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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
271/426

2-11【対決! 勇者戦 3:~王位殺しの勇者~】



 レオノアの言葉はまるでそれ自体が鋭い刃物のように俺達を撃ち抜いた。


『なんだ・・・!?』


 それは、依然として大量の土砂が崩れ落ち観衆達がざわめく騒音の中、明らかに聞こえるはずのない音量の声だ。

 これも何かの”力”か?


 いや、違う・・・

 レオノアの放つ凄まじい”殺気”に当てられたモニカが、無意識にレオノアの声を聞き逃すまいと神経を集中させたのだ。


 モニカがレオノアを睨む。


 先程までとは明らかに”空気”が違う。

 今は空気ですら彼の周りに近づくことに恐怖しそうな雰囲気だ。

 それに手には先程まで握られていた短剣の姿はなく、かわりに彼の”代名詞”である身長並に細長い双剣の片方が握られていた。

 そしてもう片方も今、背中の鞘から抜かれてこちらに向けられる。

 

 どうやら、もう”手加減”する気はなくなったようだ。

 認めてもらった、といえば聞こえはいいが、さてどうしたものか・・・・


『あの剣、”ログルス”と”レグルス”っていうらしいぜ、どっちがどっちだか分かんないけど』


 俺は事前の情報収集で集めたレオノアに関する”噂話”の中から、流石にこれは間違ってはないだろうという情報の1つである剣の名前をモニカに伝える。


『”力”は、魔力を切るんだっけ?』

『ああ、そうだ。 おそらく”地獄の釜”はそれにやられたっぽいな』


 どういう効果かはハッキリとはしないが、さっき剣撃が一閃フィールドを駆け抜けた直後にフロウの大部分が制御不能に陥っていた。

 その状況からして、あの一撃にかなり魔力遮断効果があったのは間違いない。

 形状だけ見た感じ、謎の魔力回路が青く光っているのを除けば、かなり装飾過多な普通の剣に見える。

 大きさ的に片手で振り回す物にはとても見えないが、その辺は身体強化が当たり前の世界だし勇者相手に何をいわんやという話だろう。

 だが、その動きがなんだか”ヌル”っとしていて、”この世のものではない”感が半端ない。


 そしてそれを両手に広げながら構えたレオノアはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


『やばい・・・隙がない』

『あれでか?』

『うん』


 レオノアの構えは良く言えば”脱力型”、普通に言えば”無造作”という感じで、とても構えているようには見えないが・・・


『あれで正解・・・何をやっても切り落とされる』


 とモニカが太鼓判を押すのだ。

 間違いないだろう。


『じゃあ、どうする?』

『押し込む!』


 その瞬間、魔力炉に大量の”燃料(魔力)”が投入され、噴き出す高位魔力の量が一気に増大した。

 それを俺がモニカの意識に沿うように纏め動かしてく。

 そして最後に、その膨大な魔力の塊をレオノアに向かって投げつけた。

 周囲から見れば俺たちの体が発した衝撃波が、レオノアに向かって飛んでいったように見えるだろう。

 ガブリエラがよくやる”魔力で押す”をより苛烈にしたやつ。

 これの威力はお墨付きだ。

 

