2-7【2つの王 6:~モニカが殺したもの~】
いたい。
痛い。
押し潰されたような鈍い痛みと、刺されたような鋭い痛みが交互に発生し、その連鎖に視界が歪む。
あ、”刺されたような”ではないか。
実際刺されてるし。
すると、ちょうど良く”体の持ち主”が視界を僅かに右に向け、”そこ”に押し当てている大量の布を掴んでいた右手を僅かに動かした。
その瞬間手の中に、汗と血の混じったヌチャリという気持ち悪い感覚が広がる。
同時に意識が飛んでしまいそうなほどの激痛が・・・
「あ、動かしちゃだめよ」
近くにいたおばさんが心配そうに声を掛け、”体の持ち主”の中に反省の色が滲む。
それにしても、あんな小さな刃物の傷だというのに、随分な出血だ。
流石に大きな血管が傷ついたりはしていないようだが、抑えてる手をどければ結構な勢いで血が噴き出すだろう。
とはいえ”まだこれ”で死ぬことはない。
人の体というのは案外頑丈なもので、どうせ死ぬのならこの傷でさっさと逝ってくれたら楽なのに、まだ”一仕事”残っているときている。
こんな状態で果たして”それ”が可能なのか不安になるが、やらなきゃ最悪戻れないおそれがあるので、”体の持ち主”には悪いがやってもらわなければならない事があるのだ。
”体の持ち主”が苦い表情で頭を上下に動かす。
するとこの”馬車”の狭い廊下に所狭しと座り込み、不安な表情で周囲を見回す他の乗客達の姿が目に入ってきた。
皆、己の客室ではなく廊下に並ばされているのは、一目で何処にいるのかすぐに分かるように。
だが客室を大きく取っている馬車とあって廊下部分は非常に狭く、そこにギュウギュウ詰めに人が座り込んでいるので熱が籠もってかなり暑い。
いや、暑いのは傷口のせいか・・・
痛みを発する傷口が燃えるように熱い。
だが反対に体の方は徐々にではあるが体感でわかるほど熱を失っていた。
それにわたし達を介抱してくれた、このおばさん以外の他の乗客は、何が何だか分からない様子で不安そうに押し黙っている。
無理もない、寝て起きたらいきなり刃物を持った男に脅されているのだ。
そしてこの”異常な状態”を作り出した張本人である”その男”は、落ち着きがない様子で時々何かを喚き散らしながら乗客達に刃物を向け、それ以外のときは御者台の近くに座り込んで泣いていた。
”なんでこんな事になったのか・・・”
おそらくそんなニュアンスの言葉をよく呟いていたように思う。
”思う”というのは、”体の持ち主”の意識が少し朦朧としていて上手く認識できないためだ。
なにせあまりの痛みで刺されてから少しの間、意識がなかったくらいである。
”あの時”、この男との”取っ組み合い”の末に脇腹を刺されたわたし達は、意識としてはほぼ次の瞬間にはこの廊下で寝かされて脇腹に大量の布を当てられていた。
色からして座席に備え付けの薄い毛布とかを使用していると思われるが、どれも真っ赤で良くわからない。
その上、周囲の者が発する会話も上手く理解出来ないのだ。
こういう時、言葉がわからないというのはかなりキツイ。
特に重要な情報である、”犯人”との会話すらままならないからだ。
それでも一応、何度かこの刃物を持った男がこの馬車を動かそうと試みたことは分かってきた。
だがこれほどの大きさの馬車というのは流石に手にあまるのか、それとも動かしている間に乗客に動かれるのを嫌ったのか、結局のところ動かすには至ってない。
刃物を持った男の表情は、完全に逃げ時を失った哀れな獣のそれだ。
今も心配そうに、この馬車の無駄に大きな窓から外を血走った目で見つめている。
まるで何かが来るのを恐れているかのよう。
するとその時、視界が急に白く濁りだし、意識が浮き上がるような感覚に襲われる。
あ、あれ? 死ぬのって今だっけ?
まあ、いいや。
早く帰れる分には問題な・・・・・い・・・・・
・・・・・・
・・・
・・
・
・
ふと”バラバラ”という謎の異音が耳に付いて、慌てて意識を呼び覚まし、目がぱっちりと開く。
戻ったのか!?
