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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
391/426

2-21【静かな雨音 12:~大事な部品~】


 アオハとのトップ会合から1週間後。

 ピカ研の3階の一室にて。



「モニカ、やっぱり無理があると思うよ」


 ”女の子の日”でぶっ倒れて北病院にぶち込まれ、「もう【体調調整スキル】が学習したから大丈夫」という俺の言葉を無視されて始まった絶対安静が解けた翌日、ピカ研にて俺達とアオハ家で交わされた取引の内容を聞かされたメリダが、開口一番困った表情でそう嘆いた。


「うーん、やっぱりそう思う?」


 モニカもそれに同調する様に困った声を出す。


 俺達は、プレゼンで使った”ユニバーサルシステムベスト”を眺めながら、3人でああでもないこうでもないと話し合っていた。

 あの時はノリと度胸で押し通しちゃった訳だが、そもそもこんなにすぐ話が進む事は想定していないわけで。

 当然ながら、準備不足と勇み足感はどうしても否めなかった。


 例えば、目の前に置かれたこの”魔道具ベスト”

 領の命運を握る新産業を勝ち取った偉大なる魔道具だが、ここで驚愕の事実を明かしておこう。



 これは”ハリボテ”である。



 完成品どころか試作品と呼べる段階ですらない。

 正確には、ごく一部の機能だけを取り付けた未完成品だ。

 実は、あのときは俺が裏から操作して動かしていて、コア部分には素人には見分けがつかないレベルの規格外品の魔水晶と、ピカ研に転がっていた中で、できるだけ仰々しいゴーレム制御器のガラクタ(1個なんと17セリス!)を組み合わせてでっち上げていた。

 つまり、”ユニバーサルシステム”など搭載していないというわけである。


 エミリアはコロッと騙されてくれたっぽいが、あの中でまともに”完成品”と呼べたのは、魔法を使用した”IMU”くらいだろう。

 それにしたって、俺か”ユニバーサルシステム”なしでは、ただのゴテゴテした腕輪でしかない。


 さて、晴れてこれがヴァロア領の主要生産物になったわけだが、勿論こんなハリボテを量産させるわけには行かない。

 つまり、なんとかしてこれを完成させないといけないのだ。


 ・・・のだが。


「むちゃだよー」


 と、メリダが率直な感想を述べた。

 当たり前だ。

 俺達はまだまだ”ひよっこゴーレム機械士”であり、こんな複雑な物を作りきる能力などない。


「せめて、”ゴーレム制御課程”を全部取ってからじゃないと」


 そう言って天を仰ぐメリダ。

 ちなみに現行のその過程を全部取るのは、天才しか存在しないアクリラ生でもかなり難しい。

 ピカ研でもかつてルビウスさんが失敗し、ベル先輩も挑戦しているが、最終課程はどうやら無理そうな気配である。

 専門課程を取ることが教師になる最低限の条件なので、研究所の維持のために最近はピカティニ先生が付きっきりでシゴキを入れていた。


 だが、”そこ”については今はそれほど心配はしていない。


「たぶん、そこまで急ぎになるとはおもわないって」

「最終的な量産開始は、たぶん俺達の卒業後だ」


 俺達が、帰り際に言い渡されたクラウディアの”要求事項”について語る。

 生理でぶっ倒れてる間もエミリアとクラウディアの間である程度の摺合せが進んでいて、その後俺達とも行われたのだ。

 それによると、まず優先されるのはアルトヴラ商会の譲渡になるらしい。

 だが、不良債権化していたとはいえ、商会の運営を異国のど田舎に移動するのは難しい。

 なので当面の間は、まず地盤づくりのために魔草取引の出張所をフェルズに作り、アルトヴラ商会の現行製品の生産体制を順次移して、そこを拠点に”ユニバーサルシステム”に関する施設を拡充していくようだ。


