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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
421/426

2-23【世界よ、さあ踊れ9:~世界の脅威~】



 ガブリエラの体から、大量の金色の魔力が沸き立つように流れ出し、それが密度を増しながら彼女の手の中に集まろうとしている。

 それはもはや、光となって会場を金色に塗りつぶすほどに熱を帯びていた。



 まずい!?


 咄嗟にリヴィアが飛びつくように前に出ようとする。

 だが、ほぼ同時に発生した凄まじい魔力の圧力で一瞬で押し留められてしまった。

 そのガブリエラの魔力は久しく見ていないほど荒れ、全てを焼き尽くさんばかりに熱を帯びている。

 僅かに顔を背ければ、視界の端にすぐ後ろの床に据え付けらえた頑丈な机が、メリメリと音を立てながら持ち上げっていく様が見えるではないか。


「ガブリエラ様!!」


 リヴィアが叫ぶ。

 このままでは、会場ごと全てを吹き飛ばしかねない。


 こんな、要人ばかりが集まった場所を。



 だが、その魔力の暴風がそれ以上続くことはなかった。

 突如として青紫の閃光が上下に走ったかと思うと、ガブリエラの周りに集まっていた黄金の魔力が切り捨てられるように薙ぎ払われたのだ。


「やはり、その力はあまりに危険だ。 扱うにはあなたはあまりに稚すぎる」


 シセル・アルネスのその言葉は、驚くほど近くから聞こえていた。

 いつの間にか、リヴィアの反応できない速度でもってガブリエラの眼前に移動してきた伝説の大魔将軍シセル・アルネスが、その伝説に違わぬ冷徹な視線をガブリエラに向けると、今しがたガブリエラの魔力を薙ぎ払ったその腕を再び持ち上げ、ガブリエラに振り下ろさんと構えていた。


 間に割り込もうとリヴィアが、自らの武装へと指を伸ばす。

 だが、そのごく僅かな空間を進む自らの指の動きは、あまりに緩慢だった。

 いつのまにか、無意識の内に思考加速が限界まで発動していたらしい。

 だがだとするならば、この魔将軍の速度は!?



「 そこまで!!! 」


 突如として発せられたその怒声が、空気を揺らしながらガブリエラとシセル・アルネスの間で、文字通り爆ぜた。

 空気が爆発的に膨らむその光景は、高速で回る意識で見ると、白い靄に全てが飲み込まれるように見える。


 ガン!!


 次いで発生した衝撃音が、その靄を吹き飛ばす。

 その一瞬の間に、2人の怪物の中間に、また別の怪物が現れていた。


 見上げるような高さと壁のような広さを持つ巨体、そしてそれを埋め尽くす筋肉が魔力を吸って膨らみ、更に溢れた魔力の一部が、暴れるように靡く髭と髪からバチバチと音を立てる。

 床には、その巨体から突き出された彼の者の代名詞たる”戦斧:ゾールディエラ”が。


「両者共、それ以上の動作は一切まかりならぬ!!! 首脳の御前であるぞ!!!」


 アルバレスの勇者長、”戦斧の勇者エミリアン・ラロシュ”が、一括する。

 その圧倒的迫力を前にすれば、会場内で息を出来た者すら少数派だろう。

 少なくとも、そこにリヴィアは入っていない。


 そしてそれは、ガブリエラとシセル・アルネスの動きを一時止めるには十分だった。

 次の瞬間には、リヴィアの目の前の人口密度は数倍に急増する。

 会場にいた、各国の”特級戦力”が一斉に動いたのだ。


 魔導騎士団のダニエル・ライドとデニス・ノリエガが、魔導鎧(アルテミス)を全力展開し、シセル・アルネスの両腕を抱えるように掴み、更に騎士団長のディーク・グリソムが羽交い締めるように首と胴に腕を掛ける。


 反対にガブリエラの前には、”剣舞の勇者:レオノア”のその剣が突き立ち、その能力で残留するガブリエラの危険な魔力を食い消しながら、空中には、この”狂事”の被害を抑え込むかのように、”鏡の勇者:メルビンデュマ”の何枚もの”鏡”が、その鏡面を内側に向けて出現していた。