 実際、今度もレオノアに直撃するなり彼の体を大きく仰け反らせる。

 だがレオノアが一歩だけ足を引いて踏ん張ると、そこで全く動かなくなってしまった。

 どんな足腰だ。

 だが制御魔力炉の放つ魔力の勢いは、並大抵のものではない。

 レオノアの体からは金属が軋むような、明らかに人の体からしていけない音が響き始め、それに伴い魔力を掻き分けながらガクガクと前進する様子が見えた。


『だが効いている!』


 捉えどころのない魔力の奔流は、単なる物質と違い跳ね除けることも難しい。

 これならばあと少しの間であれば抑えておけるだろう。


 だがその考えは甘かった。


 レオノアが僅かに流れの少ない地点を探り当て、そこに左手を押し込んで手首だけで剣を振るう。

 その瞬間、またも魔力の反応がプツリと切れ、次いでレオノアを押さえつけていた魔力が消失した。


「あの剣!」

『”魔力を切る”ってのはそういう事か』


 スコット先生や先程レオノアがやっていたのは、複雑な魔法の中に自らの魔力を押し込んで組成を破綻させる技だ。

 対してこちらは、文字通り剣が通った箇所の魔力を遮断している。

 明らかにインスタントだし、遥かに厄介極まりない。


 なにせ量が効かないのだ。

 これじゃまるで・・・


「悪いけど負けられないよ、僕は君達(・・)を殺すために作られた」


 レオノアの言葉はまたも、刃物で刺されたかのように強烈な印象をもたらした。


 そうか・・・

 当たり前といえば当たり前。

 レオノアが”勇者”として選ばれたのは、アルバレスがガブリエラに対抗するため。

 そして最も新しい勇者であるレオノアは、当然ながら最新のデータに基づいた”アンチガブリエラ”に特化した武装を持っていてもおかしくはない。


 それがあの2本の剣であり、あの斬撃だ。


 だが少し切った程度、こちらにはまだまだ在庫がある。

 俺達は周囲にバラ撒いた魔力を動かし、レオノアを取り囲むように動かす。

 それによって急激に魔力密度を上げた空間がまるで黒い雲の様に見え、それが動く事で小さな台風の様に見えた。

 だがレオノアの剣撃はその上を行く。


 本来なら、逆に振り回されてもおかしくないような長さの2本の剣を自在に操り、魔力の雲を難なく切っていく。

 その動きは時に舞の様に、時に機械のように変化を続け、俺達にパターンを掴ませない。

 完全にこの”魔力の津波”を想定し、対策したことが丸わかりな動きだ。


 だがこちらとて、自然災害級の大技まで出して対抗してんだ、大人しくやられる訳にはいかない。

 俺は魔力波による攻撃でできた間隙に、破壊された地面の魔力網を再編していた。

 すぐさま地面のフロウ系が再び活性化を始め、レオノアの足元がボコリと沈む。

 だが2度も同じ手に絡め取られるレオノアではない。

 下を見もせずにジャンプしたかと思うと、空中を蹴りながら追撃のフロウの触手を躱していく。

 それでも俺達は逃がすものかと、別で砲撃体制を整え、嵐の様な砲弾がレオノアに殺到した。

 こっちの魔力の在庫は湯水より安いんだ、100回や200回魔力を切られたからって、どうということはない。


 すぐさま第2、第3の”地獄の釜”を組成しようと、大量のフロウ達が縦横無尽に動き回り、その度にレオノアに切り飛ばされた。


『くそっ!』


 せっかくの”超大砲”級の砲身を切り飛ばされたのを見て、俺が悪態をつく。

 そりゃ潰されるだろうなとは思ったが、実際やられるとムカつくな。

 こんな巨大砲、せっかく作れるようになったんだからぶっ放してみた・・・


『ロン、飛行準備! 動かないと保たない』

『おっしゃ!』


 そのモニカの指示で不満をどこかへ放り投げる。

 この仕事で重要なのは如何に素早く頭を切り替えられるかだ。

 

 背中に展開された魔力ロケットが火を吹き、俺達の体が持ち上がる。

 と、同時に周囲のフロウを手繰り寄せて、両翼を形成した。

 久方ぶりの上に、グラディエーターを着ているせいで10倍近く重くなったが、その動きに淀みはない。

 いつだって改良を試みてきたし、何度もシミュレーションを行ってきた。


 俺達はまるで手足のように翼と魔力ロケットを巧みに操ると、弾丸の様に空中へ飛び出した。

 その激烈な加速と動きにレオノアが面食らっているのが見える。

 魔法で飛ぶものは珍しくないが、ここまで戦闘機じみた軌道な奴はそういない。

 そしてさらに、”フロウの量”という枷から解かれていた俺達は、空中であっても転送を組み合わせることで柔軟な戦術が可能になっていた。

 俺達の両手と両翼に付けられた砲身から、機関銃の様に魔力砲弾が発射される。


 地上のフロウの制御は手放さないといけないが、魔力炉の生み出す膨大な火力と推進力は、それに匹敵するくらいの攻撃性がある。


 その時レオノアの手が僅かに青く光り、その光を剣を回す事で広げると、独特な文法の魔法陣が現れた。


『器用なやつめ!』


 あの剣は汎用魔道具だから、魔力触媒にもなるって?

