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夢みた明日に

作者: 彼岸  章華
掲載日:2026/01/29

初めての短編小説です。


 太滅歴 2030年


 これは、とある天才が疑似太陽を生成してから二千年程の月日が経った、とある地球の日常風景を記録である。


 「この世に存在する太陽は私が作った()()だけで良い。故に、宇宙に浮かぶ、あの紛い物を破壊する」


 今から、何世紀も前の事。

 このような事を言った人がいた。

 

 結果的に、その願いは叶った。

 地球の約七割を消滅させるという悲惨な結果を残して、偽物の太陽は消滅したのである。


日本・某所


 今日も僕は、普段と何も変わらない、平和な日々を今日も謳歌する。

 そうしなければ、生きてはいけないのだ。


「おはよう。母さん」


 普段通りの日常。平和的な日常の一欠けら。


 僕の一日は、いつもと変わらない様子でキッチンで朝食を作って僕を待っている、小柄な女性に挨拶をする事から始まる。


 そして、リビングにある木製の小さな長方形のテーブルの前に座り、朝食を食べるのだ。


 それが、僕の日常だ。

 これが、一変の狂いもない僕の完璧な日常なのだ。


「あら。おはよう。寝癖、ついてるわよ」


 食事を持ってきた女性が、言った。


 その瞬間、僕の完璧な日常は、見事に瓦解した。


「え、寝癖?どこに?」


 女性が持ってきた暖かい朝食を頬張りながら、僕は尋ねた。


「前髪よ。ご飯食べ終わった後にでも、鏡で見てくれば?」


「そう、するよ」


 そう言いながら、僕は内心、混乱していた。


 僕の日常が壊されたのだから、当然の事といえば当然の事である。


 だが、ああ。どうしよう。寝癖など、僕の完璧な日常に不必要な存在なのだ。

 本音を言えば、今すぐにでも鏡で確認してきたい。


 だって、ダサすぎる。


 完璧な日常が、不完全な日常に変貌していくのだ。


 その時だった。

 いつの間にか目の前に座って一緒に朝食を食べていた目の前の女性が

「それで?今日も、地下に行くの?」

と尋ねてきたのだ。


「そう、だね。地下には色々な資源があるから」


 僕は、少し驚きながら答えた。


 なにせ、僕が地下に行って資源採集をする事は、別に普段と何も変哲もない事なのだ。


 しかし、彼女は僕の言葉に被せるように

「危ない真似は、しないでね」

と目の前の女性が、言ったのである。


 何か、地下で事故でもあったのか?