だが、残念なことに眼球は依然としてわたしの思惑とは違う方向に動き、見えている景色も先ほどまで見ていた馬車の廊下の天井。
脇腹の痛みはやはりハッキリとしたもののままだ。
どうやら少しの間意識を失っていたらしい。
依然として狭苦しい馬車の廊下なのは間違いないが、差し込む光の向きがぜんぜん違う。
またこれだ・・・・
こうして意識を失っている間にいったいどれほどの時間を無駄に消費したのか?
この”夢”は、あまりに特殊故に、”夢の外”がどの様な時間感覚で動いているのかまったくわからない。
もちろん、ガブリエラの関係者が事態を沈静化させている可能性もあるだろうが、そうではない可能性もある。
わたしがここで眠っている間に、”外”ではガブリエラの暴走が致命的に進行している可能性もなくはないのだ。
だがそれでももう少しの間、この”夢”に付き合わなければならないらしい。
わたしは少々焦り気味に頭を回すと、今感じ取れる”情報”を集めだした。
一見して先ほどと異なるものとして”光の当たり具合”もあるが、なにやら異音のようなものが聞こえる。
天井の上だろうか?
かなり遠くの空ということになるが、”バラバラ”というか、何かを高速で叩き続けるような音と、僅かに”キーン”という回転音の塊みたいなのが、いくつか・・・たぶん3つくらいこの馬車の周りの空を飛んでいると思う。
それと、馬車の周囲もなにやらガヤガヤとうるさい。
廊下に寝ている状態なので外はまったく見えないが、刃物を持った男が時々”御者台”の横の窓を開けて、外に向かって大声で怒鳴っている。
どうやら周囲の乗客の言葉からして、”ケイサツ”なるものが取り囲んでいるらしい。
その”ケイサツ”がなんなのか分からないが、さぞこの男にとって都合の悪いものなのだろう。
”体の持ち主”と御者の血が乾いて真っ黒になった刃物を持つ手は僅かに震え、その目は忙しなくあちこちに向けられていた。
そして、さらに暫くの間窓から身を乗り出して怒鳴っていたが、ついに何かの限界を迎えたのか体を車内に戻し、その鋭い視線をこちらに向ける。
それは間違いなく獲物を選ぶ目だった。
そして乗客もそれを察したのだろう。
すぐに恐怖の色が広がると、まるで逃げる様に馬車の後ろ側に向かって這って移動し始める。
ただ、あまりにギュウギュウ詰めで動けないせいで、すぐに行き止まってしまった。
それでも動けない”わたし達””の姿が一番前になるくらいには動けたようで、痛みで半分しか開かない視線がその男と合う。
だがすぐにわたし達が”獲物”として不適格だと判断したのか、視線を後ろに向けると大股でわたし達の体の上を跨いで視界の外に消えた。
その瞬間、車内を悲鳴のような混乱が満たす。
おいおい、わたし達だったらどうなってもいいのかよ。
体が動かせないので何が起こっているのか分からないが、何やら女性の悲鳴と罵声、それに対する怒声が響いて何かがぶつかりあうような大きな音がするので、乗客と男が揉み合ってるのだろう。
あ!? いった!?
今、頭蹴ったの誰!?
