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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
257/426

2-9【アクリラ大祭 6:~祭りの日々~】


 アクリラの祭りも5日目。

 ちょうど折り返し地点に差し掛かった。

 だが、俺達からすればまだ半分だ。



「自然学における”魔力測定”は、大きな欠点を抱えている」


 妙なまでに薄暗い講堂の中で、1人の学者がそう切り出した。

 見た目は40代くらい、体表面に豹のような模様が浮かぶ半獣人ならではの力強い自信を感じさせ、その格好や雰囲気はどこか祭りの喧騒が漂う講堂の中にあってハッキリ色が見えると錯覚するほど知性に溢れていた。

 彼の前には大きな机が置かれ、そこには様々な・・・多くは見たことない石や金属、さらには何ともいえないプラスチックと木の合成品みたいな塊などが並んでいた。


 ここはこの祭りが、普通の祭りと一番大きく異なるところであり、またアクリラならではというか、教育と研究の街ならではの祭りの”催し”というか、

 その分野の第一線の専門家を招いての”特別授業”だ。


 今回の客席を見渡せば、殆がモニカと同じ中等部の制服を着ている。

 この授業は彼らが高等部に上がるときに”専門”を決めるにあたって、どの道に進むかの材料として提示するために設定されたものだ。

 今回であれば”魔力研究”の分野の概要である。

 ”この研究はこんな感じですよ”という概要を知っておけば、より専門的な授業や研究所を探すときに便利になるというわけである。

 だが初心者向けと侮るなかれ、各分野ともここでの印象が将来の優秀な人材獲得に直結するため、研究所の垣根を超えて本気で授業を制作するのでなかなか見ごたえがある。


 もちろん本来はまだ”道”を決めていない生徒向けで、もう”ゴーレム一択”の俺達が受けるものではないのだが、ルシエラが進んでいる分野というのもあってちょっと気になったのだ。


「諸君らも知っての通り、自然の魔力は生物や魔力反応によって精製と吸収を繰り返すが、その差し引きは極僅かに上昇傾向を示しており、土中に含まれる魔力の”ホルベルト値”を調べればその土の作られた年代が判明する」


 その学者は説明を続ける。

 ここで出てきた”ホルベルト値”とは、魔力の特性を示す”3つの軸”の1つである”ホルベルト軸”の値のことだ。

 この軸は発見が最も遅く、その用法や特性については謎が多い。

 ただし他の軸と違い、時間が経ってもホルベルト値は下降せず、時間と共に通称”加方向”に値が加算され続けるという特性が知られており、変質させることも極めて稀であるため年代測定の物差しに使われているのだ。


「だがこれは約2万年前までは非常に正確だが、それを超えると途端に破綻してしまう、それ以上前に魔力が存在しないという結果が出るからだ。 俗に言う”エリジャの限界”だ」


 へえ、それが”エリジャの限界”か。

 実はこの授業に興味を持ったのは、授業のレジュメにその名前が出ていたからだ。

 ”エリジャの限界”は、ルシエラが読んでいる資料や論文のタイトルなどによく登場するので気になっていた。


「昔はこれを以ってこの星の誕生を2万年前とする声が多かったが、昨今他の方法を用いた年代測定法との”差”が深刻化している」


 学者はそう言うと、その後ろに”魔力プロジェクタ”を使用した表が現出し、そこに様々な値が表示される。


「他の測定法ではおおよそ5億から150億年の間というのが主流だが・・・はっきり言おう、魔力測定以外に地球の年齢が億に達していない説は非常に稀で、”魔力測定”は特に古い年代ほど非常に不利な情勢だ」


