2-4【金色の光 4:~協力関係~】
ガブリエラから提案された言葉に、俺達はしばし固まる。
「・・・ねえ・・・”どうめい”ってなに?」
あ、そこ分かんない?
『ええっとな、同盟ってのは”一緒に頑張ろうね”って感じの言葉だ』
「・・・やっぱり”そっち”か」
『他の言葉かと思っていたのか?』
「・・・思ってた」
なるほど・・・でも確かにそれくらい荒唐無稽な言葉だ。
ガブリエラから提案されたのは、俺達との”同盟”。
ここでそんな大層な言葉を使うあたりが、なんともガブリエラらしいが、いきなり過ぎて意味がわからない。
「それで・・・お前はどう付き合っていきたいと考えている?」
「ちょ・・・ちょっと待ってください」
俺が慌てて割って入る。
いきなりそんなことを聞かれても答えようがない。
だがガブリエラはそうは思っていないようで、
「何を待つ? 今の考えを聞いているだけだ、正当を求めているわけでも、決断を迫っているわけでもない」
と字面の道理で押し込んできた。
「そ・・・そうですけど・・・」
急に語気が険しくなったガブリエラの言葉に、俺がタジタジになる。
するとモニカがガブリエラの目を見つめた。
「わたしはただ・・・何もしないで欲しい」
「何も?」
ガブリエラの眉がピクリと動く。
うわ、こわい。
だがモニカはそれに動じず、その目をじっと見つめ続ける。
「わたしは”あなた達”に何もしていないし、何も求めてない」
「いいや、求めている」
モニカの言葉をガブリエラは即座に否定した。
「安全を求めているし、生存を求めておる」
「でもそれは・・・」
「何を憚る? それがお前の要求なのだろう?」
「うっ・・・」
ガブリエラの言葉にモニカが口ごもる。
「つまりそなたは、我が国と生存と安全を保証した関係を結びたいと考えているのだろう?」
「ええっと・・・はい」
「なら初めからそう言えばいいものを」
そう言ってガブリエラが少し呆れたような表情を作った。
「・・・ねえ、こんなのでよかったの?」
『そうみたいだな。 まったく、いちいち大層だから答えに困る』
てっきりこちらも、もっと御大層に答えないといけない気になってしまうではないか。
だがガブリエラの目は厳しいまま。
「では、なぜ1位の生徒に勝って目立つようなことをした?」
「それは・・・ルーベンが自分を倒せと言ったから・・・」
「それで勝ったということは、隠す気はなくなったということか?」
なおも追及するかのようにそう言うガブリエラ。
するとモニカの表情が僅かに変わった。
「それは”そっち”が決めることでしょ」
「・・・うん?」
「わたしは、どうしたいとも思わない。 静かにしたいから騒ぎたくない、けど自分で隠す気も無くなった。 そもそも私のことを隠したいのは”そっち”の勝手でしょ? ならそんな馬鹿な質問はしないで。 おとなしくわたし達が隠れていられるように、好きにすればいい」
モニカが一息にそう言い終わると、フンと鼻を鳴らして腕を組み力強くガブリエラを睨みつける。
一方、その様子をガブリエラはポカンとした表情でこちらを見つめたまま。
だが俺はモニカのまさかの”逆ギレ”に、内心大いに焦っていた。
「クッ・・・」
すると突然、異音のような音が2人の間に入る。
俺は最初それがなんなのか分からなかった。
だがすぐにその正体が判明する。
「クックック・・・」
そう小さく痙攣するように、ガブリエラが腹を抱えて笑っていたのだ。
「なるほど・・・たしかに・・・たしかに」
さらにそう言って自分の膝をバシバシと叩く。
その様子に俺は完全にドン引きし、モニカの勢いも若干陰りを見せる。
「・・・たしかに、そなたが積極的に隠れている道理はないな・・・愚問だったか、だがそれを聞いて安心した」
「安心した?」
モニカがその言葉に反応する。
「そなたが積極的に害をなそうとは思っていないと、分かったからな」
「それが知りたかったの?」
「そうではないが・・・今日のところはこれ以上は望めぬだろう」
そう言って顎に手をついて少し安心したような表情になるガブリエラ。
「それでいいの?」
一方、モニカの方は急に語気が収まったガブリエラに不審気だ。
そしてそれに対しガブリエラは、しばし何かを考えるかのように押し黙る。
その雰囲気はまるで誰かと小声で相談しているかのようだ。
おそらく本当に相談しているのだろうな。
「今、我が国にとって最も憂慮すべき事態はなんだと思う?」
「わたしの情報が他の国にバレること?」
「ではないのだ」
「・・・・?」
どういうことだ?
