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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
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2-17【剣の声 8:~剣の意思~】


 暗闇の中を転げ落ちていく感覚が俺を包み込む。

 だがどこを通っているのか、どういう状態なのかまるで掴むことができない。

 俺は、それが落ち着くまでの間、ただひたすら洗濯機に押し込まれた猫の気分を味わった。

 というか痛い。


 これまでモニカとして( ・・・・・・)何度ももっと激しい痛みや衝撃に見舞われたことがあったが、こうして直に自分の存在に負荷がかかると、その苦しみはひとしおだ。

 やっぱり普段はモニカがクッションになってたんだなと、しみじみ噛みしめるしかない。


 だがそれも、不意に終焉が訪れる。

 まるで時間が止まったかのように、突然俺の動きが止まったのだ。


『ロン、大丈夫そう?』

『ああ・・・大丈夫だ・・・幸いにも』


 嬉しい事に同期はまだ途切れてないらしい。

 それだけで、なんとかなりそうな気になってくる。


 エリクの(フロウゴーレム)の中にあったデータを俺達の物にコピーして作った仮想空間の中で、俺はその中核と思われる超巨大プログラムに飲み込まれて虚空の中に押し込まれた。


 というか飲み込まれたんだよな?


 一応俺はそういう認識だが、実態としてはしばらくグチャグチャな中に放り込まれて”混ぜ混ぜ”されたあとに、何かに包まれて放置されていた感じか。

 俺はおっかなびっくり、自分を取り囲む”包み”に触れてその感触を確かめる。

 てっきり分解されたり、ろくでもないウイルスを仕込まれたり、口にできない”アレヤコレヤ”をされるのではないかと身構えていたのだが、特にそんなこともなく。

 ゆっくり消化される系かとも思ったが、いつまで経っても俺を構成する要素に変化は見られない。


 どうなってんだ?


『どんなかんじ?』

『うん、なんともない』


 このように”本体”との同期もスムーズに行われ、モニカの声も殆どラグなく聞くことができた。

 そもそも今ここにいる俺は単なる端末なので、本体との通信が途切れたら思考することすらままならないから、こうして考えを巡らせることができる時点で特に影響は出ていないと見るのが自然だ。


『とはいえ、全くどこにいるのか・・・』


 俺はそう言いながら、周囲を取り巻く情報の塊に俺の意識を曲げて作った”触手”を伸ばして触れてみる。


 だが単なる”ゴミデータ”の塊である以上のことはよく分からなかった。

 ”雲”の体で俺を隔離しているのか?

 くっそ、なんとかこの向こうが見れたらいいのだが・・・

 俺はそう思って必死に壁を突き抜けようとするも、取り巻くゴミデータは予想以上に固く、俺ごときの力ではビクともしなかった。


『なにか”動き”はあるか?』


 俺が半ばやけくそ気味にモニカに聞く。

 だが返事は芳しくない。


『ううん。 さっきに比べたら全然おとなしいよ。

 なにもないときよりは多いけど・・・』

『ありがとう』


 なるほど、やっこさん俺を飲み込んで完全に安心しきったということか。

 単純に脅威じみたものが排除されて満足しているのか、それとも俺程度の大きさならば中で暴れたところで問題ないと思っているのか。

 事実なだけに腹が立つ。


 どうにか、ここを抜けられないかな・・・


 ん?