 だがもちろん、ガブリエラを直接抑え込んでいたのはマグヌスの者だ。

 軍位スキル持ちのサルモーレ将軍が、冷や汗をかきながら青い顔でガブリエラの前に立ってつっかえ棒のように肩を抑えている。


 ただ驚いたことに、それらの”桁違いの怪物”に割って入るようにガブリエラに後ろから抱きつき、その首に首を押し付けるように宥めているのは、なんとルキアーノではないか。


 リヴィアが唖然としていると、急激な思考加速で置いて行かれた”状況判断”の大量の情報が、遅れて土石流のように脳の中に流れ込んでくる。

 最初に動いたのは”特級戦力達”ではなくルキアーノだった。

 ガブリエラの魔力が溢れだすその時にはもう、彼女を止めようとガブリエラに飛びついていた。

 そのわずかな一瞬で、彼は吹き飛ばされずに済んだのだ。


「・・・ガブリエラ・・・落ち着くんだ・・・魔力を手放して」


 ルキアーノが見たことのないような真剣な表情と声でガブリエラの耳元で囁き続ける。

 だが、少女の首を荼毘に伏そうと燃え上がる金色の魔力に焼かれ、その肌が爛れていく。

 そして、その魔力は目的を果たそうと、ガブリエラの指先に集まろうとしていた。


「やめてくださいよ、証拠品の焼却はシャレになりませんって!!」


 サルモーレ将軍が悪態をつきながら、その魔力を抑えようと藻掻いている。

 だが、魔力出力でガブリエラに敵うはずもない。

 リヴィアとて、できるのは周囲の他の関係者に退避を叫ぶことだけだった。


 その時、何処からともなく飛んできた( ・・・・・)小さな”本”が、己のページを引き千切りながらガブリエラの周りを旋回し、落ちたページから出現した鎖でガブリエラの両手を机に縛り付けていく。


 リヴィアはすぐに、それがシュワルベ魔法士長の魔導書の類だろうと思い至った。

 何度見ても不思議な魔法だ。

 ガブリエラに巻き付いた鎖が猛烈な勢いで魔力を吸い始め、吸い込んだ魔力を還元しながらパス伝いに魔導書本体へと送り、千切り飛ばしたページを回復する。

 魔力を吸った鎖はすぐに崩れて消えるが、次々にページが補給されるので問題ない。


 それで少なくとも、ガブリエラの瞳に冷静な色が戻るくらいの時間を稼ぐことはできた。


「フェルミ卿、その首をアルネス魔将軍に返還なされよ」


 ガブリエラの中を渦巻く魔力の炎が温度を失ったことを見て取った、勇者長ラロシュが、轟くような声でガブリエラにそう語り、太い腕を差し出す。

 それをガブリエラは、絶望的な目で見つめていた。


 ルキアーノが囁くように懇願する。


「・・・ラロシュさんに渡すんだガブリエラ・・・それはモニカじゃない(・・・)・・・それは君の知ってる者じゃない」


 その懇願を理解したのだろう、ガブリエラの頬を涙が一つ落ちていく。


「・・・モニカじゃないのは分かっている・・・だがこれは・・・」


 続く、その”決定的な言葉”を吐き出そうとしたガブリエラの口を、ルキアーノは己の口で塞いだ。


 ” ビキリ! ”


