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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
320/426

2-15【流れ行く日常 1:~葛藤の朝~】




 Side:モニカ



 ついに・・・


 ついにこの日がやって来た。


 わたし(・・・)はその言葉を何度も頭の中で繰り返し、目の前に並ぶ大量の機械達を誇らしげに眺める。

 ここまで、一体どれだけの苦労があったか。


 何度も挫折しかかったし、投げ出したくなった事も1度や2度ではない。

 それでもわたしは遂にやり遂げるのだ。


「もう少しだけ待っててね、今起こしてあげるから」


 わたしはそう言いながら、沢山の機械の山の向こうを見る。


「”コルディアーノ”・・・”クーディ”」


 わたしの”両親”はあと少しの所まで修復され、今はピカピカの綺麗になった体を仲良く横に並べて寝かされていた。


「あと少しだよ」


『モニカ、最後のパーツの修復が終わったよ』

『うん! ありがとう』


 わたしは心の中で、これまでずっと支えてくれた”もう1人の自分”にお礼を言う。

 なぜか大人の男のフリをしたがる奇妙な相方だが、彼がいなければここまでは来れなかっただろう。

 声の割に中身は結構子供だったりするのは彼にはナイショだ。


 ロンが周りの機械の腕を器用に動かして、治りたての制御回路を取り出した。

 それはわたしがずっと持っていた”2人の部品”。

 わたしはすっかりまっとう(・・・・)な見た目になった部品の姿に満足すると、何の疑問も持たなかったので次の指示を出した。


『うん、いいよ。 くっつけて』

『”おーけー”、ちょっと待ってろ』


 ロンが腕を動かして、ゆっくりとコルディアーノとクーディの胸の装甲を開け、そこに部品を嵌め込んだ。


『よし、魔力を流せ』

『うん』


 ロンの合図で、わたしが魔力を一次変換器の中へ送り込む。

 2人くらい精密なゴーレム機械の起動には、細心の注意が必要で、わたしみたいな暴力的で無節操な魔力をそのまま送るわけにはいかない。

 ロンがかなり制御してくれるけれど、高集積魔力回路に放り込めるレベルではない。

 だからこうして、変換器をいくつも通して適切な出力になった魔力を使うのだ。

 とはいえ、魔力の動きなので時間はかからず、すぐに準備完了を示す明かりが灯る。


『よし』


 それを見たわたしがロンにそう言うと、万感の思いを込めて続けた。


『やって』

『わかった』


 その瞬間、”ガチャン”という大きな音を立てて、産毛一本も微動だにさせられない量の魔力が2人の頭の中へ送り込まれた。

 すぐにわたしはメガネインターフェイスユニットをかけてそこに映る2人の情報を睨む。

 すると大量の情報が正常を示す緑色の表示に切り替わって行くところが見えた。

 今のところ問題はない。


『”読み上げ”、始めるぞ、”5”、”5”』


 ロンが1回目の報告を行う。

 2人のチェック5要素、それぞれ全てが正常なことを示す数字に、わたしは満足すると同時に拳を強く握りしめた。

 当然だ、このためにどれほど苦労したか。


『5、5・・・・5、5・・・・5、5』


 ロンの読み上げが続く。

 ”5”以外は聞きたくない。

 それ以外は”4”だろうが”3”だろうが致命的な事に変わりないからだ。

 起動プロセスが4割を越えて猛烈な勢いで進んでいくにつれ、機械の向こうに寝そべる2人の体がピクンピクンと跳ね始める。


『固定は大丈夫!?』


 あの動作が悪影響をもたらさないか心配になったわたしが、鋭い声でロンに聞く。

 すると即座に天井から黒い腕が伸びて2人の体を押さえた。


『5、5・・・・5、5・・・・5、5』


 大丈夫、うまく行ってる。

 わたしは自分にそう言い聞かせながら、他の情報をチェックする。

 今のロンは2人にかかりっきりだ。

 魔力供給に問題はない。

 補助機械類も正常、配線も。

 咄嗟にチェックシートを手に取って、もう一度確認する。


「・・・・あれ?」



 なぜか、文字が読めなかった。


 そんなわけない。

 わたしは何度も目を凝らし、そこに書いてある文字を睨みつける。

 だがいくら睨んでも、文字はボケたままで、何が書いてあるか分からない。


「あれ・・・あれ・・・あれ、なんで・・・」


 すると今度はページの紙すらボヤけ始めたではないか。

 今では、そのシートが1枚なのか100枚なのかもあやふやだ。