 本格的な生産開始は、俺達が卒業して領に移ってから。


「でも、それって6年ちょっとくらいしか時間ないよね?」


 メリダがそう言って3本指の腕を2本上げる。

 6年といえば、子供時代は永遠にも感じるが、新種の兵器開発としてはかなり短い。

 この間に完成させるだけではなく、量産までの目処をつけ、資金を適切に投入しなければならないのだ。

 そして必要とされる人員も確保しなければならない。


「たぶん、まずはフェルズに学校を作ることになるだろうな」


 実際に働くことになる元奴隷候補達は、フェルズ産の高級奴隷としてある程度教育されているらしいが、ゴーレム機械を製造するには専門教育が全く足りない。

 そうなると準備に1番時間がかかるのが教育だ。

 ネジを締めるのにも、意外と必要知識は多く、前提知識は更に多い。


「それよりも、その商会の研究所に頼んで開発してもらうべきだよ、技術者の数も違うだろうし」


 メリダがそう言って茶化す。

 だが、それを聞いた俺達は更に肩を落とした。


「研究関連の施設は貰えなかったんだ」


 いくらブランドイメージで商売にならない分野だといえども、”ゴーレム機械”は今後のあらゆる分野において産業革命的な変化をもたらすとされている分野だ。

 なので早々に研究関連が商会から分離されている。

 そのためアルトヴラ商会に研究開発能力は残っていないらしい。


「と、いうことで研究所も作らなきゃならないん」


 俺がそう言うと、メリダがまた天を仰いだ。

 俺達の作り出した道が、如何に大変なものか想像できたのだろう。


「まあ俺達は、まずさっさと”商品”を完成させて、せめて”詐欺状態”を解消しないといけないんだが」 


 俺がそう言うと、モニカが同意するように拳を握った。


 問題を整理しよう。


 最大の課題は”ユニバーサルシステム”の簡略化だ。

 俺達に”フロウゴーレム”を製造する能力がないので、代替となる素材が必要になるのだが、現行のシステムではどうやっても収まらない。

 したがって、まずは”とにかく起動できる”レベルの制御装置を確保しなければならなかった。


「ここが肝だから、できれば自作したいんだけどな」

「”フロウゴーレム”作ってくれる工房は貰えなかったの?」


 メリダが聞く。

 ヴィオの構造物”フロウゴーレム”があるならば、確かにこんな所で頭を悩める必要はない。

 もちろん、無いわけで。


「残念ながら、高度技術を扱う工房は入ってない。

 作れるのは標準的なゴーレム制御機だけだ。

 それに、まだ商会が譲渡されてない段階で、迂闊に”フロウゴーレム”の存在を匂わせる訳にはいかないからな」


 フロウゴーレムが有用である事を知っているのは、俺達の貴重なアドバンテージだ。

 もしその事が知られ、相手にフロウゴーレムの製造法があった場合。

 最悪の展開として、タイミング次第だが商会の譲渡をキャンセルされただけで、せっかく作った”ユニバーサルシステム”の設計だけ取られる危険性がある。

 そうなるとフロウゴーレムの製造法を知らない俺達には、手も足も出ない。


「まあ、そもそもあんな物を作れる奴が、他にいるのかどうか怪しいが」


 アクリラですら次元の違う技術扱いだったのだから、カシウスが製造技術を誰かに伝えた可能性は薄い。

 もし伝えられていたら、もっと見かけられていただろう。


「じゃあ、今は機能を削るしかないね」


 メリダがそう言って諦めた様にため息をつく


「メリダは何かおもいつく?」

「うーん、この機能なんだけどー」


 メリダが、机いっぱいに広げられた図面の一部を指さした。


 今はとにかく、不格好でも力技でもいいから、今手に入る技術で完成品を作る。


 それができれば、次は”標準化”だ。

 大量の複雑機械装置を動作させるには、それら全てが他の全てに対して持ち得る”機能と成約”に”約束と保証”が必要になる。

 俺達だけが作れる物に、芸術品以上の価値は生まれない。

 最大の注文先はマグヌス軍になるだろうから、現行のその規格に互換性がある方がいいだろうか。

 クラウディアに聞いておこうか。


 だがなー。

 

 俺は心の中でそう嘆く。

 クラウディアといえば困ったのは”あの一言”だ。


 ”盗み聞きは行儀が良くなくってよ、小さなスキルさん”