 会場に木が割れるような音が木霊する。

 一瞬ガブリエラの前の机が割れたのかと思ったが、驚いたことにそれは、シセル・アルネスの眉間から発せられていた。

 正確には、そこに浮き立った青筋から。


 それが特級戦力複数に抑え込まれたことに抗おうとしたからか、それとも深刻な話の最中に目の前で”破廉恥”に憤ったからなのか。

 とにかく今の音は、僅かに漏れ出たシセル・アルネスの”竜化”を無理やり止めた音らしいというのは、察することはできた。


 重要な国際会議の場でのこの仕打ちは、末代までの汚点として語られるに違いない。

 だがそれでも、リヴィアはルキアーノに賛辞を送るしかなかった。


 彼は防いだのだ、ガブリエラがその首を”モニカの姉妹”と呼ぶ決定的な事態を。



 ルキアーノが顔を正面から退けたとき、現れたガブリエラの顔は悲壮感を浮かべていたが、それでもいつもの”強さ”を取り戻していた。


「皆様・・・失礼した」


 ガブリエラがそう言いながら手を動かし、己に巻き付く鎖の束を一薙ぎで引き千切る。

 魔法士長の魔導書といえど、冷静さを取り戻したガブリエラを止めることはできない。

 そしてそれを落ち着いた証拠と判断したらしいサルモーレ将軍が、ゆっくりと肩を抑えていた腕を外す。


 持っていた首を、向けられたラロシュの手に差し出すときには、ガブリエラの顔に残っていた悲壮感の色も、痕跡を殆ど消していた。

 だが、少女の首がラロシュの手に握られるその瞬間にだけ、ガブリエラの顔はまるで全身を針で貫かれているかのような苦痛を浮かべていた事をリヴィアは見逃さなかった。



 突発的にこの場の調停者になった勇者長ラロシュが、渡された首を持ってシセル・アルネスへと向き直る。


「アルネス魔将軍、フェルミ卿は確かに稚い。

 故に、親族に似た首( ・・・)を見て動転するのも御理解いただきたい。

 貴公もこれが、魔王陛下に瓜二つであれば取り乱すであろう?」


 そう言いながら、渡された首を差し出す。

 ご丁寧なことに、巨大な手のひらに小さく乗ったその首は、上手い具合にシセル・アルネスに正面を向け、その腐りかけた虚ろな目玉で何かを訴えるように見えた。

 魔王の名を出したことで、否定しづらい空気もある。


 だがシセル・アルネスは、そんなものなど一顧だにしない声で答えながら、その首を受け取り保存用のケースへと収めた。


「随分生ぬるい思考なのだな」


 それは、この場にいる全ての者の価値観を否定しても余りあるほどの、凄まじいまでの冷気に満ちた声だった。

 あまりの迫力に、イゾルタ王女の息を殺したような震えた悲鳴が鳴る。


 だが、どんな迫力であろうとも、声ごときに揺らぐようでは勇者長は務まらないらしい。

 ラロシュは良いものを見たといわんばかりに声をあげて笑い、未だシセル・アルネスに抱きつく魔道騎士の上から、その肩をポンポンと叩いた。


「左様、平和な時代に生きた者故、どうしても耐性が足りぬ。

 だが戦乱を生きた我々のような年寄は、平和の時代には目を瞑るものではないかえ?」


 ラロシュは好々爺然とした語り方で年長者のあり方を説く。

 もちろん、シセル・アルネスが頷くことはない。


「あいにく、私が目を瞑るかどうかを決めるのは、年齢や生きた時代でも・・・ましては貴公でもない」

 

 ただ、ラロシュにとってはその言葉だけで十分だった。


「然り! では、魔王陛下に問いましょう!

 フェルミ卿の行動を咎められるか?」


 叫ぶようにそう宣言しながら、会場の一角を指さす。

 するとそこにいた魔王が、この混乱を気にしないように努めて冷静な調子で答えた。


「何を咎めるというのでしょうか。 証拠品は返還していただけたのですから、我々の間に問題は残ってはいません」


 魔王のその言葉に、ラロシュが表情を緩める。

 一方のシセル・アルネスの顔は冷たい色が濃くなっていた。


「このような場に混乱をもたらしたことを、お詫びいたします」


 事態の収拾をつけるように魔王が立ち上がって宣言する。

 まるでこの件の管理役であるかのようなその態度は、通常時の会議の席であれば即座に反発を生んだだろう。

 だが、軍属であるリヴィアですら足がすくむほどの暴威が吹き荒れた直後とあっては、各国の主要戦力はともかく、それらを管理する立場として同席している各国首脳のような”箱入り達”では迂闊に触れたくないらしく、反発どころか反応すら困惑の中に埋没していた。


 そしてそれをいいことに、魔王は”本当に言いたかったであろうこと”を語ったのだ。



「ですが、皆様になんとしてもご理解いただきたいことがあります。

 この場が、論理や正義ではなく、それぞれの利益の確保が目的の会議であることは理解しています。

 だが、だからこそこの議題に上がっている存在を直視していただきたい」


 魔王はそこで言葉を一つ切ると、まるで注意を向けていない者がいないかと咎めるような視線で会場を一周見回してから、結論部分に移る。


「世界に・・・この”鬼害”を何度も受け入れる余裕はありません」



 その宣告に対して、列席者たちは沈黙をもって回答とした。


 つい先程の”ゴタゴタ”が嘘のように静まり返った会議場に、代わりに煩く飛び交ったのは視線の応酬。

 他の国の反応・・・特に仲の良い国の表情、仲の悪い国の表情をしきりに見ては、その合間にそれぞれの軍事担当者に問う首脳達。


 仮に自国で同様の事態が発生した場合、我が国に対応可能な戦力はあるか?