 聞いていた関係者の多くの顔が悲痛に歪む。

 よほど苦しい問題なのだろう。

 たしかに多くの測定方法で”数億年”と算出される中、一つだけ”数万年”では格好がつかない。


 俺の中の”地球の知識”によると、地球は生まれてから45億年が経過しており、そのうち38億年を生物が進化する下地の形成に要したという。

 その知識の是非はともかく、普通に考えれば2万年ごときで生物がここまで複雑化するとは考えにくい。

 あ、ちなみにこの世界では進化論はかなり一般的で、1000年以上前から大凡のメカニズムが解明していたらしい。

 長命種による長期の観察が可能なので、観察系の科学が大きく発展しているというのが大きいのだろう。


「この問題に関して多くの見解が存在するが、大まかには、”他の測定方法が間違っている”、”魔力測定が年代測定には適さない”、の2択に絞られていく。

 ただ近年では、ホルベルト値上昇になんらかの”壁”があり、年代が反映されないという説がやや優勢か。

 もう1つは・・・」


 その学者が意味深な表情で講堂の客席を見渡す。


「ホルベルト値の上昇曲線は古くなるほど緩やかになり、その上昇値が測定器の誤差を超えたという説がある。

 これは古い研究者ほど支持する傾向にあるが、現在は否定的な意見が支配的だ」


 へえ、そうなんだ。


「測定器の精度誤差は推定上昇値を優に上回っており、現に1万年より後の年代については”日”単位の精度を誇っている。

 この説を支持するのは、最新の測定器事情に疎いと宣言していると思われるだろう」

 

 なるほど。

 面白いもので、巷ではそれが実しやかに信じられてるのに、専門家の間では意外と否定的というのはどこの世界でもあるらしい。

 俺達も市域の人達がゴーレムについてあれこれと”夢”を語るのを、多少冷めた目で見ることがあるのでなんだか実感が有った。


「さて、暗い話はおいといて、今度は具体的な測定方法の話に移ろう。

 今説明したように、魔力の測定はおよそ2万年より後については非常に正確に年代が測定できる。

 それを可能にしているのは、この”ホルベルト軸”における魔力の状態だが・・・」


 その時、突然視界が真っ暗になり、ガクンとモニカの頭が垂れた。

 あーあ、やっぱり寝ちゃったか。

 

 俺は髪留めの感覚器を前方向に向け、そのまま録画を開始する。

 実はこの授業が始まってもう2時間近く立っており、最初の方の内容はモニカも真剣に聞いていたのだが、頭が疲れたのか徐々に”うつらうつら”し始めていたのだ。

 だが俺はあえて起こさない。

 昨日までの疲れもあるし、今日もこれから忙しい。

 内容は俺が記録しているし、今は寝かせてあげたいのだ。





 祭の日々は嵐の様に進んでいた。


 ドーム球場もビックリの巨大展示場で行われたゴーレム機械の展示会に、メリダと一緒行ったのは一昨日。

 アルバレスの老舗工房、”シャールベール”のブースにて、最新型の超高密度制御回路の作成実演に2人で抱き合って興奮し、軍事用の”標準型騎士(ナイト)ゴーレム”の値段に2人して目玉が飛び出すかと思った。

 それと巨大でド派手な機械の祭典というのは中々に人の興味を引くようで、専門家や俺達のような生徒だけでなく、普段関係ないような一般人も大量に入り、まるでモータショーのような様相を呈していた。

 だがその反応は俺達も変わらない。

 世界中で様々な使われ方をしているとあって、その形態や性能は千差万別。

 その発想の豊かさにモニカもメリダも(ついでに俺も)空いた口が塞がる瞬間が殆どなかった。

 他にも”ジャンクパーツ”たたき売りなど、全体的に実りは多かったが、専門的なのでここでは割愛する。


 ただ、旧カシウス系の流れを汲む技術者の発表では、モニカが一字一句聞き逃すまいと、声も掛けられないほど真剣だったのが一番印象的だった。



 友人達と合流すれば、様々な国の服飾店を梯子して”ファッションショーモドキ”の開催になる。

 規則で制服は脱げないので帽子や羽織着、アクセサリー類が主な物になるが、意外とそれでもイメチェンができるから面白い。

 最初の内は無頓着だったモニカも、俺が積極的に感想を言ったのも手伝ってか、そのうち熱心に見るようになった。

 いつの間にか冬でも半袖の腕には小さな腕輪が巻かれ、髪留めにリボンが追加されたりと、服のあちこちに特に意味の無いアクセサリーが追加されているし、今履いているのは型落ちで安く買った新しい靴だ。


 ただ、トルバよりさらに南にあるという謎の国の謎の面が背中にかかっていたり(ちょっと怖い)