 まったく、勇者の剣で展開する魔法とか贅沢すぎるぞ。

 そしてその威力は、その贅沢さに違わぬ物だった。


 突如、翼が風を掴みそこねたかのように高度が下がる。


『環境変動系魔法だ、失速してる! ロケットの反応も薄い!』


 これは俺達の周りの空間に作用し、使っている現象を妨害する魔法。

 だが幸いなことに、以前食らったこともあれば、対処もできている。


『緊急脱出!』


 そのプログラムを発動した瞬間、ベクトル系魔法が体内で発動し、なんとも暴力的で無機質な加速が俺達を引っ張り上げた。

 するとすぐに翼とロケットの反応が戻ってくる。

 環境系魔法は燃費が悪い、それほど広範囲にはかけられないのだ。


 ただそれでも、かなり致命的な遅れにはなったが。


「!?」


 必死に体勢を立て直そうともがく中、目の前に超高速でレオノアが迫る。

 まるで空中が硬い地面であるかのように音を立てて蹴り、その反動で上向きに走っている。

 近づかせてなるものかと、ロケットキャノンの一斉射が襲いかかるが、レオノアが切り飛ばしもせずに正面から受けていた。

 当然、”勇者の権能”を前に効果などない。


『ちょ、それずる・・・』


 その言葉が言い終わる前に両翼が一太刀で切って捨てられ、大量のフロウを失い一気に墜落する。

 だがそこに向けて、レオノアが返す刀で追撃してきた。

 間違いない、確実に腕や足の1本はご愛嬌という一撃だ。

 どうやら向こうも、己に課していた”舐めプ”を解除しつつあるらしい。


 だがそれを食らうわけには行かないと、モニカが大量の魔力を制御魔力炉に流し込み、発生する魔力の圧力が爆発のように俺達とレオノアの体を弾き飛ばす。


『無茶しやがって』


 制御魔力炉はまだまだ未知の技術で危険も多い、扱いを間違えれば簡単に俺たちの体を吹き飛ばしかねない危険物だ。

 それでも、そのおかげでなんとか危機を脱した俺達は、グラディエーター本体の装甲をロケットに回して、なんとか着陸に成功する。


 だがその時、地面についた手から鈍い痛みが走った。

 咄嗟にグラディエーターではなく自分の手に魔力を流してしまい、それによって過度に緊張した筋肉が小指の骨を小枝のように折ってしまったのだ。


「っ・・」


 モニカが鋭い痛みに一瞬だけ呻き、すぐに俺が痛みをカットする。


『制御魔力炉を起動している内は、咄嗟の強化は避けろ、潰れちまうぞ』


 制御魔力炉の膨大でどんぶり勘定の魔力は、外に向けたりすぐに直る強化装甲に使う分には問題ないが、モニカの小さくて繊細な体に流すのはあまりにリスクが大きい。

 そもそも、”これ”を流さないために俺がある様なものなのだ。

 だがそれでもモニカは止めない。


『あと、どれくらい?』

『85%、だがロス分も考えれば95%あれば起動を始めても問題ないだろう』

「あと10!!」


 モニカは自分に言い聞かせるようにそう叫びながら、地面に手をつける。

 と同時に迫りくるレオノアを睨みつけた。

 ここから見る彼の姿はあまりにも恐ろしい。

 今も俺達の薄皮のような装甲を切り裂かんと、その剣を走りながら構え直していた。


『組成完了!』

「ふっ!!」


 モニカが大きく息を吐き地面をから棒を引き抜くと、その棒とレオノアの剣が衝突した。

 周囲に響く”ガン!”という鈍くて鋭い大きな音。

 その衝撃で俺達の身体が僅かに後ろに滑る、だが棒が切り飛ばされることはなかった。


「?」


 思わぬ棒の強度にレオノアが不審そうな顔になる。