 ある場合、その運用手順は現実的に整備可能か?

 ない場合、助けを求める宛はあるか?

 対応のために発生した軍事空白をついて、隣国が攻めてくることはないか?

 攻めてくるとしたら、対応不能に陥った”鬼害”ごと占領するだけの力があるのか?


 ”伝説の大魔将軍が負傷した”という情報は、非常に重たい材料だった。

 なにせその”伝説”の中で、その大魔将軍が負傷した場面などほぼ無いのだから。

 しかもその”伝説”に登場する戦場は、総動員状態のトルバと正面切ってのものが殆どときている。


 ・・・いや、すぐに彼らは魔国が”具体的な対象”も提示しているではないかと気づいた。

 ”脅威の一体”に近しい存在とされたモニカ・ヴァロア男爵は、昨年末に”勇者”であるレオノア・メレフを公式に打ち破っているというではないか。

 であれば話は簡単だ。

 無敵に近い防御力を持つ勇者を突破できるだけの破壊力が、暴走状態で放たれるのを想像すれば良い。


 それも複数体・・・どこにいるかもわからない状態で。

 

 必然的に、大国ではない国の首脳の表情はどんどん暗くなっていく・・・

 



「果たしてそうでしょうか?」


 そんな議場の雰囲気に一石が投じられる。

 視線のざわめきが、一斉にその声の主へと殺到する。

 リヴィアもそちらを見れば、驚くことにすぐ近くの席ではないか。

 より具体的には、マグヌス魔法局長にして”筆頭魔法士”である”シュワルベ・ドルーペ”が立ち上がり、丸メガネを魔王に向けていたのだ。


「魔王陛下は、受け入れる余裕がないとおっしゃられましたが、説得力がありません。

 まず、皆様ご承知の通り”鬼害”というのは、広義でも社会性を持った個人が精神的、肉体的に過酷な環境に置かなければ発生しない、特殊な現象です」


 シュワルベ魔法局長はそう切り出すと、魔国に対する反論を述べ始めた。


「魔王陛下はまるで、その”社会人幼児”が何の変哲もない普通の環境にあったかのように誘導されておられましたが、そんなわけがないですよね?

 その哀れな少女は、”魔国の養人場”で行政に報告もない状態で育てられたのです。

 私の聞く限り、養人場の人舎の環境というのは”社会人幼児”に耐えられるものではない。

 魔国の養人場職員も、”社会人幼児”の保育が可能かどうかもあやしい。

 予兆のように報告されている魔力障害は、それらの環境的要因が原因ではないでしょうか?

 肉体的ストレスはこれで説明がつく。

 暴走のきっかけについても、その”母親代わりの食用人”あたりを屠殺しようとしたとすれば説明がつくでしょう」


 シュワルベの言葉に、魔国の官僚の何人かが声を上げて反発する。

 どうやら魔国の把握では、巻き込まれた食用人の死体の管理番号に、その”母親代わり”のものが含まれているらしい。

 食用人が十年を超えて飼育されるのは異例のことであり、そこからも養人場のその少女に対する異例の対応が見えると。


 だが、その反論をシュワルベは一蹴する


「”母親”でなくとも友人や、養人場が把握していない父親、兄弟の代わりかもしれない。

 それでなくともコミュニケーションを取れる同族が、”食用人”しかいない環境です。

 そこにいる全ての食用人が、程度の差こそあれ”家族”として認識していたと考えても不思議ではない。

 想像してみてください、自分の家族が日常的に屠殺されていく環境を。

 そんな中で、正常な教育も受けられていない幼い子どもが、”自分は屠殺されない”と何をもって信じられるのでしょうか?

 これで精神的ストレスの条件もクリアです。

 もちろん、その反応からして魔国の基準では、これでも考えられないほど異例の高待遇なのでしょう。

 ですが”鬼害の発生条件”を十二分に満たす状態であり、なおかつ、他の国は到底発生し得ない状況ともいえる」

 

 シュワルベのその言葉を、首脳たちが食い入るように聞き入る。

 魔国が提示した危険性は、この災害が”どこでも発生しうる”という大前提に大きく支えられている。

 だが、それが魔国特有のかなり特殊な条件であればどうか?