 全体的に魔力傾向完全無視のカラフルな色合いなので、祭り終了後にどれだけ残っているか・・・

 ただそれは他の生徒も同様で、いつもより色が多く、まるでそれが徐々に祭りに塗れているようで面白い。

 あ、そうだ、俺もモニカも、どうやら自分より他人を着飾る方が好きなようで、手近にいた友人をよく実験台にしていた。


 その中でも印象的だったのがシルフィとアイリス。

 どれだけカラフルに着飾っても、逆に地味でグレーな印象が増えるだけのアイリスに、

 根本的に美人過ぎて、どれだけフザケても感想が”美人さん”になってしまうシルフィと、彼女たちの個性はちょっとやそっとでは変わらなかった。

 地味や美人も次元が違えば、ファッションを殺してしまうんだなと思った次第。


 ところでシルフィの”美しさ”って、なんだかこの前見た”レオノア(勇者)”のあまりにものイケメンっぷりに、どこか似ている気がする。

 2人とも”ここがこうだから美形”といったわけではなく、”存在の時点で美形”といった、なんというか”問答無用”なところがあるのだ。

 なにか共通点でもあるのかな?

 でもシルフィは南の出身だよな・・・アルバレスは東だし・・・



 特別授業についても楽しい内容が目白押しだ。

 そもそもこれが祭りなのかというのは最初は疑問があったが、知らない学会の激論を覗いてみたり、普段習わないジャンルの授業を聞いたり。

 魔道具やゴーレムについても、知っているようで知らない事を教えてくれる授業は胸が躍る。

 後は、名の通った学者や研究者の授業などは一種の”アイドルコンサート”的な空気があるので十分”催し”っぽいし。

 地球で例えるなら、アインシ◯タインやホーキ◯グが地元で科学の授業をやってくれるとなれば、それだけで”祭り”だろう?

 そんなのが10日間続くのだ、お腹いっぱいである。



 それから昨日は、街中で偶然出会った”木苺の館OG”のミシェル姉さんに、ベスと2人で夕食をご馳走してもらった。

 あの言葉の頭と尻尾に笑い声をつける、ちょっとフザけた先輩だ。

 この人、いちいち人を馬鹿にするような物言いのせいで、少しとっつきづらいが、根はとても優しく気が利いている。

 話していると妙なまでに細かくツッコんでくるのも、相手のことを沢山見ていることの裏返しに思えてきた。


 ちなみに彼女は、”代”的には”ルイーザ姉さん”の1つ上で、俺達から見たらルシエラ、ルイーザ姉さんと3つ上に当たる。

 そのため彼女からは、ルイーザ姉さんやルシエラの小さい頃の話を聞くことが出来た。

 ルイーザ姉さんは予想していたとおり、活発で優しい人だったらしい。

 だが驚いたのは、ルシエラが小さい頃は凄まじい”悪ガキ”だったというのだ。

 特に最初の1年は骨折せずに朝を迎えた夜はないと、ミシェル姉さんは珍しく真面目な表情で語っていた。

 どんなだ・・・


 だがそんなルシエラが、今ではベスや俺達の立派な先輩をやっているというのを本当に心から喜んでいるのも理解できた。

 きっと誰よりも小さい頃のルシエラの印象が強いミシェル姉さんにとって、ルシエラの成長というのはとても大きな驚きなのだろう。

 その目はなんだか遠いものを見るようで、彼女の薄っぺらなイメージを消し去るには十分だった。


 ・・・・ちなみに奢ってもらったのが”超激辛料理”ばかりだったのは、絶対ミシェル姉さんのイタズラだと思う・・・

 うん、あの顔は間違いない。


 

