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0-4【はじまる”俺達”5:~決着~】


 開放された魔力溜まりの凄まじいエネルギーで、俺達は超巨大サイカリウスの口の中から弾き出されていた。

 今はまるで大砲の弾のように宙を飛んでいる。


 そのエネルギーは凄まじく、打ち上げられた俺達はかなりの高度に達していた。


 ここからならば戦闘区域全体が見渡せる。

 その好機を逃すまいと主がそこらじゅうに目を走らせた。

 これは覚える気ないな。

 いや、俺に見せようとしてるのか?


『くそっ!!一番でかいのは健在だ』


 驚いたことに、口の中であれだけの爆発があったのにも拘わらず超巨大サイカリウスは死んでいなかった。

 

 なんという頑丈さだ。


 だが、ダメージは確実に入っているようで口から血を撒き散らして暴れている。

 痛みと衝撃でパニックを起こしているのだろう。

 そのまま脳震盪でも起こしてくれていれば、なお良かったのに。


 だがそちらは後回しだ。


『気をつけろ主!下に小さいのが集まってる』


 いや、小さくはないんだが、魔獣化した個体と比べると通常個体はまるで子供だ。

 そいつらが着陸予想地点に集結している。

 口を開けている個体もいるので、キャッチしてそのまま食べようということか。

 もしくは、着地の隙をねらうのか?


「モニカ!」


『え!?』

「主じゃ一瞬わかりづらい、名前で呼んで!」


 主が自分を名前で呼べと言ってきた。

 たしかに緊急時に代名詞の使用は貴重な一瞬を失ってしまうな。


 モニカの指摘で今まで主と表示されていたデータが全てモニカに置き換わった。

 今後は俺も極力名前で呼ぼう。


『モニカ!フロウを展開して砲撃部を複数作る、照準と制御は俺でやるから、砲撃魔法を発動してくれ!』


「わかった!細かいのは任せる!」


 俺はフロウをモニカの後ろ側に膜状に展開させ、所々に短い棒状の突起を作った。


 この突起は砲撃魔法の砲身として使えるギリギリの短さにしてある。

 結果モニカの後ろに大量の砲身が並ぶ形になった。


 下では何が起こっているのか分からない通常個体達が、呑気にこちらに無防備な顔面を晒している。


 俺は着陸地点付近の個体を優先的に、隙の大きい連中に照準を合わせていく。


『撃て!!』


 モニカが一斉に砲撃魔法を発動させ、魔力をフロウに流し込んだ。

 モニカ自身もスキルの恩恵があるとはいえ、数が数だけに制御がでたらめだ。


 だがそのために俺がいる。


 俺の制御によって正しいポイントに到達した魔力たちが一斉に解き放たれた。


 ダダダダン!!という戦列歩兵の一斉射撃を思わせる音が響き渡り、放たれた魔力砲弾の雨が下にいた通常個体達を一気に襲う。


 結果、サイカリウス軍団はたった一回の攻撃でその半数を失い、俺達は着地地点の安全を確保できた。

 

