1-11【新しい朝 13:~複製された存在~】
「どうしたの? 嫌にあらたまっちゃって」
突然の俺の発言の内容に対して、ルシエラの眉がひそめられる。
無理もない、話しておきたい事などともったいぶれば誰だって同じ反応をするだろう。
「モニカには本人も知らない秘密がある」
「・・・いいの? モニカに言わないのに私なんかが聞いちゃって?」
ルシエラがテントの中の様子を窺いながらそう言った。
どうやら本人を差し置いて秘密を知ることに抵抗があるようだ。
だが、
「本人だからこそ気にしてほしくない内容なんだ、でもモニカの成長の上でどうしても気にしなければいけない事なんで、その判断を下すためにもできれば客観的な意見が欲しい、それにモニカに魔法を教える上で、知っていた方が効率がいい可能性がある」
「その言い方だと、モニカの健康だとか体に関すること?」
「まあ、そう捉えてもらって構わない」
「本当に私が知っても大丈夫なこと?」
ルシエラが確認するようにそう聞いてきた。
やはり、人の秘密を知ることには抵抗があるようだった。
「もう既に、ルシエラには俺達が王位スキル保有者であることはバレている、これ以上バレたところで大してリスクは増大しないと判断した」
「そういうところは、ウルスラそっくりね」
「・・・褒め言葉と受け取っておこう、だけど本当に俺達は自分の体について客観的な判断が必要なんだ」
「あなたがいても?」
「俺はあくまでもモニカの内側の存在だ、外からの視点はどうしても足りなくなる、それは身をもって体験しているが、他に聞ける相手がいないという切迫した理由もある」
自分の”力”を抑え込む蓋の劣化、そして固定具の劣化。
俺もモニカも自分の体の大事な部分の変化に対してどうしても鈍感だったと思う。
そしてそれを避けるためにはどうしても、多少の秘密の漏洩はしかたないのだ。
一方のルシエラは、顎に手を当てて何かを考え込んでいる。
俺の話を受けるかどうか悩んでいるらしい。
「悪いが、今回は校長先生の盗聴はなしでお願いしたい」
一応、俺がこの前のようなこっそり通信魔法を行わないように要請することにした。
使われても感知できないだけに気休めだが、そういう意思表示をしておくのも重要だろう。
「でもどうして? 私には教えてもいいの?」
「ルシエラは、ここ数日で信用できると思った、だがアクリラの教師陣はまだそこまで信用できない」
もちろん実際に会えば印象は変わるだろうが、それはその時でいい。
「・・・んー・・・そこまで言われると・・・はあ・・・重いなぁ・・・」
ルシエラが軽く息を吐いて肩を落とす。
そして少し間があってから真剣な表情でこちらを向いた。
「いいわ、聞きましょう」
「本当に?」
「話したいんでしょ?」
「まあ、そうだな・・・・それじゃ、いくぞ・・・」
俺がもったいぶって、一拍間を置く。
そして自分の中で覚悟を決めると、その重たい口を開いた。
「・・・モニカは・・・その・・・なんだ・・・」
「うん」
「ええと・・・あの・・・」
「話す気あるの?」
ルシエラがジト目でこちらを睨む。
「すまん、すまん・・・よし、言うぞ」
「そういうのいいから」
ジト目がつり目に進化を始めた。
これはいけない、さっさと本題に行かなければ。
「・・・モニカは・・・普通の人間じゃない」
様々な思いを振り切って俺はその情報を吐き出した。
だがルシエラは妙に無反応だ。
「それだけ?」
「それだけって?」
「いや、たしかに、好き勝手に喋るスキルを持ってるのは普通の人間じゃないと思うけれど・・・」
「あ!?、いや違う、そういう意味じゃない」
俺がそう言うと、ルシエラの眉が軽く顰められた。
「じゃあ、どういう意味?」
と聞かれても、どう説明したものか・・・
「まず、ルシエラは人間だ」
「うん」
「じゃあ、それを模した人形は人間か?」
「いいえ」
「じゃあ見ただけでは気づかないほど似せて作れば人間か?」
「いいえ・・・」
「じゃあ、全く同じ成分の素材で、同じように機能するように作れば人間か?」
俺のその言葉にルシエラが何かを察したように表情が曇る。
「・・・それは、同じように考えたりするの?」