 さて、ここまでは比較的”良い”話だ。

 と、こう書いていることからわかるように、残念ながらあまり”楽しくない”事象もあるにはある。


 昼間から種族問わず、挨拶代わりに酔っ払いの”セクハラ発言”の猛攻を受けることは比較的どうでもいい。

 祭り囃子に興奮したロメオを止めるのが面倒くさい、というのもどうでもいい。


 ただ、”代表戦”の選手の仕事はかなり困難を極めた。

 戦績としては俺達に割り当てられた6戦の内、4戦分までが終了し4勝0敗。

 そう聞けばずいぶん順調に聞こえるだろうが、実際はどんどんキツくなっていた。


 最初の2戦は簡単だった。

 1戦目の相手は俺達の攻撃を正面から受けてくれたし、2戦目の相手は1戦目よりも弱かったので瞬殺できたからだ。

 問題は、そこで俺達の”弱点”が露呈した事だ。

 つまり”攻撃力は高いが、それだけ”である。

 もちろんアクリラに来る前に比べたら、圧倒的に風呂敷は大きくなったさ。

 だが相手はもっと長い期間本気で戦闘を磨いてきた連中ばかり、しかも”学校トップ”が相手なので戦闘センスで上回られる場面が続出したのだ。


 おかげで第3戦と第4戦はかなり苦戦した。

 こちらの攻撃が当たらない中、向こうの攻撃だけがヒットする展開が続いたのだ。

 おそらく”2.0強化装甲”がなければ一瞬で負けていただろう。

 我ながら、ずいぶんと”ずるい”装甲を作ったものだと思う。

 実際2試合とも、その圧倒的防御力に物を言わせて最後は無理やり押し切ったからな。

 

 だが後の2試合はそうはいかない。

 どちらも確実にルーベンより数段強く、最終戦のレオノア(勇者)に至ってはガブリエラですら良い勝負になるのではなどと言われる始末・・・

 もういっそ、諦めたほうが良いのかもしれない。

 負けたって誰も文句は言わないだろう。


 ただ、実際負けるのは嫌だな・・・

 なにせここまでアクリラとトリスバルはどちらも無敗。

 選手の間にも”先に敗者を出した方が負け”みたいな空気が漂い始めて胃が痛い。

 同い年のルーベンも結構危なげなく勝つし、対戦カード的にも一番負ける可能性があるのは俺達だろう。

 誰か先に負けてくれないかな・・・

 アクリラの選手にそう言うのはアレなんで、トリスバルの方から負けが出てくれると嬉しいんだが・・


 そして俺がそんな思い出に浸っているなか、モニカは次の目的地に向けて街の中をゆっくりと歩いていた。

 横にはこれまた途中で出会って少しの間合流することになったワンコの姿が。(ついにこの子の本名がすぐに表示されなくなってきた・・・もう本人も「ウェンリーと呼んで」と言わなくなってきたし・・・)

 この祭りで友人と出会ったら小物屋や服飾店に入るのが普通だが、ワンコといるとそれが料理屋に変わる。

 そのため、いつの間にかモニカの腕にもワンコの腕にも沢山の串焼きやお菓子が溢れ、気分はすっかり”食べ歩き”旅行。

 そこら中でドンチャンと太鼓や笛が鳴り響いていたり、突然ゲリラ的に演目が始まったりするのであまり食べてる印象がなく、気づけば昼飯はすっかりキャンセルになってしまった。


 そのまま俺達は、道を占領してしまうような大きな獣の行列を遠目に見ながら、道端でやっていた演劇”マルクスの冒険:第3部”のカシウス役の演技にモニカがマジギレするのを諌めつつ(マルクスとの関係が友情ではなく、”片想い”にされたのが原作ファンとして許せないらしい。 ”自分の正体”を知って多少カシウスに対する”モヤッ”とした感情があるにはあるが、それをおいても指摘したくなる酷さだったらしい)、俺達は祭りの中を進んでいく。