『モニカ、聞こえてるか?』

『え? 聞こえてるけど・・・』

『あ! っくそ!』


 その返答を聞いた瞬間、俺の緊張感が一気に高まった。

 一見すると問題のないように感じられるモニカの声だが、注意深く同期を確認するとわずかに先程よりもノイズが多いことに気がついた。

 何らかの方法で、俺達の通信が遮断されている。


 そしてその症状は、急激な勢いで進行していた。


 そのことに気がついた俺と”本体”は、即座に回線の確保に走る。

 とにかく切ったら終わりだとばかりに大量の情報をより太い規格で通した。

 通常時の通信としては無駄の極みみたいな規格だが、今は何でもいい、ゴミファイルでもいいから通し続けなければあっという間にノイズに埋もれてしまうだろう。


『応答速度がおちてる?』

『ああ、なんか距離が出始めたな』


 ”本体側”のデータに俺との同期に時間がかかっていることを示す物が現れ始めた。


『というか、”*座標アドレス”が移動してる』


 俺が自分のデータを確認しながらそう答える。

 くそ、これがノイズや距離の原因か。

 何を思ったか、俺を飲み込んだ”雲”は物凄い勢いで移動を始めたのだ。

 なんとも強引で不格好だが、”参照”が使えないシステムなのか、それとも権限がないのか、とにかく問答無用感が凄い。


『ロン、とりあえずそこから出たほうがいい』

『ああ、そうだな』


 俺達はそう確認し終えると、この場から強制的に脱出するための準備を行う。


 名付けて必殺、”参照テレポート”。

 特定のメモリ空間を指定して、そこに転写するだけの簡単な方法なので普通のシステムなら誰だってできる。

 普通なら。


『だめだ』

『なんで?』

『このシステムが対応してない。

 アクセスできるが、隣接座標以外からの書き込みに対応してるのは”端”の座標だけらしいな』

『じゃあそこに・・・』

『そっちも無理っぽいな。 こっちの座標が不安定すぎて、上手く掴めないんだ。

 これじゃ途中で崩れちまう』


 残念ながら、今の俺にここから脱出する術はなかった。


『こうなりゃ、せめて取れるだけのデータを取るしかない』


 そう考えた俺は、そこら中に観測子を飛ばして周りの状況を同期で本体に送った。


 さて、困ったものだ。

 正直、エリクの剣が持ってるプロファイル(個別)データを流用できないかと考えていただけに、これ程までに話が通じそうにないとなると、計画全体に見直しが迫られる。

 個体で機能する補助システムなど、今の俺に設計できるとは思えないというのに。

 どうしたものか。


『ロン、データがおかしくなってる』

『え? なに? うわ!? 本当だ』


 気づけば、なんと俺のアドレスデータの値がとんでもなくぶっ飛んだ物に変わっているではないか。

 ログを精査すれば、端のアドレスに達したあとそのまま止まらずに突き進んだ感じか。

 おそらく空間の壁をぶち破ったのだろう。


 ・・・んなわけあるか!


『じゃあ何だここは!? どこを飛んでる!?』


 俺はそう言いながら必死にデータを精査する。

 だがどれだけ見ても、メモリ座標はおかしな値を示し・・・そしてそれでちゃんと機能していた。

 機能しているというからには、俺はそこにいる筈だ。


 つまり・・・









 は!?


 突然俺の視界が暗転し、それがまた元に戻る。

 だが、その一瞬で全ての事が変様していた。


『・・・? ・・・?』


 その静寂に俺が怪訝な様子で周囲を窺う。

 だが見える物はなし。


 なんと先程まで俺を飲み込んでいた雲の姿は影も形もなく、ただ真っ黒で広い空間が広がっているではないか。

 どういう事だ?

 吐き出されたのか?