「考えもするし、食べもするし、出すものも出す、嬉しいことがあれば喜ぶし、悲しいことがあれば泣く、一人でいれば寂しがるし、信頼できる奴がいれば甘える、食って走り寝れば成長もするし、歳を取ればおそらく老いて死ぬ」
「でも・・・」
「ああ、だが普通の人間と違って父もいないし当然ながら母もいない、自然の営みから外れたところで人の手によって作り出された存在・・・それは人間か?」
ルシエラが無言で何かを考えるように下を向いた。
「・・・でも、モニカには”父さん”がいるんでしょ?」
「そう名乗るやつならな」
「・・・育ての親ってこと?」
「少なくとも血の繋がりはない・・・いや遺伝的な類似性はないと言ったほうがいいか」
「遺伝的ってことは、混ざってはないってこと?」
「あいつが求めたのは自分の血を残すことじゃない、”ある人物”の完全なる複製品・・・それがモニカの正体だ」
複製品・・・その言葉を使った途端、俺の中にまるで苦虫を噛み潰したかのような、不快感が充満した。
「・・・ちなみにその”ある人物”ってのは・・・もしかしてフランチェスカ・アイギスの事?」
突然、ルシエラがとある個人名を出した。
そしてそれはカミルの紙にもしっかりと書かれている名前だった。
「知ってたのか!?」
「正直に教えてくれたから、正直に答えるけれど、あなたに出会ってから今日まで、あなた達の情報から、いくつか調べさせてもらったの」
「・・・・・」
「”フランチェスカ”、そして王位スキル・・・普通に考えるなら、真っ先に出て来る人物だわ、モニカとの見た目の共通点も多いし、それにウルスラの命名経緯的に考えても、何らかの繋がりがあると考えるのは自然だわ」
この青狸め、やっぱり油断ならない。
・・・いや、向こうも話してくれたんだ、誠意はあるのだろう。
「ところでウルスラの命名経緯って?」
「ウルスラの名前の由来は、ウルスラ元第二王妃、ガブリエラの母親にして、フランチェスカの双子の妹よ」
なるほど、あの紙には王妃の名前までは書いてなかったな、だがこれで色々合点がいった。
「それで・・・つまりモニカは、フランチェスカの娘ってことでいいの?」
「いいや・・・違う、フランチェスカはモニカを生んでもいないし、血を分けてもいない」
「じゃあ、なんていえばいいの?」
「・・・モデルかな、モニカという”模写”のモデルだ」
「モデルって・・・」
それは地球にあったとされるクローンなんかよりも遥かに人工的なものだった。
まだ、母体から複製されるクローンと違って、こちらは遺伝子を模写した胚を完全にパズルのように組み立てられる。
それは原初生命まで続く命のバトンの列ではないところから、突然現出した異質な存在と言えた。
つまり生物的にも物質的にもモニカは独立した存在なのだ。
だから生物学的に”親”に当たる存在がない。
ただ、模写した対象がいるだけだ。
「ただし、寸分たがわぬレベルでそっくりな遺伝子で出来ているからな、相当似ていると思う、それこそ親子と言っても足りないくらいに」
「そんなことって可能なの? 生まれるには誰かのお腹が必要でしょ?」
「必要なのは、子宮の中の環境であって、母ではない」
「ってことはまさか・・・」
「そう、妊娠した女性の子宮と同じ環境を提供することに特化した”ゴーレム”を用意したんだ」
「ゴーレム・・・? でも、そんな・・・仮に理屈では可能だったとしても・・・」
ルシエラがそこで口元を抑えて黙り込んだ
「もちろん、何度も失敗したさ、資料によれば生きて子宮を出るまでに10年かかったらしい、そして、その子達には共通してある問題を抱えていて、そのせいで出生率が極限まで悪化していたようだ」
「ちょ、ちょっと待って!」
そこで、ルシエラが話を切った。
その顔には少なくない混乱が見て取れる。
「なんかモニカが複数人いるみたいな話し方だけど・・・」
「当然、”成功”の陰には多くの”失敗”がある、今のモニカは多くの姉達の屍の上に成り立っていると言ってもいい」
「ってことは・・・他にも?」
「記録によれば・・・全員死んだらしい」
ルシエラの顔に僅かに不快感が滲む。
無理もない、俺も実際にその光景を見たわけではないが、初めて知った時はそのおぞましさで総毛立つかと思った。
あいつは足元に転がる”作品”達の死体を見ても何とも思わなかったのだろうか?