 フロウやゴーレム素材であれば強度に少なからず魔力を使用しているため、レオノアの剣であればバターのように切り裂いてしまえるだろう。

 だがこの棒は地面の下の石や鉱物などを寄り集め、膨大な魔力で押し固めた、正真正銘ただの”頑丈な棒”だ。

 そのせいで重さは100kgを軽く超えるが、これならば単純な強度としてもレオノアの剣に見劣りしない。


「と、思ったのかい?」


 その瞬間、拮抗していたはずの棒が剣の圧力で一気に押し込まれる。


「まだ”使い手の差”は残っているだろうに」

「うぐっ!!」


 モニカが歯を食いしばりながら押し返す、だがグラディエーターの限界まで魔力を投入しても全く対抗することが出来なかった。

 装甲の関節から過負荷を示す異音と、黒い火花が飛び散る。


「君達、スキル保有者はいつもそうだ。 体の内に過ぎた力を抱え、それを歪な”殻”で閉じ込めながら、過ぎた敵と戦い身を滅ぼす」


 棒が一気に弾き飛ばされ、ガラ空きの胴にレオノアもう一方の剣が吸い込まれる。


「”殻”をいくら大きくしても、”内側”は、か弱く脆い」


 間一髪、すんでのところで間に合ったフロウの防御がレオノアの剣に切られながらも僅かに起動をそらし、それをモニカが棒で受け止める。

 だがそのせいで崩した体勢に、レオノアの剣は容赦なく何度も叩きつけられた。


「そんなこと、しなくていいんだ」


「!?」


 突如レオノアの剣の動きが急激に変わり、鋭い軌道で以ってあっという間にモニカの持っていた棒を真っ二つに切り裂いた。

 その気迫からして間違いなく、モニカに当てないこと(・・・・・・・・・・)を前提とした”本気の剣”だ。

 その威力は強烈で、さらなる連撃で持っていた棒を次々に細切れにしていく。

 俺達に当てればすぐなのに当てないのは、手加減のつもりか。


 流石にこれはまずいと感じたモニカが再び魔力炉に魔力を流し、その圧力波で脱出を試みる。


 だが、


「!?」


 まるで見透かしたかのようにその衝撃波を切り裂いたレオノアは、そのまま片方の剣を地面に突き刺し空いた手で俺達の首を掴んで脱出を拒んできた。

 その力とかかった衝撃に、一瞬意識が飛びかける。


「その鎧で無理やり誤魔化してはいるが、君自身ではその力をうまく使えてないじゃないか」


 レオノアはそのまま腕をゆっくりと動かし、俺達の顔を見つめる。

 眼の前に映し出された彼の姿は、何処にも傷や汚れがない。

 そこで俺達は、これまでの攻撃が全く何のダメージを与えていないことを思い知らされた。


「ルキアーノやイルマに触発されたのだろうが、”秘めた力”を出しても使えなければ意味はないよ」


 そしてその言葉通り、俺達は今のこの力を全く扱えてない。

 出来ることといえば、バラ撒くか、叩きつけるか、その程度。

 どっちを選んでも無駄なことこの上ないし、レオノアの”権能”相手では効果すらほぼ見込めない。

 それでも諦める訳にはいかないとばかりに、掴んでいたレオノアの腕にモニカが手の残っていた棒を高速で叩きつけ、大量の攻撃魔法を乱れ撃つ。

 当然、この距離だ。

 避けようはなく、全てレオノアに命中する。

 だが、もう彼は避けようともしなかった。

 どれほど強力な攻撃が彼を襲おうとも、その身体どころか着ている服にすら傷一つ付けられない。

 これが、王位スキルが作られるまで人類最強だった”力”か。


 ”奥の手”まで間に合うかと思ったが、時間の予想が甘かった。

 もう少し制御魔力炉の起動を遅らせて、レオノアのやる気を刺激しなければ・・・いや、そうなればきっと魔力炉起動前に切り捨てられただろう。

 

