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和装の皇さま  作者: 狼花
弐部
48/94

22 揺らがぬ忠誠

 ――暗くて、寒い。


 おぼろげに意識を取り戻して最初に感じたことは、それだった。


 痛む身体を少し動かす。と、足元でじゃらりと何かの音がした。億劫にそれを見下ろすと、自分の左足首に鎖が装着されていた。その鎖の先端は少し離れた床に打ち込まれた杭に括り付けられている。


 ようやくあたりの状況が見えてくる。目の前には鉄格子。照明は必要最低限しかなくて薄暗い。自分は牢に閉じ込められ、枷を付けられて床に転がされていたようだ。


 なんとか身体を起こす。左足以外に拘束具はない。こんなもので俺を拘束したつもりか、と強気に考えてみるが、無駄である。身体を起こすだけでもこれだけ大変なら、立つことなど到底できない。傷も多い。一応の手当てはしてくれたようだが――誰がそんなことを頼んだ、と言ってやりたいところである。


 壁に背を預けて座りなおす。この倦怠感は、眠りすぎてしまったときに似ている。一時間二時間単位ではなく、数日間は眠り続けていたのかもしれない。単に痛みや疲労ならいいのだが、薬でも使われていたら困る。


 この感じは、昔と同じ。


 あまりに似すぎている状況に、無意識のうちに口元に笑みが浮かんだ。人生で、こんな虚無を二度も感じることになるとは。


 やることがない。頭を活性化させるため、昔のことを思い出そうと決めた。


 虚無の一度目は子供の時――母とふたり、青嵐から玖暁に亡命して流れ着いた街でだった。





★☆





 子供心に、『亡命』というのは悪いことであると理解していたし、自分たちを追いかけている人がいることも分かっていた。だからとにかく母とふたりで玖暁の奥地へ逃げ、安住の地を探していたのだ。そしてたどり着いた街だったが、そこは大外れだった。


 どこでどう伝わったのかは分からないが、神核加工所の柄の悪い作業員たちは、自分たちが亡命者だといつの間にか知っていた。それを盾に脅され、母とともに亡命の事実を黙っていてもらう代わりに加工所で働きだした。そのときその街の加工所は対立していた街の別の加工所と生産争いをしていたらしく、人手が足りなかったらしい。それでなくとも神核加工の仕事は尽きることないのである。


 あの頃の自分は機械的だった、と振り返ると実感する。最初に説明された通りの動きを、何時間も、何日も、何年も繰り返したのだ。衣食住は粗末だったが一応保障してもらっていたので、食事と睡眠だけはとれた。だが起床時間も早いし、労働時間は大の大人でも苦しいくらい長かった。しかもそんな生活を強いられていたのは、自分たち母子だけだった。同じことを繰り返してきた指は傷だらけになり、まともに運動することもできなかった身体は成長を滞らせた。そのうち年齢とは明らかに体格が違ってきてしまった。身長はそこそこだったが、体重は年齢的に見る適正値を異常なほど下回っていたのだ。


 身体が動かない――そう感じ出したのは、働き始めて何年が経った頃だっただろうか。五感が働かなくなり、指先が震え、いつもはしなかったミスが多くなった。そのせいで工場長に殴られても、やっぱり痛みはなかった。自分という存在が麻痺しだしているのだ、とその程度にしか考えていなかった。


 だがそうでないことはすぐに分かった。勤務中に意識を失って倒れてしまい、ふたりで地獄のような状況のなか働いても十分ではなかった少ない給金で、母が医者を呼んでくれた。そこで、自分が病にかかっていると知った。いますぐ仕事を辞め、薬を投与しなければ命はないとまで言われた。


 仕事を辞めるというより、辞めざるを得なかった。寝たきりの状態になった人間など加工所では不要だったのだ。母がひとりで働き、薬を買ってくるからね、と言ったが、ふたりで頑張って生活していくのが精いっぱいだったのに、今度は母がひとりきりになり、高価な薬を買うなど、そんなことは不可能に近かった。