もちろんカミルを見る限りそんなことはないと思うし、それなりの情もあっただろう。
だが少なくともその”実験”を続けられる程度の思い入れしか持たなかったのは事実だ。
俺は最初、その事に猛烈な怒りを感じたことを今でも覚えている。
それとも、それほどまでにフランチェスカを複製したいと願ったのだろうか?
「・・・でも、モニカは生きてるよね?」
「その辺は俺もわからない、俺にこの事を教えてくれた人も、モニカがどこで生まれたのかについては知らなかった」
そこだけはカミルも謎だと書いていた。
当事者ですら関知していない、謎の存在。
そして年齢から推定すると、”最後の姉”が生まれてから一年後に生まれたことになるらしい。
その頃には”フランチェスカ計画”は頓挫しているので、あの男の独断で生まれたという可能性が高いとのことだった。
「話を戻すぞ、この時に発生した問題ってのが要は”王位スキル”の基になっている”力”の発現だ、モデルとなったフランチェスカはその様な事にならなかったのに、なぜだかその”複製”には必ず発現したんだ」
カミルによるとこの原因は今もってハッキリとはしていない。
ガブリエラにウルスラが発現したことから考えて、どちらかといえばフランチェスカの方に偶然発現しなかっただけと考えるべきなのかもしれないとのことだが、異常に高い発現率とそれをもたらす要因は終ぞ掴めなかったらしい。
「だが、その失敗の経験があるおかげで、ウルスラ計画は成功し、その結果をフランチェスカ計画に再び取り込むことで、”実験”は大きく進歩した」
「・・・ってことはフランチェスカ計画って、ウルスラ計画よりも古いの!?」
「卵が先か鶏が先か・・・フランチェスカ計画の名前は後につけられたし、兵器運用の可能性を探るための目的が追加されて大規模化したのも、ガブリエラの例があったからだが。
計画自体はフランチェスカ計画の方が何年も前に始まった・・・いや、ウルスラ計画がフランチェスカ計画の一部だという考え方もできる。」
これはそれこそ当事者達ですら一部の者達しか知らない、2つの計画の真の姿だった。
そしてそれを聞いたルシエラは、信じられないといった表情でこちらを見ている。
「・・・・・」
「俺の話、信じてくれたか?」
俺のその問いに対して、ルシエラが今までで一番真剣そうな顔になった。
「あなたが嘘をついているとは思わないけれど・・・」
「けれど?」
「あなたが・・・本当に真実を全て知っているとも感じなかったわ」
「そうだろうな、少なくとも直接モニカに関わる部分は俺も知らない、ただ、”フランチェスカ計画”に関わった人物によると、少なくともモニカが”複製品”の一人であることは疑いがないらしい」
それを口に出した途端、俺の中に言い知れぬ不快感が広がった。
説明のためとはいえ、モニカを”複製品”と呼んだことに少なからぬ憤りがあったのだ。
「・・・何か印でもあるの?」
どうやら、俺が嫌にはっきりとそう言い切ったことに疑問を感じたようだ。
だが残念ながら”印”は存在する。
「今度、できるだけモニカに気取られないように目を見てくれ、瞳の下辺りに小さく数字が書いてあると思う、俺はこのフロウによる視界が出来た時に確認を取っている」
「・・・・」
ルシエラの視線が一瞬テントの内部の方へと動く、おそらく確認したいという衝動に駆られたのだろう。
ちなみにカミルに初めて会った時に目の中を凝視されたのは、魔力の具合の診察もあるが、おそらくこの数字を確認するためだ。
「それにしても、人を複製して、ゴーレムに産ませるなんて・・・・」
そこでルシエラが言葉を切った。
