月に想いを馳せし者4※R15
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。ブクマ等本当にありがとうございます♪励みになります。
引き続き、今回も人によっては苦手としたり、辛いことを想起させる内容になっております。
ご了承くださり、先に進んでいただければ幸いです。
「貴方は……」
ヘンゼルは目を見開いた。
娼館の玄関前に立つ男は――。
以前、グレーテルを追いかけた時に出会った、白金色の髪と蒼い瞳をした青年だった。
数瞬固まった後、ヘンゼルは女性陣の視線に気付き、慌てて主人に声をかける。客室へ行って良いと言われた。青年の手を引いて、急いで部屋の中に連れていく。
「なんでこんなところに? 貴方、絶対に女性に困る類いの男性には見えないのだけど?」
特に青年からの返答はない。肯定といって差し支えはないだろう。亜麻色の髪の少女然り、老若男女問わずに魅了する美しさを持っている。
店の玄関先で、女達が騒ぐのも分かる。ただでさえ、若い客は少なく喜ばれる。こんな美貌の持ち主なら尚更だ。
「ちょっと理由があってね」
そう言って、青年はおもむろに、衣服の襟元を緩めだした。
予想より展開が早くて、ヘンゼルは少しだけ驚く。まあ、そう言う店ではあるのだが、性急すぎはしないか。わりと若い男性だと、事に至る前に話しかけてくれる男達が多かったので、少しだけびっくりしてしまった。
青年は上衣を脱いで、近くにあった椅子にかけた。
そしてヘンゼルの居る寝台の近くまで歩いてくる。
彼女に、少しだけだが生娘の頃のような緊張が走る。
と思いきや――。
青年は、そのまま一人で寝台に突っ伏した。
ヘンゼルは身構えていたため、呆気にとられる。
「疲れている。ここで休ませてほしい」
そう言うと、彼はそのまま寝てしまった。
彼女には他にも客の予定があったはずだ。料亭の主人の元へ、確認に向かう。
青年は、明日の朝までの分、金を払っているらしい。
主人はにやついていた。キャンセルになった客達の料金や、賠償金やらを差し引いても、余りある値段だったようだ。
部屋に戻ると、寝息を立てながら青年は眠っていた。結局、翌朝まで、彼が起きることはなかった。
※※※
それ以降、週に一度は青年がヘンゼルの元に訪れるようになった。
だが、やはりただ訪れて朝まで休むだけだ。
時々起きている日があり、そういう時は話をした。
青年は頑なに名乗らなかった。が、年はヘンゼルと同い年位で十八~九だと言うことが分かった。
彼女と同じように、読書がわりと好きな事も知った。少しずつだが、彼に関心がわいた。
彼が来る日は、他の客を取らずにすむ。
もう慣れてきていたと思っていたが、やはり見知らぬ男達に身体を預けるのに疲れていたようだ。
彼女としては、彼がいる日は心身共に安らぐような気持ちになれる。
ヘンゼルは次第に、青年が自分の元へいつ来るのかと期待するようになっていた。
※※※
ある時、彼は仕えているティエラという令嬢の話をしてくれた。
青年とは別に、彼女に仕えている少年がいるらしい。ティエラと少年はよく喧嘩をするらしいが仲が良く、少しだけ羨ましいと感じていると、彼は話していた。
「彼女のことは、もう家族だと思っている。とても大事な方なんだ」
(もう家族?)
少しだけ引っ掛かりのある言い方だった。
ぞっとするほど美しい表情で、青年は令嬢の話をしていた。
仕える主に忠誠を誓っているのだろうと、その時のヘンゼルは思っていた。
すみません、ヘンゼル視点からみた過去編四部作にするつもりが、作者の見通しの甘さにより五部作になります。
次回で終わり次第、先に進みますので、どうぞよろしくお願いいたします♪