「発生せぬ鬼害に対して、我々が恐怖を感じろというのは些か拙速に過ぎますよ。

 それに、そこのシセル・アルネスは”傷一つ”で対処したではありませんか。

 少なくとも、そこの魔将軍の矛先が全世界に向いていた頃を思えば、何とも馬鹿馬鹿しい稚拙な脅威といえる」


 シュワルベのその言葉には、それなりの数の列席者が納得顔で頷く。

 たしかに、大魔将軍に傷をつけられる存在は脅威だが、殆どの国は、その鬼害を負傷一つで止めてしまう大魔将軍に国を滅ぼされる危機を乗り越えてきたのだ。


 そしてシュワルベの反論は、尚も勢いを弱めることはなかった。

 彼が次に指摘したのは、配られた”データ”についてだ。


「それに、この程度の情報でヴァロア男爵と、その鬼害の少女を結びつけるのも、ましてや他に同類がいる?

 何とも滑稽ですね。

 この紙切れを見せられただけで、信用するわけがないでしょうに。

 御存知の通り、ヴァロア男爵の魔力は・・・少なくとも微小領域においては、この星全体に影響がある。

 星の反対側で同種の魔力を観測したからといって、そこに関連する存在がいたとはならないのですよ。

 それに何より、高位のスキル保有者の育成には莫大な費用がかかることをお忘れなく。

 我が国ですら、生存を諦めて貰う幼児が毎年少なからず発生するというのに、軍位から王位級のスキル保有者が知らぬ間に育つ?

 いささか飛躍が過ぎますな。

 疑心暗鬼なのは理解できますが、その鬼害はモニカ・ヴァロア男爵とは関係のない事象でしょう」


 シュワルベは、魔国の提示した推定を一蹴した。

 提示された証拠のついても、その分野の最先端を行くマグヌスの魔法トップに、こうも否定されては立つ瀬はない。


 だが何より重要なことは、各国の首脳たちが、マグヌスという超大国の関係者の厳しい反論に迎合する反応を見せ始めたところだ。

 ここは公正な場ではない。

 おそらく彼等は、マグヌスの同意が得られないと確証した段階で、この件で魔国に味方する案を捨てたのだろう。


 だが同時にリヴィアは気づかざるを得なかった。

 彼の言う反論が、その実、ただの時間稼ぎでしか無いということに。


 彼が指摘しているのは、魔国の証拠が不足、もしくは信頼性に乏しい想像に過ぎないということだ。

 そしてモニカの情報にアクセスできるマグヌスからは、間違いなく魔国の主張を裏付ける証拠しか出ないとリヴィアは確信していた。

 おそらくシュワルベ本人も、そのことに気づいているだろう。


 だが、彼は反論をやめない。


「それにヴァロア男爵は、タラス・ヴァロアの遺児です。

 あらゆる証拠が、現ヴァロア家当主との血縁を示している。

 ではそこの、顔が似ているだけの誰とも知らない存在はどうでしょうか?」


 もし調べれば、確実に、モニカと同等の関連性が見いだせるであろう。


 だがマグヌスの名誉のため、政治的利益のため。

 シュワルベ・ドルーペはしたり顔で反論を続けていた。


 首脳達が己の関係者とヒソヒソと何かを交わす音が次第に大きくなる。

 漏れ出た音を聞けば、魔国の意見に対して否定的までいかずとも、消極的な姿勢を見せようという流れができていた。


 トルバの小国の内、いくつかの国の首脳が申し訳無さそうな視線を魔王に向ける。

 それに対して魔王と大魔将軍は、静かに真意を問うような視線を投げかけるだけだった。



 ”世界にとって、本当にそれで良いのか”


 と。



 だが、その問いに対して反応を見せようとする国はない。

 マグヌス、アルバレス、そして列強からエドワーズが魔国の意見を聞き流す空気を出し続けている中で、それを覆せなかった魔国に味方する国は皆無といえた。

 この案件の支持者とされていた、キャンベルやネリスでさえ、決を取れば”棄権”するだろう。

 ・・・いや、ネリスは異なるか。


「・・・その”鬼害の少女の遺体”は現在どのような状況ですか? 魔国で解析できないのであれば・・・」


 その、例のごとく自国の軍事技術向上の事しか頭にない彼の国らしい対応に、場の空気も弛緩するしかなかった。

 もはや、何かを追及する空気ではない。


 ただ、眼前でルキアーノに抱きしめられながら震えを抑え込もうとしているガブリエラを介抱しながらリヴィアは、”政治”というものが如何に世界にとって危険で、そして世界に抗うことになる自分達の矮小性と自己中心性を突きつけられるような想いに囚われざるを得なかった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