どうやら今自分が言おうとしたことに不快感を感じたらしい。
だが無理もない。
受験勉強をしていて気づいたことだが、魔法士とは魔法を使う者であると同時に魔法の研究者でもあるのだ。
ルシエラほど高度にその世界にいる人間にとってみれば、”なんてすごい技術だろうか!”という感想を持っても異常ではない。
「凄い技術だろ?」
「・・・そんな・・・高度なゴーレムを作れるのって、それこそ・・・」
ルシエラはそこで言葉を切った、特に意味はないだろうがきっとそこで出てきた名前があまりにも非現実的だったのだろう。
だがその予想は正しい。
「そう・・・カシウス・ロン・アイギス元伯爵・・・俺の名前の由来にして、伝説のゴーレムマイスターといわれ、禁忌としてこの国を去った・・・狂人だ」
俺は最後の部分に、日頃吐き出せなかった鬱憤を全て捩じ込んだ。
そうでもしないとこの憤りの行き場に困る。
それに実際、”禁忌”なる称号を得ているのだ。
碌なやつではないだろう。
「・・・たしかに彼なら・・・それだけのゴーレムを作ることも可能でしょうね」
その顔は、驚いたというよりかは納得したという感じだった。
「ははは・・・さすが天下のカシウス、名前出すだけで納得されちゃったよ・・・」
「まあ、伝説の人間だからね、よくは知らないけれど、アクリラにいれば嫌でも耳に入ってくるわ」
伝説の男、絵本の英雄、悔しいかなその知名度も影響度も半端ではないということか。
「なあ、一応念を押しておくが、特にこのことは秘密に願いたい」
「なんで?」
「実態は置いておいて、カシウスはモニカにとってはヒーローなんだ、できればそのイメージは壊したくない、幸いにもカシウスの名前の方が強くて、本名であるロンは知名度が低いから、結構先までカシウスとの関わりは隠せると思う」
「まあ、そうね、一応今ではカシウスは禁忌扱いだし、普通にしていれば耳には入ってこないでしょうね、私もよくは知らないし」
「ああ、そこはカシウスが世間的にも狂人で助かったよ」
俺もなんでカシウスが禁忌扱いなのかまでは、カミルは書いてなかったので知らないが、今はそれに感謝したい。
おかげでモニカが余計な情報に触れる恐れが減っている。
「でも覚悟しときなさいよ」
「なにを?」
「カシウスのことが好きなら、いつかは絶対探ろうとするわよ、”なんでカシウスが禁忌なの!?”って、この国でもカシウスが禁忌なのを知らなくてアクリラで驚く子供は多いわ」
「そうなのか?」
「禁忌といっても、殆どは語られないだけだから、今でも絵本の中の英雄だと思っている子は多いわ、私もアクリラに行くまではそうだったし」
なるほど、考えれば俺もそのことを知ったのはカミルの書いた情報を見てのことで、これまでも街中では普通にカシウスのことをヒーローのように扱っていた。
国にとっては、救国の英雄である事実は変わらないので、禁忌といっても薄っすらと忘れていこうくらいのニュアンスなのかもしれない。
「それにしても、あのカシウスがそんなことをしていたなんて・・・」
「俺は、それがカシウスが禁忌になった理由だと考えているんだが、どう思う?」
あいつがやったことは俺からしてみれば、とても正気で出来るものではない。
それに人を複製するなんて、まさに禁忌っぽいではないか。
だが、ルシエラの反応は違うようだ。
「聞いた話だけだと・・・・・禁忌と呼ばれるにはちょっと弱いわね」
「弱い?」
「気を悪くしないでほしいんだけど、人間を複製することも、それを目指すことも、その成果物も別に忌避されるものではないわ」
「・・・なんだって?」
「たとえば、それで大きく社会を乱すとかなら別だけど、そういうわけでもないんでしょ?」