 あのたった一言で、大きな釘を差された。

 モニカが意識を失っている時にかけられた言葉ということは、あれは間違いなく”俺”に向けて言葉だ。

 だが、クラウディアに俺の存在を話したことはない。

 彼女と繋がっている”モニカ連絡室”の面々にも。


 つまり、”俺を知っている誰か”が彼女に漏らしたことになる。


 俺達の交友関係で一番に疑われるのは、間違いなくガブリエラだろう。

 俺の動作を見ている医療部隊の”モニカ班”の内、ガブリエラから引き継いだ者の口から漏れた可能性もあるが、その場合でもガブリエラ由来である。


 勿論実際的な損害はない。

 俺の存在は秘匿されなければならない秘密かと言われれば、そんなことはないし、ごく僅かだが親しい人にも話している。

 漏れた所で”だからなんだ?”といえば、どうってこともない。


 ただこの大事な局面で、俺達のガブリエラへの信頼に”天井”が設定されてしまっただけである。

 ”彼女個人”に対する信頼ではない。

 ”彼女の能力”に対する信頼にである。

 主に情報管理に関する部分の。


 これは痛い。

 恐ろしいことに、あの王女様はたった一言で俺達の発言力の原資をゴッソリ削ってしまったのだ。 

 しかも他の誰にも知られぬ形で、理解されぬ形で。


 ラクイア(軍事会議)中の俺達の行動に首輪を掛けたつもりか、それとももっと後になってガブリエラと切り離すときの算段か・・・


 その時、俺はふと”嫌な事実”に思い至った。

 あの一言で、本当に一番損害を被ったのは俺達ではないのでは? と。


 ・・・まさか、ガブリエラを孤立させるための下準備とかじゃないよな?


 その考えが生まれた瞬間、俺達の中をスーッと何か冷たいものが流れた。

 その寒さにモニカが思わず身を縮める。


 もしかして・・・だがなぜ? なんのために?

 何より、何故モニカではなく”俺”に?


 俺は仮想の頭を振ってその考えを否定する。

 だいたい、なんでクラウディアがガブリエラを孤立させるというのだ。 

 だがその考えに対して、俺の頭の中に以前ガブリエラが言っていた、”大国の王の資質”が湧き出してきた。


 ”誰よりも人を愛し、国を愛し、皆を愛し、捨てられない物をいくつも背負って、それに葛藤し嘆きながら・・・・それでも時が来れば捨てる決断ができる。 そういう者が王になる”


 明言はしていないが、言動からしておそらくガブリエラはクラウディアにその”資質”を見出している。

 つまりクラウディアは・・・




 その時、俺の混乱を見計らいでもしたのか、それとも全く意にする気がないことを示すためなのか。

 俺達のいる部屋の扉を、誰かが勢いよく開けた。


「よお! 2人とも精が出るな!」


 現れたのは、ピカ研の狼人の先輩だ。


「あ、ライリー先輩いたんですか」


 モニカが驚きと少しの呆れを混じらせた声で先輩を迎える。

 その言葉通り、ライリー先輩は滅多にピカ研には来ないのだが、その顔はピカ研1厚かましい。


「いたとは失礼な。 せっかく面白いものを持ってきたのに」


 するとそう言いながら、ライリー先輩が興味深いものを取り出して、テーブルの上に置いてくれた。

 ゴトリと重そうな音をたてるそれに、モニカとメリダの視線が吸い寄せられる。

 大部分が金属製で、機関部とそこから伸びる金属の筒の構造を持っているソレは、なんともいえない物騒な雰囲気を纏っている。

 というかこれって珍しい物といいうより・・・


『うわ、”銃”じゃねえか』

「”じゅう”?」


 俺の言葉をモニカが繰り返すと、ライリー先輩が頷いた。


「そう”銃”だ」


 ライリー先輩がそう言って、テーブルの上のそれを見せるように色んな角度に動かす。

 大きさは1m程度のライフル型で、ボルトアクションみたいな見た目だが、【透視】で見ると不思議な形のオートマチックになっていて、御丁寧に”ライフリング”まで刻まれている。

 立派な”アサルトライフル”だ。


 ちなみに”実家(ヴァロア領)”から帰って来て調べて判明したのだが、”銃”はちゃんとこの世界に存在するし、今使ってる言葉もこの世界のもの。

 ただ、かなりニュアンスというか、受ける印象が異なるが。


『めずらしいな』

『”北”で見たって言ってたよね』

『あれに比べたら簡素だけど、その代わり威力は高いだろう』

「ふーん」


 そう答えながらモニカが銃身の中を覗き込む。

 ”地球”の知識であれば、”絶対にやってはいけない”級の愚行だ。

 なんでやってはいけないのかは、簡単である。

 まさに”それを見せてやる”とばかりにモニカがその瞬間、シンプルな銃身のトリガーに指をかけてしまい、銃の細長い筒の中に火花が散るのが見えた。


 そうなると当然、装填されている銃弾の薬莢が炸裂するわけで・・・

 燃焼でガス化し急膨張した炸薬に押されて、鉛製の銃弾がゴリゴリと銃身のライフリングをなぞりながら急加速し、その長い銃身から飛び出す頃にはすっかり音速の2倍までになっていた。


 唐突に飛び出した銃弾が眼球に当たって弾け、その衝撃にモニカが面食らって固まった。


 ”バン!!”