 それでも母は薬を手に入れ、息子に飲ませた。投与しなければならない量の半分にも満たなかったが、それを飲んだ後は少しだけ調子も良くなったし、症状は良くなった。だが万全ではなく、薬を飲んだからと言って病気が治ることはなかった。もう意識があることのほうが少なくなって、ゆっくりと死という翼が広がって自分を包もうとしていた。


 それが破られたのは、唐突だった。兄皇と弟皇が視察でこの街を訪れたのだ。皇が交代して、三年が経っていた。


 若き皇、鳳祠真澄と双子の弟である知尋は、加工所内の重い雰囲気に眉をしかめた。いままでこういう雰囲気は何度も見た。まともな工場運営が行われていたためしはない。


「これはこれは両陛下、遠いところをようこそいらっしゃいました」


 工場長が笑みを浮かべながら出迎えた。知尋はあからさまに嫌悪する表情をする。例えるなら、悪臭に眉をしかめている表情、といったところか。真澄は逆に表情を変えなかった。


「出迎えご苦労。最初にひとつ言っておくが……」

「なんでございましょう?」

「お前たちが政府の目を逃れて好き勝手やっていられた悪政の時代は終わった。私は父とは違うぞ。懐柔しようなどとは思わないことだな。そうでないなら、後ろめたいことは今この場で白状することを勧める」


 真澄もまだ若く、義務より正義感が勝つ年頃だったから、ついついそんな挑発的な言葉が飛び出した。だがこういう輩には思い切り高圧的に出て皇としての威厳を見せつけなければならなかったので、丁度良くはあった。


