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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
359/426

2-20【先史の記憶 2:~ご安全に~】



「モニカ・ヴァロア、モニカ・ヴァロア、モニカ・ヴァロア」


 点呼にやってきた冒険者協会のおじさんが、俺達の名前を何度も呟きながらリストを確認し、用紙を何枚も捲っていく。

 かなりの数の人間がいるので、確認も一仕事のようだ。


 発掘場所の近くに建てられた木造のプレハブみたいな中央事務所の前には、既に数百人の屈強な連中がひしめいていた。

 だが年齢層や男女比も変わらないというのに、外で準備している調査班と比べて随分暑苦しい。

 ここから見る限り魔法士は半数くらい、アクリラ生か元アクリラ生は更にその半分程度だろうか。

 これだけでかなりの戦力である。

 冒険者協会から派遣されてきた”傭兵組”に関しても、モニカの目から見て”弱そうな者”はいないとのこと。

 俺の目で見ても随分怖そうな風貌が多いからな、威嚇気味に周囲を睨んでるので正直こわい。


 ちなみにアクリラ関係者とその他の違いは簡単だ。

 この程度脅威とも思わずに、比較的ノホホンとしてるのがアクリラ関係者。

 アクリラ生が怖くてギスギスしてるのがその他である。


 後ろではエリクが緊張をさっきよりも更に高めて、普段からは考えられない程に目つきが悪くなっていた。

 なるほど、確かにこの表情なら魔獣でも殺れそうだ。

 ロメオも、いちいち睨みつけてきた相手に「ぶっ殺すぞ」といった感じに睨み返しているので、絡まれる心配は無さそうだが、気の荒い連中だこと。

 おかげで広場の中は、”二種免試験”の時の様な空気になっていた。

 せめてここにもシルフィがいればなー、いないかー。


「おー、あったあった、”モニカ・シリバ・ヴァロア”と”エリク”ね」


 おじさんがそう言いながら、書類に判子型の魔道具を押して認証する。

 すると程なくして俺達の登録証が通知を感知して僅かに光った。

 これで出席は完了である。

 だが後ろでは、エリクが首を捻っていた。


『どうしたんだ?』


 一応、ヴィオに聞いておく


『お父様、”ヴァロア”ってなんですか?』


 あ、そういうこと・・・

 そういや、貴族であることを伏せるためにエリク達には”モニカ・シリバ”の名前しか伝えてなかったな。

 俺の中にいるヴィオの端末も、そういった情報には興味がなかっただろうし。

 とはいえ、この段階で伝えるのもな・・・・


『モニカの”家の名前”だよ。 でも、そんな気にしなくていいから』

『そうですか・・・』


 嘘は言ってない。

 とはいえ心は痛む。


『今度、時間が出来たら詳しく教えるよ』


 別に隠すような事ではない。

 目立つと嫌なので伏せてるだけで、背中を預け合おうって言ってる相手に無理して隠すものでは決してなかった。

 そもそもアクリラじゃ隠してないわけだし、折を見て話すのが妥当である。

 ただ、ちょうど今はそんな時間は無いというだけなのだ。


 だが、そんな俺の言い訳などどこ吹く風、ヴィオの反応は鈍い。


『いえ、別にいいですよ。 エリクも興味ないみたいですし、私も興味ないので』

『・・・・』


 なんだぁ、張り合いないな。

 まあ、確かにアルバレスの”貴族”の肩書なんて大した権威はないけどさ・・・


「しかしすごいね、”Bランク脅威まで対応可能”ってアクリラの紹介状にあるけど、今回参加してるパーティの中じゃほぼトップじゃない?」


 一方そんな俺達を余所に、協会のおじさんが名簿の詳細を確認しながら褒めてくれた。

 すると、俺達の脇腹をエリクの肘がつく。


「ねえ、”Bランク”は盛り過ぎじゃない? 俺逃げるしか出来なよ?」


 そして、そうエリクが自信なさげに聞いてきたのだ。


「別にムリじゃないし・・・エリクだって勝てるでしょ?」

「いや、君はそうだろうけど・・・」


 エリクは、わかりやすく”余計な脅威に巻き込まれるんじゃないか”って顔をしている。