 という強烈な炸裂音が部屋の中に響き渡る。


「ビックリした!?」

「うわくっせー」


 音にメリダが目を見開き、硝煙臭ライリー先輩が鼻を抑える。


「なに!? どうしたの!?」


 と同時に、部屋の扉がまた勢いよく開けられ、小さな悪魔の様な見た目のルビウスさんが血相を変えて入ってきた。

 そしてルビウスさんの視線がさっと部屋の中を動き、銃口を自分の目玉に向けて固まってる俺達を見つけて、やれやれとばかりに肩を落とした。

 

「銃で遊ぶなら、先に言ってよ。

 あと火薬の煙は臭いから、窓開けてやって」


 ルビウスさんが、そう言いながら部屋を横切り窓をあけた。

 外の風が部屋の中に流れ込み、漂っていた硝煙臭を外に流していく。


『そこ!?』


 あまりに自然な対応に、俺がルビウスさんに突っ込んだのはそれからまだ少ししてからだ。

 モニカはまだ放心状態のまま。


「すげえだろ、これ魔力使ってないんだぜ? 機械じかけとバネで火薬を引火させて音を出してるんだ。

 結構な速度で金属の破片が飛んでいくのが玉に瑕だけどな」


 ライリー先輩が得意気にそう言うと、そこでようやくモニカが放心から我に返った。

 銃身からは白い煙がトロトロと立ち昇り、モニカが直撃した目をコシコシと擦る。

 別に失明とかはしていないが、変な違和感だけ残っているのだ。


「どうも魔国では、玩具として流通してるらしい。 飛んでく金属片で的当てやってるみたいだが」

「”おもちゃ”・・・ですか?」


 ライリー先輩の言葉にモニカが首を捻る。

 最初に俺の説明があったので、モニカの中ではまだ”銃=武器”のイメージが強い。

 だが、この世界の”常識”は違う。


「こんなの当たったら、黒ずんじゃうよ」


 というお肌が弱いメリダ(・・・・・・・・)の言葉通り、金属弾を音速の数倍程度でぶち当てた所で腫れるだけ、訓練された者にとってはちょっとビックリするだけのものでしかない。

 せいぜいが子供が時々怪我をする、ちょっと危ない玩具だ。

 魔国で流行ってるというのも、最も魔力適正の高い魔人にとっては子供でも危険は無いということだろう。


「最近アクリラでも玩具扱いで入ってくるけど、物を壊したり体の弱い下町の子が結構な怪我してるみたいだから、気をつけて使ってね。

 あと小さい子に向けちゃだめよ」


 ルビウスさんの言葉にも、危険物を扱う様な険しさはなかった。

 野球のボールくらいの感覚だろうか?

 いかんせん、何もかもが魔力で底上げされているこの世界では、単なる化学反応にすぎない火薬の威力は低い。

 