散々ぱらその事でとやかく言われてきた俺達は、それが最も憂慮すべきでないと聞いて反応に詰まる。
「それも確かに大きな問題ではあるが、この”問題”の比ではない」
「この問題って?」
「成長しきったあとの・・・”そなた”だ」
ガブリエラはそう言うと、憂いを湛えた瞳で虚空を見つめる。
「どこにも属さない、しかも大規模な支援を全く必要としない巨大スキル保有者。
そこまで行けばそなたは安心だろうし、それを作れてアクリラの教師たちは満足だろう。
だが、それ以外の陣営は、その”怪物”にどう対処するかが問われることになる。 そしてそれはどの国も関係ない」
それは俺達のことではあったが、そう言われてみれば、それは確かに字面だけ聞けば恐ろしい存在だった。
「我が国の内部では、既に”その時”に備えた動きが始まっている」
「どんな?」
「おそらくは、どこかの貴族の”妻”辺りで、動いているらしい」
「”つま”?」
藪から棒に出てきた単語に、モニカが不審そうに眉を顰める。
「愚かだろう? それでそなたを縛れると本気で思っているから滑稽だ」
「ガブリエラはそう思わないの?」
「思わんな。 もちろんそこに収まるのも一興だろう。 だが予言しよう、そなたの力は、そんなちっぽけな所で収まるものではない」
ガブリエラはそう断言すると、意味深に間を一拍置いた。
「・・・なので私としては、そうなる前にそなたとの”関係”が欲しい」
「それが”同盟”?」
「勘違いするな、それは私と”成長したそなた”との同盟だ、今のそなたではない。 だがそこに至る関係がほしいのだ」
ガブリエラは念を押すようにそう言う。
「だけど、”個人”の話に同盟なんて大げさな・・・」
「そうか? そなた達はピスキアで何をした?」
「ピスキアで?」
その言葉で俺達は、あの北の果の街で起こった”スキル暴走事件”の事を思い出す。
「街の一角を灰塵に沈め、山を1つ吹き飛ばしたそうではないか、それを”個人”と笑い飛せるほど私は能天気ではいられない。
断言しよう、成長したそなたは、土地に縛られた国などより遥かに危険で厄介な存在になる」
「・・・それは、ガブリエラがそうだから?」
「むろん、”その気”になればな」
そう言ってガブリエラがニヤリと笑う。
その瞬間、周囲の空間がグラリと動いたような錯覚が起こり、同時に俺は今の言葉がハッタリでも何でもないことを理解する。
「だが、私を例に出さなくとも、この世界では”個人”が”国家”を凌駕した例はいくつかある。 授業で習わなかったか?」
ガブリエラがそう聞くと、モニカが少し考えてから首を横に振り、それを見たガブリエラが不思議そうな顔になった。
「あいにく、まだ近代史の当たりまでは勉強できてないんで・・・」
俺が補足する。
まだ、ここに来て3ヶ月ほどなので、試験勉強含めてもそこまで歴史の勉強はできていないのだ。
するとガブリエラはとある”名前”を持ち出した。
「ならば、”ハイエット”という名前を聞いたことはあるか?」
「”ハイエット”?」
「・・・時々聞いたことがあるな・・・」
俺がログをさらうと、街中でたまに話題に上がっている様子が散見された。
「現在進行形で存在する、”国家”より強い”個人”だ」
「”国家”より強い”個人”?」
モニカがそう聞き返すと、ガブリエラが首を縦に振る。
「アルバレスが作り上げた最強の”勇者” 、悔しいかなその力は、私でも”本気”でなければ対処できないほど強力だ」
「そんなに強いの?」
俺達が大きく驚く。
「ああ・・・なにせ私に対抗するために、超大国が見境なくその力を高めた存在だからな、その力は絶大だ」
その言葉で俺は、カミルが言っていたことを思い出す。
それはガブリエラが生まれたことで、アルバレスが勇者の数を3人から7人に段階的に増やすことになったという話だ。
