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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
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2-1【ピカピカの一年生 8:~補習授業~】




「君を試験した結果、それまで想定していた物とは異なる結果が得られた」


 俺達の目の前でスリード先生が話し始める。

 こうして間近で見ると、体が普通より若干大きいことに気がついた。

 そしてこの”場所”が思ったよりも高いということも。

 俺達は現在、5歳の子供たちに混じってスリード先生の体をよじ登り、その思いのほか高い難易度に苦戦しながら登り切った所だった。

 高さは3mから5m程の間でゆっくり移動しているが、高度数百mとかより、これくらいの高さが一番怖い気がするのは何故だろうか。


 だが、これも補習の一環ということだが、なんの意味があるのかイマイチ理解できずにいる。


「気づいたかい? 君たちの試験、先に伝えていた試験範囲と異なることに」

「え?」


 それは唐突で、意外な情報だった。


「君達に伝えたのは、初等部修了相当から一学年引いた範囲というものだ、だけど実際は初等部修了相当の試験を出したんだ」

「えっと、難しかったって事?」

「そうさ、だけどそんな事感じなかっただろ?」

「あ・・・はい」


 というかこの世界のカリュキュラムなんて全く知らないから、思ったより難しいとか簡単とか、それすら分からないんだけどな・・・

 ただ思い返せば、確かに全体的にルシエラの教材に書いて有ることを丸暗記しただけでは厳し目だったような気がしないでもない。

 必死だったのでよく覚えてないけど。


「君を落とすつもりはなかったからね、だから少し難易度を上げてどう対処するか測ることにしたんだ」


 そりゃまた・・・

 あっけらかんと言っているが、落とさない前提なんて聞いてなかったのだ。

 仮に俺達が答えられないレベルの問題だったら、きっと恐ろしいほど絶望したに違いない。


「そしてその結果、当初予定していた補習の大部分は必要ないと判断された。

 だけど同時に、これは絶対放置できないと感じた部分もある」

「放置できない?」

「それが私の”専門”だったんで、ちょうどよかったよ、下手に他の教師にイジられる前に直すことができる」

「先生の専門・・・それが”身体強化”ですか?」


 モニカが少し心配そうにスリードの体を上から下まで見渡す。

 素っ裸の魔獣に本当に魔法を教えられるのか心配している感じだ。

 そしてそれが伝わったのか、


「何か失礼なこと考えてないかい?」


 とすぐに釘を差され、モニカがバツが悪そうに苦笑いを浮かべて誤魔化す。


「まあ、それは置いといて、魔力を使って体を強化するということを、魔獣以上に理解してる者はいないよ」


 そう言ってスリード先生は不敵に微笑む。

 そこには絶対の自信が漂っていた。

 確かに魔力で体を強化するというのは魔獣の得意技だ。

 だがそれはそれで不安なのだが・・・・


 すると突然、スリード先生が俺達を両手で抱えて宙に浮かせる。

 足に感じた浮遊感に俺たちが困惑していると、さらに次の瞬間、


「はい、強化!」

「え!?」


 スリード先生は一言だけそう言うと、そのまま手を離した。


 空中で支えを失えば、当然落下する。

 

 そんな自然の摂理によって俺達は地面に吸い込まれていった。

 高さ的には3m程とスリード先生にしては比較的低めだが、実際に落ちてみると思いの外距離を感じる。

 流石にこのまま何もせずに地面に激突すれば確実に怪我してしまうので、俺が慌てて身体強化をかけて体を保護した。

 そして次の瞬間、背中が地面に衝突した感触と、鈍い痛みが全身を伝わる。


「ぐふっ・・・!?」


 どうやら、この程度の衝撃ではパッシブ防御スキルは起動しなかったようだ。

 だが、それでも3mから落ちた痛みはそれなりで、着地の衝撃で肺の中の空気が全て押し出され、打ちつけられた痛みに少しの間呻いた。 

 