「そんな・・・」


 その時、一番聞きたくなかった言葉が聞こえてきた。


『5、()!?・・・・5、()!』


 ロンの声が焦りで上ずり、心臓の鼓動が一気に早まる。

 それはプロセスが8割を越えたクーディに異常が見られた事を示す物だ。

 そしてすぐにメガネインターフェイスユニットの表示も赤くなり始める。


『5、4、モニカまずいぞエラーが起きてる、5、4』

『どうすればいい!?』

『5、4、分からない、5、4、エラーが止まらない、()、4』


 その瞬間、今度は心臓が止まるかと思った。

 なんとコルディアーノにまでエラーが発生したのだ。


『どうすればいいの!』


 助けを求める様に私が叫ぶ。

 だいたい、どうして2人いっぺんに起動しようとしたのだ。

 これではどっちを先にしていいか・・・


『4、4、エラー項目をチェックシートで確認しろ! 4、4、それと図面を比較するんだ! 4、()


 わたしは後ろの棚から分厚い”エラー用チェックシート”を取り出しその中を見る。

 だがそれは、いくら見ても白紙にしか見えなかった。


『見えない!』

『3、3、図面を!』


 わたしはそのチェックシート放り出し、2人を治すために作った図面を引っ張り出した。

 だがそれは、あまりに雑で稚拙な概要図ともいえぬ代物。


『これじゃ分かんないよ!』

『3、2、落ち着け、詳細図を見るんだ』

『詳細図・・・しょうさいず』


 わたしは何度も自分に言い聞かせながら、書類棚を引っ掻き回す。

 だが、いくら探しても2人の詳細図が出てこない。

 そればかりか、どれがどの図面だったかも理解できなかった。


『分かんない・・・分かんない』

『2、2、急げモニカ! 俺じゃ制御が間に合わん! 2、1』

『分かんないの・・・見えないの』


 もはや図面をさらう手の感覚もなく、図面達もどれがどれだか分からなくなってしまった。


『1、1、モニカ! お前は覚えているはずだ! 自分で図面を作ったんだろ! 1、1』

『自分で作った・・・図面』

『1、1、そうだ、お前が作った図面だ』

『ロン・・・・わたし・・・・』

『1、0』



『まだ作ってない・・・』

 


『0、0』


 ロンが2人の動作の致命的な失敗を告げた瞬間、周りの機械達が一斉に火を吹いて、2人の体がバタバタと暴れながら砕け散った。

 目の前で、彼等の制御盤が燃えて灰になりながら消えていく。

 それをわたしは、ただ泣いて見送るしかでかできなかった。




『これがあなたの限界よ』



 誰かの声で・・・わたしの声(・・・・・)で誰かがそういった。

 今や部屋の全てがわたしを残して消え去り、どこまでも黒い空間だけが広がっている。

 ロンの声も存在も、今では遥かに遠い。


『これがあなたの限界よ』


 ”声”がまたそう言ってわたしを責めた。

 怒りもわかない。

 なぜなら悪いのは全部わたしだから。


『数百万や数千万を雑多に扱うあなたのガサツな力で、数百万分の一の精度が必要な2人を治すことなんてできない』


 わたしが、わたしを責める。


『ロンだって、そういう風には出来てない』


 少し小さな”わたし”が、わたしの前に現れる。


あなたじゃ(・・・・・)2人は治せない』


 それは、まだ”氷の大地”を出る前の、”まだ幸せなわたし”だった。



『なにも知らないくせに、なにも知ろうとしないくせに・・・』



 その顔が、いくつにもブレて消える。





 ・



 ・




 ・





 ・






Side:ロン



 唐突な覚醒感と共に一気にモニカの意識が表層に引っ張り出され、俺もいつもの”夢世界”からいきなり引きずり出された。


 せっかく、”ユニバーサルスキル規格”について建設的な意見が出始めたのに・・・

 だが意識を外に向けて見えてきたのは、寝汗でびっしょりの下着と、過呼吸に陥っている心肺系だ。

 よく見ればバイタル系が急激な変化を示すエラーを吐いているではないか。

 慌てて俺が調整系のスキルを起動し、呼吸を元に戻す。


『どうした急に?』


 俺がモニカそう聞くと、モニカは疲れたように周り見回した。

 だがそこには、真っ暗な木苺の館の内装が見えるだけ。


『・・・まだ夜?』

『ああ、まだ夜だ』


 ざっと午前3時といったところ。

 当然ながら木苺の館は寝静まり、隣のベッドからはルシエラの寝息が聞こえ、俺達の腕の中では抱き潰さないようにフロウでガードされたベスが、俺達の下着をギュッと掴んで寝息を立てていた。