”勇者”がどんなものかよく分からないが、勇者ゴーレムの強さは知っている。
本物はそれ以上だろうということも、それを倍以上に増加させるという事態がいかに切羽詰った物だったかも予想がつく。
おそらくアルバレスは、突如発生した軍事力の”差”を埋めるのに必死だったのだろう。
「だが、アルバレスはその力が国家の枠組みで制御可能だと思い上がり、奴に対して傲慢に振る舞った。
その結果”ハイエット”との関係は険悪なものになり、国土の中に独立を宣言するに至ったのだ」
「止められなかったの?」
「どうやって止める? 他の勇者も含んだ軍を一蹴し、好き勝手に振る舞う存在を。
経済的に追い詰めようとも、必要とあれば何処にでも出向いて奪う存在を困窮などさせられん。
対話という手段で決裂に至った以上、平和的に解決する機会は失われた」
「そんな人が・・・・」
モニカがその正真正銘の”規格外”の存在に対して、驚きの表情になる。
「何を他人事のような顔をしている? 私はそれがそなたの”将来的”な姿だと思っておるのだぞ?」
「わたしはそんな・・・」
「では、どう生きる? 我が国と敵対した状態で、その”力”に縋らぬと言い切れるのか?」
モニカがなにかの言葉と一緒に唾を飲み込む。
言い切れない。
おそらく抵抗するだろう。
抵抗し、成長したその力でもってマグヌスの力を跳ね除け、その力で以って生き永らえようとすれば、最終的に落ち着く先は確かにその様な姿だった。
きっと、その”ハイエット”とやらもそうしたのだろう。
「それにどのみち、その力を持ったまま国の下に収まるのは無理であろう。
で、あるならば、我が国は隣国と同じ轍を踏むのだけは避けねばならない。 故に今の時点から良好な関係を築きたいと考えているのだ」
それが彼女の提案した、”同盟”の理由か。
「条件は?」
モニカがガブリエラの目を見つめながらそう言った。
するとそれを見たガブリエラに笑みが浮かぶ。
「いい目だ、着いたばかりとはいえ、商人の街に住んでいる者らしい」
そう言うと満足そうにグラスから飲み物を一口だけ、口に含んだ。
「我が国との交渉において、私が出来るだけのサポートを行おう。 何が出来るかは分からぬが、まあこちらはついでだ、気にするな。
本題としては私が卒業するまでの半年間、そなたに”大出力魔力”の使い方を指導する」
「そのかわり、”そっち”の言うことを聞けとか?」
俺がそう聞くと、ガブリエラは首を横に振った。
「そうは言わん、本国との交渉においても好きに動いてもらって構わん。 もとより成長したそなたを抑えられるとは思っておらんし、それが分からぬ連中には灸を据えたほうが良いだろう」
「じゃあ、何がほしいの?」
モニカが結論を急ぐ。
するとガブリエラが顔をこちらにズイと寄せた。
「そなたの成長に”一枚”噛ませろ」
「そんなんでいいの?」
「”借り”を作らせろということか?」
「それもあるが、1番はそなた等に私の力を”意識”させたいのだ」
「意識させる?」
モニカがそう問うと、ガブリエラが真剣な様子で頷いた。
「ああ、私を倒すことが困難であると、その”意識”に刻み付けたい」
「それがなんの意味があるの?」
「もし将来的に、我が国とのそなたが険悪な状態になったとき、せめて私と戦うくらいなら話し合おうという判断を下せるようにな。
王位スキル同士の衝突は結果がどうであろうと、回避に全力をつくすべき事案だ」
「”抑止力”ということか・・・」
力とは、ぶつけるだけが使い方ではない。
それを意識させ、衝突を思いとどまらせるというのも有効な力の使い方なのだ。
いや、むしろガブリエラクラスともなれば、おいそれと振るうわけにもいかない。
これは彼女だからこそ出来る、本当の意味で最大限有効な力の使い方と言えるかも知れない。