「ありがとうございました」


 会議の議題が全て終了した後、マグヌスの一時控室として用意されていた大型宴会場の中でリヴィアは、そこにいたシュワルベ魔法局長に謝辞を述べていた。


 体調が優れないガブリエラに付き添って、すぐに宿に向かわなければならない身だが、それとて僅かな暇くらいはある。

 ルキアーノや長年ガブリエラを見てきた医療班が走り回っている中で、リヴィアにできることはない。

 であれば、先程の会議で大いに助けとなった者へ感謝の意を伝えに行くのが、ガブリエラの顔役を期待されているリヴィアの仕事だ。


「礼には及びません。 国家に仕える者の定めです」


 シュワルベがそう言って、何でもないように頭を振る。


 あれから会議は他の案件に支障が出るほどにまで混乱した。

 魔国はその後もモニカとあの少女との関連を主張し続け、その危険性を訴え続けたのだ。

 もちろん、それに耳を傾ける国もいくつかはあった。

 何カ国かは、いざというときの協力体制の構築だけでもと提案があった程だ。


 ただし、その殆どがシセル・アルネスの派遣の枠組みを気にしていた事からして、将来的に軍事的脅威に対して魔国の協力を得られるよう枠組みを拡大する事を前提としている事は明確だった。

 そして結果的にこの事が、この件を更に有耶無耶にする一助となった。

 見方を変えればこれは、トルバの泡沫国にとって列強国に頼らない”準軍事同盟”とも取れる。

 もしそんなものが出来上がれば、魔国のトルバ内での地位は列強国が霞む程の強固なものになるだろう。

 当然、列強国がそれを許すわけがない。

 つまりこの問題はいつの間にか、トルバ内での軍事的優位性のバランスの話にすり替わっていたのである。


 その切っ掛けとなったのが、シュワルベの「そんなに恐れるのであれば、魔将軍を派遣できる国を募れば良い」という一言だったのは、この御仁の恐ろしさたるや。

 最後まで、全ての技術開示と共有をネリスが強く求め続けたた事も手伝って、今会議中にモニカの進退が決まることは無くなったといって良い。

 魔国が手を出す可能性は残されているが、それに対して国際社会は同意しないし、マグヌス、アルバレスの2超大国を敵に回す行為だと印象付けられた。


 にも関わらず、シュワルベの雰囲気は少し不機嫌そうだ。


「あの程度の意見で巨大戦力の排除に合意できる訳がないでしょう。 アルバレスとの関係もある。

 例えそれが”間違い”であっても、この会議で我々はヴァロア男爵の地位に文句を付けさせるわけにはいきませんからね」

「・・・閣下は、間違いだとお思いなのでしょうか?」


 リヴィアが少し厳しい声で問う。

 実態がどうであれ、自らの主であり王族でもあるガブリエラが進めた案件を、”間違い”と言われれば思うところもある。

 だが、シュワルベはそんな小娘の癇癪など気にも留めない様子で返してきた。


「その質問に答える意味はありますか?」


 その言葉には、明らかに”言外の意味”を多分に含んでいた。

 それもリヴィアには手に余る類の。


「・・・いえ、失礼しました。

 あらためて、この度はありがとうございました」


 リヴィアが咄嗟に謝罪と感謝を口にする。

 なんであれ、今回の会議でモニカの進退が決定されなかったのは、この男のおかげなのだから。

 そんな態度を見て取ったのかシュワルベは、眼鏡を指で軽く抑えながら


「私の魔法学的地位を低下させたのですから、高くつきますよ・・・いや、これは冗談だ。

 本当に、あなた方に礼を言われる事ではない。

 ただ・・・まさか、今回の会議でヴァロア男爵が認められたなどと思っていませんよね?」


 その言葉に対しリヴィアは答えに窮し、それを見たシュワルベが少し呆れたように言葉を続ける。


「”政治的な話”と、”実務的な話”は異なります。

 表向き不問な流れができたとはいえ、公の場でヴァロア男爵に類似する存在が示唆されたのです。

 各国で、ヴァロア男爵の本格的な”身辺調査”が始まるでしょう。

 政治的、学術的・・・あるいは軍事的な。

 それも、これまでと異なり、表向き( ・・・)にね。

 彼等の好奇心を咎める程の義理までは、あの少女にはないのだから。