「その子はやめてえええ」
すると女性の悲痛の叫び声が聞こえ、同時に刃物を持った男がすごい形相で視界の中に戻ってきた。
その腕には小さな女の子が抱えられている。
”あの子”だ・・・
この馬車に乗り込んだ時、個室の扉の隙間からちらりと見かけたあの少女。
まだ4歳か5歳くらいだろう、”元の世界”の私よりも遥かに小さなその体は、まるでぬいぐるみのように簡単に抱えられている。
泣いてこそいないが、それはその子が強いからではなく、あまりにもの恐怖で息すらまともに出来ないためだ。
その証拠に、顔はまるで土のように血の気がなく、これから訪れるであろう自分の”運命”を、まだ足らぬであろう想像力を目一杯使って絶望している。
わたしはそこで”覚悟”の度合い1段階引き上げた。
そのままその男は乗客とその子に交互に刃物を突きつけながら威嚇し、わたし達の視界の中を前の方に進んでいく。
すると窓からその様子を見たのか、外の喧騒のざわめきが一斉に大きなものに変わった。
そして、その反応にその男の顔に僅かに”希望”が戻り、また御者台の窓から身を乗り出して外に大声で威嚇を始める。
もはや、なんて言ってるか完全に理解できない。
だが男の威嚇に対して、意外な事に外の喧騒はその距離を徐々に詰め始めた。
頭の上を飛び回る”異音”も今までにないほど近く、バラバラという轟音が頭の全てを覆い尽くす。
それに対し男は大声を振り上げ、手元の少女の頭を窓の外に引っ張り出すと、その首に刃物を突きつけた。
するとさすがのその少女も、ついに限界を迎えたのか大声で泣き始める。
痛みで朦朧とするわたしでも、事態が良くない方向に急速に動き出したことはわかった。
動くなら今だ。
だがわたしのその考えに反し、”体の持ち主”は一向に立ち上がろうとしない。
「おい!! うるさいぞ!! 泣きやめ!!」
男が、耳元で大声で泣きわめく少女に向かってそう怒鳴りつける。
だがもう既に危機感の臨界点に達した少女には逆効果で、より一層その声を強くするだけ。
さらに追い打ちのように、安物の拡声魔法でも使っているみたいな大音声で、男に思いとどまるようにと促す”声”が聞こえる。
しかしその声色も焦りに満ちていて、咄嗟によるものだということが丸わかりだ。
そして、そのノイズ混じりの大声が不快に聞こえるのか、少女を抱えた男の表情はいよいよ退っ引きならないところまで悪化していた。
もう一刻の猶予もない。
わたしは一向に立ち上がらない”わたし達”の体に、心の中で焦りを滲ませる。
どうした!? ”前”はあれほど熱い感情に満ちていたのに!
あの女の子を庇って死ぬはずなんじゃないの!?
だが”体の持ち主”に動く気配はない。
そればかりか、どんどん意識が遠のいて事態の認識が薄くなる。
もう誰が何を言っているか・・・・いや叫んでることすら上手く認識できない。
・・・もしかして、もう死ぬのか?
体に熱はもう殆ど残っていない。
ひょっとすると、この不思議な”夢”の死因は毎回違うのか?
いや、まって、”前回”はもう少しあったはずだ。
視界は既に半分以上が真っ黒に染まって、中心部分に僅かに少女を抱えた男の姿が見えるだけ。
だがその光景は、奇妙なくらいゆっくりに見えた。
少女が男の腕の中で身を捩り、その小さな足をバタつかせる。
その衝撃で、彼女の履いていたピンク色の靴が脱げ、放物線を描いて視界から消えた。
視界の端は黒。
男の着てる服装も黒土のような色。
真っ白なはずのシャツは、わたしと御者の血で赤黒く染まっている。
その”黒の世界”の中でゆっくりとはためく少女の赤い服が、痛みすら感じる強烈な色として瞳に焼き付いていた。
そしてその”世界”に、新たな”赤”が追加される。
男の手に持っていた刃物の切っ先が少女の首に接触し、そこから赤い血が零れ出たのだ。
その瞬間、”わたし達”の体の中を激しい怒りが駆け抜ける。
なんで、あの男がそんなことをしたのかは分からない・・・・
だが何であれこの男は御者を殺し、
”わたし達”を殺し、
そしてそんな小さな子供まで・・・
”立って!!!!”
わたしは叫ぶ、動かない”体”に。
”立って!!!!”