「終わりだ。 だが焦る必要はない。 今日勝てなくても、いずれ君は強くなるだろう」


 レオノアはそう言うと、俺達を掴むのとは逆の手に持った剣を振り上げる。

 そしてその剣が、俺達の結界(体力)を砕こうとゆっくりと振り下ろされた。

 だが、それを防ごうとどれだけ攻撃を仕掛けようとも、もうその手は止められない。


いずれ(・・・)じゃ、だめなんだ・・・」


 モニカが呟く。


「なら、今の”弱さ”を受け入れなさい」


 レオノアが最後にそう答える。

 その声は、なんとも暖かくて、優しくて、

 自分達の弱さや不安が癒やされるような、そんな”大きさ”が感じられた。


 ・・・そしてそれが、無性に腹が立つ。


「!?」


 レオノアの顔に、これまでとは異なる驚きが浮かび、同時に俺達の身体を鋭い痛みが駆け抜ける。

 彼の振り下ろした剣は、間違いなく”2.0強化装甲”を切り裂き、その下の皮膚ごと結界を切り裂いた。

 俺のコンソールに表示される結界(HP)強度(残量)は半分以上削られている。


 だがその程度(・・・・)


 レオノアの剣は俺達の胴体ではなく、割り込む様に伸ばされたモニカの手を直撃し、手と手首を切り裂きながら、前腕の骨に挟まって止まっていた。


「わたしは・・・いつだって・・・”今日”を戦ってきた」


 根本を切り裂かれ耐え切れなかった薬指が、装甲に包まれた状態で大量の血と一緒にボトリと地面に落下する。


「さむくて何度も死にかけた・・・からだが痛くて倒れたこともある・・・食べるために自分より強くて大きなサイクとだって戦った」


 腕に魔力が流れ、それによって強化された骨がレオノアの剣をがっちりと掴む。


「”どうしようもないの”から逃げるために必死に音を聞いた、顔が凍るから涙も止めた、足が止まらないように怖がらないようにした、”今日”を生きるのが精一杯で、”いずれ”なんて考える余裕もなかった!」


 レオノアの手から気圧されたかのように力が抜け、モニカの手が逆に押し返すように力を増した。


「”いずれ(・・・)のわたし”を怖がった人達が、”今日”の内に殺そうとしたこともある! 歪でも不格好でも、わたしはいつだって”今日”を戦う力が必要だった!」


 そしてその叫びと同時にモニカが膨大な魔力をその腕から捻り出し、ボロボロになった腕ごと剣と一緒にレオノアの顔面に叩きつけた。

 次の瞬間、レオノアの顔面で発生した爆発で俺達の身体が後ろ向きに、吹き飛ばされる。


『まったく、無茶してくれる!』


 俺がモニカにそう叫びながら、グラディエーターの設定を変えて傷ついた腕の保護に回した。

 すぐに腕の周りの装甲がギブスのように形を変え、きつく締め付けながら出血を止め、更に慌てて制御画面を引っ張り出す。

 制御魔力炉は繊細なスキルだ。

 ほんのちょっとの怪我が安定稼働に悪影響を与えかねなない。

 幸い稼働状態は良好なままだったが、放置していれば危なかっただろう。


 だが、今のは良い時間稼ぎだった、おかげで・・・・


「謝罪しよう。 君を見誤ったことを」


 その声に、再び俺達の身体がビクリと緊張する。

 みれば今の爆発で発生した煙の中から、塵1つ付いていないレオノアがゆっくりと立ち上がるのが見えた。

 だがその顔からは、優しさは消え失せている。


「そしてもう一つ謝罪する。 やっぱり君に勝ちはあげられない」


 そう言うと2本の剣を交差するように構え、ゆっくりと腰を下ろした。

 間違いない、”本気”でこちらを仕留めに来る攻撃だ。

 俺は慌てて再調整情報を再確認する。


『モニカ! もういける! 今しかない!』

『まだ!』

『まだ!?』

『あの人、まだ”甘い”。 もう一撃見てくれる(・・・・・)