 ところで・・・あなた方は、どの程度”類似品”の情報を?」


 リヴィアは首を横に振る。

 モニカに姉妹(試作品)がいたことは彼女との情報共有で把握している。

 だが、それらが生きているという情報は掴んでいなかった。

 ”フランチェスカ計画”という物が、それほどまでに絶望的な壁にぶち当たっていたからだ。


「彼女が1人しかいない存在であればいくらでも匿えたでしょう。

 ですが複数、それも何処に存在してもおかしくないとなれば、話は違います。

 匿うことは難しくなるし、それだけの労力を注ぐだけの価値も失われる。

 ガブリエラ様が護れる範囲など、ヴァロア男爵くらいのものです。

 それも、これからの流れの中で、ヴァロア男爵を護りきれるか・・・いや、逆か」

 

 シュワルベは少し自嘲気味に笑った。


「まったく・・・魔国は余計なことをしてくれた」


 そしてまるで自らに言い聞かせるように語る。

 彼が語った今後の展望は、リヴィアの想像の範疇を超えていた。


「世界は知ってしまった。たった一人の少女を取り込むだけで、魔国や列強、果ては超大国をも躊躇させる兵器を獲得できる可能性を・・・


・・・すぐに始まりますよ。 ”アイギスの落とし子”の奪い合いが。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 マグヌスの関係者が退出していくのを見送る中で、リヴィアは悶々とした感情をどのように処理していいか分からなくなっていた。

 シュワルベの宣告は、今もリヴィアの心を蝕み続けている。

 おそらく、これからも晴れることはないだろう。


 

 だがその感情は、呆気ないほど早く意外な形で縮むことになった。


 扉をくぐった所で、ガブリエラが右を向いて固まってしまったのだ。

 集団で動いている以上、そんなことになれば全体の流れが滞ってしまう。

 控室に残る他の関係者が、何事かとこちらに関心を向けた。

 先頭を置く護衛兵がリヴィアを軽く見やったので、出口から覗き込むような形で廊下へ顔を出せば、予想外の光景に面食らってしまう。

 外で控えることになっていたガブリエラの侍従長が、まさかの人物を連れて自分達を待っていたのだ。


「ガブリエラ様、ヴァロ男爵が拝謁を希望されています」


 その言葉にモニカの視線が一瞬すごい勢いで侍従長に向かったことからして、本当は侍従長がモニカを連れてきたことは明白だった。

 それも半ば強引に、しかもつい先ほどと思われる。

 おそらく、会議で取り乱した話を聞いた侍従長が独断で動いたのだろう。


 リヴィアであれば出来なかった。

 今のガブリエラにとって、”モニカ”という刺激がどのように働くか想像できなかったからだ。

 だが、流石に長年に渡って”ガブリエラの癇癪”に真っ向から戦い続けた猛者である侍従長にとって、その程度の想像など容易い事だったに違いない。


 少なくとも、その配慮に救われたのは、ガブリエラを見れば一目瞭然だった。


「え・・・っと、ガブリエラ!?」


 モニカが驚いたような、ついでに怯えたような声でガブリエラを呼ぶ。

 無理もない、なにせガブリエラは普段の傍若無人な態度はどこへやら、涙すら浮かべた表情でモニカに駆け寄ると、そのまま抱き着いて黙りこくったのだから。

 いったい何があったのかと問うような、視線でこちらや他の関係者を見回していた。

 その哀れな姿は、なんとも哀愁を誘うものだ。

 怯えたように力なくモニカに抱き着くガブリエラも含めて、この2人の若い女性がどちらもこの大陸で5本の指に入る危険人物であると、いったい誰が思うだろうか。



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― 新着の感想 ―
すごいなこれ。 なるほど、『こんな危険な存在は許してはおけない』って方向になると思ってたけど、そうじゃなくて『自分たちもこれ欲しい』って流れになるのか。 そりゃそうか。誰だって欲しいよな。お手軽特級戦…
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