君達(・・・)の問題点は理解できたかな?」


 俺達の上に覆いかぶさる巨大な蜘蛛の体の上から、スリード先生が問いかけてきた。

 だが正直、問題点と言われても、巨大蜘蛛の体を登って落ちただけではよくわからない。


「ええ・・・っと」

「ふむ、よくわからないって顔だね」

「あ・・・はい」


 スリード先生はそんな俺達を見透かしたようにそう言った。

 だがその表情は慈愛に満ちたままだ。

 そして、まるでこれが答えだとばかりに、俺達の次に頂上に着いた男の子の頭を撫で、そのままその子を俺達より高い位置から落とした。

 俺達のすぐ隣にドサリと音を立てて落下する男の子。

 モニカが無意識にその”痛み”を想像し、顔を顰める。

 だが、


「あははははは」


 男の子は痛がるどころか、楽しい遊びとばかりに声を上げて笑いすぐに一番近くの蜘蛛の足に飛びついた。


「これで少しはわかったかな?」


 スリード先生が今度はどうかとばかりに、微笑みながら再び問いかけてくる。

 となれば今の男の子の様子が問題の解答なのだろう。

 俺達と彼の違い・・・


 男の子は確実に俺達よりも高い位置から落とされた。

 当然、本来なら体にかかる衝撃は俺達よりも大きく、当然その痛みは俺達より大きいだろう。

 だが、彼は全く痛がっている様子はない。


「痛いのが・・・駄目ってこと?」


 どうやらモニカも同じ答えを出したようだ。

 だが、スリード先生の顔に浮かんだのは苦笑い。


「おしい! でもそれは君の”問題”の一端を表しているね」

「問題の一端?」


 今の答えが問題の一端しか表していないというからには、もっと”大局的”な視点で見なければいけないということになる。

 