 悪政皇の息子がどれほどのものか。また父と同じように国をまとめることができずに荒れさせるのだろう。工場長はまさにそう思い、真澄らを侮っていたのだ。


 と、作業をしていた女性がばっと近寄ってきた。誰も何も言えない間に、女性は真澄と知尋の前に平伏し、額を床にこすり付けた。


「お願いいたします! 息子を助けてください、助けてっ……!」

「――っ、この亡命人が! 作業に戻れ!」


 工場長が女性を蹴りつけた。だが女性はそれでもどかなかった。


「お願いします! お願いしますっ!」

「お前らみたいな亡命人に仕事があるだけで有難く思え! 黙って仕事してりゃそれで――」


 重ねて女性を蹴りつけようとした瞬間、真澄が割って入った。その動きは一切の隙がなく、工場長が圧倒されてしまう。


「……私は先に白状するよう勧めた。工場労働者に対しての暴行、もはや疑いようなし」

「し、しかしですね陛下、この母子は亡命人で……」

「それがなんだ」


 真澄は工場長の言葉を一言で斬り捨てた。それ以上工場長は何も言えなくなる。


「工場長には色々と聞きたいことができた。……連れて行け」


 同行した騎士に工場長を拘束するよう指示し、真澄は平伏したままの女性の傍に膝をつく。先に知尋が声をかけていた。


「顔を上げてください。もう大丈夫、貴方の息子さんのことを教えて。出来る限りのことをします」


 女性は涙にぬれた顔を上げた。


「息子が……病気で、寝たきりなんです。もう、いつ死んでもおかしくないくらい……お医者様に見せるお金も、薬を買うお金もなくて……!」

「ここで働いて、その病になったのか?」


 真澄の問いに女性が頷く。真澄が渋い顔をした。


「それなら、あの男の管理の問題だな。……もう言い逃れは聞かない……」

「その息子さんのところへ連れて行ってください。私が診ます」


 知尋が真澄を振り返ると、真澄は頷いた。知尋は女性を立たせ、彼女の住居へと歩いて行った。


 真澄はその間に市街に出た。と、薬屋の前を通りかかったところでその店の主人が声をかけてきた。


「あ、兄皇陛下。ちょっとご相談が……」

「どうした?」


 真澄は歩みを止めた。真澄は仕事の最中に一般市民に話しかけられても必ず歩みを止める。できるだけ彼らに親身でありたいと思っているのだ。


「最近、店先から薬が少しなくなっているんです。盗まれているんじゃないかって……」

「あっ、ちょっと、それは……」


 慌てて店の奥から出てきたのはその妻だった。


「ごめんね、天崎さんが持って行ってたの。あたしが見逃してやっちゃって」

「天崎さんて、あの青嵐から来た……?」

「息子さんが病気で、この薬がなきゃ命が危ないって言ってて。つい、ね……だって、子供を見殺しになんてできないじゃない」

「そ、そうだったのか……」


 真澄がそれを聞き、腕を組んだ。


「……貴方がたは彼女に薬を『格安で譲ってやっていた』……ということかな?」

「はい、そうです!」


 妻が夫に先んじて言う。真澄は懐からさりげなく取り出したものを、主人に握らせた。


「それは薬の代金だ。私が個人的に払った金だから、あまり大騒ぎするなよ」

「あ、有難うございます!」

「こちらこそ有難う。貴方がたのように、人を生まれ見かけで判断しない人の存在が、すごく有難いよ。たとえそれが同情でも……な」


 最後の呟きは誰にも聞き取ることができなかった。真澄はその場を立ち去った。


 一応の事後処理を終えた真澄が、工場の二階にある住居の一室に入ると、天崎という女性と、ベッドに寝かされた少年、その傍に付き添っている知尋がいた。


「兄皇陛下……」

「容体はどうだ?」


 女性が疲れたような笑みを浮かべる。


「弟皇陛下のおかげで、少し落ち着いているみたいです……」


 少年は静かな表情で目を閉じている。知尋は治癒術を施し続けており、だいぶ表情は険しくなっている。


「医者はこちらで手配した。もうじき到着するだろう」

「有難う御座います……でも、私たちは青嵐の人間で……あまり陛下のお手を煩わせるわけには……」

「人々を虐げる存在を、私は決して許さない。青嵐人であるとか、玖暁人であるとか、そんなものは関係ないよ」


 真澄はテーブルの上に置かれていた薬の袋を手に取る。


「……この薬、だいぶ高価なようだな」

「……! 申し訳ありません、私はその薬を……」

「薬屋のご夫婦は、貴方に『格安で譲った』のだと言っていた」

「え!?」


 驚く女性に、真澄は「しっ」と唇の前に人差し指を当て、悪戯っぽく笑ったのだった。


「私のただのお節介だ。貴方が気にする必要はない」

「陛下……」


 女性は涙を拭い、深く頭を下げた。





★☆





 意識がゆっくりと浮上し、目を開けた。暗さに慣れた目はあまりの眩しさに耐えられず、一度目を閉じる。そこに声がかけられた。


「李生」


 それが自分の名だったと思い出すまで、数十秒はかかった。


 そっと目を開くと、そこには若い青年がいた。綺麗な蒼い瞳をした、幾つも年上のような青年だ。何も言えないでいると、青年が微笑んだ――あの男たちが見せた下卑た笑みではなく、本物の暖かさが込められた笑みだ。


「目が覚めたか」

「……母、さん……は」


 咄嗟に出たのは母の安否を尋ねる言葉だった。


「君の母上は隣で休んでいる。落ち着いたら会わせてあげよう」


 だから今は、もう少しお休み。


 青年のその言葉は、初めて心地の良い眠りに誘ってくれた。


 翌日、最近からは想像できなかったほど意識がはっきりとしていた。きちんと朝に目が覚めたのはいつ振りだろう。そう思っていると、すっかりやつれた母が部屋に飛び込んできた。