 そう言うとモニカが大丈夫な方の腕を地面に突き立て、少ししてから引き抜いた。

 現れた腕には大量の土や装甲が付着し、丸い鈍器のようになっている。

 しかも鋭いスパイクまで付いているので禍々しい。

 これは”2.0強化装甲”やフロウにゴーレム素材、更には圧縮された鉱物など、とにかく俺達が使える全ての”頑丈な素材”を動員し重ねた複合素材。

 その強度は当然ながら、俺達が作り出せる最高のものだ。


 モニカはそれを振りかぶるように上に掲げると、背中に魔力ロケットを作って噴射し、レオノアに向かって突撃を敢行した。

 まるで捨て身の一撃のよう突っ込んでくる俺たちに向けて、レオノアは僅かに憐れみの視線を向け、すぐに表情を引き締め直す。


 レオノアの双剣が舞うように動く。

 まるで全てを刈り取る死神の鎌のような印象と音を残して放たれた斬撃は、


 俺達の腕につけられた鈍器(・・・・・・・・・)へ吸い込まれるように直撃した。



「・・・・」


 無言で剣を振り抜くレオノア。


 勢い余って反対側に飛び抜ける俺達の身体。


 そして切り落とされた武器の破片が周囲に飛び散り、装甲を失った剥き出しの腕に付いた傷から真っ赤な血が漏れていた。


 そのまま無様に転がり、ようやく勢いが止まったところで腕を付いて上体を起こす。

 この試合で初めて顕になった俺達の剥き出しの腕は、あまりにも脆く見えた。

 だが反対に視界の先のレオノアは相変わらず無傷。

 そしてその間には、俺達の全ての知識を総動員したはずの装甲が無残に転がっている。


 だがモニカはそこから目を離さない。


『・・・見た?』

『見た』


 俺達にとって、言葉はそれだけで十分だった。


「最後の”あがき”は、気は済んだかい?」


 レオノアが剣を構え直す。


 もはや受ける手段はなく、相手も俺達を外すつもりはないだろう。


 会場にいた殆どの者は”決着の瞬間”を見ようと身を乗り出している。





 だが、今の一撃を見たモニカは、グラディエーターの兜の中で小さく微笑んでいた。


” あんた負けたよ ”


 俺達は心の中でそう呟く。

 たった1つ、俺達の”秘策”を無にしてしまうような”不安”が今払拭された。

 それはレオノアの剣の力が、”秘策”に使われる魔力的仕組みを破壊してしまうのではないかという可能性だ。


 もしレオノアの攻撃が、もっと”問答無用”の・・・たとえばカードゲームにおける”効果”の様な”確実性”と”概念性”があれば、俺達の”秘策”はなんの役にも立たなかっただろう。