『そっか・・・』


 モニカがホッとした様に息を吐きながら下を向く。

 だがバイタルは依然として緊張を示していた。


『ねえ、ロン・・・』

『ああ、どうした?』

『・・・【予知夢】つかってた?』


 うん? 【予知夢】? なんでそんなもの。

 それでも一応、ログをチェックするが、FMIS以外のプリセットスキルの動作の記録は残ってなかった。


『いや、使ってないぞ』

『・・・ほんと?』

『本当』

『・・・よかった』


 モニカは心底ホッとした様にそう言うと、また身を横たえながらベスに腕を回して目を閉じる。

 すると睡眠中のベスがその手を掴んだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 翌朝、俺達が朝の身支度をしていると、モニカの髪の中に紛れ込ませている糸状の俺の感覚器をルシエラが引っ掴んでトイレに連れ込まれた。

 一応、俺って”男設定”なんだけど、ウチの姉ちゃんが気にしている様子はまったくない。

 とはいえルシエラもそのまま用は足さずに、トイレの扉からベスの着替を手伝うモニカの様子を窺っているだけだった。


「帰ってる間、なんかあった?」

「あったというか・・・わかる?」


 ルシエラの言葉に俺がそう返すと、彼女は小さく頷いた。


「昨日見たときも思ったけど、顔つき変わってるもの。

 ・・・なんか、ちょっと怖いし」


 ルシエラがそう言いながら目を細める。

 一方の俺はそんな分かりやすく変わってるのかと思いながら、モニカの顔を見ていた。

 俺に髪を梳く指示を飛ばしながら、久々の制服に袖を入れる様子は特に変わったところは感じない。

 ただ、


「まあ、色々あったからなー」


 色々で済むのか微妙だが。


「何があったの?」


 ルシエラに聞かれた俺は、それからモニカの朝の支度が終わるまでの間、ルシエラに里帰り中に起こった事を簡単に纏めて伝えた。

 するとルシエラは左手の親指を咥えて考え込む。


「なるほどね・・・これだから貴族ってのは面倒くさいのよ・・・

 いい? モニカに伝えておいて、あまり深く考えちゃ駄目よって」

「それはずっとやってる」

「ならもっと」


 ルシエラはそう言うと、紐状の感覚器の上を指で軽く弾いた。


「あんた達は溜め込むタイプだからさ、持てたって抱えちゃ駄目よ」

「そうはいっても、一応”貴族”だからな・・・」


 俺がそう言うと、ルシエラが露骨に呆れ顔になった。


「貴族なんだから椅子に踏ん反り返って威張ってなさいよ。

 大丈夫、潰れったってヴァロア家の身から出た錆だから」

「まあ、そうなんだけどさ・・・モニカに恥かかせたくないじゃん?」

「はあ・・・まったく。 でもあの子最近そういうの気にしてたからなぁ」


 そう言いながらルシエラはドアの隙間からまたモニカを見つめた。


「でも、それだけでじゃ無い感じなのよね・・・」

「それだけじゃない?」

「うん」


 ルシエラがトイレの扉の隙間から外を覗き込む。


「なんというか・・・もっと身近な事で悩んでるというか・・・」


 その時、不意にモニカがこちらを向き心配そうな顔で近寄ってきた。

 ルシエラが慌てて扉をそっと閉める。


「ルシエラ、大丈夫? お腹痛いの?」


 どうやらなかなかトイレから出てこないルシエラが、下痢でもしてるのかと心配になったらしい。

 というか、俺に直接そう聞いてきて”どうだろなー”的な返事をしたらこうなった。


「あ、大丈夫よ。 どっちかって言ったら”出ない方”だから」


 え、それでいいのか!?


