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1-3【最初の1人 2:~風呂~】


「おふろ?」


『そ、風呂』

「フロウ・・・に入るってこと?」


『違う、まあ確かにフロウで作った風呂にはいるんだから、間違ってないとも言えるんだが・・・』

「てことは風呂ってのはフロウってこと?」


『いや全然違う、ただの偶然というか・・・・ややこしいな』

 何がややこしいってフロウって、”フロウ”って書いているけれど発音的には”フロ”と最後のうをほとんど発音しないので風呂に聞こえるのだ。


『まあ、とにかく違うもんなんだ!』


 モニカはまだ混乱しているが理解させるのは別にあとでも良い。

 さっきからずっと素っ裸のままで居るのでそろそろ冷えてきた。


「じゃあ入るよ」

『ちょいまち!』


 慌てて俺が止めると、モニカが風呂に入ろうとして足を上げたところで固まった。


『入る前に体を洗え』

「・・・」


 モニカが自分の体を見下ろす、ここ数週間の汚れが積もり雪のように白かったはずの肌が薄っすらと黒ずんでいる。

 このまま風呂に入ればあっという間に湯が真っ黒になってしまうだろう。


 なのでまずこの汚れを落とさなければ。


 ということで取り出したるは・・・というか元から手に持っていた魔力鍋の再登場だ。


 それで川の水を掬い魔力を流して軽く温める。

 それを浴びながら体を洗い始めた。


 予想通りというかなんというかお湯をかけた瞬間から大量の汚れが出てきた。

 そのまま”家”でいつも使っていた、短めのフロウを使って体をゴシゴシと洗っていく。

 このフロウだが調べてみると、いつも使っているものとはかなり毛色が違う構造をしていた。

 魔力繊維の層が非常に浅く簡単な変形しか出来ない、というより洗った時に肌に密着させるための柔軟機構的意味合いしか無いのだ。

 本体は棒の内側にある謎の物体で、これが魔力を吸うと周囲のフロウに働きかけて洗浄効果を持たせているらしかった。

 そしてその物体の複雑さが半端ではない。

 俺としては軽い気持ちで調べてみたのだが全く理解できない量の魔力回路が組まれており、複雑な汚れに対しても適切に対処しているさまが確認できただけだ。


 まあ使っている方としてはただ擦るだけなので考えなくて良いのだが、無くしたら他のもので同じことをするのは不可能だろう。


 それにしても肌にお湯がかかると冷えた肌に熱が戻り気持ちいい。

 肌から大量の汚れと垢が抜け落ちることで全身が軽くなった気がする。

 薄汚れていた肌も柔らかさを取り戻し元の白い姿が戻りつつある。


 そのまま川の水を温めたお湯でひとしきり全身を洗ったあと、いよいよ湯船の中に入る。


「大丈夫だよね?」


 どうもモニカはこれほど大量の水の中に入るということに警戒感があるようで、浴槽の縁に足をかけたまま次の一歩を踏み出せないでいた。


『騙されたと思って入ってみればいい、どうせこの深さじゃ溺れないよ』


 実は湯船で溺れる事故は結構あるらしいがそれをいちいち教えたりはしない。

 俺に騙されたモニカは恐る恐る足の先を湯につける。


 湯に使った足の先が熱くなる。


 ちょうどいい湯加減だ。


「えい!」


 そこで覚悟を決めたモニカが湯の中に飛び込んだ。

 勢い良く押し出されたお湯が浴槽の外にザバアっと飛び出していく。


『もっとゆっくり入れ!って痛!?』


 慌てて俺が注意しようとしたとき、腰と膝から強烈な痛みが走った。


「う、膝打ったっ・・・・」


 勢い良く飛び込んだせいで浴槽の底に膝をぶつけたらしい。


『危ないから静かに入れよ・・・・』

「だって恐いんだもん・・・あ?でも・・・」


 なんだかんだで湯の中に入ったことで、全身がほぐされるような快感がこみ上げてきた。


「あぁ~」

『おぉ~』


 風呂に入ると声が出るのはなぜだろうか?

 やはり、この気持ちよさがないと風呂ではない。


『な?いいだろ?』

「・・・・うぅ・・・・」

『あれ?モニカ?』

「・・・・・・・」


 モニカの様子がおかしい、というかパラメータがほとんど全部肯定的な方向に振り切れている!?