わたしは叫ぶ、動かない”心”に。
『立って!!!』
わたしは叫んだ。
動こうとしなかった”自分”に。
気づいた時、”わたし”は馬車の狭い廊下で立ち上がっていた。
抑えを失った脇腹から滝のように血が漏れ、平衡感覚はグチャグチャ。
だが、痛みはなかった。
『あの子を助けて!!!』
”自分”の中に誰ともしれない”木霊”が響き、それが反響しながら轟音に変わる。
そして”自分”はまるでその”反響”を動力にしたかのように、前へ、前へと進んでいく。
誰も止めなかった。
いや止めていたかもしれないが、気が付かなかった。
ゆっくりと御者台が近づく。
だが男は外の誰かに怒鳴るのに夢中で、近づいてくる”自分”に気が付かない。
この馬車の廊下は高い位置にあるため、御者台とそこから身を乗り出す男の姿は若干下に見える。
『都合がいい、力がなくても倒れるだけで十分』
”わたし”は”自分”にそう言い聞かせると、そのまま男の背中に向かって倒れ込んだ。
僅かではあるものの、高い位置から落ちてきた私の体は、それなりの衝撃を男に食らわせた。
しかもその時、なんとなく突き出した右腕が男の首に絡まって、そのまま引き倒すことに成功する。
「うんあ!?? あんだてめええ!!??」
突然、御者台の丸い操作盤に背中を叩きつけられる形になったその男が、そんな判然としない声を荒げる。
だが、のしかかるように体重をかけた”わたし”の体を押しのけることは出来なかった。
そして今の”一撃”で、少女の体が御者台の窓枠に引っかかり男から引き剥がされ、男はそれでも掴んでいた左手を引っ張ることで人質を取り返そうとしたが、その間に”わたし”の体が割って入っているので上手くいかない。
窓枠と”わたし”に挟まれて、男に乱暴に引っ張られた少女が痛みで悲鳴を上げ、ほぼ同時に発生した凄まじい警報のような轟音が耳をつんざき、男の怨嗟の叫びを掻き消す。
左腕に鋭い痛み。
破れかぶれに男が刃物を叩きつけたのだ。
だがもう既にこの程度の痛みは誤差のうち。
”わたし”はひとしきり肺の中の空気を叫びとして吐き出すと、その口を閉じずに男の肩に噛み付いた。
だが力が抜けているので大したことはない。
それでも、わたしの体が男の上に固定されたことで、男は完全に身動きできなくなる。
すると体の左側を中心に、鋭い痛みが連続した。
男はまだ自由な右腕を使って、”わたしの体”に何度も何度も刃物を突き立てたのだ。
同時に”わたしの体”を吹き飛ばそうと全身に力を入れる。
その力は本来なら対抗できるものではないが、わたしは右腕を近くにあった輪っか状の制御装置に通し、左腕をその辺にあった棒状の物体を掴むことでそれを耐えきる。
まるで蛇の絡み合いだ。
外が騒がしい。
ふと右を向いて窓を見ると、ちょうど外にいた黒と青の服を着た数人の男が窓から少女の体を引っ張り出し、さらに別の数人が梯子のようなものを窓にかけて登ってきた。
彼等が”ケイサツ”だろうか?
わたしは・・・やりきったのか?
ドス!
その最後の”一撃”は、やけに頭に響いた。
見れば視界の半分が完全に暗い。
そしてもう半分には、真っ赤な板のようなものが左側に見えている。
どうやら左目に刃物を突き立てられたらしい・・・・
・・・と、認識したと同時にすべての感覚が一斉に消える。
ああそうか・・・・
わたし・・・ここで終わりなんだ。
まるで崖から落ちたかのような浮遊感。
もはや痛みとも認識できないほどの痛み。
自分が引き裂かれる、凄まじい絶望感と・・・
それらが全てが消えていく・・・・虚無の世界。
最後に”わたし”が認識したのは・・・
痛いほど眩しい、真っ白な光景だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
凄まじい速度での落下。
ぐるぐると回るように感覚が絶えず逆転し、上下左右の判別がつかなくなる。
さらにまるで溺れるような苦しさに、藻掻くように息をしようとするもまったく上手くいかない。
そのままわたしは、自分が何なのかも分からない不安定な感覚の濁流の中を、ひたすらどこまでも落ちていった。
するとその時、感覚の中に一筋の光が見え、次第にそれが大きくなる。
そしてまるでそこに吸い寄せられる様に意識が動くと、一瞬にしてその光に包まれ、それがやがて下向きの力に変わった。
「・・・がっ・・はっ!!??」
肺が押しつぶされたような声が漏れる。
さらにまるで叩きつけられたかのように一瞬で浮遊感が消え失せ、ついで凄まじいまでの”重量感”が全身を地面に縫い付けた。
その瞬間、急激に戻ってきた感覚に自分の頭が大きく混乱する。