 するとその時、一斉に本体との同期が行われ、実は俺との交信が数分間に亘って断絶されていた事が判明した。


『繋がってる?』

『ああ・・・繋がってる』


 唐突に起こった記憶の断絶と急激な同化に俺の意識が僅かに混乱する。

 当然だ、俺の中には端末である俺との更新が途切れてオロオロする俺の記憶と、どこか訳のわからない所に飛ばされた俺の記憶が一瞬で混濁したのだ。


『と、とにかく、端末との交信は復活した。

 同期してなかった間の意識はなかったが、パッと見る限り、システムのどこにも問題はない』


 ”本体”がモニカに向かってそう答える。

 実際、今の俺(端末)は驚くほど先程までと変化がない。

 だが、確実に”変”なところはあった。


『アドレスの情報が完全にバグってる』


 俺が端的にそう答える。

 それは先程までとも比較にならないほど、全く別の値が記録されていたのだ。

 確実に何かがおかしい。


『もしくは、”ぜんぜん違うところ”にいるかだな』

『ぜんぜん違うところ?』

『ああ』


 俺はそう答えながらも、内心では冷や汗ダラダラで周囲の様子を見回していた。

 確かにここから見える( ・・・)景色は真っ黒のままだ。

 それは一見すると、同じように見えるが・・・


『なにもない』

『え?』

『さっきまでと違って、”ゴミ”がまったくないんだよ・・・』


 それは奇妙なまでに綺麗な空間だったのだ。


 つい先程までいた”俺達のフロウゴーレム”の世界には、大量の魔力回路の断片がそれなりに漂っていた。

 それこそ、自分の体長の半分も進めば数個は体に付くくらいには。

 だが、ここにはそれがないのだ。


 どこまでいっても、恐ろしくさっぱりとした空間が広がっている。


『あの”雲”が全部食っちまったのか・・・それとも・・・』


 その時、走らせていた観測プログラムが良くない”知らせ”を拾ってきた。

 内容は予想していた中でも問題度の高いもの。


『モニカ、”この端末”はここまでだ』

『どうしたの?』

『どういう訳かわかんないが、俺は今、”入っちゃいけない場所”にいるらしい』

『入っちゃいけない場所?』


 モニカの問に俺は苦い様子で周囲を見渡す。


『”エリクの剣”の中だよ』

『え!?』


 俺がそう言うと、”向こう”でモニカとメリダが一斉にコンソール(制御魔法陣)を覗き込み、その様子にエリクが心配そうに釣られて首を捻るところが見えた。

 そしてそのデータが通ってきた”経路”を見れば一目瞭然だ。


『どうやら俺達の”フロウゴーレム”を通して、エリクの剣と繋がってるらしい。

 地続きでアドレスが割り振られている様に見えるが、俺のシステムが変換してるようだな。

 フロウゴーレムに入るために互換性の高い設計にしたのが原因か』


 なんてことだ。

 せっかく安全性を考慮して俺達のフロウゴーレムにコピーして接続したというのに、エリクの剣に押し込まれたのでは本末転倒ではないか。

 なんでエリクの剣側にいるのかはわからないが、おそらくあの”雲”が2つのフロウゴーレムを繫ぐ回線を、異物を捨てるのに丁度いい穴とでも思ったんじゃないかな。


 とにかくだ。


『モニカ、残念だが引き上げるぞ( ・・・・・・)

 ここの空間で活動するのは”エリクとの約束”に反する』


 俺がそう結論を下す。

 そもそも複製を使って探るのは、エリクの剣に影響を出さないためなのだ。

 今のこの状況自体は不可抗力なので仕方ないが、これ以上の活動は明らかに”約束”に抵触する。


『しかたないね』

『しゃーない。

 もう一回、システムを組み直してやり直そう』


 若干がっかりしているモニカに対し、俺がそう言って答える。

 俺だって正直なところ、この空間についてデータが取りたい。

 特に明らかな”違い”が見て取れる以上は。

 だが俺みたいな巨大なプログラムを動かすには、前提となる情報が足りてなかった。

 システムを壊しちゃ、元も子もないからな。


『まあ、それはまた今度だ。

 モニカ、”リセットプログラム”を準備してくれ』

『あ、うん』


 引き上げるといっても、通信を打ち切って今の俺を消すためのプログラムを打ち込むだけ。

 なんてことはない。


 だが、


『あれ? なんかエラー出てるって?』

『はい? あ、ほんとだ。 なんだこれ?』


 今度はどういう訳か、通信を切ることができなくなってしまったのだ。

 どうしても、内部処理で切ろうとするとエラーを吐いてそれが中止される。

 いよいよ本格的にバグったか?