 周りを見れば、主に”傭兵組”の方から”嘘だろ!?”的な反応が見られた。

 まあ”Bランク魔獣”っていえば、ルシエラのユリウスに匹敵するレベルだから無理もない。

 完全に大怪獣である。

 正直、ハスカール着てても不安だろう。


 するとそんな様子を見て取ったのか、おじさんが朗らかに笑いながら答えた。


「あ、だいじょうぶだいじょうぶ。 どれだけ強くても初めての護衛に、そんな大変なところは任せないから。

 ・・・派手に戦って大事な遺跡を壊されちゃかなわないからね」


 ・・・その最後の部分は真剣な表情だった。

 なるほどね・・・


『遺跡にしちゃ、モニカみたいなのの方が、魔獣よりよっぽど危険だわな』

『シツレイなスキルだなぁ・・・』


 俺の言葉にモニカが抗議する。


「それじゃ振り分けは事務所の2階で伝えるから、ええっと・・・モニカさんだけ上がって」

「わたしだけ?」


 おじさんの言葉に、モニカは不思議そうに首を捻った。

 するとおじさんが気恥ずかしそうに事務所の二階をペンで指す。


「見ての通り、ここの事務所意外と狭いからね。

 みんな上がっちゃうととんでもない事になっちゃうから、各パーティのリーダーだけで打ち合わせするんだ」

「なるほど」


 確かにここから見える事務所の大きさは、集まってる人数に対してとても小さい。

 あれでは大柄の者が入れば一気に手狭になるだろう。

 そういえば、広場に2mを超える身長の者はいない。

 ひょっとすると小柄な者だけが選ばれてるのか?


 それに俺達がどこにも組み込まれてないということは、護衛2人でいいポジションがあるのだろうし、一つ一つは小さな班で動くのかもしれない。


「じゃあ、俺達は下で待ってるよ」


 エリクはそう言いながらロメオの手綱を握ると、ロメオは渋々ながら彼の近くへ寄った。


「じゃ、行ってくるね」


 それを見たモニカはそう言うと、事務所の方を向いて歩き始める。

 外階段の事務所なので迷いはしない。




 だが、モニカは階段の入り口には向かわずに、まっすぐ事務所の建物へ歩いているではないか。


『どうした?』


 一瞬だけ、ジャンプして直接上がるのかとも思ったが、どうも違う。

 モニカの意識は、はっきりと一階部分へと向けられていた。

 正確には一階の壁に寄りかかる様に座っている、ちょうどついさっき着いたばかりの集団の・・・その左端だ。


『うん、ちょっと気になったことがあって』


 そう言いながら、モニカがそこへ歩み寄ると、集団左端に座る男がこちらを見た。


「なんですか?」


 男がどうしたんだと不思議そうな顔を向けてくる。

 一見する限りは、なんの変哲もない、その辺の冒険者協会で下っ端やってそうな男だった。

 

 だが、


「”上”に行かないの?」


 モニカは問う。

 その声は鋭く、いつの間にか俺のインターフェイスが戦闘用に切り替わっていた。

 その反応に俺の緊張感が高まる。


 だが男はなんでも無いような顔で、それでいてモニカの雰囲気が理解できない一般人といった表情で問い返すだけ。


「下っ端の俺に何言ってんだい? お嬢ちゃん」


 するとモニカが顔を上に向けてから、再び男に向き直った。


「でも、あなたが一番強い(・・・・)よ?

 さっき上っていった人もそれなり(・・・・)だったけど、あなたの方がはるかにつよい」


 モニカがそう言うと、男は流石に驚きの顔を作る。

 ただ、それはあくまで普通の驚きだ。


「悪いね。 見ての通り、俺は普通のしがない剣士だ。

 強そうに見えるならありがたいけれど、とても君みたいなアクリラと比べられるもんじゃない」


 男はそう言うと頭の後ろで腕を組んだ。


 うん、やっぱり強そうではない。

 弱そうではないが、警戒に値する何かはない。

 俺の見る限り、この男から感じる”強さ”は一般的な剣士そのものであり、各種観測スキルの結果もそれを裏付けている。


 冒険者協会の周りの防具屋に売ってそうな軽装鎧を着て、冒険者協会の周りの武器屋で売ってそうな大剣を背中に挿し、冒険者協会の周りの雑貨屋に売ってそうな装備で固めた男だった。