『でもこれって、わたし達の”銃撃”と仕組みはいっしょだよね?』


 モニカがそう言いながら薬室を開け、当たり前のように装填されていた次の弾の薬莢を毟り取り、代わりに魔力を籠めようとしたところで、俺が慌てて止める。


『やめろ! 部屋を吹き飛ばす気か!』


 似たような物と思って気軽な気分でやってるが、氷の大地時代ですら戦車砲並の火力があったのだ。

 そんな魔力を、こんな魔力強化もしてない筒の中に突っ込めば、一瞬で破裂して被害が尋常ではない。


 俺がそう叱責すると、モニカは部屋の備品が吹き飛ばされる所を想像したようで、何かを誤魔化すような表情で持っていた銃をそっとメリダに渡した。

 幸い、部屋にいる他の者達は銃の構造に夢中で、モニカの蛮行未遂に気づいていない。

 受け取ったメリダが、格好つける様に銃を構えて”どうだ”と表情で聞いてくるが、”ミニモスラがライフルを構えている姿”が、あまりにもシュールすぎて反応に困る。


 ピカ研の住民達は、どうやら反動を利用した自動装填機構が面白いようで、すぐにルビウスさんが即席で用意した土人形を的代わりにして、射撃試験が開始された。

 ただし、発砲中の銃の横に顔を寄せるという、中々クレイジーな観察光景である。


 この世界って嫌に工作技術が発展しているが、早い段階で”ゴーレム”という制御手段が登場したせいで、案外こういった”機械仕掛け”に疎い所がある。

 柔軟性は無いものの、”確実な動作”という点で見れば、これ以上に有用なものは無いだろう。

 そして得てして道具というのは、1種類の動作さえ完璧であればそれでいい、いやむしろ完璧のためであれば1種類の動作でいいというべきか。

 でもそう考えると・・・


 俺はこの銃から得た”ヒント”が何か役に立たないかと、”ユニバーサルシステム”の設計図に当てはめてみることにした。

 当然ながら目に見えないほどの微細な構造に、目に見えるサイズの機械仕掛けの入る余地などない。


 だが本当にそうか?


 俺達が最初に作るのは、特定の機能に絞られた簡素なものだ。

 ”ユニバーサルシステム”の中から、柔軟性を必要としない要素を抜き出して、細分化し外部機構で再現できないか?


 そうやって、できあがった超絶複雑理解不能機械の設計図をすぐに捨てる。

 これでは逆に稀代の天才職人が千人単位で必要になる。

 もっと簡単に、機械式であった方が・・・いやとにかくシンプルな”現象”で管理できる要素を・・・いや、むしろ中核部分を全部機械式に・・・いやいやいや・・・


 何故か俺は、このアイディアが何らかの引っ掛かりを見せるのではないかと思えてならなかったので、それからずっとシミレーションに没頭していった。

 モニカも含めた全員が銃に夢中になっている間も、全員が銃に飽きて部屋の中が再びモニカとメリダだけになったあとも・・・




 日が傾き、空の色に赤らみが出てきた頃、俺の中に予め設定してたアラームが鳴り響き、俺の意識がシミレーション空間から引き戻された。


「あ、時間だぞモニカ」


 俺がスピーカーからそう言うと、モニカが顔を上げてメリダを見つめた。


「あ! そっか! いかないと!」


 そう言いながら慌てて荷物を纏める俺達に、メリダが不思議そうに首を傾げる。


「あれ? 今日はもう帰るの?」

「いや、ちょっと”この時間じゃないとできない事”があってな」

「この時間じゃないとできない事?」


 俺の言葉をオウム返しにするメリダの瞳には興味の色が浮かんでいた。

 それに対し、モニカが工具を自分のバッグに突っ込みながら笑って答える。 


「パーツ回収」



 これから俺達は、”ユニバーサルシステム”を完成させるに当たって、とても重要な”ある技術”を確保しに行くのだ。

 もちろん、”とても重要”というからには唯のパーツではない。

 それに、”とてもとても大事なパーツ”なんで、一級品に限るのである。






 