 そして悠々と身体強化系のスキルを使い安全に着地する。

 単発の砲撃魔法や魔力溜まりを直接ぶつけていたら、こうまで簡単ではなかったはずだ。


 単発では連射したところで着地までに数をあまり減らせないし、学習した個体には避けられたかもしれない。

 魔力溜まりをぶつけても2、3匹が期待戦果だろう。


 同時攻撃だからこそ相手は対応も出来ずやられてくれたのだ。



 再び大地に戻ってきた俺達は超巨大個体の様子を伺う。

 口から血を流しているがやはり健在だ。

 とんでもない耐久力だな。



 これまでのダメージの通り方から推測すると、仮に他の魔獣化した個体にやったように、フロウを刀状にして攻撃を仕掛けても分厚い皮の部分で止まりそうだ。

 切れ味は十分だが押し切るだけのパワーが足りていない。

 あの強靭な肉体を突破して倒すには相当な火力が必要だろう。 


「どうする?」

『俺を信じてくれるか?』

「他に案はない、早く教えて」


 幸いにも今は周囲に脅威はない。

 だったら多少時間がかかる方法も取れるというものだ。


 俺は早速思いついた方法をモニカに伝えた。

 実はただの思いつきなのだが、モニカは文句を言うどころか返事する時間も惜しいとばかりに実行に移した。


 まず棒状になっているフロウを地面に突き刺す。

 さらに地中で細長く四方に伸ばしてガッチガチに地面に固定させた。


 続いてフロウの上半分を球状に変形させ、上に小さな穴を開ける。

 球体の内部は空洞で、球体の壁面はフロウの量に余裕があったので防御膜の数倍の厚さを確保した。


 そして指示どおり球体上部の小さな穴から、モニカが魔力の注入を始める。


『詰め込めるだけ詰め込め!!』


 球体の内部で凄まじい勢いで濃度を高める魔力。

 すぐに臨界を超えて、外に向かって飛び出そうとするが、フロウで作った壁があるので球体の外には出られない。


 その結果、凄まじいエネルギーが球体の内部で蓄えられ始めた。

 気を付けなければいけないのは、上部に空いた注入口の圧力を常に内部よりも高めなければならないということ。

 

 仮に圧力が足りなければあっという間に注入口からエネルギーが抜け出してしまうだろう。


 今の俺はポンプだ。


 超高圧のターボポンプだ。


 俺は自分にそう言い聞かせて、魔力の圧力を高めていく。


 既に内部では圧力に耐えられなくなった魔力が熱に変わり光を放ち始めている。

 

 きっととてつもない温度だろう。

 だが何重にも防護膜を重ねた形になっている球体は、そのエネルギーにもびくともしない。

 頼もしいことだ。


 超巨大サイカリウスがようやく我を取り戻したのか、頭を振り回して周囲を確認している。

 そして、俺達の姿を確認すると怒りのこもった最大級の咆哮をあげた。


「グァオオオオオオオオオ!!!」


 この迫力には俺も盛大にビビる、きっと腰を動かせられたら腰が引けていただろう。

 だが、俺達の腰が引かれることはなかった。


「うおおおおおおおお!!!」


 30mの怪獣の前ではあまりにも小さいその声が、


 小柄な少女の精一杯の叫びが、

 

 俺には怪獣以上の咆哮となって聞こえていた。


 そしてそれを勝負の合図と受け取った怪獣がその巨体を揺らして突っ込んでくる。

 足を踏み出す度に発生する振動でまるで大地震の中にいるような気分になった。


 

 それは不思議な光景だった。


 30mの怪物と140cmほどの少女が向かい合っている。


 お互いがお互いを敵と認識し、


 お互いがお互いに怒りと憎悪をぶつけ合い、


 少女だけが勝利を確信していた。



 超巨大サイカリウスを迎え撃つ恐怖は筆舌に尽くしがたい。


 だが俺は予定どおりの距離に近づくまで、それを耐えきった。

 最大限のダメージを与えつつ、こちらに被害を与えない距離・・・


 そこに達したと同時に、俺は地獄の釜の蓋を開ける。


 球体のサイカリウス側に穴が空き、そのまま、まるでロケットの噴射口の様な形に変形した。


 解き放たれた熱と暴風があっという間に30mの怪物を飲み込み、さらに獲物をよこせとばかりに大地を駆け抜ける。

 

 余りにもの反動で固定していた地面ごと吹き飛ばされそうになるが、俺とモニカが全力でそれに抗った。

 

 今は上部の注入口は消滅しているので、俺の制御は固定されていたフロウの強化に当てられた。

 氷の大地のかなり下の方まで一体となってこの反動を支えている。


 だがここまでしても抑えられないものがある。


 すべてのエネルギーが正面に向かって飛び出しているのにもかかわらず、周囲から反射した熱が襲い掛かってきた。


 今は身体強化系のスキルで耐えているが、熱による痛みはただの信号なので軽減されない。


「・・・・ぅっ、っぐ、・・」


 それでも俺達はその痛みに耐え続けた。

 