 ご丁寧に、そこから推定される戦闘スタイルも”協会推奨”のもの。

 人種もこの世界では普通の、少し亜人の血が入った”真人間”。

 漂う魔力も標準サイズで身長だって180cm程度。

 強いて普通ではないところを上げるなら、体の大きさに対しては大きい巨体用の茶褐色の帽子を被っているところか。


「なにか、他にあるかい」


 男が少しめんどくさそうな表情でそう聞く。

 こうして正面から見ると、若い見た目の割に老けて見えるな。

 一方のモニカは、鋭い緊張を解くこと無く男を見つめたまま。

 それでも、やがて少しして口を開いた。


「いや・・・・それだけ」


 だが、その言葉とは裏腹に、モニカの表情は一切緩まない。

 まだこの男にな何らかの脅威を感じているようだ。


 すると男は大きく息を吐いて肩をすくめた。


「なにも不思議なことはないさ」


 男がそう言うと、鈍い動作で体を起こし左手で膝をついて立ち上がり、こちらに向かって開いた右手を差し出した。


「可愛らしい君が上に立って、逞しい俺が下につく。 なんにも不思議じゃない」


 そう言いながら男はニカリと笑い、差し出した右手を握手を求めるように振ってアピールする。

 だが、その手をモニカは一瞥もしなかった。



 するとその時。


「バカヤロー!!! 新人のくせに勝手に余所の”頭”と口聞いてんじぇねえ!!!」


 突然、横から大柄の女が叫び声を上げながら俺達と男の間に割り込むと、あっという間に男の頭に拳を振り下ろしたのだ。

 哀れな男は数段大きな女に拳骨をくらい、大きく前につんのめることになる。

 さすがのモニカもその様子を見てまで、鋭い表情を維持することは出来なかったようで、わずかに憐れみの感情を滲ませると、それに押されるように数歩後ずさった。


 すると大柄の女がクルリとこちらに向き直って頭を下げる。


「すいやせん。 可愛い女の子に声かけられたもんで、こいつがなにか勘違いしちまったようです」


 女はそう言うなり、男の頭をガッシリと掴んで引き倒すように下げた。

 そしてすぐに男に向き直り説教を続けた。


「来る前に頭が言ってただろうが!! ここにいる連中を見た目で判断するなって!! 頭の顔を潰す気か!!」

「いやあ、すいません、もうしませんから・・・」


 大きな女に覆い被せられるように怒鳴られる男の姿はなんとも憐れで、それを見ているだけでこちらまで痛々しい気分になってしまう。

 どう見てもただの駆け出し冒険者だ。


『モニカ、時間もないし上がろうぜ?』

『・・・うん』


 俺がそう促すと、モニカが手を上に上げて大女の腰のあたりを叩く。

 すると大女が緊張を顔に浮かべながらこちらを振り返った。

 それに対し、


「ごめんなさい。 おもしろい帽子だったから、つい声をかけちゃいました」


 モニカはそう言うなり、ガブリエラに習ったアルバレス式の礼をしながら謝罪する。

 すると大女は口を閉じたまま、いつの間にか両手で握っていた男の襟を離し、そのまま横にずれた。

 同時に男の体が弱々しくその場に崩れ落ちる。

 その顔は災難にあったようにみすぼらしいが、大女の折檻を免れたことで安堵が浮かんでいた。


 そしてそれを確認したモニカは一瞥だけ残し階段の入口の方に体を向けると、無言であるき始める。

 ようやく、男を開放する気になったらしい。


 その事に、俺はホッとして仮想胸を撫で下ろししたのだ。





「まったく・・・ヴァロア様(・・・・・)に睨まれちゃ、生きた心地もしないぜ」



 男のその呟きは、あまりに小さくて後になってログを確認する事になるまで、何を言っているのか認識することはできなった。


 そんなことよりもモニカの事が気になった俺は、未だ緊張が抜けぬモニカに声をかけるのに気を取られていたのだ。


『急にどうしたんだ、モニカ?』


 するとモニカは、まるでそこに視線を固定するようにまっすぐに前を見ながら答えた。


『ロン、あの人の反応にマーキング付けられる?』

『うん? 付けられるっちゃ付けられるけど・・・』


 どうやらモニカはまだ内心では、あの男にご執心らしい。

 だが観測スキル上のあの男の反応はかなり微弱であり、その反応をマーキングしていても、把握しておける範囲はせいぜい2kmが限界だろう。

 その事を伝えると、モニカは焦燥気味にエリクとロメオの方を見た。


『こまったなぁ・・・』