 向かった先は喧騒からは少し外れた場所。


「”超高圧魔力研究所”・・・に何か用があるんですか?」


 ワンコが目の前の大きな建物の看板を読みながらそう聞いてきた。


「そこじゃなくて、その隣」


 だがモニカが指さしたのは、その隣りにある小さくて地味なアパートみたいな家だ。

 そこは俺達の直接の教師であるスコット先生の研究室。

 この辺り一帯はいつにも増して静かな空気が流れていた。

 冷静に比較すればいつもどおりなのだが、祭りの喧騒を抜けてきたこともあってその静けさが際立っている。


 あ、ごめん、冷静に比較しても静かだ。

 横の”高圧魔力研”から聞こえてくるはずの”雑音”が今日は聞こえない。

 そういえば祭り期間中は、中心部のホールを1つ借り切って学会を開いてるんだったか。

 なので今日はこの建物は休業状態なのだろう。


「スコット・グレン・・・姐さんの”バッジの先生”ですよね」


 ワンコがスコット先生の研究室の看板を眺めながらそう言うと、モニカが無言でうなずく。

 ちなみに”バッジの先生”とは読んで字のごとく、”バッジに書いてる先生”の事である。

 アクリラに小さい頃からいるものならではの表現というか、自らの帰属の意識の低さの象徴というか。


「スコットせんせいーい! いますかー!?」


 モニカが2階の窓に向かって声を投げかける。

 もし中にいるならこれで動きがあるはずだ。

 あの先生、時折こちらの気配察知能力を凌駕する勢いで気配を断つことがしばしばあるので、こうして声をかけないと本当に中にいないか分からない。

 ちなみにノックは高確率で居留守を使われる。

 スコット先生も人付き合いの苦手な人だからな・・・

 だが今回は正真正銘本当に留守であるようで、声をかけたというのに全く反応がない。


「いないのかなぁ・・・」


 モニカが少し寂しげにそう呟いた。


「何か用があるんですか?」

「うん・・・ちょっとね」


 本当は戦術などについて、結構ガッツリ聞きたいことがある。

 特に”勇者絡み”で。

 スコット先生なら何らかの攻略法を知っているかもしれないし、単純に不安だから一緒にいたいという気持ちもある。


「お祭り始まってからずっと会えなくて、どこ行っちゃったんだろ?」

「まあ、お祭りでは先生達も忙しいですからね」


 ワンコが当たり前のようにそう言う。


『でもスコット先生は特に催しに参加してないはずだけど・・・』


 だが祭りの”イベント一覧”をさっと確認した俺は、そのどこにもスコット先生の名前がないことに気がついた。

 ただ、モニカがそれを指摘してもワンコの様子は変わらない。


「この祭りでは色んな人がやってきますからね。 その引率や案内とかで、暇な先生はいないと思いますよ」


 なるほど、それは確かに言えている。

 そういえばちょくちょく祭りの実行委員会の札を付けた教師と思われる姿を目にしていた。

 この祭りの規模だからな、いくら先生が大量にいるといっても手は足りてないだろう。


「じゃあ、どこか街中にいるのかな?」

「スコット先生って、凄い強い人ですよね? じゃあ来賓の護衛とかやってるんじゃないですか?」

「でも先生、もう戦いたくないって言ってたから、そういうのはやってないんじゃないかな」


 モニカが冷静にそう言うとワンコがなるほどと頷く。

 最近モニカもよく人を見るようになって、こうして冷静に意見する場合が増えた。


「うーん、じゃ案内とかですかね?」

「”てんもんがく”の人と一緒にいるのかも」

「あー、そっち系の専門でしたね、じゃあどこかで運良く出会うしか無理そうですね-」

「そっかー」


 2人はそう納得すると、踵を返してもと来た方向に歩き始めた。

 スコット先生に会えないのは残念だが、ここで待っていても埒が明かない。

 これから俺達にも予定があるのだ。


『スコット先生いなかったね』

『しょうがないだろう、この忙しさだ』

『うん・・・そうだね。 でもガブリエラも会えなかったし』

『あー、たしかにあの王女様もなかなか予定が合わないな』


 王女様だけに様々なイベントに引っ張りだこなのか、そこら中に名前がある。

 スコット先生と違って予定表を見るだけでどこにいるかはすぐに分かるが、逆にその忙しさから声がかけづらい。

 そんなわけでガブリエラとの”秘密のレッスン”も、この祭りの1週間前から休業状態だった。


『ただ、今は比較的暇っぽいんだけどな』


 モニカが話題にしたため改めて予定表を確認した俺は、ふとガブリエラの出席するイベントが1時間くらい空いていることに気がついた。

 まあ1時間なんて無いも一緒だし、あの無敵王女様でも休憩くらい取りたいだろう。

 あの人のことだから、なにか会わなきゃならない用があるなら向こうから来るだろうし・・・