 実際、この問題のせいでガブリエラには”2.0強化装甲”はどこまで強化しても意味がない。

 だがレオノアの”権能”は、神が用意したような”法則”ではなかった。


 人が抗い、組み立て、そして積み上げた正真正銘の”生きた力”なのだ。


 さっきのモニカが用意した鈍器は、複数の様々な装甲を重ねた構造をしている。

 それはつまり、複数の素材を並べた”比較標本”でもあるのだ。

 そして俺達が見たのは、その装甲の各層をどの程度の速度でレオノアの剣が駆け抜けていくか。

 その結果、彼の剣は間違いなく全ての装甲を時間を掛けて(・・・・・・)切り裂いていた。


 だからこそ”対抗”できる。


 膨大な火が水を飲み込む様に、膨大な水滴が岩を穿つように、俺達が持つ”膨大”というたった1つのアドバンテージは通用する。



 レオノアの攻撃がすぐそこに迫る。

 もう待ってる時間はない。


『97%! フレームはいけるぞ!』

「ゴーレムビルドオン! ”デバステーター(破壊者)”」


 俺の言葉にモニカが間髪入れずにそう叫び、予め用意していたゴーレムスキルに魔力を流す。


 その瞬間、それまでそこら中に充満していたはずの膨大な魔力が一瞬にして消えた。


 それと同時に、俺の視界が数十倍に広がり、そこに人の体では到底対処できない大量の情報が流れ込む。

 さらに、ここに来るまで一生懸命設定していたスキル達が、その膨大な手順に従い動き始めた。

 転送スキルが雨のように乱れ飛び、控室の前に置いた資材から、必要なパーツを順次目の前に転送する。

 そしてそれをフロウとゴーレム素材の複合材が受け止め、俺達の周りに組み込んでいく。


 最初に見えたのは俺達の身体をすっぽりと覆い尽くす鳥籠のようなフレーム。

 それもすぐにその内側の空間に、大量の魔力機器が出現し隙間を埋めた。


 レオノアはその光景からすぐに”脅威”を感じ取り、これまでにない真剣な表情で剣を振った。

 放たれる、2筋の青い斬撃。

 だがそれは、直後に吹き荒れた高密度の魔力流によって僅かに軌道を逸らされ、関係ない地面を穿つにとどまる。


 突如としてこれまでにない密度で放たれた魔力流にレオノアの顔色が変わる。

 これは明らかに”人の身”で扱える限度を超えている。

 遠隔による攻撃では効果なしと判断したレオノアは、直接的に攻撃を加えるためにモニカに向かって一気に飛びかかった。

 超高速で振り下ろされる2振りの剣。

 それは間違いなくモニカのどんな魔力でも切ってしまえる筈だった。


「!?」


 突如、組み上がっていく”鳥籠”の最前面、レオノアの真正面に複雑な魔力回路が彫り込まれた幾つのもの黒い”金属板”が出現し、それがお互いに大量の魔力で結びつきながら浮かび上がった。

 そして、その”9枚の金属板”の中央の一枚が目がくらむほど輝き出し、レオノアの視界が魔力の光で真っ黒に染まる。


 彼が自分がその光に吹き飛ばされたと悟ったのは、何百mも転がった後だった。

 すぐに膝を付いて勢いを止め立ち上がろうと試みるが、そこにさらに”光の奔流”の追い打ちが襲い彼の身体を地面に縫い付ける。


 そしてその間も、俺達の周りでは大量の資材が踊り回り、次々に組み上がっていく光景が広がっていた。

 あまりのリソース食いに、俺の意識が飛びかかる。

 だがその度に、”9枚の金属板”に彫り込まれた魔力回路が処理を持っていき、あと一歩のところで意識が踏みとどまった。


 現れたのは”巨大な骨格(フレーム)”。

 そのフレームに大量のパーツが纏わり付き、今度は筋肉のような内部構造が現れた。


 ”黒い巨人”がゆっくりと身を起こす。

 俺達を取り囲む鳥籠のような構造は、そのまま巨人の胸部に変わり、その周りに浮かんでいた9枚の金属片は肋骨のように固定された。

 その内側ではモニカが膝を抱えた状態で固定され、その周りを充填するように大量のフロウが覆う。


 するとグラディエーターの下に予め着ていた魔力回路の層から、大量の針が皮膚に打ち込まれた。

 予想していたことだが、全身に走る鋭い痛みに目が眩みそうになる。

 だがその痛みと同時に、制御魔力炉の魔力が一気に外側に流れ出したのを確認すると、その力強さに痛みも消し飛んだ。



 この街に来てわかった事がある。


 俺達はまだまだ子供だ。


 将来有望と言われようとも、本当の”強者”との間には純然たる”壁”があった。

 最高学年の上位生徒相手なら、グラディエーターなしでは勝負にならない。

 そしてグラディエーターを持ってしても、ガブリエラやレオノア、ルキアーノ先輩に戦闘系教師、そしてマグヌス軍上位にも勝てないだろう。


 だからこそ、”後進”として襟を正そう。


 やあ、”強者(先輩)達”。


 俺達はこの新たな”殻”でお前達に並ぶ。

 