「李生! ああ、良かった、良かった……!」


 意識ははっきりとしているが身体を動かせないので、李生はただ、母に頼りなく腕を伸ばした。母は泣きながらその手を握ってくれて、またさらに泣き出した。


 しばらくして、昨日の青年、つまり真澄と知尋が現れた。加工所の歪んだ実情を暴いてくれた真澄と、必死で李生を治療してくれた知尋。ふたりが皇と知り、李生は驚いた。皇がいつの間に代わっていたのだろう、という驚きだ。玖暁の悪政の時代は、もう終わりを告げていた。


「先ほど、罪人たちはみな皇都へ送還した。直に裁判にかけられ、厳罰に処せられるだろう。君から自由を奪ったあの男たちは、もういないよ」


 真澄が微笑む。それから、やや言いにくそうに言った。


「君の母上から生まれた年月日を聞いたが……私と同年だったな。私より二か月早く生まれている」


 動揺した。目の前にいる青年はどう見ても十代後半。自分がそれと同い年だなんて信じられない。


「十年だ。君は、十年間ここで生きていた。病で寝たきりになったのは三年前だそうだから……実質は七年か。君は今、十七歳だよ」


 十年は、あまりに長い。それだけの時間が流れていたのか。


 真澄はベッドから一歩下がると、深く頭を下げた。母と、自分に。


「……気づくのが遅れて、本当にすまなかった」


 亡命してこの街に流れ着いた十年前。そのとき玖暁は真澄と知尋ではなく先代の「悪政皇」の統治する時代だった。なんともお粗末な政治をしていたせいで、地方都市でこんな暴虐が行われていることなど誰も気づかなかったのだ。いや、気付いていて見て見ぬふりをしていた。


 そして即位してから、やはり気づけなかった自分が情けない。そう真澄は言った。


 反射的に首を振った。なんとか身体に力を入れ、ベッドの上に起き上がる。身体がぐらりと揺れて、母が支えてくれるよりも先に、真澄が抱き留めてくれた。


 ようやく身体が自由になってきたような気がする。か細い声で、真澄に告げた。


「あり……がと」


 真澄は目を見開き、強く抱きしめた。絞り出すように言う。


「……二人の身柄は、私が預かる。もう青嵐からの亡命者なんて言わせない。君たちを、我が玖暁の民として迎える。君の奪われた十年を埋める手伝いを、私にさせてほしい」


 亡命して十年。ようやく、安住の地を手に入れたのだ。





★☆





 生きる場所を与えてくれた真澄。勉強を教えてくれた知尋。剣を教えてくれた瑛士。彼らのために天崎李生は騎士になった。彼らを守るために、父が守ろうとした青嵐に刃を向けた。相当の覚悟をしたのだ。


 ――だというのに、このざまか。李生は自嘲気味に笑みを浮かべた。


 真澄がどうなったか、知尋がどうなったか、大勢の部下はどうなったか、民たちはどうなったか――なにひとつ分からない。ただこうして生きている。生き恥とまでは思わないが、あれほどあっさり敵将に敗れるなど、情けない限りだ。


「真澄……さま……」


 李生は目を閉じて呟く。こうしている間にも、真澄の呪いは着々と進んでいるはずなのに。


 と、足音が響いた。顔を上げると、見覚えのある顔が牢の前にいた。青嵐特務師団長、矢吹佳寿だ。


「目が覚めたようですね」

「……弟皇陛下は」


 李生がぼそっと呟く。先に城を出ていた真澄らは無事だと信じている。では知尋は――?