だが、なんて力だ。
そこで俺は知識の中にある、”戦略核爆弾”のことを思い出す。
それは、そのあまりのもの威力故に、持った者同士が全力で戦えなくなるという、破滅の縁の平和。
ガブリエラが持ちかけた”同盟”とは、いわばこれに近いものだ。
そしてそれは、”この力”がそんなレベルまで強力になることを意味する。
だがそれには、お互いに、お互いの力を認識させる必要がある。
現状、ガブリエラの方はその力を既に保有しているのでその威力は知っている。
だが、俺達はまだその威力を”正確には”知らない。
おそらく俺達にその力の使い方を教える過程で、その力自体を意識させようということなのだろう。
それに正確に認識させることで、使いづらくさせるという意図もあるかもしれない。
「だが、俺達がそれほど強くならなければどうするつもりだ?」
俺は思い切って、そう聞いてみることにした。
ただ、これはかなり危険な問いかけといえた。
強くならなくても”問題ない”と言えばそれは欺瞞になるし、問題があるといえば関係にヒビが入りかねない。
それでも俺は、ガブリエラの本気の”度合い”を探る必要がある。
だが、ガブリエラの反応は少々予想外なものだった。
「何を言うかと思えば・・・・まだ分からぬようだな」
「・・・?」
「そなた等は既に十二分に”脅威”だ。 ただその使い方を知らぬだけ、なのに”強くならなかったら”だと? そんな世迷い言に割ける時間はない!」
と、ピシャリと逆に説教を受けてしまった。
確かに冷静に考えれば、街を灰燼に帰すくらいの力は既にあるわけで・・・
「いつ暴発するか分からぬ状態を解消して、それを恩に着せようと、そこまで言わねば分からぬか!」
「あ、すいません・・・」
その剣幕に俺が思わず謝ってしまった。
しかし、ガブリエラの中での俺達の”評価”は相当高いようだ。
もっとも、それはピスキアの一件と、おそらくはランベルトを破ったときに使った”思考同調”から推測してのものだと思うが、この期に及んでそれを指摘する度胸はない。
せっかく使い方を教えてくれるというのだから、大人しくそれに従うのが一番得策にも思えた。
だが気になるのは、
「そんなことやって良いのか? まだマグヌスとは交渉中だぞ?」
「構わん、この話は全て私の”独断”だ」
と、なんでもないようにそう言ってのける。
「独断って・・・マグヌスのためにやってるんじゃないのか?」
「もちろんそうだ、だが私の力は”国”のためにあるのであって、”国に巣食う者”のためにあるのではない」
「”国に巣食う者”って?」
「そなたを作り、そなたを消そうとしている者たちだ。 何を考えているかまでは知らぬが、この問題も結局そやつらの責任だろう?
そんな連中のために、私が尻拭いに使われるのは我慢ならん」
そう言って巨大な胸を張るガブリエラ。
どうやらこの王女様は、独自の考え方で動いているらしい。
「まあ、私とそなたの”交渉相手”の違いは、”国のために”という言葉を、”目先”に置いているか”将来的”に置いているかの違いだと思えばいい」
「信じていいの?」
「信じる必要はない、勝手に恩を売るまでだ」
モニカの言葉にそう答えたガブリエラは、これこそが言いたかったこととばかりにニヤリと笑う。
結局、俺達に”選択権”はないらしい。
その時、モニカから俺に問いかけるような感情が流れてくる。
『マグヌスと連携していないというのを、どの程度信じていいかは分からないが、害するつもりがあるならもう何度もチャンスは有ったのも事実だ』
俺が自分の考えを伝える。
そして大事なこととして、
『それに、あの”ゴーレム軍団”から最後に救ってくれたのはガブリエラだ。
アクリラに入るまで手出しはしなかったが、それは最低限の義理立てとも考えられるし、敵対するならそもそも彼女自身が妨害してきただろう』