それまで自分を支配していた”痛み”が幻のように消え去り、代わりに地面の硬い感覚と、小さいながらも力強い自分の筋肉が自分の気分に反応するように動く、なんともいえない”違和感”に目眩がしたのだ。
「・・・どこ!?」
未だ戻らぬ視界に困惑しながら、そう言うと自分のものではない安堵の感情が自分の中に充満するのを感じた。
『モニカ! 気がついたか!』
ああ、その声・・・戻ってきたんだ。
少しの間なのに自分の相棒の声がとても懐かしく感じられる。
『ロン・・・・どうなってるの?』
予想通り・・・その声は私の頭の中にちゃんと響いた。
『モニカ? なんで・・・”その声”が?』
『それは後で・・・・』
自分の中に苦い感覚が滲む。
この声は私がしたことの”証拠”だ。
『今はそれより・・・ガブリエラはどうなったの?』
わたしが”戻ってきた理由”をロンに問いかける。
『それなんだが・・・見てもらった方が早い』
『・・・?』
その時、視界がない理由が自分の右手が目の周りを無意識に抑えていたせいだと気がついた。
だが慌ててその手を退けて目に飛び込んできたその”景色”は、自分の予想を遥かに超えて”突飛”だった。
「なに・・・これ」
思わずそんな言葉が口をついて出る。
だが目の前に広がった光景は、そんな言葉では言い表せないほど奇妙なものだった。
「スコット・・・先生?」
まず、すぐ隣りにいたスコット先生の様子がおかしい。
まるで時間が凍りついたかのように驚愕の瞳で”それ”を見つめながら、その状態で固まっている。
そしてその体の表面には、黒と金色の混ざった不思議な光が覆っていた。
「これ・・・どうなってるの?」
『わからない・・・モニカを庇ってガブリエラから発生した魔力に飲み込まれたら、こんなことに・・・』
ロンが何が起こったのかを簡単に説明してくれた。
なるほど・・・”これ”に飲み込まれたのか・・・
わたしは頭を周囲に向けて状況を確認する。
景色からして間違いなくここは貴族院の中庭だと思う。
特徴的な芝生と、所々に生えている木々の形は前にも見たことがある。
だが視界は10ブル(10m)も無い。
そこら中にまるで霧のように大量かつ濃密な魔力が覆っていて視界が通らないのだ。
『だけどこの魔力・・・なにこれ? 何の反応もしない?』
『エネルギーがないというか、ただそこにあるだけみたいだ』
その魔力はスコット先生の表面を覆っているのとほぼ同じ、黒と金色がまだらに混じった特殊なもの。
そしてその魔力は、スコット先生の見つめる”金色の一角”から噴き出していた。
わたしはその付近をゆっくりと睨みつける。
それは金色の”魔力の塊”とでもいうべきものか。
ガブリエラの屋敷の残骸の上に浮かぶその光の塊は、たぶんガブリエラそのものだ。
そしてその上には、彼女の金色の”王球”が逆さまの状態で浮遊している。
その球体の部分は大きく開けられ、ガブリエラの膨大な魔力を飲み込もうと震えているが、この放出量相手ではさすがの巨大魔道具も全く歯が立っていない。
『他の人達は逃げられたのかな?』
『わからない、スコット先生はこの様子だし、モニカが気を失ってる間は何も見えなくて・・・』
『わたし、どれくらい寝てた?』
『ん? 2分程だけど・・・』
どうやら最悪の事態はないらしい。
これならば、まだ”猶予”はある。
だが僅かにではあるが、ガブリエラの金色の魔力にも黒い光が混じっているのはどういうことだろうか?
いや・・・今はそれどころではない。
『ねえ、ロン』
『ん? どうした?』
『私を信じてくれる?』
わたしはそう言いながら立ち上がり、体の各部に魔力を充満させてその動きを確認する。
『信じるって・・・何を?』
『ガブリエラを・・・助ける』
私はそう言うとバッグの中に手を突っ込んで、魔道具をいくつも取り付けた半透明の板を取り出した。
『ちょっとまてモニカ!? 助けるったってどうやって!?』
『だから信じて。 ロンならできるから』
『え!? 俺!?』
ロンのその反応を半ば無視するようにその板を顔に当てると、その周りの魔道具に魔力を流し一斉に起動させる。
「”グラディエーター2”起動!」
『え!? あ・・・き、起動!』
その瞬間わたしの全身を黒い膜が覆い、続いて”2.0強化外装”の装甲が覆う。
これからすることは、ついに完成したこの”鎧”でも安全を保証できるものではない。
それでも無いよりはマシだろう。
それは”確信”だった。
そして同時に”覚悟”でもある。
あの時・・・・あの世界で・・・わたしが”彼”を犠牲にしてまで戻ってきたのは、このためなのだ。