 するとルシエラがわざとらしく扉を開けて外に出て、目の前にいたモニカの頭を両手で掴んでワシャワシャと髪を掻き回した。

 その隙に乗じて俺が感覚器を引っ込める。


「今日はどうするの? ほら、予定より早く帰ってきたじゃない?」


 ルシエラはモニカにそう聞いた。

 北国で俺達の反応が出たことで、俺達の旅は大きく縮小していた。

 単純に滞在期間も短くなったし、急いだ分だけ帰りに掛かった時間も短い。

 一方、事前に組んでた活動予定は、何日か余裕を見ていたので結果的に1週間以上予定が空いたのだ。

 ただ、暇というわけではない。


「”おうち”の事とかで、やらなきゃいけないことがあるから、冒険者協会と中央局に、それから今年の授業についてスコット先生と相談しようかなって」


 モニカが指を折って今日の予定をルシエラに話す。

 意外と”やること”は沢山あるし、”やりたいこと”はもっと沢山ある。

 俺達に暇な日など無いのだ。


「随分セコセコ動くのね。 でもあまり予定をキツキツにしたらだめよ、貴族ってやつはノロマだからそれを考えて動かないと」


 ルシエラがそう言って諦めたような表情で俺達の頭に手を置くと、俺にだけ見える位置でハンドサインを組んで、”速度を落とせ”と言ってきた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 久々の我が家(知恵の坂)の愛おしき喧騒にまみれた朝食を済ませた後、ロメオを引き連れた俺達は冒険者協会に向かう前に、”モニカ連絡室”へと向かった。

 昨日も夕方にアクリラに着いてすぐに来たが、今日は今日でやることがある。


「ファビオかディーノいる?」


 驚いたことにどこか懐かしさすら感じる路地裏の扉を開け、モニカが中に向かって声をかけた。

 するとすぐに上の階から覇気のない男の声が帰ってくる。


「ああ、私がいるが、どうした?」

『ファビオか・・・』


 モニカが若干面倒臭げにそう呟く。

 