 ようやく光の奔流を切り飛ばし横に逃れたレオノアは、直ちに剣を握り直しモニカに向かって駆ける。

 既に今しがた展開した”謎の魔法”により、彼女の周りは空間が歪むほどの魔力に満たされ、更に巻き上がった土煙で内部の確認ができず、感じ取れる気配も小柄な少女のものとは思えないほど巨大で禍々しい。

 明らかにこれ以上勝負を長引かせてはいけないだろう。

 おそらくモニカという少女は、ガブリエラやルキアーノのような”災害”的な力を持った子だ。

 うまく使えないにしても、その力を振り回せば危険極まりない。


 レオノアは迷うことなく、大量の魔力が渦巻く空間を剣で切り裂きながら突入する。

 だがその瞬間、レオノアが煙の中に見たのは視界を覆い尽くす真っ黒な”壁”だった。


「!? 何!?」


 慌てて体勢を整え直す、だが足は止めない。

 この程度の壁、これまでこの少女が成してきたことに比べればどうという事はない。

 そう考えたレオノアは、今回も迷うことなくその壁に剣を切りつけた。

 僅かな手応えと同時に、ズブリと黒の壁に入っていく己の剣。

 

 よかった、この壁も魔力そざ・・・・・・




 レオノアが次に見たのは、自分の周りで波打つ巨大な魔力結界だった。


 突如変わったその景色にレオノアが一瞬、状況が掴めずに周囲を見渡す。

 その魔力結界はお椀型に大きくたわみ、その中心にレオノアが座っている。

 真下には何故か観客席。

 だが観客達は、レオノアがここにいるのに見ようともしない。

 

 どうやらここはフィールドの端で、自分はそこに張られた魔力結界に横向きに座っているらしい。

 そのことを理解したレオノアは、上に見えるフィールドに目線を動かした。


 先程まで自分がいたと思われる煙と魔力の固まりは、数百ブル先に小さく見えている。


 何をされた?

 あそこから転送でもされたか?


 だがレオノアの”権能”は、自分の関知しない空間移動を止めるはず・・・


 その瞬間、視界の中の煙がこちら向きに大きく弾け、次いでそこから周囲の空気が一直線に外側に向かって吹き飛ばされるのが見えた。

 そして遅れてきた衝撃波が耳の中で轟音をがなり立てたところで、ようやくレオノアは自分が認識できないほどの速度でここまで叩き飛ばされたことを悟った。


 そのとんでもない力に、レオノアが薄っすらと冷や汗をかきながらフィールドを睨む。

 すると弾け飛んだ煙の中から、のっそりと、真っ黒な影が歩み出るのが見えた。


 だがおかしい。

 レオノアの感覚が、その影の”異様さ”に全力で警鐘を鳴らした。

 感覚が確かなら、明らかにあの影の大きさはモニカという少女の数倍の大きさに達している。

 それだけではない・・・・


「あれは・・・たしか・・・」


 煙の中から歩み出た”真っ黒な巨人”に光が当たり、その”全貌”が明らかになる。

 それを見た、観客達が一斉に悲鳴に似た驚きの声を上げた。





「馬鹿な!? あれは・・・」


 ガブリエラの用意した”もう一つの客席”の最前列で、マグヌスの将軍用の軍服を着た男がそう叫びながら立ち上がった。

 その顔にはこれ以上ないほどの驚きが満ちている。

 それは普段の彼からすれば考えられない事だが、周囲の者たちも似たり寄ったりの状況なので誰も気にしない。


 いや、むしろ軍関係者が多い”こちらの会場”の方がその”姿”に反応する者は多い。


「おいおい、あれって・・・」


 客席の中段にいた歴戦の猛者といった雰囲気の将校が、冷や汗をかきながら呟く。

 視界の向こうに現れた”巨人”の姿は、彼のトラウマを刺激して余りあるものだった。

 それでもその隣にいた情報官の男は、少し冷静だったのかすぐに近くの部下に指示を飛ばした。


「すぐに照会をとれ・・・・カシウスの巨人(ジャイアント)ゴーレムだ」


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