「まあ、ひたすら複製にこだわってたって話だな」
だが、それだけが理由ではないようだ。
「それとカシウスの”禁忌指定状態”っていうのは、一国だけで決められるものではないの、つまりたとえ知っている人自体は少なくても、ある程度広く認知されなきゃ、そうはならない、フランチェスカ計画は極秘度を考えればほとんど関係ないと言っていいと思うわ」
ルシエラはそう結論づけた。
「なるほど、それなら確かにこれが理由で禁忌なのはおかしいな」
まあ、この事について判断する材料は全く足りないだろうし、ルシエラがそう言うならばそうなのだろう。
それに、これは今話したい問題ではない。
「それで・・・」
「それで?」
恐る恐るかけられた俺の問いに、ルシエラは何事かと首を傾げる。
あ、話に夢中になって大事なことを覚えてないやつだ。
「今の話を踏まえた上で、モニカに何か変なところはないか?」
「あ、そのこと、ごめんごめん」
そう言って、ルシエラが平謝る。
どうやら、そのことを完全に失念していたらしい。
「勘弁してくれよ、俺が話したのは別に自分語りがしたいからじゃなくて、チェックの目がほしいからなんだ」
「ごめんって、ちゃんと考えるから・・・そうね」
そこでルシエラは顎に手を当てて、考え込んでしまった。
おそらく、自分の見たモニカの姿を思い出しているのだろう。
「覚えている限りでは、変なところは無いわね・・・元気で物覚えがいいことくらいかしら・・・あとは・・・そうだ!!」
「!?・・・なにかあるのか!?」
「背が小さい、厳密にどうなのかは置いておいて、あのガブリエラの親族にしてはちょっと小さすぎるわ」
「背?」
そう言われれば、たしかに小さい気もするが・・・
それは変といえば変だし、変ではないといえば変ではないという、微妙なものだった。
今度何処かでフランチェスカの成長記録か何か得られないか試してみよう。
「後は、デカパイのガブリエラと違って胸が小さいけど、それは歳のせいだし・・・」
どうやら、ルシエラは”遺伝的に近い”ガブリエラとの相違点を見ているようだ。
それにしてもデカパイ?
俺はモニカの身体ログを引っ張り出して、その胸を睨む。
それは胸というのもおこがましいほど未発達だった。
これが大きくなるのか?
「うん・・・これからはちょっと注意して見るけれど、今のところ一番変なのは、考えて喋るスキルを持っていることくらいね」
「うっ・・実際、それが問題の肝だけに反論できない・・・」
今のところ気にしている健康関連の問題は、全て俺絡みといっていい状態なのだ。
「だけど、そんなに肩肘張って考える必要もないと思うわ」
「そうか?」
「まだ要観察とはいえ、身体の作り自体は普通なんでしょ? だったらアクリラに行けばそんな些細なこと気にもならなくなるわ」
「些細なことって・・・」
「かつて、悪魔が神に魔法を教えた逸話が残っているようなところよ、生まれ方がどうかなんて、それこそ3日もいればどうでも良くなるわ」
少し自慢げにその言葉を言い切ったルシエラに、俺は少し呆気にとられた。
「・・・いや、いくら何でも、どうでもよくはならないだろう?」
「もちろん、健康に影響があるなら、そういう個性として覚えておくでしょうけれど、それをコンプレックスに感じることは無くなると断言できるわ」
「コンプレックス?」
「あなたのそれは違うと?」
「・・・・・・」
それに対して俺は反論できなかった。
”俺のコンプレックス” ・・・ その言葉で納得できる事が多すぎたのだ。
「そうか、俺は考え過ぎてたのかもしれないな・・・」