『そんなに気になるのか?』

『うん』


 流石にここまでくると異常だ。

 モニカはあの男の何に警戒しているのか、さっぱり分からなかった。


『ロン・・・あの人』

『うん?』


『あの人、わたしも含めた(・・・・・・・)この中で・・・たぶん一番強い』

『・・・そんなに!?』


 その言葉に俺は、咄嗟に後方視界を確認する。

 少なくとも、”俺達よりも強い”なんて言葉が出てくるような相手には見えないが、モニカの言を信じるならばあいつは特級戦力か、もしくはそれに匹敵する存在になる。


 だが視界に映る男の姿はやはり、


『そんな風には見えねえけどな・・・』


 壁に寄りかかって休むその姿は、相変わらず弱々しいまま。

 するとモニカが否定の感情を送ってきた。


『そうでもないよ』


 モニカはそう答えると、視線だけでちらりと左上を見る。


『あの人がきてから、クラヴィス先輩がずっとはなれないもん』


 驚いたことに、その視線の先には確かに鋭い瞳で広場を眺めるクラヴィス先輩の姿があった。

 先輩、調査班の方に行くって言ってたのはなんだったのか。

 しかも、その視線は俺達ではなく、ちょうど先程の男のあたりに向かっているではないか。

 進捗管理のために設けられた物見櫓の上に立つ彼女の視線には、アクリラのトップクラスの生徒だけに見られる鋭い威圧感がある。

 こうなれば話は別だ。


 たしかにこれを見ていれば、モニカのあの警戒も頷けよう。


『どういうことだ?』

『わかんない。 でも先輩にもあの人にも敵意は全く感じないから、あぶなくはないと思うんだけど。 あの人が、むちゃくちゃ気になる』


 俺は改めて観測スキルの結果を精査する。

 とはいえ、相変わらず変なところがあるわけもなく。


『具体的にどう気になるんだ?』

『うーん、なんというか・・・”スコット先生”とか、”校長先生”みたいな”へんな感覚”があるの』


 モニカはそう言うと、右のこめかみの上あたりを軽く揉んだ。


『変な感覚ね』


 俺も、モニカの感覚を全て把握できているわけではない。

 特にこういった”第六感”に関する物は、無視できないのに把握もしづらいから困る。



『取り合えず、どうしようもないな。 あいつもクラヴィス先輩がいる前で変なことはできないだろうし。 危なくないんだろう?』


 もしモニカの言う様な強さならクラヴィス先輩では太刀打ちできないが、そこは”生徒会重役”。

 あの瞳の向こうには、どれほどの”バック”があるか。


『うん』

『じゃあ、放っておこうぜ。 案外、ただ”ものすごい才能”があるだけの素人かもしれないし』


 俺がそういうと、モニカは渋々同意しながら階段の手摺りに手をかけた。







「ウーラキアの方から入った者は既に見ていると思うが、北東部の一部の区画で本採掘が始まってます」


 人がみっちりと詰まった狭い事務所に、鋭い女の声が響く。

 俺達が2階に着いてから程なくして、全員の集合が確認されたことで今日の採掘における”護衛班”の打ち合わせが始まったのだ。


「保護区画との境界付近は専門家が監視してますが、例年トラブルが絶えないので、その近辺の担当になる者は気をつけるように。

 採掘場所の間違いや、調査のやり残しが見つかった場合は、速やかに停止させてください。

 おそらく”急に止められない”とゴネるでしょうが、止めるために”採掘機材”までは破壊して結構ですが、万が一にも遺跡を破壊されないようにしてください」


 説明しているのは護衛班の統括をしているという、アクリラ冒険者協会の女性戦士。

 元トリスバル(騎士学校)出身という話だが、見るからに強そうな風格を漂わせている。

 モニカのお墨付きなので間違いないだろう。

 ただ、それでも”下の男”と比べると無視していいレベルらしいけれど。


 俺はもう一度、部屋の中の面々のデータを見回す。

 もしかして、あの男よりも強いやつがいるかもしれないと思ったが、モニカ曰く”候補”もいないらしい。

 観測スキルの数値だけなら、全員あの男より良いんだけどな・・・


 部屋の中にいる連中は、全員がどこかのリーダーなので屈強な奴ばかり。

 アクリラ生にしたって歳の割にピリッとした空気が漂い、当然のように俺達が最年少である。

 何人かは知った顔だな。

 魔力関連の研究所でお世話になった顔もいるし、新聞に載ってた上級生もチラホラと見かける。

 