 そのままモニカの目がウトウトし始めた、焦点が定まっていない。


『おいモニカアア!!ねるなああ!!気持ちよくても寝るなああ』

「・・んあ!?えへないお?」

『眠りかけてんじゃねえか、呂律が回ってないぞ!!』


「え?あ、あ、ごめん・・・うう」


 どうやら完全に眠るのは回避したようだが、どうもいつもの調子じゃない。


『こんなところで寝たら、のぼせちまうぞ!!』

「のぼせる・・・って・・・なに?」

『からだが熱くなりすぎるんだよ』


「・・それでいい・・・ボーッとしてて・・・きもちい」


『おいいいい!モニカあああ!!ねるなあああ!!!』




※※※※※※



「ふう・・・なんかスッキリしてきた」


 結局一度完全に眠ってしまったあとすぐに目が覚めて、それ以降は一気に目が覚めた。

 恐らくお湯に浸かったことで今までの疲れが一気に吹き出したのだろう。


 今はそれが一段落して落ち着いた状態で風呂に入っている。


『ヒヤヒヤさせやがって・・・』

「ごめんごめん、次からは気をつけるから」


 そうやって笑いながらモニカが謝る。


 ふと、お湯の水面に映るモニカに目があった。

 記憶の中の断片から顔を作り上げたので知ってはいたが、こうしてちゃんと生で見るのは初めてだ。

 気のせいか俺の知っている顔よりも少し疲れている気がする。

 だが相変わらず整った綺麗な顔立ちだと思う。


 ただやっぱり目だけはちょっと異質だな。

 反射していないというか、あまりにも黒いというか。


「今、こんな顔なんだ・・・」

『なんだ?モニカは自分の顔を知らなかったのか?』

「いや見たことはあるけど、こうやってまじまじと見たことはなかったから」


『ほー、そういうもんか・・・で、まじまじと見た自分の顔の感想は?』

「・・・・・弱そう?」

『いや・・・同じ年頃の女の子に比べたら、鬼のように強そうだよ』

「よかった」


『あれ、鬼のようにとか言われていいのか?』

「だって鬼ってとっても強いんでしょ?」


『女の子は普通はもっと可愛いとか・・綺麗とかが気になるんじゃないのか?』

「じゃあ可愛い?」

『うーむ、可愛いとは思うんだけどなぁ・・・』


 いかんせんこればかりは時代の流行りによるものが大きい。

 俺の基準ではブスのような女の子が好まれた時代もあるのだ。


「ロンがそう言ってくれるなら、それでいいよ」


 その声の平坦さから、彼女にとっての美しさの価値の低さを思い知らされるような思いだ。 


『モニカはもう少し自分の可愛さに気づいたほうがいい』

「ロン?」


 思いがけずこぼれた声には自分でも驚くほどの不満が乗っていた。


『これからは人の中で生きていくんだ、強いだけを気にしていればいいわけじゃない』


 いや違う、本当はこういいたかった。

 ”強さなんて気にしないで生きてもいいんだよ” と。


 だがそれを言う勇気はない。


 俺以外守ってやる人の居ないモニカにとって、例え人間社会の中に溶け込んでも強さが求められるだろうという現実的な考えもある。



「わかった」


 モニカの返答はまるでそういった俺の考えまで見透かしたように短かった。






「おい!」


 その時、突然知らない人間の声が聞こえた。

 叫んでいるようだが極力声の大きさを抑えているようで、掠れたように微かだ。

 だがはっきりと聞こえた。


 慌ててモニカが風呂から飛び起き湯船が激しく波打った。


「だれ!?」


 モニカが鋭い声で問う。

 だがどこにも気配がない。

 ここまで俺にもモニカにも気づかれずに接近するなんてありえなかった。

 声も微かだったしひょっとしたら勘違いだったかもしれない。


 だが、


「嬢ちゃん、そんなところで何してる!」


 今度は間違いない。

 モニカが声のした方向を向く。


 そこには草に紛れるようにして男が屈んでいた。

 気配を隠すためなのだろう、持ち物の殆どが自然の景色に同化するような色合いをしていて、靴や所持品には布が巻かれて音がしないようになっている。

 さらに匂いを紛らわすために泥を顔に塗る念の入れようだ。


 俺達が気づけなかった原因はこのカモフラージュ技術だろう。


「でけえアントラムの臭いがしたから来てみれば・・・・どこの村の子だ!、ちくしょうこんな危ねえところで・・・」


 その男が何やら焦る。

 そんなにここは危険なのだろうか?

 しきりに周囲を気にしている。


「そんな目立つ所じゃなく、早くこっちに!」


 その男が手招きする。

 可愛らしい全裸の少女に声を掛けて手招きするとは、確実に”事案発生”だが、男の顔にそんな下卑たものはない。

 むしろ、かなり真剣に周囲を警戒している。



「聞いてるのか!そこは危ねえんだって!」


 返事のないモニカに対して再び声をかける。

 男の声に余裕がない、よほどこの状況が恐いのか。


 それでもモニカは固まったままだ。

 ただ目だけがせわしなく男の姿を上から下まで何度も何度も確認するように見ていた。

 それと同時にあらゆる感情が激しく揺り動く。


 そして目頭が急激に熱くなったかと思ったら大量の涙が溢れ出し、視界がグニャグニャにゆがむ。


 彼女はここまで多くの不安を抱えて歩いてきた。


 そもそも彼女は父親以外の人間の姿を見た記憶がない。

 家以外の周り以外何も知らない状態で、大事な家族を助けるためにいるかどうかもわからない人間を求めてやってきたのだ。 


 その不安たるや、言葉にできるものではない。

 だからこそ初めて人間の姿を見た時に多少取り乱しても勘弁してやってほしい。


 例え、全裸のままでその男の元へ全力で駆け寄り、抱きついて大声で泣いても他意はないのだ。

第一村人発見!

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