そして俺のその言葉を聞いたモニカが、少しの間考え込む。
「・・・分かった、力の使い方を教えて」
モニカが虎穴に入る覚悟を決めたようにその答えを伝える。
「良い返事だ」
ガブリエラが満足そうにそう言うと、右手をこちらに差し出してきた。
どうやら握手しようということらしい。
モニカはその手を握ると、わざとらしく上下に振る。
これで俺達はガブリエラと”同盟関係”になったということか・・・・あ、いや、”そこ”に至るまでの”協力関係”だったか。
少々面倒くさいが、少なくともこれで”表向き”はアクリラ内における”一番怖い脅威”がなくなったことを意味する。
なら喜ぶべきか。
ただ、握っているガブリエラの手が若干プルプルと震えているのが気になるが・・・・
「・・・ところで、これからどうするの?」
どうやらモニカもガブリエラの”手の震え”に気づいていたようで、その声は少し不審な色を含んでいた。
「・・・予定では、そなたのスキルについて細かいところを聞こうと思っていた」
ガブリエラはそう言うと、握手を解いてゆっくりと後ずさり、妙に距離をとった。
「じゃあ・・・」
ガブリエラの言った予定に、モニカが答えようと口を開く。
だが、突然ガブリエラが予想外のことを言い出した。
「いや、今日はこれが”限界”のようだ」
「限界?」
「俺達はまだ少し時間があるが?」
まだ話し始めたところなので、”奉仕活動”の終了時間までは1時間くらい残っている。
手持ちの半日分を回りきれなくとも、時間が来れば戻るように言われているので、戻らなければ大事になるが、逆を言えばそこまでは戻らなくても平気だ。
それともガブリエラ側の予定が合わないのだろうか?
だがそうではなかった。
「あれくらいなら問題ないと思っていたのだがな・・・」
そう言ってガブリエラが苦い表情を作る。
その時、驚いたことにその額から汗が流れ落ちた。
「どうしたの?」
モニカが驚き半分、心配半分の様子で問いかける。
その時、ガブリエラが制服のボタンを外し、その”中”を俺達に見せた。
突如大写しになった下着の中のはち切れそう膨らみに、反射的に俺が資料などで視界を塞ぐ。
だがその一瞬で、俺達はガブリエラに起きていた”異変”に気がついた。
「・・・っ!?」
モニカが息を呑む。
ガブリエラの制服の下、豊満な2つの膨らみの間の巨大な谷間・・・
その心臓に一番近い部分の肌が、毒々しいまでに輝く”青色”に変色していたのだ。
「なに・・・!?」
「見事なものだろう? ルシエラがそなたと話すにあたって、私に仕込んだ”枷”だ」
「”かせ”?」
「私がそなたに危害を加えた時に発動し、私の魔力を喰いながら侵す、魔法契約より原始的で強固な”呪い”の一種だ。
こんな単純な魔法・・・普段なら受けることは考えられぬが・・・入り込まれれば単純ゆえに除去が難しい・・・
そして、これを私の心臓に仕込むのが今回の”会談”であやつと交わした”条件”だ」
そう言ったガブリエラの表情には、痛みに呻く苦悶の表情だけでなく、見事な魔法を称賛するような物が混じっていた。
そしてそのとおり、ガブリエラの胸の真ん中に現れた”青い痣”は、その毒々しい見た目とは裏腹に、精密な魔法特有の複雑機械にも似た美しさを伴っていた。
「大丈夫なの!?」
モニカが慌てて席を立ち、近付こうとする。
だがそれはガブリエラが手を上げて制した。
「近づくな・・・これはそなたの魔力に反応して威力が変わる。
だが安心しろ、命に影響が出るほど大きくは発動していない。 さしずめ”警告段階”といったところか・・・どうやら、そなたの力を試したと時の”あれ”が攻撃と判断されたらしい・・・」
ああ・・・あの魔力の押し合いのことか。
てか、魔法契約系が発動するってことは、やっぱあれ攻撃なんじゃねーか!