「知りたければ、ここまで来なさい」 


 そう言ってスリード先生が自分の胸を手で叩く。

 答えを知りたければ、またここまで登れということなのだろう。

 そう言われれば登るしかなくなる。

 なにせ俺もモニカもまだ問題の克服どころか、正答すらしていないのだ。


 もちろん足に魔力を込めてジャンプすればすぐに付く高さではあるが、それがこの”訓練”の趣旨に反していることくらいは理解していた。

 仕方ないのでモニカが地面に打ち付けられた背中を手で擦りながら立ち上がり、再び近くの蜘蛛の足を両手で掴む。


 俺達の手にスリード先生の独特の足の感触が伝わる。

 蜘蛛の足はとても硬く、それでいて表面を覆う細かい毛でフワフワとしている。

 最初は少々気持ち悪くも感じたが、二回目ともなれば慣れたものだ。


 だが登ってみれば分かるが、このジャングルジムの難易度はなかなかに”凶悪”。

 蜘蛛の丸太のように太い足は、それでも体をあずけるには細すぎ、抱きとめるには太すぎる。

 さらに全体を覆う滑らかな毛のせいでとても滑りやすく。

 必然的にその毛を掴んで、さらに両足で挟むしか体を固定する方法は無い。

 この辺はさすが魔獣というべきか、この毛は非常に頑丈なので俺達が全力で掴んだ所で抜けたりはしない。

 むしろ指先まで筋力強化をかなりキツめに使わなければ、簡単に手からすり抜けるのだ。


 仮になんとか”安寧”の姿勢を見つけても、そこに居続けることは出来ない。

 スリード先生の足は常に移動し続けており、その位置も角度も常に変わっていく。

 しかも登っている者に対して課題を課すがごとく、適切に”難しい位置”に変化していた。

 そこにさらに、ときおり結構強めに足を揺するので、今いる位置を維持するのも一苦労で、何度も何度も下に向かって滑り落ちた。

 明らかにさっきより難易度が上がってる。


「・・・・?」


 モニカが途中で何かに気づいたように片腕を見つめた。


『どうした?』

「・・・なんか付いてる・・・気がする」


 モニカがそう言うと確認するように手を開いたり閉じたりし、顔に近づけて臭いを嗅いだ。

 だが、見た感じ何か付いている感じはしない。

 それでもモニカがスリード先生に顔を向けると、頭上の魔獣先生は何かを誤魔化すように顔を背けた。

 これは間違いなく何か付いてるな・・・・


 モニカがその手を戻すと、足の表面の毛の上をつるりと手が滑った。

 これは、明らかに表面に何か塗っているな。


 それもおそらくスリード先生が調整出来るような何かが・・・

 きっとこれも”難易度調整要素”の一つなのだろう、汗か油か、とにかく何かの薄い体液のようなものだ。

 それを足の表面に分泌して、その子の状況に合わせて滑りやすさを調節してるらしい。

 この辺はさすが魔獣の教師、人ではできないことを平然とやってのける。

 俺としては少し気持ち悪いところがあるが、見た感じ無害っぽいので目を瞑るしかあるまい。


 俺達はスリード先生のよく分からない思惑のもと、長い時間を掛けて”スパイダージャングルジム”を登り続けていた。


 それでも、こうして何時間も登りながら周囲の様子を眺めていると、この”訓練”のルールや目的のような物が薄っすらと見えてくる。

 子供達が蜘蛛の体をよじ登り、その上の人間の部分にタッチすると、スリード先生からお褒めかアドバイスを貰って地面に落とされる。

 登る難易度は、子供によって異なっている。


 上手く登れる子は角度がキツかったり振動が多めだったりするし、そこまで上手でない子は傾斜が緩やかになるなどして難易度を落としている。

 見た限り平均して一回20分程度で登りきれる様に調整されているらしい。

 それが、子供たちが挫折しない塩梅なのだろう。


 そして子供を落とす高さもその子に合わせている。

 一番能力が高い子など、7mを超える高さから落ちてもなんともない。

 あんな高さから落ちても痛くないのだろうか?

 それとも、ここの子は皆マゾなのか?


 この訓練の目的は間違いなく”体の使い方”を覚えるためのものだ。

 それも魔力的な意味で。

 滑りやすい蜘蛛の体を登るには繊細な筋力強化が必要だし、落ちた衝撃に耐えるには身体強化が必須だ。

 つまりこの”蜘蛛登り”は魔法士の体力トレーニング的な意味があるのだろう。

 そこまでは分かる。


 だがその先がわからない。

 それでも、それを知りたければ登るしか無い。



「着いた・・・・」


 モニカが疲れを吐き出すようにそう呟いた。

 俺の予想通り登り始めてから約20分ほどした所で、モニカが再びスリード先生の人間の体のところまでたどり着いた。

 

「うむ、よくやった」


 スリード先生がそう言って手順通り俺達の体を抱え上げると、そのまま抱き寄せて頭を撫でてくれる。

 

 そしてそれは、なるほどみんなこのために嬉しそうにこの蜘蛛の体を登るのか、と思うくらいにはいい気分になるものだった。

 スリード先生の柔らかくて温かい肌の感触と、うっとりするように良い匂いに包まれると、なんというか母の胸に抱かれているような安心感を覚える。

 その上、頭を撫でながら褒められると妙な達成感があるのだ。


 少しの間、俺達がその気分に浸っているとスリード先生が再び俺達の体を少し離して目を見つめた。


「それじゃ、約束通り君達の”問題”を教えようか」


 どうやらようやく”補習”が始まるようだ。

 さて、俺達の問題とはいったいなんだろうか?