「ご無事ですよ。兄皇陛下と合流されています」


 佳寿が答えるが、李生はほっとできなかった。この男は、真澄らの居所を完全に掴んでいる。追っ手をかけずに、彼らを泳がせているのだ。


 佳寿は一人だ。その手には注射器が握られている。佳寿は牢を開け、中に入って李生の腕を掴んだ。李生が腕を引こうとするが、衰弱している李生はその手を振り払えない。


 注射器に入っている液体の色は黄色。すぐさま李生は、それが神核エネルギーを抽出したものだと察した。だが抵抗はむなしく、佳寿は李生にそれを注射した。


 すぐ身体がかっと熱くなってきた。呼吸が速くなり、全身から力が抜ける。その間に佳寿は牢から出て、また鍵を掛け直した。


「何の……真似だ……」


 李生が喘ぎながら問う。佳寿は笑った。


「神核エネルギーは多量摂取すると人体に悪影響がありますが、少量ならばむしろ回復効果があります。そのまま放っておくと、貴方は衰弱死しますからね」

「それで俺に恩を着せたつもりか……」

「まさか。少しばかり話がしたかっただけです」

「貴様に話すことなど何もない。貴様らに生かされるのは屈辱だ、今すぐ俺の首を落とせ」

「潔い態度は好ましいですが、命を粗末にしてはいけませんね。まあ聞いてください」


 佳寿は友人に対しているかのような親しさで笑った。


「この国の貴族たちは面白いですね。今まで兄皇陛下らを疎ましく思い、殺そうとまでしたのに、玖暁が滅び青嵐が支配に乗り出そうとすると抵抗する。なぜかと問うてみれば、自分たちの皇は鳳祠真澄と鳳祠知尋、このふたりしかいないのだと言った。強い者について勝者となるのが貴族の本懐でしょうに、そう言う部分で彼らも騎士の国の民なんですね。愚かな皇でも、他国の者に支配されるよりはましらしい」

「……おふたりを侮辱したこと、後々後悔させてやる」

「怖いですねえ。……さて、本題はここからです。貴方の父は王冠の策謀に嵌まり、殺されました。正義は貴方の父のほうにあったはずなのに、理不尽に殺害されたのです。しかも、貴方と母の命まで」


 得体の知れぬ恐怖が李生の身体を駆けあがった。咄嗟に李生は目を閉じた。聞くな、と己に命じる。昔と同じだ。聞くこと、考えることを放棄しろ――。


「父を殺した相手が憎くはありませんか? それを許した王冠が、青嵐という国が憎くはありませんか?」

「……」

「玖暁側からそれを変えることはできません。青嵐の王冠として、内部から圧力をかけて行かねばならないのです」

「……」

「兄皇陛下らは今青嵐です。そこへ駆けつけ、彼らに助力したくはありませんか?」


 佳寿という男の声には魔力が宿っていた。少しでも気を許せば、あっという間に操られてしまいそうだ。


 佳寿の声が止む。李生は目を開けた。


「どれもお断りだ。父の仇を討っても、父は生き返らない。仇討ちなどやるだけ無駄だ」

「ほう。兄皇陛下らのご助力は?」

「この身体ではただの足手まといだ。いつか真澄さまたちが玖暁を取り戻す戦いを起こしたその時――こちらから呼応するために、待つ」


 佳寿が笑みを浮かべる。


「……成程、懐柔には失敗ですね。頃合いを見て陛下を殺していただこうと思っていたというのに」


 李生が佳寿を睨み付けた。すると、佳寿は懐から大きな紫の神核を取り出した。そのとてつもない魔力は、李生でも感じ取れる。


「これを渡しておきましょう」

「……なんだ、これは」

「兄皇陛下らが捜しているものです。いずれここに来られるでしょう、その時渡して差し上げればいい」


 訝しげに李生が眉をしかめる。佳寿は神核を牢の中に置いた。


「ただし――それを受け取った兄皇陛下がどうなるか、私には責任が持てません」

「なに……?」

「よく考えてください。それを持って兄皇陛下らと合流するか。ここに彼らが来るのを待つか。……気が変わったら、呼びなさい」


 佳寿はそう言って踵を返した。残された李生はその神核を持ち上げ、舌打ちした。


 ――大丈夫。青嵐にはあいつがいる。いま俺にできるのは、怪我を治し、ここで待つこと。


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