「ディーノは?」

「出かけてる」


 どうやらやり手の”商人君”ことディーノはいないらしく、残っているのは”名ばかり室長”の公爵坊ファビオだけのようだ。

 この2人、どうも交互に動いてるらしく揃ってるところをあまり見ない。

 ただ、ファビオはどうも頼りないんだよなぁ・・・的な事を俺とモニカが”感情だけの会話”でする。


「ファビオだけか・・・まあいいか」


 仕方ないとばかりにモニカはそう言うと、次元収納を小さく開いて数枚の紙束を取り出す。


 するとちょうど奥の階段から、降りてきたファビオが現れた。

 貴族の嗜みなのかバッチリと整えた服が、相変わらずこのどこか”とりあえず感”満載の廊下の中で浮いている。

 幸い一晩経ったせいか、昨日見たときに感じた妙なまでの”親近感”は消えていたが、彼の無害そうな顔と雰囲気は”あんな里帰り”の後だからこそ、どこか安心感を覚える。

 モニカもそうなのか、まったく臆することなくファビオに近づくと、挨拶もなしに持っていた紙束を突き出した。


「これ、”せいしょ”してマグヌスに送って」


 これは俺達が帰りの”飛竜車”の中で用意した、いくつかの書類の一つだ。

 ”奴隷経済”というヴァロア領の中核産業がなくなる今後、そのために方方に様々な働きかけをしなければならない。

 じいちゃん達も北で動いてるだろうし、南にいる俺達もやらなきゃならないことは多い。

 そしてこれはその中でも特に重要度の高い案件だ。


 ファビオがモニカから書類を受け取ると、その内容をさっと一瞥する。

 すると見る見る内に彼の顔が苦いものに変わった。


「”ヘクターの提案”に乗るのか?」


 書類を読み続けながら、ファビオがそう聞いてきた。

 どうやらヘクター隊長からファビオにも話は行っているらしい。

 帰りの道中、俺達は彼から”とある提案”をされていた。


「話だけは聞こうって」


 モニカがそう答える。

 その表情は、ここ数週間ですっかり板についてしまったモニカの”貴族の顔”だ。

 だが、それを見たファビオがどこか痛々しげに左の眉を動かした。


「誰かと相談した?」

「えっと・・・」


 本当は俺となんだけど、一応隠しているのでそう言えないモニカが口籠る。

 とはいえ”1人で考えた”というのも違う。


『ルシエラ』

「あ、ルシエラと相談した」


 ので、とりあえず代理に”ウチの姉貴分”の名前を出しておく。


 するとファビオはしばし考えながら書類を読み続け、一通り目を通してから大きく息を吐いた。


「はあ・・・帰って早々、急ぎ過ぎじゃないか?」


 そう言うと、彼は目をこちらに向けた。

 その目をモニカがしっかりと見返す。


「”もう貴族”だから」

「領の事を考えるのは偉いが、あまり無理はするな。

 君のヴァロア領での事で、ヘクターが説明に追われて駐屯地から帰って来ないんだぞ」 


『あぁ・・・やっぱり・・・』

『そりゃ、あんだけ派手にスキル使ったらな』


 唯でさえスキル反応が出て大騒ぎだというのに、その上制御魔力炉を使い倒したのだ。

 きっとヘクターは今頃、郊外の駐屯地で”怖い顔の士官”とかに何があったか問いただされてるんだろう。

 ウルからの事実確認のメールの件数もやばかったし、中央(ルブルム)は結構な大騒ぎだったのは間違いない。


「ヘクター隊長には”ゴメン”って言っておいて」


 モニカが若干申し訳なさそうにファビオにそう言う。

 まあ、結局ちょっと南に下るとすぐに反応は消えたから大事にはなってないので、ファビオもそれ以上は追求することはせずに「わかった」と言って、書類を纏めて折りたたんだ。


「これは私が清書して”上”に送っておく」

「ありがと」


 今回の書類は正式な”公文書”扱いで出したいので、権限のある役人に書き直して貰う必要がある。

 押し付けられた間柄とはいえ、こういう時、権限のでかい役人と仲がいいというのは助かった。

 とはいえ、


「だが”相手が相手”だ。 覚悟しておけよ」


 とファビオが忠告するくらい、大変な事の証左なのだが。

 それを突きつけられた俺達は、どこか体の芯のほうが緊張するのを感じた。


 すると、横の部屋から壁をコンコンとノックする音がして振り向くと、隣の部屋から顔を半分だけだしてこちらを窺う”小人”の姿が目に入る。


「話は終わりましたかな?」


 アルバレスから派遣されている役人のジョルジュはそう言うと、その小さな体で部屋に入ってきた。


「ジョルジュ、イリーナはいる?」


 ジョルジュの姿にモニカが上の階を窺うように視線を上げる。

 だが【透視】こそ使ってないとはいえ、探知スキルにこの2人以外の反応はない。


「イリーナ殿は夜が明ける前に立たれましたよ」


 ジョルジュはちょっと残念そうにそう答える。

 なるほど。


『イリーナらしいな』

『らしいね』


 あの”糞真面目勇者”の事だ、きっと呑気に寝てられなくなって飛び出したのだろう。


「でも”またね”って言いたかったな」


 結局昨日は旅の疲れもあってか特に何もなく別れたので、挨拶も碌にしていないのだ。

 それだけが気がかりだった。


 だが、そんな俺達を見越してか、ジョルジュは俺達に一通の手紙を差し出してきた。


「イリーナ殿からこれを」


 受け取ったモニカが広げて中を見る。 

 それは彼女らしく丁寧なんだけど微妙に雑な字で書かれた手紙だった。

 モニカがメガネインターフェイスユニットを展開する。

 まだアルバレス語は読めないので俺の翻訳が必要なのだ。


 それは挨拶無しで出発したことを謝罪し、一緒に旅ができたことを喜ばしく思っているというような内容のものだった。

 まあ、これが別れの挨拶ということだろう。

 モニカが手紙の最後の部分に指を当てる。


 ”あなたが星である限り、我が槍はその下で振るわれる”


『”星”?』

『なにかの慣用句だろうが、どう訳していいかよく分かんなくてな。 まあ、頑張れってことじゃね?』

『そっか』


 モニカは少しばかりその手紙を眺めてから、大事そうに次元収納の中に仕舞い込んだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ”モニカ連絡室”を後にして、俺達が次に向かったのは冒険者協会。

 ただし知恵の坂の近くの”分所”ではなく、中央区にある”本所”の方。

 ピスキアのものよりも巨大な空間に、雑多な人種人員の老若男女が所狭しと集まるので普段は避けてるが、今日の”申請”にはここでないと出来ない。

 総合案内窓口からタライ回されること4回目にたどり着いた”登録関係”窓口で、俺達は事前に用意していた申請書を提出する。


「書式が違いますね・・・こっちに書き直してください」

「・・・・・あ、はい・・・」


 ・・・と、渡された新しい用紙に後ろの台で俺がフロウで書き直して、申請書を提出・・・


「ここ、記入漏れです」

「あ」


 ・・・なんでよ! いつもはもっと適当じゃん!