これまで俺は誰にも言えず、モニカにも絶対に言えず、いつの間にかそのストレスが溜まっていたのかもしれない。
「考えることは悪いことではないわ、でもそれで悩むところまでは行ってはダメよ、もしそうなりそうで誰かに相談できないことがまだあるなら・・・忘れなさい」
「忘れなさいって・・・忘れられないんだよ」
「だから、あなたはそれくらいの気持ちで、ちょうどいいってことよ」
何というか、そういう物なのかな。
とりあえず懸念事項だけは纏めておいて、その後は意識から外すように心がけてみよう。
それでもきっと、俺の中に引っかかり続けるだろうが。
「ありがとうルシエラ」
俺は心の底からその感謝を述べた。
彼女は誠意をもって俺の秘密に向き合ってくれた、結局それでモニカについて新たに何かが判明することはなかったが、俺だけが抱えていた重荷が少し軽くなったような気がした。
だから感謝の気持ちとして、一つ大事なネタ晴らしをすることにした。
「”俺達の秘密”を聞いてくれて、感謝している」
「どういたしまして、私でよければいつでも・・・・ん?」
そこでルシエラが何かに気付いたように眉間に皺を寄せた。
「・・・・ちょっとまって、あなたの話ってつまり・・・この国が王位スキルを量産しようとしたってことよね」
「そうなるな、一個でも大騒ぎして消そうとするのに、それを大量に持とうとしてたなんて、なんて奴らだ」
「・・・・・・」
そこで、ルシエラの顔に何かの合点がいったかのような、納得と不信の色が浮かんだ。
「気付いたか」
「・・・罠に嵌めたわね」
「保険と言ってくれ」
俺はしれっとそう言ったが、確かに罠に嵌めるようにルシエラを巻き込んだために、少々小胸が痛んだ。
「はあぁ・・・これってつまり、私も知ってることがバレたら消される秘密を抱えたことになるのか・・・」
ルシエラが両手で顔を抑えて力なく項垂れる。
彼女のそんな姿を見たことがないだけに、かなり新鮮だった。
「これで、俺達が大手を振ってこの国を歩けるようになるまで、助けてくれる大義名分が出来たな」
「一蓮托生の脅しにしか聞こえないわ・・・」
まあ、実際そうだからな。
これで、ルシエラには俺達を守らなければならない弱みが出来た。
もしルシエラの不手際で俺達が捕まれば、死なば諸共とルシエラを道連れにできる。
秘密の内容とルシエラの影響度から考えて放置はしないだろう。
弱みというのは元々あるのではなく、作るものなのだ。
そう教えてくれたのはルシエラなので、それは勘弁してくれ。
だが俺は、それだけではないことも理解している。
「それで、俺のハッタリはどんな具合だ?」
俺のその言葉を合図にルシエラが顔を覆っていた手をどけて、その下からケロッとした表情の顔を見せた。
「まあ、及第点てとこかな」
「それは、ありがたい」
まあ、実際ルシエラが妙に隙を見せたからそれに付け込んだが、普通に考えればそれは彼女の善意なのだろう。
元々既に”俺達の保護”という相当やばい秘密を抱えていたというのも大きいが、それに上乗せされたこの秘密についても、おそらく彼女にとっては、重要な秘密を知れたことで相殺できる程度のリスクなのだろう。
それに、
「まあ、モニカには言わないでおいてあげるわ」
「・・・・・」
それは、話すときから覚悟していた新たな俺の弱みだが・・・
「・・・まったく、勝てる気がしないぜ・・・」
俺がそうこぼすと、ルシエラの唇がニヤリと歪む。
「フフフ・・・まだまだ負けないわよ」
ちょっとだけ謎が分かるお話し。
読者の方はここまで読んで想像してきたのと、どれくらい合っていましたか?
※次回は仕事の関係で、たぶん一日くらい遅れると思います。