「そんなわけで・・・・今日のところは、もうこれ以上近くにいるのは、やめた方が身のための様だ・・・」
そう言ったガブリエラは、顔に若干悔しげな表情を浮かべていた。
「死なないよね?」
モニカが確認するようにそう問いかける。
「言っただろ、これは”警告段階”だと。 この程度で私は死なん・・・そなたがいなくなればすぐに”呪い”も収まるだろう」
ガブリエラはそう言って強がるが、胸元の痣はかなり毒々しいものであり、その苦痛はかなりのものになっているのが見て取れた。
『今日はここまでだな』
俺がモニカにそう言うと、肯定の感情が返ってきた。
「わかった・・・ヘルガ先輩探してくる」
そう言ってモニカが体の向きを変えて、扉に向かう。
だが、
「まて!」
その行動はガブリエラによって止められた。
「・・・”1つ”だけ、今日の内に確認しなければならないことがある」
「「・・・・?」」
不意に放たれたその言葉に、俺達がまた首をかしげる。
ガブリエラは段々と体調の悪化を進めている。
そんな状態を差し置いて、今日中に確認する必要があるものとは一体何だ。?
「”フランチェスカ”のスキルの構成が、”ウルスラ”と異なっていることは、こちらもある程度把握している。
だが同時にいくつかの”基幹スキル”に同じものがあるらしい」
それは初めて知った情報だった。
というか、
「それどこ情報?」
「この会話の最中に、私のスキルに探らせていた」
「「え!?」」
俺とモニカが2人揃って変な声を出す。
「まさか本当に”会話”だけで済むと思っていたのか?」
すいません・・・思ってました。
そうか・・・わざわざ直接会ったのは”これ”も込みだったのか。
どうりで、こちらの回答に淡白な反応を見せるわけだ。
この人は端っから、”自分”で俺達の力を解析に掛けることが狙いだったのだ。
俺は心の中で悔しがる。
だが今更、悔しがった所でどうしようもない。
もう既に調べられた後だし、それを防ぐ手段もこの会談を拒否する権利もないのだ。
でも、なんで今この段階で漏らしたんだ?
それ程までに、その”確認事項”とやらは重要なのか。
「話を続けるぞ・・・で、私のスキルがそなたを探っていると、”とあるスキル”の存在の可能性を見つけた」
「とあるスキル?」
いったい何を見たんだろう・・・
【思考同調】とか、【予知夢】とかその辺の”ヤバイ奴”の事だろうか?
だが、ガブリエラの口から飛び出したのは、それすら上回る”本当にヤバイ奴”だった。
「・・・【魔力の吸収】・・・」
ギクリ。
ガブリエラの言葉に俺の仮想肝が盛大に冷える。
「魔力の吸収? そんなスキルあるの?」
モニカがキョトンとした感じで、俺に聞いてきた。
「・・・・・ある」
俺が苦々しいものを絞り出すような声で、そう告げる。
その瞬間、ガブリエラの表情が数段階険しくなり、全身から魔力がゆっくりと立ち上り、何事かわからないモニカがそれに対して咄嗟に身構えた。
「安心しろ・・・起動はしていない」
俺が宥めるようにガブリエラにそう告げる。
というか、ウルスラの解析ってまだ起動していないスキルまで把握できるのかよ。
「・・・そなたは・・・もし使えるなら、それを使いたいか?」
ガブリエラが鋭い目でこちらを睨みながらそう聞いてきた。
その表情は、一切の冗談を許さないといったもので、その回答次第ではこれまでの話をなかったことにしてでも許さない、と言わんばかりのものだった。
だが、俺の回答はそのスキルの概要を初めて見た時から決まっている。
「・・・死んでも使う気はない」
俺はその言葉に”他意”が挟まらないように注意しながら、そう”宣言”する。
それは嘘偽りない、俺の気持ちだった。
たぶんモニカも【魔力の吸収】の内容を知れば同じ様に答えるだろう。
【魔力の吸収】はその字面から想像するような、便利で”生易しい”ものではない。
そしてそれは俺達だけではないようだ。
「私も・・・同じ考えだ」
ガブリエラはそう言うと、身に纏っていた緊張を解いた。
そしてその言葉で俺は本能的に悟る。
ガブリエラも、”そのスキル”を持っているだろうということに。
大変遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
今回、過去に例がないほど制作が難航し、そのせいで大幅に時間がかかってしまいました。
あと、あまりに時間がかかったので次の話の方が先に完成しているので、夜にもう一話更新すると思います。