 思わず、そう思ってしまった。


 だが、そのような情報は入ってきていないから、違うだろう。


 そう頭の中で考えながら、僕は目の前の女性に

「分かってるよ。そこまで、馬鹿じゃない」

と、言ったのである。


 すると、女性は申し訳なさそうに

「ごめんね。私が代わりに、行ってあげられたら、良かったんだろうけど」

と言ったのだ。


「良いんだよ。僕が好きでやってるんだから。珍しいね。そんなに心配するなんて」


 まったく、今日の彼女は一体全体どうしてしまったのだろう。


 夢見が悪かったのだろうか。

 いつもの十割増しで悲観的なのだ。


「心配しない訳がないでしょう。私は親なのよ。子供が、もし危ない真似をしているのなら」


 正論だ。そして、この手の正論は、僕が苦手な分野に該当する正論なのである。


「そうだね。僕は子供だ。でもね。だからそこ僕は子供だから、育ててもらった恩があるから、行くんだ」


 これは、一種の恩返しなのである。


 地下の資源を家に持ち帰り、街の店で換金するという、至ってシンプルな恩返しなのだ。


「まったく。毎回の事だから慣れてはいるけど、相も変わらず、強情だね」


「今更だね。僕が、強情じゃなかった時なんて、ないだろう?」


「それは、そうね。なかったわね」


 自分でも自覚症状がある程なのだ。今更他人に色々言われても、何も思わない。


「それと、僕の母さんは、そんなこと言わないよ」


「へ?何を言って」


「何でもない。もう行くよ」


 あらかじめ準備していた、テーブルの側に置いてある荷物を肩にぶら下げながら、そう言った。



 危なかった。口が滑った。

 これ以上は、流石に不味いだろう。


「え、あ。ちょっと」


 女性の焦った声が、鼓膜に響く。

 だが、僕はその声を無視して、外に出た。




 外の街並みは、相も変わらず明るい。


 大昔の太陽を作った天才が所属していた研究所から、太陽の光が放たれている。


 この太陽があるから、僕たちの住んでいる土地はいつも明るく、照らされているのだ。


 はやく、エレベーターまで辿り着かないかな。


 街を出歩く人々を眺めながら、そう思った。


 僕の完璧な日常は、既に母親という女性の存在で崩壊しているのだ。


 ならば、普段の完璧な日常を塗り替える程の功績を出して、今日という日が完璧な日であったと思えるように過ごさなくてはならないだろう。


 それが、僕に出来る唯一の事なのだから。


 そう思いながら、街を練り歩いていた時の事だ。


 人の悲鳴が、耳を貫いた。


 恐らく、誰かが盗みでも働いたのだろう。

 そう思って、僕は慌ただしく動く警官に一礼して、エレベーターに急いだ。




 地球の七割が消滅してから、数世紀。


 昔は到達不可能と言われていたマントルの下の層にも、今は人類の手が届く。




 完璧な日常のためにも、僕のやる事は変わらない。


 エレベーターに乗りながら、そう思った。


 実際、単純なのだ。だって地下に行き、資源を獲得するだけの事なのである。


 まあ。その資源が強敵なのだが、それは仕方ない。

 第一、僕がこれから行為は、違法行為一歩手前の所業なのだ。


 考えたって、意味がない。



 その時だ。大きな音を立てて、エレベーターが動作を停止したのである。


 どうやら目的地に到着したようだ。エレベーターの扉が、大きく開いた。




 「さて。仕事だ」


 目の前のジャングルを目にしながら、僕は言った。


 なにせ、奥に潜んでいるであろう僕の仕事相手は、大型の怪物なのである。


 油断は禁物である。

 一瞬の隙が命取りになるのだ。


 だが、今日の僕の目的は怪物の卵なのである。

 死闘を繰り広げる事はないだろう。





 そのような事を、数刻前の僕は思っていた。

 ここまで見事に、死亡フラグを成立させてしまうとは。


「最悪だよ。クソが」


 目の前が暗くなるのを感じながら、僕は目の前の怪物に向けて中指を突き立てた。




 嗚呼。

 俺は、また駄目だったのか。

 そう、瞬間的に、悟った。


 目の前の、夜の景色を見れば分かる。


「おやすみ。母さん」


 普段通りの日常。不和な日常の一欠けら。


 俺の一日は、いつもと変わらない様子でキッチンで夕食を作って俺を待っている、大柄な女性に挨拶をする事から始まる。


 そして、リビングにある木製の大きな楕円形のテーブルの前に座り、夕食を食べるのだ。


 それが、俺の日常。

 これが、一変の狂いもない俺の完璧な日常なのだ。


「ああ、なんだ。まだいたの?ならいいわ。金は?」


「昼の俺が、しくった。だから金はない」


「使えないわね。まあ、いいわ」




 これは、とある天才が疑似太陽を生成してから二千年程の月日が経った、とされている地球の日常風景を記録である。


 「この世に存在する太陽は私が作った()()だけで良い。故に、宇宙に浮かぶ、あの紛い物を利用する」


 今から、何世紀も前の事。

 このような事を言った人がいた。

 

 結果的に、その願いは擬似的に叶った。


 地球の約七割を消滅させるという悲惨な結果を残した、という()をそこに住んでいる人達に見せる事で、天才が太陽を作ったという虚実を残したのである。


 しかし、人々は天才の真の狙いを見抜けなかった。


 そう、天才の狙いは、疑似太陽を作る事ではなかった。


 天才の真の狙いは、人類の観察だったのだ。


 天才は閉鎖的な空間で、薬品で強制的に疑似人格を住人に形成したらどうなるのか、そして地球の七割が消滅したらどのような反応をするのか、それが知りたかったのである。


 故に、疑似人格を一定時間で切り替わるように空気中に薬品を散布し、研究員が人格の変化をモニターで監視していたのである。


 その結果、地球に住んでいると信じている全ての施設の人類は、疑似太陽こそが本物の太陽であると信じているのだ。


 それは、疑似太陽ではないというのに。

 そして、この狂った研究は天才が死んだ今でも、受け継がれているのである。



 研究所の誰かが、こう言った。


「ああ。X地区にいる家族。消しておいてください。昼の方はマシですが、夜の方は確実に疑似人格を認識しています」


「それは、本当に?」


「ええ。流石に昼と夜に親の体型が異なる人物を観察対象に添えたのは、失敗でした。肉体が違和感を覚えてしまうようですね」


 次の日、街の外れには、三人の遺体が遺棄されていた。


 しかし、街の住人は気にしない。誰も、人が死んでいるなどと思わないからだ。


 結局、誰かが盗みでも働いたのだろうと考え、慌ただしく動く警官に一礼して去るのである。


 こうやって違和感を少しずつ消去しながら、この広大な施設は過去の天才の掌の上で稼働しているのである。


 違法行為の耐えない、とある地下施設を除いて。


お読みくださり、ありがとう御座います。


息抜きに書いた作品ですが、お楽しみ頂けたら幸いです。


次回作にご期待ください

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― 新着の感想 ―
短編のSFとしてとても面白い作品だと思います。少しずつ違和感を感じて、全てが分かったときにハッとさせられる。しっかりと読者の心理を誘導するのはなかなか簡単なことではないですし、それがしっかりとできてい…
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