「次に、採掘に同行する場合の注意点ですが、先行発掘隊に同行する場合はとにかく落盤に注意してください。

 先生方が興奮してるときは、特に事故の危険性が高いです。

 掘削作業を手伝っても構いませんが、あくまで安全確保を最優先に、土の排出等のその場を離れる作業は請け負わないようにしてください。

 この遺跡ではまだ確認されてませんが、魔力性遺物の中には危険性の高いものもありますので十分な注意を。

 できるだけ一人では対処しないように」


 おっと、大事な話を聞き逃すところだった。


 発掘は、大きく”発掘”と”調査”と”管理”に分けられる。

 最初に大まかに掘って、詳しくは後で調べるって感じだな。

 ちなみに、前に貼ってある振り分け表を見る限り、俺達は”調査”の護衛に配属されるみたいだ。


「”調査”に配置された方は、それぞれ特定の調査班を受け持ってもらいます。

 基本的には担当の先生の指示に従う形で構いませんが、遺跡内は非常に暗くて迷いやすいので十分に注意してください。

 後で地図を配ります。

 また、確実に戦闘になりますので」


 おう・・・


 その説明に、俺は思わず心の中で仰け反った。

 ”確実”と言いましたか・・・

 下のおじさんは、いきなり大変なところには当てないと言っていたが、あれは嘘だったのか?

