寒の中で風邪を引かなかったのは、途中で見かねたその男に毛皮のマントのようなものを被せてもらったからだ。
※※※※※※※※
「それで、お嬢ちゃんはどこから来たんだ?、シリバか?ベリー?マシャ?もしかしてピスキアの方から来たのか?」
泣き止んだあと、その男に急かされながら服を着て荷物をまとめていると、ついでにとばかりにその男が地名のようなものを挙げてどこから来たのかを尋ねる。
恐らく村か何かなのだろう、知っているのは最後のピスキアだけ、確か本によると北の方の街だったはずだ。
「・・・・・うーん」
モニカが固まる、どう言っていいのかわからないのだろう。
俺としても正直に話すべきなのか悩む。
正直に言っても信じてくれなさそうだし。
「まあ、その歳じゃわかんねえか・・・じゃあ、親御さんは?」
「いない」
「いないってそんな訳ないだろう、子供一人でこんなところへ・・・」
「いない」
そう言ってモニカがフロウを手に取る。
それだけの行為だが、その出で立ちには有無を言わせぬ存在感があった。
「なるほど1人でこの森までこれるくらいの強さはあるってか、だが嬢ちゃん荷物をまとめられたらさっさとこっちに来て茂みに隠れな、このあたりには”アントラム”って猛獣が住んでるんだ」
「アントラム?どんなの?」
「でっかいクマのバケモンみたいなやつだ、そんでもって手足がすげえ長い」
あ、間違いなくこの前倒したあいつだ。
「しかも魔獣化しやすいってんでこのあたりじゃ、俺みたいな経験のある”レンジャー”以外は近寄らねえんだ」
そういえばあいつは恐らく魔獣化していたな、きっとその魔獣化したアントラムのうちの一匹だろう。
「そんなに強いの?」
「つよいなんてもんじゃねえ、普通のアントラムに村ごと喰われたなんて話はここいらじゃいくつもある」
へえ、それは恐ろしいな、この前のはたまたまアホなのに当たったから比較的楽に勝てたけど、もしもあれがそれなりに頭のいい個体だったらかなり厳しい戦いになりそうだ。
「それにな・・・」
「それに?」
「このあたりまで来るアントラムの中にはバルジっつう、化け物みたいなのも混じってんだ」
「バルジ?」
「山が動いてんのかと思うほどでっかいアントラムだ、それもすんげえ動きがはやい」
「それには出会いたくないね・・」
まったくだ、おそらくこの前の”弱い”のとは全く比較にならないだろう、絶対に出会いたくない。
となると、そんなものがやってくる可能性がある場所に留まるのは悪手だ。
『モニカ、ここにいるのは確かに危険だ』
「どうする?」
モニカが自分にしか聞こえないような小声で聞いてきた。
『どっちにしろこのおじさんに付いていくことになるだろう、だったらどこか人のいるところまで案内してもらったほうがいい』
モニカが男の顔を振り返ってじっと見た。
突然まじまじと見られた男がびっくりしている。
どうやら俺にその男の判断を任せたいらしい、そういった感じの思念を感じる。
『ん~、悪い人ではないと思う、仕事に忠実そうだし、俺達から隠れるだけの実力はあるわけだし、それでも声をかけて危険を知らせてくれたわけだし』
モニカがその俺の寸評を聞いて、少し間を置いて口を開けた。
「おじさん、私を人のいるところまで連れて行ってくれる?」
「ああ、ここでお嬢ちゃんみたいな子供を放置したら、レンジャーの名折れだ」
一見するとその言葉に嘘はなさそうだ。
「ただ、俺も暇じゃねえ、ここから一番近いシリバまでしか送ってやれねえがそれでもいいか?」
「そのシリバってのは村?」
「小さな村だが知り合いがいる、信頼できるやつだからその後のことはそいつに頼ればいい」
おお、アフターサービス付きか、なかなかいい人じゃないか。
「ありがとう」
珍しくモニカが生返事じゃない感謝の言葉を述べた。
「それで準備はできたか?」
「うん」
「本当にそれ引っ張っていくのか?」
男が怪訝そうにソリを指差す。
たしかにこの身長の子供が引っ張るには大きすぎるな、となるとやっぱり普通はそんなに筋力強化などの魔法は普及していないのか?
「そうだけど?」
モニカが何を当たり前のことを聞いているんだとばかりの返答をする。
それに対してその男が無視できない反応をした。
「はあ・・・・これだから魔女ってやつは・・・・」