『繋がりを切ればいいんだよね? 線を引っこ抜こうか?』


 そう言って剣に繋がってる配線に手をかけるモニカ。

 だがそれを見た俺は慌てて止める。


『まてまてまて、内部に”俺”というゴミが残った状態で切断したらどうなるか分からん。

 最悪、全体リセットなんてことになったら、”エリクの剣の情報”もリセットされちまうかもしれないんだぞ』

『ご、ごめん、そうだよね』


 俺の指摘にモニカが慌てて手を離す。

 とりあえず想定外の状況だ。

 冷静に行かないと。


 ええっと、とにかく現状把握だ。


『モニカ、なにか変な感覚とかはないか?』

『え? ないよ』

『まあ、こっちのデータにも出てないな。 ”本体”のシステムは無事と』


 俺はとりあえずで適当に作ったチェックリストの一番上を潰す。

 緊急性が高いのは、なんだかんだで接続されている俺達の安全の確保、それからエリクの剣の情報の保護、そして2つのフロウゴーレムの機能の保全だ。


 幸いにも俺達の本体は直接接続ではなく、代理プログラムをかました間接接続である。

 2つのフロウゴーレムから何かをすることはできない。

 となると切断不可のトラブルは、フロウゴーレム内での処理の問題になる。


『なんとかして俺を”俺達のフロウゴーレム”の方へ戻すぞ、それからエリクの剣を外せば、剣も安全に切れる。

 あとはそこでリセット信号をかければおしまいだ。

 俺達のフロウゴーレムは何度もリセットしてるからな。 今更消えて嫌なものはない』

『わかった。 戻るには通ってきた通路のばしょが必要だよね。

 こっちで探すから、”ログ”があったら本体にもどして』

『よし、ちょっとまってな』


 俺は自分を構成するデータの記録を探る。

 するとご丁寧なことに、数十回程度の過去の座標データが出てきた。

 どうやら俺自身に”中心アドレス”が設定されているらしく、それの座標の移動履歴を取得できたのだ。

 何をパクって入れた機能なのかは知らないが、作ったときの俺グッジョブである。

 構成全体の正確な情報ではないが、2つのフロウゴーレムの”接続点”の場所を特定したいだけなのでこれで十分だ。


 すると、すぐにアドレスが異常値を示す区画が見えた。


『見つけた。 意外と近くだな。

 これなら自力でも行けそうだ』


 ホッとしたように俺がモニカにそう伝えると、俺はゆっくりと周囲の様子を窺いながらその座標に向かって進み始める。

 相変わらず視界的には真っ暗なので怖いが、今持ってるアドレスデータとの差からどこへ向かえばいいかは分かるので迷うことはない。


『問題は、おそらく”通路”の回線の幅が狭いってことだな。

 (端末)を起動したまま、通るのは無理があるだろう』


 おそらく、それがさっき意識が一旦途切れた理由だ。


『回線の一部を、同期用にすれば?』

『速度は落ちるがそれしかないだろうな。 下手に塞いで切れ端が両側に残るよりはマシだろう。 ・・・お?』

『どうしたの?』

『端に触れた』


 俺はそう言うと、壁のように感じられる”アドレス空間”の端に体をピタリと付け、その感触を確かめた。


『冷たい鉄って感じかな』


 カッチカチで押しても凹まず、熱も感じない。

 そんなわけないのだが、”何もない領域”というのを俺のシステムではその様に検知するらしい。

 

『さて、アドレス的にはだいたいこの辺だから・・・』


 そう言いながら、俺が探るように自らのデータを移していく。

 これも只のデータの置換なのだが、感覚的には真っ暗な中で手を使って床を確かめている感じだ。

 何分、見た目的には黒い空間が広がっているだけなので仕方がない。

 おそらく、壁に”穴”みたいなものが空いている場所があるはずなのだが・・・


『ええ・・・ああ・・・んん・・・お?』


 その時、俺の触手の一部が何かを捉えてペコンと向こう側に落ち込んだ。

 というか、そこの部分のアドレスがバグった値になっている。


『よっし、見つけたぞ、ログ通りのアドレスだ。 ・・・だが細いな』


 自分達で作った回線だけに文句は言えないが、俺のような巨体が一回で通るには狭すぎた。

 これでも太く作ったつもりなんだけどな・・・

 あの”雲”はどうやってこんな所に押し込んだのか。


『じゃあ、パスを通すぞ。 魔力を出してくれ、アンカーポイントにする』

『うん』


 普通のデータ転送では必要ないが、この空間の移動には灯台のように座標を固定できる存在は大きい。

 特に”エリクの剣の内部(こちら側)”は事前にマッピングしていないので、自分の位置すらデータから推測するしかない。

 向こうは本体と直接繋げられるからな。

 その点だけで言えば、こっち側よりもよほど馴染み深いのが傑作だ。


 ”こっち”はなんというか・・・気味が悪いというか・・・

 俺はそう考えながら、”世界”を見上げる。


『あれ?』

『どうしたの?』

『なんか・・・これって・・・』


 その時、俺の視界を”何か”が埋め尽くした。


『・・・え?』

『どうしたの?』




 それは”黒い影”だった。

 表面の質感からして、先程の”雲”と同じく魔力回路の塊だろう。

 だが、綿飴のように不完全だった”雲”と違い、こちらは元の回路の原型がなくなるほど高密度で・・・硬かった。


『モニカ・・・全然、コピーできてなかった( ・・・・・・・)・・・』

『え!?・・・どういうこと?』


 読み取りの失敗か、それとも再構成の失敗か・・・

 いや、そもそも”こいつ”を気軽に複製(コピペ)なんて考えが甘かった。


 ”そいつ”がゆっくりと動く。


 触れれば弾かれそうなほどはっきりとした輪郭、その意図を確認できそうなほどはっきりとした造形。 


 ”雲”とは比較にならない・・・

 そいつの背中( ・・)から伸びた”羽”がゆっくりと動き、巨大な”目玉”がギョロリと動いてこちらを見据える。


 なんと視界を埋め尽くすような・・・この世界を埋め尽くすような大きさの、”人の姿”をした”影”が俺を見下ろしていたのだ。

 しかも、


『なんてこった・・・』

『何がいたの?』


 俺の動揺にモニカが言葉を返す。

 だがそれに対し俺は、今知覚してる光景を無言で(インター)(フェース)(ユニット)に投影するしかできない。


『!?』


 だがそれでも、俺の感じた驚きの理由くらいは伝わったようだ。

 なにせ現れたそいつは、システムのアドレスを俯瞰しただけの姿だというのに・・・



 羽の生えた・・・肌の黒いモニカ( ・・・)の姿をしていたのだ。



マンネリ防止のために今回から試しに挿絵というか、簡単なイメージイラストを描いてみることにしました。

といっても、挿絵とかいらないよって人も多いと思うので、しばらくは本編上ではなくTwitterの更新報告に追加する形を取る予定です。

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