 それとも、ここじゃ戦闘になるくらいは何でもないのか。


「工区全体で想定される脅威は、周辺の森から迷い込んだ生物、その変異体、もしくは魔獣が主な物になります。

 特にメルツィルの森は、比較的高難度の魔獣が出やすいので気をつけてください。

 すでに昨年度の掘削地にもEランク魔獣が出現しています」


 うわ、魔獣出るのか。

 Eランクなら特に脅威ではないが、狭くて暗いところで大きな魔獣に出くわしたらさぞ怖いだろうな。

 試しに仮想上でサイカリウスの魔獣を暗闇の中に置いてみたら、後悔するくらい怖かった。


「また、例によって地下遺跡部分の一部で魔力濃度の高い場所があるそうなので、特異的変化をした変異種が出現します。

 大きさは通常と変わらないですが、強さは魔獣並で、しかも簡単に処理できないので油断しないように」


 なるほど。

 俺は心の中で更に気を引き締める。

 こういった外圧による魔力変異体は、外じゃ珍しい。

 しかも強さこそ小型魔獣並かそれ以下だが、厄介さは中型魔獣以上なので気をつけなければ意外と危険なのだ。


「それから、それらの生物の死骸から”魔物”が発生する可能性があります。

 ここは早い段階から管理されているので生体由来の魔物はまだ報告されてませんが、魔力由来の魔物は数例報告されてます」


 ほうほう、”魔物”か。

 そういや、まだ見たことないんだよな。

 いや、魔物の一種である”精霊”はもちろん見たことがあるが、あれは色々と桁が違うのでノーカンで良い。


 ”魔物”・・・いわゆる”魔力生命体”は、完全に魔力によって形作られた生命体だ。

 その幅は通常の生命体と同じかそれ以上複雑といわれており、魔力が豊富にある所であれば様々な形で出現する。

 それは単純に魔力が漂っている様に見える事もあれば、精霊のように通常では感知不能のタイプもある。

 死骸から発生するのは、半透明の”ゴースト”か。

 生前の整体魔力網を型に発生する魔力生物だが、魔獣やら魔力変異体やらが彷徨きやすい遺跡では結構現実的な脅威だ。

 逆に死体に外の魔力が侵食してゾンビ化するパターンもあるが、こちらはそもそも動ける程健康的な事が少ないので脅威ではない。

 あとは、土地由来の魔力が直接ダマになってできるタイプかな。

 これは下手な魔獣より強くておっかない事が多いので、十分に気をつけよう。


 あ、そういやちょっと前に、”俺”は魔力生物かどうかがモニカ班の間で議論になったな。

 結局、素っ裸で放置をくらったモニカが、さっさとデータを取れと機嫌を悪くしたのでお流れになったが、あれの結論は出たのだろうか。


「それと当然ながら、金属鉱床なので”メタルワーム類”の危険性があります。

 時々、壁に耳をつけて異音がしたらすぐに報告してください」


 女戦士のその言葉に、会場内が一気に緊張に包まれる。


『メタルワーム類って?』


 それを見たモニカが聞いてきたので、俺は動物図鑑を開いて確認した。


『なになに、主に金属を食べて生きる管状の生物だって、ミミズの仲間みたいだ』

『へぇ』

『その性質上、アトボルピス(高炭素石)地質中じゃないと生きれないみたいだが、大きさと危険度がやばい』

『どれくらい?』

『最低でも長さ10ブル(m)、大きい物だと長さ300ブルの記録があるとか、それでいて金属を食い破る顎の強さがあるからな。

 見つかったら、最低でもDランク、上は当然Aランクだ』

『うわぁ』


 もし、そんなものが出てきたら遺跡を破壊せずに処理する方法はない。

 なので、ほぼ確実に一旦撤退することになるだろう。

 それに壁や床ごと食い破って出現するので、できれば出会いたくはないな。


 しかし、こうして並べて聞いてみると、思っていたよりも随分危険性が高い仕事といえた。

 そりゃ、念入りな護衛が必要になる。

 事務所内の空気も、女戦士が脅威を挙げるたびに険しくなっていった。

 それはアクリラ生でも変わらない。


 だが次に挙げられた”脅威”に対して、俺達だけは反応が異なった。


「それと今回の遺跡は、第2期レイラ朝の物ですが、その下に第1期レイラ朝、さらにその下からフクドラ期の痕跡が見つかってます。

 まだ鑑定中ですが、さらに一部は”先史時代”の遺跡と思われるため、周辺地域のガルバダヌク文明で見つかっている”古式ゴーレム”にも警戒してください」


『古式ゴーレム!!?』

『ガルバダヌクってえと、先史アルブルム文明の一つだから・・・』


 唐突に出てきた見知った単語にモニカが心の中で叫び、俺が慌ててゴーレム辞典を取り出す。


『『エステル・メイヤーズ式!!』』


 俺達は全く同じゴーレムの名前にたどり着いた。

 それは先史アルブルム文明を代表するとされる、5~6mの大型人型ゴーレムだ。

 時代的に1万年以上前なので詳細なデータとかは無いが、精密機械然とした現代のそれと異なり随分”岩っぽい”質感を残しており、起動時には剥き出しの魔力回路が格好良く光る味のあるゴーレムである。


 ちなみに名前は、発見者と制御回路を解析した人の連名。

 なので正確には ”エステルさんが見つけたメイヤーズ式ゴーレム” というべきだろうか。


「ここではまだ、そのようなものは見つかってませんが、一応注意しておいてください。

 他の経験ある方は何人かいらっしゃると思いますが、壁画なんかに埋め込まれてることもあるので」


 その言葉にモニカが大きく頷くと、隣にいた高等部の先輩が不思議そうにこちらをちらりと見た。


『”エステル・メイヤーズ”いるかな?』

『いやあ、流石にそんな珍しいのは居ないだろう』


 エステル・メイヤーズは、いわば”ゴーレム界のティラノサウルス”だ。

 代表的な種類ではあるが、実際に出土するのは殆ど中型以下。

 大型のエステル・メイヤーズが出てきようものなら、アクリラからゴーレム研究室がいくつも飛んでくるだろう。


『そう簡単に出てくるわけないよ。

 それに、まだ見つかってないって言ってるし、たぶんここはあんまりゴーレムが居ないか、いたとしても小さかったりするか』

『そっかぁ・・・じゃあ、ロンさがしてよ』

『ははは、見つかればいいけどな』


 たぶん見つからない。


 というか古すぎるので、魔力回路の切れ端が見つかれば良いところだろう。

 ちなみに先程出てきた単語だと、第2期レイラ朝が約4千~5千年前、第一期レイラ朝が6千~8千年前、フクドラ期というのが1万年前くらいまでで、それより前が”先史時代”である。

 なので先史時代のゴーレムに、”マトモな状態”を期待するだけ無駄なのだ。

 ただ、動いてしまえば古くても結構力が強いらしいので、見つかったらまさに”古代兵器”だな。

 まあ、基本的にモニカとエリクだけで十分なので、護衛中の暇つぶしに探すには丁度いいかもしれない。

 案外、他にも面白いものが見つかるかもしれない。


 それから少しの間、注意事項の説明が続いた。

 その内容も遺物の取り扱いや、意外と発生しやすい事故へと話が移っていく。

 そして最後に女戦士がひとしきりの内容を掻い摘んで復習すると、大きく背伸びしながら事務所全体に随分と工事現場っぽい音頭をかけた。


「それでは皆さん、今日も無事故に作業しましょう。 ご安全に!」


「「「「『「ご安全に!」』」」」」



各話の命名規則の変更に伴い、これまで投稿した話のタイトルが変更されております(現在第一章まで)

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