「まず、ロン! 君の問題からだ」

「え?」

『あ・・・』


 まさかの俺の問題。

 ・・・いや、散々っぱら”君達の問題”と言われていたので問題はないのだが、周囲には他の子もいるし蚊帳の外だったので、正直いきなり名指しされてびっくりした。

 だが、他の子供達はみんな登るのに夢中で、俺達のことを気にしていないので大丈夫か。


『えっと、俺の問題だっけ?』

「ロンの問題?」


 モニカが俺の言葉を伝える。

 流石にフロウのスピーカーをオンにする気まではない。


「そう、ロンはモニカが登ってる間、余計なこと考え過ぎだよ」

「よけいなこと?」


 身に覚えがある・・・・

 そうか、冷静に考えれば確かに余計なことをいろいろ考えているかもしれない。


「もちろん考えることは悪くはない、学ぶためには必要なことだ。 だけどもう少しモニカを手伝えたんじゃないかい?」


 その言葉に俺はハッとなる。

 もちろん筋力強化の調整は俺がやっているのだが、それでもそれは半ば習慣と化していた範囲での話だ。

 これ以上、何ができたかまではわからないが、少なくともそれを考えるくらいはできたはずだろう。 


『あ・・・すいません・・・・』


 気づけばそんな言葉が出いていた。


「ロンが、ゴメンだって」 

「モニカ、ロンは私ではなく君に謝ったんだよ」 

「・・・そうなの?」


 モニカが俺にだけ聞こえる声で問いかけた。


『まあ、そうだな・・・』


 一応、スリード先生へも含まれていたが、確かにモニカに対する気持ちの方が大きいので、それ以上は言わなかった。


「ロン、君は調整が完璧すぎるきらいがある、それに依存しすぎだ。

 モニカが次にどう動くか考えるだけでもいい、スキルへのアドバイスなんて自信はないが、君の能力ならそれで良くなる気がするよ」


 モニカが次にどう動くか考えろ・・・か。

 俺はその言葉を自分の仮想胸に刻む。


「そしてモニカ、君の問題は少々深刻だ」


 モニカの体が僅かに緊張する。

 無理もない、己の問題が深刻と言われては誰だってそうなる。


「ルシエラからの報告書にもあったが、君の身体強化の考え方には問題があるんだ」

「考え方?」


 その時、スリード先生の手が俺たちを離れた。


「強化!」


 その言葉が耳に届くのと、俺達の体が落下を始めるのは同時だった。

 再び、慌てて俺が身体強化をかけて落下の衝撃に備える。

 今度は先程よりもかなりマシになったが、それでも襲ってきた痛みは結構なものだった。


「分かった?」


 尻に付いた土を払いながら立ち上がるモニカに、再びスリード先生が頭上から問う。

 だが、先程と同じようにいまいち問題がつかめない。

 そしてモニカも俺と同じような疑問を持ち、首を傾げた瞬間・・・


 チュン! という頬を何かがかすめる感触を残して、何かが超高速で俺達の頭の横を通過した。


「・・・?」


 自分の状況を理解できないモニカが何かが掠めた頬を触ると、鋭い痛みが頬に走り。

 手を戻せばそこには真っ赤な血がついている。

 気がつくと、視界のすぐ横にそれまで無かった、真っ黒な丸太のようなものがあるのが見えた。

 モニカがその丸太に触れる。


 それはついさっきまで、俺達がしがみついていたスリード先生の足の一本だった。


「今の見えた?」


 その足の主が俺達に聞いてきた。


『どうやら、スリード先生の足が飛んできたらしい』


 俺が”視覚記録”の映像を精査して得た情報をモニカに伝える。


「見えなかった・・・」

「それはおかしい」


 モニカの答えに、スリード先生が被せるように答える。


「君達の”能力”なら、今のは避けれたはずだ」

「え? でも・・・」

「今のなら、実技試験の時のクレイトスのほうが速いよ」


 モニカがそんなバカなと言った表情になる。

 だが、視覚記録を比べてみればその差は一目瞭然だった。


『だいたい3倍くらい、クレイトス先生の方が速い』

「そんなに!?」

『ついでにグルドやバルジより遅いよ・・・』


 モニカの顔が驚愕に染まる。

 無理もない、まさかかつて自分が対応できた速度よりも圧倒的に遅い動きを、目で追うことができなかったのだ。

 そんなことがあるはずがない。


 だがそんなモニカとは裏腹に、俺は問題の”根源”を薄っすらと察し始めていた。


「この続きは、次にここに来る時に」


 そう言って、スリード先生が再び自分の胸元を軽く叩いて登るように促す。

 そして同時に俺達のすぐ横の巨大な足を器用に動かし、足の先についている爪の鋭い先端で、どこから取り出したのか塗り薬のような物をモニカの頬の傷に塗りつけた。


 モニカが複雑な表情でアラクネの上の女性を見つめる。

 そこには慈愛に満ちた表情のスリード先生がいる。

 だがその慈愛は、獅子が千尋の谷に我が子を突き落とすのと同類の愛情だ。

 それでも俺達は、またあそこまで行かないとけないらしい。



遅れてすいません。どうしても時間が取れなくて昨日の分の更新が今日になりました。

また、そのついでに明日の分の更新も夜にやります。

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