 と、俺が憤るも、どうも冒険者協会にとってもそれくらい重要度の高い申請なんだそうで。

 結局、それから何度か指摘と書き直しを繰り返して、申請書がちゃんと完成したときにはすっかり神経がすり減っていた。

 もっとも、事前に用意していなければ持ち帰りになったので、先に作った申請書も無駄ではなかったのだが。

 窓口に座る獅子の獣人(獣よりの方)の、たぶん男性が5枚綴りの申請書に更に謎の書類をいくつか追加して魔法でくっつけると、魔力回路の描き込まれた分厚い封筒の中に仕舞い込んだ。


「それでは、申請の受付は結構です。 ただし、受理されるかは審査の結果次第になりますが」

「はい、わかってます」


 俺達はそう答えると、お礼を言って窓口を後にした。


『認められるかな?』

『さあ、どうだろう』


 今回俺達が申請したのは、アクリラの内外で活動するための”パーティ”を作るための申請と、そのメンバーの募集をするための申請。

 要は”一緒に冒険する人いない?”ってやつだ。

 これが通ってメンバーが集まると、その規模や実績に応じて今後の活動が許可される範囲が広がるし、学生の場合はいちいち外に出る申請が免除されたりする。

 ”第二種校外活動免許”を持ってる特権の1つだ。


 だが、それ故に冒険者協会の審査も厳しいし、アクリラの審査も入る。

 強さはあるし、里帰りで魔獣討伐の実績も増えたので協会の審査は大丈夫だろうが・・・


『問題は校長が認めるかだな』

『”ダメ”って言われたら、”じかだんぱん”に行こう』


 モニカが最近覚えたばかりの単語を使って気勢をつける。

 この案件はモニカの”肝いり”だけに彼女も引く気はない。

 俺達が今仲間を募って外に出れるようにする理由は、もちろん世界各地の技術を見て回ったり、材料を集めたり、討伐旅行で金を稼いだりすることもある。

 だが何より、遅くとも来年夏にタイムリミットが迫った”本当の里帰り”に連れていく人員を見つけておきたいという理由が第一だ。

 もちろん、1人で来たのだから1人でも帰ることも可能だが、そんな危険なことをアクリラが認めるわけがないし、俺達もリスクは負いたくない。

 とはいえ、あそこが人を寄せ付けぬ場所なのも事実なので、生半可な急造メンバーでのアタックは論外だった。

 だからこそ、ちょっとでも共に行動して必要な対策が立てやすい”気心の知れた仲間”が必要で、そのために少しでも早い段階でパーティを組もうとしているのだ。


『で、認められたら募集するわけだが、どういった条件がいい?』


 窓口からの道すがら、審査の可否に気をもんでも仕方がないので、とりあえず俺が”皮算用”の相談を行う。


『戦いの強さはどうでもいい。 寒さにある程度強くて、持久力がそれなりにあって、あと喧嘩しなければ』


 モニカが指を折って”条件”を上げていく。

 まあ、”北極アタック”を想定しているだけにそうなるか。


『あと、できれば”前衛”がいいかな・・・』


 そう言いながら冒険者協会の外に出たときだった。


 不意にモニカが雑踏の中に知った顔を見つける。


「ルーベン!」


 モニカが久々に見たその少年の名前を呼ぶと、ルーベンは足を止めてその歳の割に背の高い赤髪をこちらに向けた。


「・・・帰ってたのか」


 ルーベンが俺達に向かってそう言う。


「うん、昨日帰ってきた」


 雑踏に紛れて近づきながら、モニカがそう答える。

 久々に見た同級生の姿にどこか気分が晴れやかだ。


「僕は4日前」


 するとルーベンがそう続けた。

 そういや彼も”里帰り”してたんだっけ。

 ただ、


「長かったよね?」


 ルーベンの返答にモニカが疑問を挟む。

 ルーベンがマグヌスに帰ったのはかなり前のことなので、4日前に戻ってきたとなると2ヶ月以上向こうにいた計算になる。

 それだけぶりに見たせいか、それとも成長期なのか、ルーベンの体は前より随分と大きく見えた。

 

「ちょっと”スキル絡み”で色々あって」


 ルーベンがそう言って肩をすくめる。

 だが気のせいか、前より自信げだ。

 ”スキル絡み”というからには、彼の成長に合わせてアップデートでも入ったのかな?