 生き残るために。


 その時、眼前の炎の中で何かが動いた。


「!?」


 そこで初めてモニカの顔に恐怖が宿る。


 なんと恐ろしいことにこの地獄の業火を越えて、炎の上部から巨大な顔が突き出された。


 既に目はない。


 フサフサだった毛は皮ごと消滅し、灰になった肉の向こうで骨が燃えている。


 それでもなお、その姿は畏怖すべきものだった。


 本能で察知したのだろう、目のない眼窩でもってこちらを睨み、そしてその巨大な口を開けた。


 だがそこから漏れるべき轟音は、聞こえてはこない。

 ただ肉が炭化する嫌な音が響くだけだ。


 それでも俺達は怪獣の最期の咆哮を聞いた気がした。


 それをどう受け止めるべきだったのだろうか?


 おそらくは憎しみの発露なのだろう。

 もしくは苦しみに対する絶叫か・・・


 だが俺にはまるで勝者に対する賛辞のように感じられた。


 ただ、それを確かめようにも、今はもう怪獣だった者は業火の中に沈んでしまった。



*********************


 

 まとめ役だった魔獣三体を失ったサイカリウスたちの統制はあっという間に崩壊した。


 ボスを殺した俺達を恐れて逃げ回る者。

 

 何を考えたのか、無謀にも挑みかかってくるもの。


 その混乱に乗じて死肉を漁り始めるもの。



 とても先程までと同じ種族とは思えない。

 魔獣化した奴らがいなければ、この程度ということなのだろうか。


 今はそういった通常個体達の掃討を行っている。

 

 また一匹仕留めた。


 あれからモニカはひたすら無言で斃して回っている。

 その心中を察している俺も声を掛けられないでいた。


 ただ、彼女は最後までハンターだった。


 既に格下となった相手にも油断なく確実に仕留め、逃げる者、隠れる者も容赦なく炙り出して潰していく。


 先ほど空中から眺めた時に俺が全個体を把握していたので取り漏らしはない。


 最後は領域の境界ぎりぎりまで逃げおおせた個体を、砲撃魔法で仕留めた。


「・・・・全部仕留めた?」


 この一時間で初めてモニカが口を開いた。

 それはゾッとするほど冷静な声だ。


『ログに写ってた個体は全て倒したよ・・・』


 俺もただそう返事するしか出来ない。


 だがモニカはそれでも気を抜くことはしなかった。


 そこから、3時間以上も周囲をしらみつぶしに取り漏らしを探して回ったのだ。

 そして、そこでようやく全ての脅威が排除されたことに納得する。


 この周囲、見える範囲で動いているのは俺達だけだ。


 最後にモニカは激戦地となった家の裏手へと戻ってきた。


 ここから見ると被害状況の酷さが鮮明に見える。

 

 まず一箇所だけ大きく氷が抉れている箇所の真ん中に、真っ黒に焦げた巨大な塊が見える。

 それと切り裂かれた魔獣個体の姿が目に入った。

 殆どの死体はまともな形をしていない。

 そこらじゅうにサイカリウス達の死体が転がっていた。


 家への被害も甚大だ。

 流石に家本体はその見た目通り次元の違う強度だったようで無傷だが、周囲にあった小屋は全て破壊されていた。

 特に食べ物のあった食糧庫と調理場の被害がひどい。


 あれ程あった肉は全て食われたようだ。


 だがそれよりも・・・


 俺は今まで恐ろしいほど不変だった感情パラメータが、一気にネガティブに振れるのを観測した。


 俺達の目の前・・・

 いや、モニカの目の前には、かつて彼女を支えた者達の残骸が転がっていた。

 

 コルディアーノ、クーディ・・・

 共に動く気配はない。

 

 それを見つめる彼女の心境を察することなんて、きっと今の俺には出来やしないだろう。

 

 最後に念入りに周囲の安全を確認したのは狩人の誇りか、


 それとも最も弱い姿を見せまいとする本能か・・・




 誰も動かなくなった氷の世界に、少女の泣き声が響き渡った。


次回で序章終了です。

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