 そんな事を考えたのがまずかったのか。



「・・・?」

「どうしたんですか、姐さん?」


 その時、モニカが何かを察知したのか足を止めた。

 それを見たワンコが何事かと聞いてきたが、モニカはそれには答えずに周囲に顔を向ける。


『どうしたモニカ?』


 残念ながら俺の方の索敵に反応はない。

 見た感じ風景とかにも異常はないし。

 なので”モニカの勘”ということになるが、だとすると結構危険なことになるな・・・

 俺は意識的に全身に魔力を流し不慮の事態に備える。

 するとワンコもモニカの様子に何かを感じたのか、すぐ後ろで僅かに腰を落としていつでも飛びのけるように構えた。


 少しの間、街道の中に静かな空気が流れる。

 元々静かだったこともあって、その雰囲気はまさに”シーン”と形容したくなるものだった。

 気のせいか・・・


 だが不思議なことにモニカの緊張はさらに増しているではないか。


 そして俺がそんな事を考えた、次の瞬間だった。


 突如、俺達の目の前の空間に光のようなものが現れ、それが何事かとモニカが見つめる。

 最初は太陽の加減で見えた光の幻かと思ったが、すぐにそれが見間違いでないことに気がついた。

 そしてその光は、次の一瞬で一気に5mほどの大きさにまで拡大する。


「な!?」


 ”その光景”を初めて見たワンコが驚きの声を上げて、一気に戦闘態勢に移行した。

 だがそれと対象的にモニカの体から緊張が抜ける。

 前に何度か”それ”を見ていたこともあるが、その光の向こうに見えた人物に見覚えがあったからだ。


 道の真中に現れた光は広がりながら輪のように縁取り、その間から大量の空気が吹き出して周囲に舞った。

 輪の中の景色は、ここのものではないどこか豪華な部屋の中のもの。

 その光の輪は、明らかにここではないどこかと繋がっていた。


「ガブリエラ!」


 モニカが輪の中に見えた人物の名前を呼ぶ。

 するとそこにいた黄金のような金髪の王女の顔が、わずかに緩むのがここからか見えた。


「そんなところにいたのか、少し探したぞ」


 とガブリエラがこちらに向かって、少しおどけた様な口調でそう言って、面白そうに俺達とその向こうに視線を向ける。

 モニカの後ろでは驚いたワンコが口を開けているのが見えた。

 というか、俺達の関係見せちゃっていいのか?

 俺がそんな風にガブリエラの行動に訝しがっていると、モニカもそれに気がついたのか、若干不審げな声色で問いかけた。


「えっと、何かわたしに用事があるの?」


 するとガブリエラの顔が”我が意を得たり”という感じに変わる。


「ああ、そなたに言っておかなければならないことを思い出してな。 なかなか時間が取れそうにないので、こうして多少強引に声をかけさせてもらった」

「それって・・・なんですか?」


 モニカがワンコの方にそれとなく視線を送りながら、そう聞き返す。

 あまり”踏み込んだ話”は無しにしろよという合図だ。

 だが、それを見てもガブリエラの表情に変化はない。


「ああ、そなたに頼んだ”代理”についての話だ。 まずは私の代理を受けてくれたことに感謝する」


 あ、そうか、俺達もう既に”ガブリエラの代理”なんだから一々面識があることを伏せる必要はないのか。

 ここ数日で、友人達からもガブリエラ絡みの質問が増えてるし、”モニカ=ガブリエラの代わり”というのは、徐々にではあるが浸透してきている。

 選ばれた理由についても、”ガブリエラだから”という声が多いのが救いだ。

 どうせ気まぐれに、目についた生徒に声をかけたんだろうという理解である。


「それから”最終戦”についての話だ」


 するとその言葉を聞いたモニカの中に、”パアッ”と安心した感情が充満した。

 きっと何らかのアドバイス・・・もしくは実力差があるので”それほど気負うな”といった温かいコメントを貰えると思ったのだろう。


 だがその期待は、驚きの言葉で裏切られた。


「絶対に負けるな。 いいか” 絶 対 に ”アイツにだけは負けるなよ」


 ガブリエラは珍しくも真剣な様子で、そう念を押す。

 だが一瞬、ガブリエラがなんて言ったのか理解できなかった。


 モニカも同じようで、”え?”って感じの表情で固まっている。

 今の言葉をどう理解していいのかわからないといった感じか。


 それから少しの間、奇妙なまでに静かな時間がその場に流れ・・・


「えぇ・・・・」


 ようやくモニカの口から本当に自然に漏れたその声は、無慈悲に行われた”無茶ぶり”に対する彼女の”本心から”の不平と不満が籠もっていたのだ。


お知らせ:この度この作品が「HJネット小説大賞2018」で一次選考を通過しました!

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