「ふーん」


 だが、モニカはそれにはあまり興味は持たなかったらしくあっさりと流すと、”そんなことよりも”とばかりに彼に提案を切り出した。


「わたし”パーティ”申請したの、前衛やってくれない?」


 と、まだ認められてもいないパーティの、メンバー募集を始めたのだ。

 だが、たしかに彼が仲間になってくれるなら百人力だし、気心もしれている。

 なにより彼は全ポジションで戦えるので前衛を押し付けられる。


 ただ、そんな皮算用はすぐにもろくも崩れ去った。


「・・・断る。 僕はもう自分の派閥のパーティに一応入ってるし・・・」


 と、一考の後に、切って捨てられたのだ。

 それを聞いて、俺達の中に少なからぬ落胆の感情が巻き起こる。

 だが、ルーベンの言葉は続いていた。


「それに・・・まだ(・・)、モニカとは”ライバル”でいたい」


 彼はそう言うと、グッと握った拳を俺達の顔面向けて突き出した。

 その少年漫画みたいな光景に俺達が言葉を失っていると、ルーベンはそのまま体を元の向きに戻して歩き始めた。


「”1組”の試合で待ってる」


 そして肩越しにそう呟く。

 相変わらず、その言葉と背中から放つ雰囲気は妙なまでに自信に満ちていた。

 やっぱり、アップデートでもしたのかな。

 探知系のスキルで軽く探った程度では分からなかったが、【透視】で見る限り、内臓の幾つかに前のデータと比較して不自然な痕跡があるので何かしたことは間違いない。

 

『フラれちゃった』


 ルーベンの背中を見ながらモニカが呟く。


『しゃーない、流石に獲物がでかすぎるよ』


 俺が気にするなとばかりにそう返す。

 そう、だいたいルーベンがフリーなわけないじゃないか!

 それに仮にOKされても、”将位スキル”の運用なんて出来るわけもないし、あの性格だと一緒にいるときついに決まってる!

 だから、うん、別に、しゃーないんだ。

 気にしてなんかない。


『うーん』


 だがモニカは、どんどん小さくなるルーベンの姿に、まだなんとも居心地悪そうに頭をひねっている。


『どうした? モニカもフラれてショックか?』

『ロン、”ライバル”って何?』

『そこ!?』


 予想外のモニカの”悩みポイント”に俺が仮想上でつんのめる。


『うん、そこがよくわかんなくて』

『まったく・・・ライバルってのはあれだ、敵じゃないんだけど、”負けたくない相手”というか、競い合いたい相手というか、対等の関係というか』


 こういうと面倒くさい関係だね、ライバルって。


『じゃあ、残念だけど、違うんだね』


 モニカがそう言うと遠い目をしてからルーベンから目を離す。

 その反応に俺が驚く。


『え?』

『わたし、別に、もう競う気はないもん』

『え!? そうなの!?』


 あれだけ”ルーベンに追いつけー”だったのに、どういう心境の変化だ?


『せっかく今年は、最初から競争できるのに・・・なんだったら、今年は1組1位を狙ってもいい』


 というか現実的に狙えるだろう。

 流石に総合1位はまだ無理でも、模擬戦で勝ち越すことはもう夢ではない。


 だが、そんな俺の考えに対するモニカの答えは、予想外のものだった。


『それなんだけどさ・・・』

『うん?』

『今年の授業、考えてることがあるの・・・』


 モニカが若干後ろめたそうにそう切り出す。


『なんだ?』


 その様子に俺は怪訝な声でそう聞いた。

 するとモニカが覚悟を決めるように感情を一気に動かして、俺にその考えを話したのだ。



『あのね・・・戦闘系の授業を・・・基礎も含めて全部キャンセル(・・・・・)したい』




大変長らくおまたせしました。

例年通り、猛暑とクーラーに殺されかけてました。

どうにかならないものですかね。

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