 夕暮れのアクリラを、豚獣人の双子の兄弟が仲良く歩いていた。

 彼等の名前は”ヴィンセント”と”ジュールズ”。


 いつものように、今日の研究室での出来事を語りながら、興奮したように”ああでもないこうでもない”と議論するその足取りはとても軽い。

 特徴的な豚鼻をヒクヒクさせながら、今没頭している研究の予定を立てていた。

 彼等の専門は、魔力をできるだけ高い効率で溜める技術である。

 話している内容の異様な高度さを加味しなければ、それはアクリラの夕暮れ時に起こる普通の出来事と言えるだろう。

 いや、普通の生徒の会話ですら一般市民には高度過ぎるのだから、なおさら彼等は地味な存在だ。


 だがアクリラの住民は知っている。

 真に図抜けた能力を持つ生徒の見分け方を。


 だから、豚獣人の兄弟の前に”全身鎧の牛”が立ち塞がったとき、”ああ彼等は優秀なんだ”とすぐに理解したのだ。


 一方の兄弟の豚獣人は、その牛の正体を知っていたせいか、逆になぜそれが威圧する様にこちらを見ているのか理解できずにいた。

 そして同時に、彼等の後ろから迫る足音の正体にも気づいていたが、その足音がいつも聞いていた小柄な少女の物とは異なる重さを持っている事も理解できない。


 2人が後ろを振り返ると、今しがた自分達が歩いてきた道の真ん中に、小柄な少女が仁王立ちしている所が見えた。

 その姿は、彼らもよく知る中等部の生徒、”モニカ・ヴァロア”のものだ。

 最近、豚獣人兄弟の研究室によく入り浸り、兄弟に自身の研究について意見を求めたり、実際にパーツを作ったりもしている仲である。

 非常に人懐っこく、ある程度ならくっついたりしても怒らないので、浮いた話に縁のない兄弟にとっては貴重な”女子”の体に触れる機会だった。


 だが、今日のモニカはまるで獲物を狩る狼の様な雰囲気を纏っているではないか。


「先輩たちって、”就職先”って決まってます?」


 モニカがそう言ってニコリと笑うと、豚兄弟が困惑した表情をつくる。

 なんで俺達が彼等の就職先を聞いたのか、理解できない。

 だが彼等の”狩られる者”として刻まれた本能が、途轍もない警告を発し始めた事からして、只事ではないだろう。


「オッフ・・・、お、おそらくトルバのどこかの研究室に行くと思いますぞ。 な、な、何件かさそわれておるので・・・」

「まだ決まってないんですよね?」


 ヴィンセントの返答に、食い気味に被せる様に聞き返すモニカ。

 その目がギラギラと輝いている。


「あー・・・うん」

「それはよかった」


 ジュールズの肯定に、モニカが本当に嬉しそうな笑顔を作る。

 それを見て、兄弟の相方は口を開けて声にならない悲鳴を上げた。



「じゃあ、ウチで雇いますね」


 それは全ての前後関係を知らなければ、まるでねだっていたプレゼントを手に入れた幼い少女にしか見えない程の、屈託のない喜びに満ちた声だ。

 実際にモニカにしてみれば、豚獣人兄弟はずっと手にれたいと思っていた”もの”なので間違いではない。


 ただし前後関係知っている豚獣人兄弟にしてみれば、その笑みは恐るべき恐怖を掻き立てるものであり、絶対権力者の放つ問答無用の”宣告”だ。

 モニカの表情は雄弁に語っていた。


 ”まさかてめえら、俺達の体をタダで触らせてたとか思ってねえよな?”


 、と。


 モニカがそんな一種の怒気の籠もった空気を滲ませると、豚兄弟は引きつった笑みで誤魔化そうとしたが、モニカに逃がす気はない。

 一歩踏み出したモニカを見て慌てて逃げようとする2人は、反対側にいた武装牛の姿につんのめる様に足をもつれさせ、無様にその場で倒れてしまった。

 そしてモニカはその襟首を引っ掴むと、数倍の体格差がある豚獣人2人をそのままズルズルと引きずりはじめたではないか。

 2人は屠殺場に引きずられる豚さながらに必死で暴れるが、モニカはビクともしない。

 


『よっし、これで”必須技術”は確保したぞ!』


 豚獣人兄弟には、モニカの中でそんな声が響いた事など知る由もなかった。

 ただ、


「罠だ! これは罠だ!」

「ハニートラップとは汚いですぞ!モニカ氏!」


 と、血の涙を流しながら叫ぶ2人の声は、アクリラの喧騒に飲み込まれて消えていったのだ。





 これより数年後に初めて発売された”ユニバーサルシステム”の初期型が、より高性能な後発機や他社製品が市場に溢れてもなお一定以上の価値を保ち続けたのは、搭載されていた蓄魔装置が非常に優秀だった事が理由の1つといわれている。

 中には初期型の魔力系だけを抜き出して、新型に移植して使い続ける者もいた程だ。

 

 そしてその傑作機の原動力には、とある”天才豚獣人兄弟”の活躍が欠かせなかったのは、当時を知る関係者の常識となっていた。

 特にメリダ博士が好んで話した、彼等を引き入れたモニカ・ヴァロア(注:当時の名前)による”壮絶な交渉”に関するエピソードは、彼女が晩年まで様々な形で脚色され続けた事で後々まで多くの人に面白おかしく語られることになる。




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― 新着の感想 ―
[一言] モニカがハニートラップを仕掛けていた事にビックリ、スパイ小説でも読んだのかな
[良い点] 『必須技術』は草。 ユニバーサルシステムがどんな形で改良されるのか楽しみ。 [気になる点] モニカはともかく、メリダまで銃が効かないのは驚きだけど、アクリラに入学できるだけの魔力はあるんで…
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